孤高の一夏   作:アーチャー 双剣使い

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序章
強さに魅せられて


俺は小学生になる前の記憶がない。

だけど別にそんなことはどうでもよかった、当時も今も。

 


 

小学一年生の時に俺は姉に連れられて、地元にある篠ノ之神社に行った。そこで姉は俺に篠ノ之神社にある剣道場で剣を学べと言ったんだ。俺は断る必要も理由も無かったから承諾したんだ。

 

それから毎日、剣道場に通うようになった。幸いに俺には才能があると道場の師範である柳韻さんに言われた。だけど柳韻さんにはこうも言われた。

 

「才能があろうと努力を惜しまずに鍛錬しなければ強くはなれない」

 

だから、俺は毎日道場で稽古し、家でも素振りや体力をつけるために走ったりしたんだ。それと勉学も疎かにするなと言われたから先に予習して余裕を持って生活してた。

 

 

俺は姉に、いや姉じゃなくても守られる側ではなく、守る側になりたかったんだ。

だから強くなりたいと思ったんだ。

 

ズキッと鋭い痛みが奔る

「何故そう在りたいと願った?」

 

――出会った少女が今にも壊れそうだったから――

 

 


ある時、姉が真剣を俺に手渡し、抜いてみろと言った。姉の目はどこか悲哀と慈愛を含んだ眼差しだった。俺が刀身をじっくりと見ているとこう言ったんだ。

 

「その重みを忘れるな。それが人を傷つけることの出来る力だということを」

 

そういわれたが俺は別のことに夢中だったんだ。俺はその刀の美しさに見惚れていたんだ。狂気を感じさせる笑みを浮かべて

 

 

 

その鋭利な刀身に、その人を殺せる物の重みに、それを振るう力に

 

俺は強くなりたいと心から思った。

 

それは義務感や恩義を感じたからじゃない。

 

ただ焦がれたからだ

 

まるでこの身に刻み込まれた呪いの様に、俺はそれを渇望したのだ。

 

 

姉はそんな可笑しな様子の俺に気づいていなかった。

それから姉に俺は居合の手ほどきも受けた。その時の姉の姿を俺は忘れない。


 

小学2年のある日、学校でクラスの女子が馬鹿にされていた。何時もなら気にしないが柳韻さんの娘だったので助けた。だが、それは間違っていたかもしれない。別にいじめを見逃すという意味じゃない。なぜなら助けた女子、篠ノ之箒はそれから毎日のように俺に絡んでくるようになったからだ。此方の都合も考えずに。

 

例えば俺が友達と話していた時も割り込んできた。後でな、と言っても無理矢理に俺と話そうとするんだ。酷い時は暴力を振るう時もあった。それが俺だけならともかく友達にまで手が及んだから、みんな俺を避けるようになった。

 

だから、前に箒に注意したら逆ギレされ、此方の言うことに耳を傾けない。柳韻さんに頼んでも効果はなかった。というかそのせいで俺が道場に通っていたことがバレた。

 

今まで道場の娘の箒に気づかれなかったのは、箒があまり道場の子供たちに馴染めず、みんなとは別でやっていたからだ。

 

バレてから箒は、俺が道場で稽古してる時にやってきて、構おうとしてきて稽古の邪魔になった。俺の姉が箒の姉である束さんと仲のいいこともあって、更に顔を合わせるようになった。

 

束さんは基本的に大人しい性格で、気に入った相手には優しくて俺のことも気に入ったからと優しく接してくれている。だから俺は束さんには懐いた。なのに何故、箒はあそこまで暴力的なのかよくわからない。

 

だから、柳韻さんにどうしたらいいかと聞くと、俺に個別で教えてくれることにしてくれた。その時にもっと心身ともに成長したら剣術と他の武術も教えて下さいとお願いした。俺は姉の教えだけじゃ足りなかったのだ。

 

ズキッと鋭い痛みが奔る

「何かを忘れていないか?」

 

――俺に沢山のモノを与えてくれた少女を――

 

 

そんな生活が続き小学校の中学年に上がった時にいつのまにか姉はISの国家代表になっており、周囲からは白い目で見られたり妬みの視線を受けるようになったんだ。

 

当時は何故か分からなかったが、それは女尊男卑の影響で嫌な目にあった奴らが、姉がIS界で有名だからと俺に理不尽な敵意を持っていたり、女尊男卑に染まっている女子たちは姉が国家代表でありその血縁者であることを羨ましがってたんだ。

 

それからは友達と呼べる者も極端に減り、下心で近づいてくる者や自分の陰口を聞くようになった。教師も混ざっているから手に負えない。

 

 

時たま、俺に暴力を振るう奴も出てきた。だけど長年剣と他の武術を学んだ俺は、素手で数人を返り討ちにした。

そのことで学校に保護者でもある姉が呼び出された。

 

向こうからやってきたため注意で済んだが姉はそうも思っていなかった。姉の言い分では俺は武術を嗜んでいるのだから人を傷つけてはいけないというのだ。そして、いくら正当防衛でも人を傷つけたことには違いないと叱るのだ。この時俺は素直に謝った。このまま言い争っても埒があかないからだ。

 

その時から俺は姉に頼ることを、信頼することをやめた。

俺は姉に不信感を抱いたのだ。

 

理由は明白だ。姉がISの国家代表になったからこの問題は起こり、しかも姉は学んで強くなった剣の力でその座に上り詰めた。そのISはスポーツ用というがそれは建前であり、大会では自国の作った兵装を見せ合うこと、本質は操縦者同士で傷つけ合うことだ。

 

姉は国家代表で忙しいからか家に帰らない日が増えた。

淋しいと思った日々などなかった。ただ只管に強く在ろうとした。

 

ズキッと鋭い痛みが奔る

「何故苦しくなかった?」

 

――あの少女が寄り添ってくれたから――

 

 

小学四年になり箒たちは引っ越すことになった。束さんがISの開発者という事が関わるのだろう。箒が居なくなって俺は嬉しいが、柳韻さんが居なくなるのは困った。

しかし別れ際に柳韻さんは俺の家の近くにある、私有地の大きな山に家があるからそこにこれから通うように言った。

 

 

後日、俺はいわれた通りに山を登り、その家に向かった。そこには柳韻さんよりも一世代ほど歳をとった老人がいた。そして彼女も

 

「こんにちは。柳韻さんに言われてきました。」

 

そう言うとご老人は自己紹介をしてくれた。

 

「儂は、次郎だ。お前さんのことは柳韻から聞いている。これから剣術を教えてやる。好きに呼べ」

「では、先生と」

「構わん」

 

そう言って先生はその日から俺に指南してくれた。そのあと知ったのだが、先生は刀の鍛治師でもあるらしく、刀鍛治についても教わることとなった。彼女は先生の孫だった

 

共に過ごした日々は何ものにも代え難いモノだった

 

 

 

そうして過ごし、小学五年になり、中国人の転校生が来ていじめられていた。そのいじめていた奴らは俺に何度もちょっかいをかけてきた奴らだったからそれを口実にぶちのめした。

 

昔は人に手を振るうことに戸惑っていたが、先生に剣術を教えてもらっていたら、その抵抗も無くなった。

先生曰く、剣道はポイントを取れる動きが良いとされているスポーツであり、剣術は理に適う動きと瞬転を見極めることを目的とした殺人術である。

 

故に強さを求めた俺はその戸惑いを捨てた。

 

ある日、自分と一緒にいたせいで彼女は傷つけられた。だから有象無象を気にしなくなった


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