闇の隣に虚あり   作:ジャンボどら焼き

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今回で入団試験は終わります。

それとお気に入り登録40件超えました、ありがとございます!
まだ原作に入れそうにありませんが、今後も付き合っていただけたら幸いです。




実技試験とレイの魔法と試験結果

 ジャック・ザリッパーと戦闘試験を行うことになったレイ。二人は会場の中心へと向かい、少し距離をとって向かい合う。

 最初の対戦である二人が準備を整えたことで、会場の視線は自然とレイとジャックへと向けられる。

 

「カカッ、早く始めようぜ! こっちはさっきから裂きたくてウズウズしてんだからよぉ」

「……試験だってことわかってるのかな」

 

 もはや殺しにくるような迫力を見せるジャックに、レイは疲れたような目を向ける。まぁ本物の戦いでは命のやり取りなども起きてくるだろうし、そういった意味ではジャックはこの試験に向いているのかもしれない。

 ただ入団前に腕とか足とか使い物にならなくされても困るも確か。しかも彼の言葉がどこまで本気なのか全く見当がつかないので、レイは内心ため息を吐く。

 

 レイは腰に下げていた刀を抜き、脱力した姿勢で構える。そんなレイにジャックは片眉をあげると

 

「カカッ、近接武器か」

「まぁすこし理由があってね。ダメだった?」

「いや、むしろ本格的に戦うのが楽しみになってきたぜぇ!」

 

 獲物を見つけた獣のように、べろりと舌なめずりをする。

 ずっと前から分かっていたことだが、やはりこの男、かなりの戦闘狂である。これは気を抜いたらただでは済まないと、レイは刀を握る手に力を込める。

 

「それじゃあ、試験開始!」

 

 ユリウスの声を合図に、ジャックは自身の魔導書(グリモワール)を取り出し魔法を使用する。

 

「烈断魔法『ヘルブレード』!」

 

 その言葉とともに、ジャックの両腕から緑色の魔力で形成された刃が出現する。

 ペロリ、ジャックは刃へ舌を這わせると、心底楽しそうな笑みを浮かべ

 

「せいぜい俺を楽しませてくれよレイぃぃ!」

「あー、やっぱり誰か相手代わってくれないかなぁ……」

 

 最後の最後に後悔しつつ、レイは肉薄するジャックを迎え撃つ。

 両手から繰り出されるジャックの連撃は凄まじいもので、レイは刀でそれらを去なすものの攻めに転じることができずにいた。

 

「カカカッ! んな細い剣でどれだけ俺の魔法を防ぎきれるか、楽しみだなァ!」

 

 守りに徹しているレイへジャックは攻めの手を緩めることなく、魔力の刃を振るい続ける。

 

「おいおい守ってばっかじゃねぇか! 目にもの見せるんじゃなかったのかよォ!」

「キミッ、もうちょっと静かに戦えないのかい⁉︎」

 

 戦闘中にもかかわらず喋りまくるジャックに、レイは苛立ちとともに言葉を吐き捨てる。

 

(くそー、やっぱり強いなぁ)

 

 戦う前から分かっていたことだが、やはりジャックの強さはそこいらの受験生とは格が違った。

 魔導書(グリモワール)を手にしてまだ短いというのにその魔法は洗練されており、振り抜かれた一撃は会場の地面をバターのように容易く切り裂いた。

 

(圧倒的に手数が多い……本当にやり辛い)

 

 普段からヤミと戦ってはいるが、目の前の相手は全くタイプが異なる。

 ヤミは一撃一撃を研ぎ澄ませる手法をとるのに対し、ジャックは手数で相手を圧倒しその中に必殺の一撃を混じえるので、必然的に受け身に回ってしまう。普段とは違う戦い方をする相手なので、やり辛いことこの上ない。

 

 レイは後ろへバックステップし一度距離をとると、少し乱れた息を整える。

 ジャックもレイを追わず、自身の腕から生えた魔力の刃へ、そして次にレイへ視線を向け訝しむような目で睨みつける。

 

