そしてかなりの自己解釈や設定などが出てきますのでご注意を。
お気に入り登録してくれた方々ありがとうございます!
あれから数年の時が流れ三月。
15歳になったヤミとレイの二人は、いつもの海岸ではなく煉瓦造りの巨大な塔──通称『
クローバー王国では、15歳になる少年少女達を王国各地にある
もっとも、これまで
「さて、そろそろだねヤミ」
「にしてもここ、バカみてーに本があるな」
円柱状に建てられた塔の壁には、これでもかというほどの数の
「見ろよあれ、汚い服装」
「おい、あいつらって『海岸の双子悪魔』だろ。あいつらも
悪名の広がったヤミとレイ。周りのものたちはひそひそと陰口を叩く。
「なんというか、やっぱり注目されちゃうよね」
「めんどくせえ……早く帰りてぇからさっさと渡せや」
しかしそんな陰口など二人はもはや慣れたもの。適当にスルーし、授与式が行われるのを待っていると
『ようこそ受領者諸君。今日からそれぞれの道を歩む君たちへ、”誠実”と”希望”と”愛”を』
魔法で増幅された声で受領者たちに言葉を告げながら、魔法の絨毯に乗った一人の老婆が降りてきた。
彼女こそがこの
『この地域からは何度か魔法騎士が輩出されました。皆さんもどうか夢を持ち、魔法騎士団員延いては魔法帝を目指して頑張ってくださいね』
塔主の言葉に耳を傾ける受領者たち。
ただその中で退屈そうにあくびをしているヤミへ、レイは困ったような笑みを向ける。
『それではこれより、
そしてついに授与が開始される。
塔主の言葉を合図に、本棚に仕舞われていた
赤に黄色に緑に白など、色とりどりの本が宙を舞うその光景は幻想的で、受領者達はしばしの間目を奪われる。
宙を舞う本達はそれぞれの持ち主の元へと向かい、自身の
「これが俺の
ヤミもまた、自身の手元に来た
「……ねぇ、ヤミ」
「ん? おお、お前はどーだった?」
背後から聞こえてくるレイの声。心なしかいつもよりトーンが低めで語りかけられた声に、ヤミは何か引っかかるものを感じつつ振り返る。
するとそこには顔を青くさせ、死んだような瞳で自身の
「どうした、腹でも下したのか? 顔ヤベーことになってんぞ」
「……が……ない」
「あ? なんて言った?」
ボソボソと呟くレイ。明らかにいつもよりもテンションの低いレイに、ヤミがそう聞き返すと
「
そう答えるレイの手には、鎖で閉ざされた一冊の
明らかに他のモノとは違うそれに、さしものヤミも驚きで目を丸くさせる。
『皆さんちゃんと手にしましたね? それではこれにて
そんな二人の心中など知らない塔主の言葉により、授与式は終わりを告げるのであった。
ヤミとレイが
昼時、太陽が一番高く昇りクローバー王国を照らす。そんな輝きを身に浴びながら、ヤミはいつもの砂浜で一人寝転がっていた。
いつもなら一緒にいるはずのレイの姿はそこにはなく、ヤミの表情はどこか暗いもので。ヤミはボリボリと乱暴に頭を掻くと、立ち上がって背中についた砂を落とす。
「……水、買いに行くか」
じっとしていられないのか、そう呟くとヤミは街へと向けて足を進めた。
その頃、レイはというと、一人森の中で
レイは右手を前に突き出し、そこに力を集めるように意識を集中させる。しかし右手には何の変化もなく、レイは力なく腕を垂らすと
「……やっぱりだめか」
ポツリ、消え入りそうな声でそう呟く。
そしてその場に座り込み近くの木に背中を預け、左手に握りしめた
「ねぇ、なんで君は開いてくれないんだい?」
悲しみの混じった声で、語りかけるように言葉をかける。まるで涙の代わりに流すかのように口から出た言葉は、彼の持つ
レイの持つ黒の
「やっぱり
表情に影を落とすレイ。
そのまましばらくの間、無言のまま俯いていると
「おい、何をそこで俯いている」
不意に聞こえてきた、力強い声に顔を上げる。
橙色の長髪に赤いローブ、そして忘れるはずがない鋭く光る瞳。
「貴様、確か昔会った……」
「あなたは、あの時の……」
そこにいたのは、昔この森で出会った魔道士メレオレオナ・ヴァーミリオンだった。
予想外の人物の登場に目を丸くするレイ。対しメレオレオナは俯く少年を見下ろし、手の中にある
「どうやら
「……それは、そのってあいたぁ⁉︎」
「うじうじするな! 男ならハキハキと喋らんか莫迦者がァ!」
ゴチン、突如レイの頭に振り下ろされた拳。突然の衝撃と激痛にレイは頭を押さえ、涙を浮かべ地面を転がる。
やがて痛みがひき、落ち着いたレイはポツリポツリ話し始める。
「──というわけなんです」
「ふむ、開かない
