闇の隣に虚あり   作:ジャンボどら焼き

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今回はかなり早足です。
そしてかなりの自己解釈や設定などが出てきますのでご注意を。

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鎖破る想い

 あれから数年の時が流れ三月。

 15歳になったヤミとレイの二人は、いつもの海岸ではなく煉瓦造りの巨大な塔──通称『魔導書(グリモワール)塔』へと赴いていた。

 

 クローバー王国では、15歳になる少年少女達を王国各地にある魔導書(グリモワール)塔へと集め、それぞれに見合った魔導書(グリモワール)の授与を行う。その年齢に達したヤミとレイもまた、その中の一人として魔導書(グリモワール)の授与式へと参加するためにやってきたのだ。

 魔導書(グリモワール)は魔道士としての証であると同時に、魔力の強化や増幅といった重要な役割を担うアイテムである。魔法騎士団を目指すにあたり魔導書(グリモワール)の所持は必要最低条件。

 もっとも、これまで魔導書(グリモワール)が授与されなかったものは一人もいないので、簡単なクリアラインではある。

 

「さて、そろそろだねヤミ」

「にしてもここ、バカみてーに本があるな」

 

 円柱状に建てられた塔の壁には、これでもかというほどの数の魔導書(グリモワール)が敷き詰められていた。そんな数えきれない量の本を前に、ヤミとレイを含めた少年少女たちが集まっている。

 

「見ろよあれ、汚い服装」

「おい、あいつらって『海岸の双子悪魔』だろ。あいつらも魔導書(グリモワール)貰うのかよ」

 

 悪名の広がったヤミとレイ。周りのものたちはひそひそと陰口を叩く。

 

「なんというか、やっぱり注目されちゃうよね」

「めんどくせえ……早く帰りてぇからさっさと渡せや」

 

 しかしそんな陰口など二人はもはや慣れたもの。適当にスルーし、授与式が行われるのを待っていると

 

『ようこそ受領者諸君。今日からそれぞれの道を歩む君たちへ、”誠実”と”希望”と”愛”を』

 

 魔法で増幅された声で受領者たちに言葉を告げながら、魔法の絨毯に乗った一人の老婆が降りてきた。

 彼女こそがこの魔導書(グリモワール)塔の塔主であり、この授与式を執り行う責任者である。

 

『この地域からは何度か魔法騎士が輩出されました。皆さんもどうか夢を持ち、魔法騎士団員延いては魔法帝を目指して頑張ってくださいね』

 

 塔主の言葉に耳を傾ける受領者たち。

 ただその中で退屈そうにあくびをしているヤミへ、レイは困ったような笑みを向ける。

 

『それではこれより、魔導書(グリモワール)の授与を始めます』

 

 そしてついに授与が開始される。

 塔主の言葉を合図に、本棚に仕舞われていた魔導書(グリモワール)達が一斉に光を帯び、次から次に中へと浮き上がり始める。

 赤に黄色に緑に白など、色とりどりの本が宙を舞うその光景は幻想的で、受領者達はしばしの間目を奪われる。

 

 宙を舞う本達はそれぞれの持ち主の元へと向かい、自身の魔導書(グリモワール)を手にした少年少女達は目を輝かせ

 

「これが俺の魔導書(グリモワール)か。なんか黒すぎじゃねーか?」

 

 ヤミもまた、自身の手元に来た魔導書(グリモワール)に視線を落とし、黒いその見た目に微妙な顔をする。

 

「……ねぇ、ヤミ」

「ん? おお、お前はどーだった?」

 

 背後から聞こえてくるレイの声。心なしかいつもよりトーンが低めで語りかけられた声に、ヤミは何か引っかかるものを感じつつ振り返る。

 するとそこには顔を青くさせ、死んだような瞳で自身の魔導書(グリモワール)を見つめるレイの姿が。

 

「どうした、腹でも下したのか? 顔ヤベーことになってんぞ」

「……が……ない」

「あ? なんて言った?」

 

 ボソボソと呟くレイ。明らかにいつもよりもテンションの低いレイに、ヤミがそう聞き返すと

 

魔導書(グリモワール)が、開かない……」

 

 そう答えるレイの手には、鎖で閉ざされた一冊の魔導書(グリモワール)が。

 明らかに他のモノとは違うそれに、さしものヤミも驚きで目を丸くさせる。

 

『皆さんちゃんと手にしましたね? それではこれにて魔導書(グリモワール)の授与式は終了となります』

 

 そんな二人の心中など知らない塔主の言葉により、授与式は終わりを告げるのであった。

 

 

 

 

 