「おいテメー、俺の魔法に何をした?」

「何をって、何かな?」

「カカッ、しらばっくれるんじゃねぇよ! 俺の言いたいこと、本当はわかってんだろ?」

 

 ジャックの問いかけにレイは何も答えず、ただ笑顔だけを返す。

 魔法も使わず、ただ剣技のみだけで戦い続けるレイ。そんな相手に、ジャックの直感がなにか裏があると伝えていた。

 

「言わないならそれでもいいぜ──どうせ斬り合いの中で暴くんだからよォ!」

 

 叫び、レイへと肉薄するジャックは、再び刃での連撃を浴びせる。

 そして先ほど同様ほとんど受け身に回るレイへ、反撃の隙を与えず刃を振るい続けるジャックだったが

 

(やっぱりだ。ヤツの剣とぶつかる直前、俺の魔法の切れ味が落ちやがる……)

 

 レイの刀と触れ会う直前、ジャックは自身の魔法『ヘルブレード』の切れ味が数段下がっていることに気づいた。

 その証拠に、本来ならばレイの武器を叩き切るほどに研ぎ澄ませているはずなのだが、現状は一向に斬れる気配がない。

 

 弱体化の魔法かと疑うジャックだが、そもそもレイ自身がまだ魔導書(グリモワール)を扱っていない。しかし魔法でないとすれば、なぜ自分の魔法の切れ味が落ちているのかの理由が説明できない。

 未知なる魔法を使う相手にジャックはより一層笑みを深め

 

「カカッ、想像以上に楽しませてくれるじゃねぇかレイぃぃ!」

「うぉっ⁉︎」

 

 ジャックの攻めがさらに苛烈になり、レイはもはや刃を受け流すので手一杯に。

 

「ちょっとっ、急に早すぎ!」

「おいおい隙が出来てるぜぇ⁉︎」

 

 そしてついにジャックの刃がレイの刀を弾きあげ、レイは獲物をなくした無防備な姿を晒す。

 ここが最大の好機とジャックは腕を引き、守りのなくなったレイへトドメの一撃をお見舞いする。

 

 しかしレイは笑みを浮かべ

 

「待ってたよ、君の攻撃が大振りになるのを!」

「ああ、んだとっ⁉︎」

 

 レイの前に彼の魔導書(グリモワール)が現れ、魔法の刻まれたページを開く。

 ここまで魔法を使わずにいておいたのはこの瞬間のための布石。すべては勝ちを確信した瞬間の油断を刈り取るために!

 

「今更魔法を使ったところで、防げる距離かよォ!」

 

 だがジャックの刃はすでに振り下ろされている途中。確かにここから魔法を発動したとしても、到底間に合うはずがない。

 だがレイには一切の不安はなく、むしろ勝利を確信したかのように笑みを浮かべ

 

「──虚無魔法『空撫(からなで)』」

 

 魔法名を唱え両手を突き出す。しかし魔法を使ったのにもかかわらず何も起きることはなく、やはり魔法発動が間に合わなかったと、今度はジャックが勝利を確信した笑みを浮かべ刃を振り抜く。

 迫る刃にレイは逃げるどころかむしろ受け止めるように手をかざし、そっと、刃を撫でる。

 

 その直後、緑の刃は霧散し消失。

 

「魔法が消えただァ⁉︎」

 

 さすがのジャックもこれには驚きを隠せず激しい動揺を見せる。自慢の魔法がただ撫でられただけで消失したのだから、当然と言えば当然の反応だろう。

 だがその動揺は決定的な隙となり、レイは上から落ちてくるジ先ほどャックに弾かれた刀をキャッチ、そのままジャックの喉元へ突きつける。

 

「チッ……参った」

 

 両手を挙げ、降参の意を示す。

 

 

 

 

 

「ほぅ、魔法を出し渋ると思っていたが、まさかあのような魔法とはな」

 

 防戦一方の展開から一変、見事な逆転勝利を掴み取ったレイにボルカレオは感嘆する。

 ジャックの魔法を消失させた魔法。空間魔法の類ではないというのは、レイの口にした魔法名から明らか。

 

