私は織斑一夏が好きだった。
私の家は神社兼道場だった。
そこで父は神主をしながら地域の子供たちに剣道を教えていた。母はその父を支え、厳しい父の代わりに優しくしてくれた。
そして私には年の離れた姉がいる。姉は一言でいうと天才だった。色んなことを知っていて、器用であり、優しかった。
しかし、髪の色が父とも母とも違い、その女の私ですら見惚れる容姿と恵まれた才能は、悪意を持った人たちにとって邪魔なものでしかなく、また叩くことに適した材料でもあった。それで学校では嫌がらせを受けていたらしい。
だけど私は知っている。姉はどうしようもなく優しかったのだ。だから、イジメられている子を放っておけなくてついつい助けてしまう。だから小さい子達には人望があった。
そしてその性根は恐らく心を閉ざした今でも変わっていないのだろう。
私はそんな姉が好きで、そして嫌いだった。
姉は私にとてもよくしてくれた。理解できなかった勉強も分かるまで優しく教えてくれた。友達のいなかった私に懐いていた子供たちと引き合わせてくれた。
だけどその才能が、優秀さが私を歪めたのかもしれない。
姉の才能を知った親族や両親の知り合いは、私に目を向けたのだ。お前はどんな才能を持っているのだと言いたげな目をしてたのを覚えている。
それは私が姉のようにできが良くないと知るとすぐさま侮蔑の目に変わった。その期待の重圧に押しつぶされてしまった私は姉から離れた。恐らく剣道を選んだのも巫女を選んだ姉とは違う方向に進みたかったからだろう。
そして私は姉を拒絶した。その後も何度も何度も救いの手を差し伸べられても拒否し続けた。貴方がいると私は私ではいられなくなると感じていたから。
だから言ってはならないことまで言ってしまった。
「貴方さえいなければ」
期待と侮蔑の眼差しに怯えた私は家族以外との関わりを絶った。そして剣道を始めて、私は父のような人に憧れた。
厳しい人だった。だけどそれは、その人を思って厳しくしていたに過ぎない。だから色んな人に好かれている。
だけど未熟な私の見様見真似な態度は、周りから見たら傲慢で乱暴な子供に見えていたのだろう。それが学校でイジメられていた原因なのだろう。私はどうすれば良いのか分からなかった。私には他に何もなかったから。父のようになれないのなら母のようにと思ったが、その優しさを向ける相手は私の側には誰もいなかった。
独りの私。優しさゆえの厳しさも、純粋な優しさも持てない私はただ健気にも自分を強く見せてイジメられないようにと愚かにも考えた。それが火に油を注ぐとも知らずに無邪気にいい案だと思っていた。
止まない罵声、止まない嫌がらせ。疲れきった私の前にある男の子が現れた。その男の子、織斑一夏は私を助けてくれたのだ。しかし、その救済は何も意味はなかった。
私が孤独なのは変わらないからだ。だけど彼ならば私を受け入れてくれるのではないかと、希望を持ってしまった私は彼を追いかけた。
だがその先で見たものは希望ではなかった。
彼もイジメられていたのだ。それは私と同じと思ったが彼の周りには人がいた。そしていつも側にはある少女がいた。そして、私に構うことは無かった。
嫉妬から少女に突っかかったこともあった。少女は困った顔をしたが、やがてあどけなさの残るが慈愛に満ちた表情で、
「友達になろう?」
と手を差し出した。小さくて弱い私はその手を弾いてしまった。それを見た一夏はもう私と口もきかなくなった。
それを私は裏切られたと思った。
貴方は私と同じだと思ったのに。
貴方なら私を拒絶しないと思ったのに。
その幼心に抱いた淡い恋心は彼の近くから引き離されていると、いつしか憎悪に変わっていた。
どうしてだろう。どうしてだろう。と考えるたびに彼が憎くなってしまう。私の世話を担当する人はその思いをいつも聞いて宥めてくれる。だが根本的なものは変わらない。
私が独りだということは。
あの時、あの少女の手を取っていればあるいは…