孤高の一夏   作:アーチャー 双剣使い

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はじめての…

初めて人を殺したんだ

あの時、この世に生を享けてもっとも自分を感じることができた

 

 

己が殺めた命で

 

その感触、その罪悪感、その喜び、その悲しみ(哀しみ)

 

全てが愛おしかった

 

 

自分の罪が、汚れた自分が、この身に受ける憎しみが。

 

俺を強くする。

 


 

その日、俺が(原作)と決定的に道を違えた。

 

その時が訪れたのは突然だった。次郎もとい先生と出会い、教えを受け始めてから四年が経った夏の日、先生が俺の仕事を見せてやると言い出したからだ。

 

先生の仕事、それは先生が数日だったり数週間ほどたびたび出かけるのだ、刀を持って。前にその事について聞いたことがあったが答えてはもらえなかった。しかし、先生はこう仰られた。

 

 

「お前にはまだ覚悟が足りん。いや、余計なものを捨て切れておらん。故にお前はその境界を彷徨っている。それでは駄目だ」

 

そう難しいことを言う先生に俺は尋ねたんだ。

 

「その境界とは?」

「お前が彷徨うもの、それはかつての理想の残骸だ。前に言っていたな?みんなを守りたいと思っていたと。だが、今はただ強さを求めている。それは何故か?」

 

先生から目を逸らさない。逸らしたら最後、俺は永遠に半端者に成り下がるからだ。

 

「答えてやろう。お前は欲しているのだよ、自分の命よりも大事にしたい『もの』をな。しかし、まだそれを見つけておらぬお前はできる限り周りを傷つけないようにする。それはお前の強さには不要だ」

「それは俺にその『もの』を、探し求めることを諦めろと言ってるのでしょうか?」

 

間髪入れずにそう問い返す。いつもより口調が荒くなる。そんな俺を先生は手で制し続きを言う。

 

「情を全て捨てろとは言っておらん。ただお前が強くなった先にそれは見つかるだろう。だから、人が傷つくのを恐れ逃げてはならん。そうして見つけたとしても所詮は偽物だ。お前が見つけ相手が求める、それがお前の『本物』になる」

 

そう言われてから俺はただ強くなった。強くなり続けた。そして、不要な願いは消えて、求める姿への覚悟を手にした。

だから先生は見せるのだろう、俺が歩くであろうその道を。

 

 

 

そして先生は日がまだ昇っていない早朝に起きて刀を持って来いという。それに従い先生に授けられた刀〈花篝〉を手に先生の屋敷に向かうと黒塗りの車が屋敷のある山の麓に停められており、先生はそれに乗っており俺も乗り込むと車は進みだした。

 

 

それから出発した車は三十分ほど走り、停まったのは大きな和風の屋敷だ。先生は車から降りると屋敷の玄関を潜り広い屋敷の中を迷わず進む。

 

そして、辿り着いたのは威圧感を感じる部屋の前。先生は襖を開けると部屋の中央に座る男性に話しかける。先生がその人の前を座ったので俺はその少し後ろに座る。

 

「来たぞ楯無、此奴が儂の弟子だ。名は織斑一夏だ。今まで見てきた者たちの中で最も才能があり、最も強くなる。お主や儂よりもな」

 

どうやら目の前の男性は楯無というらしい。髪は黒いが、瞳は紅いという変わった容姿だ。その瞳を俺は見たことがある。

 

「ほう。貴方がそういうなら確かなんでしょう。ですが彼はまだ簪や■様と同じ中学二年でしょう?」

「そうだ。だが問題はあるまい。実力を見せれば皆も大人しくなるだろう」

 

そこで気になった事を聞く。

 

「簪ですか、では貴方が彼女の父親ですか?」

「そうだ。私の名は更識楯無だ」

 

俺が楯無さんの娘である簪と出会ったのは中学一年の時だ。彼女は先生が作った薙刀を受け取りに従者の布仏本音を連れてやってきたのだ。そのときに知り合い、その後も彼女とは何度か顔を合わせて手合わせをした。

 

「そうか、君が簪の言っていた強い少年か。なるほど、薙刀を使う簪は姉の刀奈を凌ぐというのにな。どうだ強かったろう?」

「ええ。とても楽しかったです」

 

そう答えると楯無さんは苦笑いする。

 

簪は出会ったときは姉にコンプレックスを抱き苦しんでいた。その時に、俺と新調した薙刀〈初桜〉で試合を行ったのだが彼女は当時の俺に喰いつける程の実力者であった。それは姉を越える為に得意な薙刀を鍛えていたらしいが、いつの間にか姉を越えていたらしい。それ以来は一応憑き物が落ちたようになったらしい。

 

それで、と楯無さんは話を戻す。

 

「一夏君、君が此処に来てもらった理由を言おうか。次郎、私から言いますね」

 

そういい先生に確認をとると楯無さんは話し始めた。

 

「私たち更識家は日本政府直属の対暗部用暗部組織であり、私はその長を務めている。君の先生である次郎は先代のころから更識家に関わりがあり、暗殺者として活躍していたんだ。それに彼は今は引退しているが更識家の構成員を指導もしていた。もちろん私もその中の一人だ。その次郎が逸材と呼ぶ君を我々は更識に迎え入れたいんだ。」

 

そういわれた俺は途惑う、如何したものかと。そこで先生が口を開く。

 

「一夏、この仕事は人を傷つけ、命を奪うことも日常茶飯事だ。だがもう言ったはずだぞ。覚悟があるなら悩む必要などないだろう?」

 