「しかし、あの少年の魔法は一体……」

「あれは虚無魔法。魔法を”無”に還す魔法だ」

 

 謎の魔法について語るメレオレオナに、ボルカレオは視線を向ける。

 

「メレオレオナ、オマエはあの魔法を知っているのか?」

「少しだけだがな」

 

 つまりはあの少年がメレオレオナの言っていた、彼女に面白いと言わせた受験者。

 名前は確か

 

「レイ・バスカビル……なるほど、確かに面白い少年だ。だが──」

 

 

 

 

 

「ふぅ……なんとか勝てた」

 

 無事ジャックに勝利し安堵の息を吐くレイ。

 うまく最後に大振りを誘うことができたからいいものの、もしも彼が油断をしなければやられていたのはこっちの方。半分運と初見殺しの魔法があったからこその勝利だ。

 

「それにしても、やっぱり君は頼りになるよ」

 

 レイは魔導書(グリモワール)を手にし、労うように言葉をかける。

 この魔導書(グリモワール)に刻まれた虚無魔法は、魔法を消失する魔法。魔法が絶対的なこの世界において、この本の力は唯一無二の存在になる。

 ただしレイの魔法は相手の魔法を消失できる反面、それ自体の攻撃力は皆無に等しい。故にレイは最後の時まで刀一つで戦い抜いていたのだ。

 

「でもやっぱり、まだまだ力つけないとダメだね」

 

 だがやはり魔法相手に近接武器一つで戦うには、まだまだ力不足だということがわかった。仮に魔法騎士団に入団するのなら、せめて一対一でも渡り合えるくらいの実力をつけなければ。

 ジャックとの戦いを経て、レイが新たな課題を掲げていると

 

「おぅ、お疲れさん」

「あ、ヤミ。どうだった?」

「ん? 普通に勝ったけど?」

 

 特に嬉しそうな反応を見せるのでもなく、いつものように気だるそうに頭を掻きながら答えるヤミ。だがレイからしてみてもその結果は当然なものなので、彼もまた手放しで喜ぶようなことはしなかった。

 

「にしても、お前の方は随分ぎりぎりだったな」

「あははっ、いやぁ強かったよね。勝てたのはラッキーだったなぁ」

「最初から魔法使っときゃもう少し楽に勝てただろーが。手ぇ抜いてなにがラッキーだ、馬鹿野郎」

 

 確かに最初から魔導書(グリモワール)を使っていれば、あそこまで攻められることはなかっただろう。レイの魔法を知っているヤミの目からしてみれば、先ほどの戦いは違和感しか感じなかったことだろう。

 そんなヤミの言葉に、レイは苦笑いを浮かべ頬を掻く。

 

「別に手は抜いてないよ。確実に勝つためには、ああやって隙をつく方がいいかなって思っただけ。まぁ結果、ヤミには手を抜いたように見えちゃったわけだけど」

 

 人は適応する生物だ。初めから虚無魔法を使用しても、一時の優勢を得られるだけで後半対応されるかもしれない。だからこそ最後の最後までとっていた。あのタイミングならば、確実に相手の動きを怯ませることができると思ったから。

 虎穴に入らずんばなんとやら。高いリターンを求めるのなら、それ相応のリスクは背負うものだ。

 

「やっぱりヤミは嫌だったかい、僕の戦い方」

「……ま、それがお前のやり方だって言うならそれでいいんじゃねぇの」

 

 そう言い、レイの隣に腰をかけるヤミ。

 そのあとは他の受験者たちの試験が終わるまで、会話をしながら見物するのだった。

 

 

 

 

 

 全組みの試験が終わり、ついに結果発表の時間がやってきた。

 受験者の名前が呼ばれ、一人ずつ前に出る。どこかの団が手をあげる者もいれば、反対にどの団も手をあげない者もいる。

 喜怒哀楽が渦巻く試験結果の時間は進んでいき、ついに順番はヤミとレイへと回ってきた。

 