 ヤミとレイが魔導書(グリモワール)を授かってからはやひと月の時間が経過した。

 昼時、太陽が一番高く昇りクローバー王国を照らす。そんな輝きを身に浴びながら、ヤミはいつもの砂浜で一人寝転がっていた。

 いつもなら一緒にいるはずのレイの姿はそこにはなく、ヤミの表情はどこか暗いもので。ヤミはボリボリと乱暴に頭を掻くと、立ち上がって背中についた砂を落とす。

 

「……水、買いに行くか」

 

 じっとしていられないのか、そう呟くとヤミは街へと向けて足を進めた。

 

 

 その頃、レイはというと、一人森の中で魔導書(グリモワール)を構え特訓をしていた。しかしその表情はどことなく陰っており、いつものような笑顔は隠れてしまっている。

 レイは右手を前に突き出し、そこに力を集めるように意識を集中させる。しかし右手には何の変化もなく、レイは力なく腕を垂らすと

 

「……やっぱりだめか」

 

 ポツリ、消え入りそうな声でそう呟く。

 そしてその場に座り込み近くの木に背中を預け、左手に握りしめた魔導書(グリモワール)へ視線を落とす。

 

「ねぇ、なんで君は開いてくれないんだい?」

 

 悲しみの混じった声で、語りかけるように言葉をかける。まるで涙の代わりに流すかのように口から出た言葉は、彼の持つ魔導書(グリモワール)へと注がれた。

 レイの持つ黒の魔導書(グリモワール)には、錆びた鎖のようなものが十字状に巻きついていた。その様はまるで何者にも開くことを許さない、そう物語っているように見える。

 

「やっぱり()()()使()()()()僕じゃ、君には相応しくないのかな……」

 

 表情に影を落とすレイ。

 そのまましばらくの間、無言のまま俯いていると

 

「おい、何をそこで俯いている」

 

 不意に聞こえてきた、力強い声に顔を上げる。

 橙色の長髪に赤いローブ、そして忘れるはずがない鋭く光る瞳。

 

「貴様、確か昔会った……」

「あなたは、あの時の……」

 

 そこにいたのは、昔この森で出会った魔道士メレオレオナ・ヴァーミリオンだった。

 予想外の人物の登場に目を丸くするレイ。対しメレオレオナは俯く少年を見下ろし、手の中にある魔導書(グリモワール)へと視線を向ける。

 

「どうやら魔導書(グリモワール)を手にしたようだが、貴様はなぜそんな顔をしている」

「……それは、そのってあいたぁ⁉︎」

「うじうじするな! 男ならハキハキと喋らんか莫迦者がァ!」

 

 ゴチン、突如レイの頭に振り下ろされた拳。突然の衝撃と激痛にレイは頭を押さえ、涙を浮かべ地面を転がる。

 やがて痛みがひき、落ち着いたレイはポツリポツリ話し始める。

 

 

「──というわけなんです」

「ふむ、開かない魔導書(グリモワール)か」

 

 話を聞き終えたメレオレオナは再度、鎖で封印された魔導書(グリモワール)へとを視線を落とす。

 魔法騎士団として、これまでいくつもの魔導書(グリモワール)を目にしてきたメレオレナだったが、開かないものに出会ったのは生まれて初めての経験だった。

 

「話を聞くに貴様、魔法が一切使えないと言っていたがそれは本当か?」

「……はい。(マナ)を集めても何も起きなくて。魔導書(グリモワール)が手に入れば変わると思ったけど、やっぱり変化がなく」

「おかしな話だな。希薄ではあるが貴様には確かに魔力がある。何も起きないということはないだろう」

 

 見せてみろ──メレオレオナの言葉に、レイは手を突き出し魔力を集める。だが先ほどと同じく変化は一切訪れず、メレオレオナはじっとレイの腕を凝視する。

 

「……どうですか、何も起きていないでしょう?」

「なるほどな、そういうわけだったか」

「何かわかったんですか⁉︎」

 

 得心のいったとばかりに告げるメレオレオナに、たまらずレイは身を乗り出す。

 そんなレイに「落ち着かんか莫迦者が!」と、げんこつを一発お見舞いしメレオレオナは説明を始める。

 

「結論から言おう。貴様はきちんと(マナ)を扱えている。だが何も起きない、いや起きていないように見えるのは、貴様の魔力が特殊だからだ」

「僕の魔力が、特殊……?」

 

 特殊とは一体どういうことなのか。メレオレオナの言葉を聞き漏らさぬよう、耳を研ぎ澄ませるレイ。

 そんなレイにメレオレオナ一つ拍を置き、静かに口を開く。

 

「貴様の(マナ)には中身がない」

「中身が、ない?」

「私も初めて見る(マナ)なので推測程度だがな」

 

 レイの(マナ)には属性がなく、また限りなく希薄であると語るメレオレオナ。故に視認もできず、魔力の感知も難しい。

 かつてメレオレオナが後ろを許したのも、レイが限りなく”無”に近い魔力しか発していなかったから。

 だから目に見えずとも魔法自体は扱えるはず、メレオレオナはそう語る。

 

