契約終了の鐘が鳴る。奔流が消えていく。
理想も現実も、覚束ない意志の外へと拡散して、希望や絶望からすら解放される。
この世においてただ一なる大地、根から幹へ、そして枝から葉へ。再び囚われる感覚とは、しかし全く違った。私は羽ばたいた。なぜだ、ただ消滅するだけではないのか。意識が、この巨木の先端から剥離して――そして私の目には映ったのだ。美しいものが映ったのだ。
なんという光なのだろう。ここが消滅の場所、地獄の業火の滾る場所とは、到底思えない。私は、敗残者として消え去るのではなかったのか。世界は、私のような者でさえ、救うべき対象だとしたのか。命。広がっていく魂。夢。私は、あの場所に辿りつこうとしているのか。
時を駆け抜けていく。時代から時代へ、渦の中心へ向かいながら、私は目の当たりにした。
時代を駆け抜け、私が殺した人々すら、救い上げる正義の味方。
歴史が書き換えられていく。私の到来する場所が全て消えていく。
そうして、救い出していく、衛宮士郎は、かっこよかった。
最後の時、あらゆる全てを成し遂げ、英霊にすらならず、満足気に果てていく衛宮士郎。
切嗣のように、幸福そうな顔で。
「それが、夢だった」
幸せになりたい。たったそれっぽっちの、本当の、俺の夢。火事で燃えて消えたと思って、ひとかけらの灰だけになってしまっても、気付かない所に残っていた、夢。
原始にして、終着。始まりにして、終わり。
メヴィウスリングは、決して永遠などではなかった。
私のやって来たことは、決して無意味ではなかったのだ。 薄らいでいく意識、役目を果たした私は、今度こそ、守護者としての役目すら終え、眠る。
ああ、遠き彼方。輝く光。煌くアヴァロンが見える。
その青い草原で、ゆっくりと休もう。もう、私の仕事は何もかも終わったのだから。
差し込む日の光。
甘い香りの木の下。
けむる草。
辿り着いた理想の丘。
座り込んで、胸いっぱいに息を吸い込んだ。鳥の鳴き声と、川のせせらぎが聞こえる。 今まで懸命に駆け続けてきた。それしか知らないとばかりに前ばかりを見て走っていたので、その通り、それ以外知らない。
もう、疲れてしまった。
まずは、いつかのように少しだけ午睡を。きっと、何もかも温かだろうから。
寝転がって、空を見上げた。遥か昔に見たことのあるような蒼穹の色。 まぶたを閉じて、その青い空を夢寐にさえ閉じ込めてしまおう。
今はもうこの丘で迎える黄昏どき。駆け抜けた日々も今はただの走馬灯。
こんなにも温かい光の下で、いつも心の奥底では見たいと願っていた、けれどついぞ出逢えなかった、遠い夢と出会えるのなら、どれだけ幸せだろうか。
眠りの時。そして、終わりの時。
頬に当たる、風。手の中には、小さな小さな絆と思い出。
いつまでだって、輝く記憶とともに。
この丘で、もうすぐやってくるであろう君を、夢の中で待とう。
私は、瞳を静かに閉じて、失ったいつかの宝物を思った。