その言葉を聞き、俺は決意を固めて返事を返す。

 

「その話、お受けします。楯無さん」

「よく言ってくれた。では、さっそく君の任務内容を説明しよう」

 

そういって話を進める楯無さん。用意周到だな。

 

「おそらく君には次郎と共に暗殺と殲滅任務を頼むだろう。その他にも諜報任務などもこなしてもらうだろうがな。そして次に、君には転校してもらわなければならない」

「どういうことですか?」

「それは■様の護衛をしてもらう為だ。無論、根回ししておくから学費も君の姉についても心配しないでくれ。」

「■にこの話は?」

「してある。君になら任せられるらしいよ」

「そうですか、分かりました。では、いつ転校を?」

「再来週の月曜日からだ。暗殺の任務は明日の夜からだ。それでは皆に紹介と行こうか」

 

そういって楯無さんは立ち上がり部屋を出て行く。その後ろに先生と俺がついていく。隣を歩く先生は普段は出さない優しい声で俺に言い聞かせる。

 

「一夏、これから先、お前は人を殺め、手を汚すことになるだろうがそれがお前の望む道だ。後悔のないように生きろ」

 

それっきり口を開かない先生と並んで歩いていくと楯無さんは離れの武道場に行き、その戸を開けて中に入り、俺たちもそれに続く。

 

武道場には沢山の人が壁を覆うように座っており、真ん中はひらけている。楯無さんは中央に来るように言い、先生は入口に立ったままだ。そして、楯無さんは座っている人たちに向かって声を出す。

 

「これより、織斑一夏の実力を確かめる為に試合を行う。なお対戦者は反対派の代表が相手をする。事前に決めた者が前に出てこい」

 

そういうと俺から距離を取る楯無さん。目の前に出てきた相手は屈強な体を持ち、観察するとなかなかの手練れだと窺える。

 

「では、試合について説明する。ルールは相手を殺さない事、再起不能の傷を負わせない事で勝敗は相手が降参又は戦闘を継続できないと判断した場合だ。では、試合…」

 

「開始!」

 

「せやぁっ!」

 

楯無さんの言葉とともに振り下ろされる刀を躱し、バックステップで距離を取り姿勢を整える。相手は次の攻撃の構えをしながら近づいてくる。

その上段からの攻撃を受けるように見せかけて受け流す。

その隙をついて右足で腹に蹴りを決めると相手は吹き飛び距離が離れる。

 

「この、ちょこまかと動き回りおって…!」

「それが自分のスタイルですから」

 

それにしても流石は更識というべきか。あの一撃に無理やり刀を滑り込ませてダメージを抑えるとは。だから、次の手はそんな小手先の技で防げない様に攻撃をしようと苛烈な攻めに転じる。

 

敵が立ち上がった所で身を低くして相手に近づき、視覚出来ないほどの速さで抜刀し相手に連撃を与えるが致命傷となる箇所は的確に防がれる。

 

「なんと早いこと…。だが、好きなようにさせてなるものか!」

 

そこで相手の反撃をわざと許し、剛腕の一撃を刀で受けながら後ろに跳ぶ。すると相手は体勢を崩した。

着地するとそこに花篝を投げつけてそのあとを追いかける。

 

「なんだと!?」

 

カン、と驚きを隠せぬまま反射で花篝を弾いてしまう。その隙を見逃さず、その無防備な体に飛び掛かる。鳩尾に拳の重い一撃を与え弱った所で、刀を持つ手を捻り武器を捨てさせ、そのまま体の軸をうまく使い投げ飛ばす要領で床に叩き付ける。相手は瞬く間に意識を失った。

 

そこで審判の止めが入る。

 

「止め!この試合織斑一夏の勝利だ。これで文句は無いな?」

 

楯無さんの言葉に皆、認める旨を口にする。

そして、俺は更識の正式な隊員となったのだ。

 

 

 

次の日、俺は更識が使っている、どこか忍者らしさを感じる洋風な黒い装束一式を貰った。その服にはフードもついており被ると顔を隠すこともできる。どうやら制服替わりでもあるらしい。

 

それを着て腰に花篝を差し、短剣を腰と脚に装備する。

 

 

そして夜、先生と一緒に深夜に女性権利団体を強襲した。

 

此処の会長が政府に対してやり過ぎたため、抹殺するように依頼されたらしい。近頃、女性権利団体は勢力を拡大しており、行き過ぎた女尊の思考が社会問題になっている。今回はそれが関わっているそうだ。

 

どうやら活動資金は政府の中のメンバーが横流ししたり、企業を強請って調達しているらしく、(まぁ、その勢いも政府の中と言っても下の方で上層部にまでは入れず仕舞い)政府に社会的地位上昇の目的で上層部の女性幹部に無理やりな接触を図った為、問題視され依頼が渡されたらしい。

 

そのため、金は沢山あるから防衛力も確かだと思ったのだ。

しかし、警護の者は女性ばかりで装備だけが一級品だった。手応えのないことだ。

 

そして、初めて殺した相手は夜間巡回をしていた警備係だった。その最後は自分が背後から短剣で喉を掻き切ったのだ。その時の気持ちは様々な感情が混ざり過ぎて分からなかった。

 

 

 

 

だが、一つは分かっていた。俺は人殺しの大罪を背負うことになり、もう昔のようには戻れない。

 

それが悲劇かどうか分からないが俺が望んだ道だ。

 

後悔はない。




装束には元ネタがあります。

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