「それじゃあ、なんで僕の魔導書(グリモワール)は開かないんですか?」

「それは知らん! あとは貴様自身の問題だ!」

「えぇ……」

 

 最も肝心なところを知らんと一蹴され、レイはがっくしと肩を落とす。

 

魔導書(グリモワール)はもう一人の自分と同義。貴様の心の持ちようで成長もすれば、停滞もする」

 

 魔導書(グリモワール)は持ち主の生命力を表す指標でもある。15になり手にしたその時から使用者と魔導書(グリモワール)は繋がり一心同体となる。

 

「貴様がなにを気にしているのかは知らんが、過去を乗り越えぬ限り貴様の魔導書(グリモワール)の鎖が解き放たれることはない」

「過去を、乗り越える……」

 

 メレオレオナの言葉に、レイは自身の胸へ手を当てる。

 

『──魔法が使えんとは、バスカビル家の恥め』

『──どうして生まれてきたのかしら。まぁ所詮は妾の子供というわけね』

『──お前はなにもできない出来損ない。名前の通り0(レイ)なんだよ」

 

 思い出すのはかつての記憶。幼い自分へ浴びせられた、数々の罵声や雑言。

 腹の中がもみくちゃにされたような気分になり、次第に吐き気が襲ってくる。気づけば体が小刻みに震えていた。

 

 心の折れかけているレイをメレオレオナは目を細めて見下ろすと

 

「いつまでそう落ち込むつもりだ莫迦者がァァア!」

「〜〜〜〜〜っ⁉︎」

 

 今までよりも大きな声で吠え、そして力強く拳を振り下ろす。

 殴られたレイは、なぜ、という目でメレオレオナを見上げるが、彼女の一睨みで言葉を飲み込む。

 

「──夢を言え」

「……へ?」

 

 唐突の言葉に目を丸くするレイ。

 そんなレイにメレオレオナはズイッと顔を近づけ

 

「いいから早く言え……いいな?」

「は、はい……」

 

 まるで猛獣に睨まれたかのような迫力になにも言い返せず、レイはただ黙って頷くしかできなかった。

 だが急に「夢を言え」と言われても即座に言えるはずもなく。脳をフル回転させ、あれやこれやと考える中

 

『──レイ』

 

 ふと、思い出す幼き日の記憶。

 木漏れ日の下で今は亡き母がかけてくれた言葉。

 

『──いつかこんな場所なんか飛び出して見つけなさい』

 

 悲しみと優しさの混じった笑顔でかけてくれた言葉。

 

「僕は……」

 

 これを夢と呼んでいいかはわからない。けれど、今の自分に言えるのはこれくらいしかない。

 レイは魔導書(グリモワール)を力強く握りしめ、

 

「僕は自分の居場所を見つけたい!」

 

 瞬間、魔導書(グリモワール)から光が溢れ出し、鎖にヒビが入る。

 

「そして知りたい、僕の生まれた意味を!」

 

 とうとう鎖は粉々に砕け散り、レイの手から離れた魔導書(グリモワール)はひとりでに開く。そこには一つの魔法が刻まれており、レイは刻まれた魔法を呆然と眺め

 

「よく言った! その思い、そして覚悟、決して忘れるな!」

 

 笑みを浮かべたメレオレオナが拳を構えると、炎の魔力が腕を包み込み、巨大な獅子の足を作り出す。

 

「さぁ貴様の魔法を見せてみろ! そしてこのメレオレオナ・ヴァーミリオンの魔法を打ち破ってみせろ!」

「──はい!」

 

 突き出される右腕。炎の鉤爪は真っ直ぐにレイへと向かい、迫る魔法にレイは己の魔導書(グリモワール)を構え

 

「虚無魔法──‼︎』

 

 そして二つの魔法が衝突する。

 

 

 

 

 

 

「ん? やっと戻ってきたか」

「ただいま、ヤミ、ごめんね、遅くなっちゃって」

 

 メレオレオナと別れ家に戻るレイ。そんな彼を砂浜に寝転がったヤミが出迎える。

 どこか晴れやかになった表情のレイに疑問を抱いたヤミだが、鎖のなくなった魔導書(グリモワール)を見てその理由を察する。

 

 ヤミの隣に腰をかけたレイは、沈みゆく太陽を見つめながら静かに口を開いた。

 

「ねぇヤミ、僕ね魔法騎士団を目指そうと思うんだ」

 

 その言葉にヤミはすぐには返事を返さず、体を起こすとレイと同じく夕焼けを眺め

 

「なんだ──俺と同じじゃねぇか」

 

 

 

 




レイの裏側では、ヤミが街でユリウスに勧誘されています。

次回は魔導師試験くらいになると思います。

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