話を聞き終えたメレオレオナは再度、鎖で封印された
魔法騎士団として、これまでいくつもの
「話を聞くに貴様、魔法が一切使えないと言っていたがそれは本当か?」
「……はい。
「おかしな話だな。希薄ではあるが貴様には確かに魔力がある。何も起きないということはないだろう」
見せてみろ──メレオレオナの言葉に、レイは手を突き出し魔力を集める。だが先ほどと同じく変化は一切訪れず、メレオレオナはじっとレイの腕を凝視する。
「……どうですか、何も起きていないでしょう?」
「なるほどな、そういうわけだったか」
「何かわかったんですか⁉︎」
得心のいったとばかりに告げるメレオレオナに、たまらずレイは身を乗り出す。
そんなレイに「落ち着かんか莫迦者が!」と、げんこつを一発お見舞いしメレオレオナは説明を始める。
「結論から言おう。貴様はきちんと
「僕の魔力が、特殊……?」
特殊とは一体どういうことなのか。メレオレオナの言葉を聞き漏らさぬよう、耳を研ぎ澄ませるレイ。
そんなレイにメレオレオナ一つ拍を置き、静かに口を開く。
「貴様の
「中身が、ない?」
「私も初めて見る
レイの
かつてメレオレオナが後ろを許したのも、レイが限りなく”無”に近い魔力しか発していなかったから。
だから目に見えずとも魔法自体は扱えるはず、メレオレオナはそう語る。
「それじゃあ、なんで僕の
「それは知らん! あとは貴様自身の問題だ!」
「えぇ……」
最も肝心なところを知らんと一蹴され、レイはがっくしと肩を落とす。
「
「貴様がなにを気にしているのかは知らんが、過去を乗り越えぬ限り貴様の
「過去を、乗り越える……」
メレオレオナの言葉に、レイは自身の胸へ手を当てる。
『──魔法が使えんとは、バスカビル家の恥め』
『──どうして生まれてきたのかしら。まぁ所詮は妾の子供というわけね』
『──お前はなにもできない出来損ない。名前の通り
思い出すのはかつての記憶。幼い自分へ浴びせられた、数々の罵声や雑言。
腹の中がもみくちゃにされたような気分になり、次第に吐き気が襲ってくる。気づけば体が小刻みに震えていた。
心の折れかけているレイをメレオレオナは目を細めて見下ろすと
「いつまでそう落ち込むつもりだ莫迦者がァァア!」
「〜〜〜〜〜っ⁉︎」
今までよりも大きな声で吠え、そして力強く拳を振り下ろす。
殴られたレイは、なぜ、という目でメレオレオナを見上げるが、彼女の一睨みで言葉を飲み込む。
「──夢を言え」
「……へ?」
唐突の言葉に目を丸くするレイ。
そんなレイにメレオレオナはズイッと顔を近づけ
「いいから早く言え……いいな?」
「は、はい……」
まるで猛獣に睨まれたかのような迫力になにも言い返せず、レイはただ黙って頷くしかできなかった。
だが急に「夢を言え」と言われても即座に言えるはずもなく。脳をフル回転させ、あれやこれやと考える中
『──レイ』
ふと、思い出す幼き日の記憶。
木漏れ日の下で今は亡き母がかけてくれた言葉。
『──いつかこんな場所なんか飛び出して見つけなさい』
悲しみと優しさの混じった笑顔でかけてくれた言葉。
「僕は……」
これを夢と呼んでいいかはわからない。けれど、今の自分に言えるのはこれくらいしかない。
レイは
「僕は自分の居場所を見つけたい!」
瞬間、
「そして知りたい、僕の生まれた意味を!」
とうとう鎖は粉々に砕け散り、レイの手から離れた
「よく言った! その思い、そして覚悟、決して忘れるな!」
笑みを浮かべたメレオレオナが拳を構えると、炎の魔力が腕を包み込み、巨大な獅子の足を作り出す。
「さぁ貴様の魔法を見せてみろ! そしてこのメレオレオナ・ヴァーミリオンの魔法を打ち破ってみせろ!」
「──はい!」
突き出される右腕。炎の鉤爪は真っ直ぐにレイへと向かい、迫る魔法にレイは己の
「虚無魔法──‼︎』
そして二つの魔法が衝突する。
「ん? やっと戻ってきたか」
「ただいま、ヤミ、ごめんね、遅くなっちゃって」
メレオレオナと別れ家に戻るレイ。そんな彼を砂浜に寝転がったヤミが出迎える。
どこか晴れやかになった表情のレイに疑問を抱いたヤミだが、鎖のなくなった
ヤミの隣に腰をかけたレイは、沈みゆく太陽を見つめながら静かに口を開いた。
「ねぇヤミ、僕ね魔法騎士団を目指そうと思うんだ」
その言葉にヤミはすぐには返事を返さず、体を起こすとレイと同じく夕焼けを眺め
「なんだ──俺と同じじゃねぇか」
レイの裏側では、ヤミが街でユリウスに勧誘されています。
次回は魔導師試験くらいになると思います。