「次152番、前へ」

「……ん? あぁ、俺か」

 

 ここに来てもヤミの表情には一切緊張の色が現れない。

 ゆっくりと前に出たヤミは、上に座る騎士団長たちへと視線を向ける。

 

「それでは、希望者は挙手を」

 

 その言葉とともに、団長たちは各々行動に移す。

 そしてヤミの結果に会場にざわめきが起こる。なぜなら──

 

「お、おいあれ……『灰色の幻鹿団』が挙手してる⁉︎」

「嘘だろ⁉︎ あいつ異邦人だぞ⁉︎」

「あとは『紅蓮の獅子王団』も⁉︎ なんだよあいつ!」

 

 現最強の魔法騎士団である『灰色の幻鹿団』。その団長であるユリウスが手をあげているのを見て、他の受験者たちは目を見開き驚愕する。

 一方レイはというと

 

「やった、やったねヤミ! おめでとう!」

 

 ヤミの結果にバンザイよろしく、両手を天にあげ喜びを体で表現していた。

『灰色の幻鹿団』と『紅蓮の獅子王団』。二つの魔法騎士団に指名されたヤミは、迷うことなく口を開き

 

「んじゃ、『灰色の幻鹿団』で」

 

 ヤミは『灰色の幻鹿団』へと入団を宣言。

 そして次はレイへと順番が回る。期待と不安を胸に、レイは前に出ると

 

「それでは、希望者は挙手を」

 

 直後、レイの瞳が見開かれる。

 

「153番──挙手なし」

 

 結果はどの団も手を挙げることがなかった、つまりは不合格。

 突きつけられた現実に、レイは呼吸をするのさえ忘れ呆然としてしまう。

 

(ああ、やっぱり現実はこんなものか……)

 

 ヤミも合格し、自分も心のどこかでいけると思っていた。だが現実はそう甘いものではなかった。

 振り返ればこの結果になるのは当たり前だと、嫌に冷静な部分が訴えてくる。実力を示せたのは再度の戦闘だけ。それ以外では全くと言っていいほど活躍はできていなかった。そんな奴が、魔法騎士団に入れるなど、夢のまた夢だと。

 

(わかってる! でも、それでも僕は……ッ!)

 

「153番、早く下がりなさい」

 

 なかなか立ち去らないレイに、会場がざわざわとしだす。そんなレイに進行役が注意を促すが、レイは依然その場に足を止め

 

「僕は来年、またここにきます!」

 

 唐突の宣言に受験者たちはおろか、団長のうちの何人かも目を丸くさせる。

 レイはメレオレオナへ視線を真っ直ぐに向け言葉を続けた。

 

「今よりもっともっと強くなって、ここに戻ってきてっ」

 

 ヤミにそして視線の先にいるメレオレオナに誓うように

 

「──全部の団に手をあげさせるような、そんな魔道士になってみせる!」

 

 何よりも自分に誓うように大声で宣言し、レイは会場を後にした。

 

「おい、なんだったんだあいつ……」

「しるか、手をあげられなくて頭おかしくなったんだろ」

 

 前例のない団長たちへの宣言をした受験者。その珍事に場内は再び騒がしくなる。

 団長たちもそんなレイに呆れたような反応を示す中、

 

「ククッ、まさか団長相手にあのような啖呵を切るとはな」

「あぁ、私も想定外の莫迦さ加減だ……だが面白い奴だろう?」

「ハハハッ、確かにお前が気にいるだけはあるな。うむ、なかなか面白い少年だ。それに骨もあるとみた」

 

『紅蓮の獅子王団』の二人は、愉快そうな笑みを浮かべ例の少年について語り合っていた。

 

 そして十数分後、過去に例を見ない、前代未聞の魔法騎士団入団試験は幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 





まほうをけすまほうってざんしんでしょう(棒

なんて冗談はともかくとして

【悲報】主人公試験落ちる

はてさてどうなる主人公⁉︎ 気になる答えは続きで!



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