南方海域 深層部
「ここがその海域だ」
「ここが……」
長門に案内された旗艦清霜率いる編隊は南方海域の深層部に着いた
その前の海域で幾度の戦闘があったものの 無難にこなし ようやくたどり着いた
深層部の雰囲気はというと 薄暗く どこか気味が悪い場所でもあった
「うーん……前にも来たことあるけどやっぱり嫌だなぁ」
「何ていうか……ジメジメしてるよね」
二航戦の飛龍と蒼龍は嫌な顔をしながら海上を走った
「私もそうだ、提督よ。あまり長居は禁物だ。早めに済ませてしまおう」
「うん、わかった――」
そう清霜が承諾した その時だった
「!! 前方に敵艦発見!」
「飛龍!敵戦力はどんな感じ?!」
「戦艦級多数!空母もいるよ!というか何あの数!?」
突如現れた敵艦隊に驚く艦隊は急いで戦闘準備に入った
「これは……大規模な戦力だぞ。どうする提督。引返すというの手だが……」
「ここまで来たんだよ!絶対に倒してやるんだから!
「OK!Let's go!」
30分後...
「なんとか倒せたけど……結構疲れたね」
「でもまだたくさんいるよ……どうする?」
「どうするも何も!私はまだ大丈夫だから頑張ろうよ!」
「だ、大丈夫って言っても、何か打開策とかあるの?」
飛龍の問いに清霜は戦況を見つめ直した 中破も多数 損害もあり このまま戦っても埒が明かないということが目に見えた
「……せっかくここまで来たのに」
ぐっと唇を噛みしめる清霜の顔は悔しそうに見えた
その側に長門が立ち寄った
「提督よ、今は退いておこう。現状敵戦力は確実に下がっている」
「もう一度ここに来れば、今とは違う流れになるだろう」
艦隊は一度鎮守府へと帰還することになった
清霜の顔は無念の表情で海上を走った
鎮守府 執務室
「そんな戦力が……」
「ああ、撤退していると敵艦隊も追いかけてきたが、深層部から抜け出した後ではもう追っては来なかった」
「どうしてー?時津風なら追いかけちゃうけど」
「そこででしか活動はできない……とでも考えたほうがいいだろう」
古鷹と長門、そして時津風が海域について話をしている中 清霜は唇を噛み締めて考え事をしていた
「……」
「さっきから考え事していますがどうしましたか?提督」
「……今回はこうなっちゃったけど、次の出撃では今回のようにはいかない」
「私がもっと強くなって、深海棲艦を……」
呟いた清霜は席から立ち 執務室から出ていった
「あの……どうかされたのでしょうか?」
「私にもわからない……逃げ切って帰還するまではあの様子なのだ」
「悩んでるという訳でもないが……」
工廠
「え?主砲の改修ですか?」
「もっと強力にできないかな?」
「とは言っても提督の主砲は改修も十分ですし、これ以上するとなればそれ相応の艤装が必要ですよ?」
「南方海域にあった古びた主砲を使えればいいんじゃないの?」
「それはまだ何なのかわかりませんし、調査中ですので使えないと思います」
打ち上げられていた主砲は 鎮守府の工廠に預けられ 明石が調査をしていた
大和型の主砲と噂されているが 本当かどうか見極めるために行い 夕張と交代制で行っていた
「でも大和型並なんでしょ?だったら!」
「だとしても使えるかどうかですよ、少し整備すれば使えそうですけど……」
古びた主砲を見つめ 清霜はもう一度明石に目を向けた
「わかった。ごめんね、邪魔して」
「いいですけど……何かあったんですか?そんな険しい顔をして」
「……私が強くならないといけないから」
そう呟くと清霜は工廠を後にした 表情もまた一段と険しいものとなっていた
明石は不思議に思いながら 再び主砲の整備と調査に戻った
数日後 食堂
「今日も提督はまた南方海域の深層部に出撃かぁ」
「何か進展はあンのか?」
「特にありませんでした、はい」
春雨の答えに 白露と江風は朝食を食べながら考え込んだ
「じゃあ何で出撃するンだろうな?もうあそこには何もないはずだし」
「あのでっかい主砲の事があるんじゃない?大和型並だったし」
「……それは関係ないと思うな」
ぽつりと時雨が呟いた
「やっぱりあの人探しのこと?」
「たぶんそうだろうね。他の艦娘も薄々疑問に思ってることだし……」
「やっほー遊びに来たよ」
そこに 時津風が白露型が座っているテーブルに来た
「時津風じゃん。お前提督と一緒じゃないのか?」
「んとねー朝ごはんちゃっちゃっと済ませて出撃の準備しに行ったよ」
「時津風のこと置いてけぼりにしてさー」
ムスッとした時津風を見て時雨は質問した
「提督ってずっとそんな感じなの?」
「そだねー、出撃してー帰ってきてー執務してー構ってもくれなかった」
「どういうことなンだ?いつもなら構ってたのに……」
「あそこに出撃してからあんな感じだよ」
「もしかして、何かに取り憑かれたっぽい?」
幽霊の真似をしながらゆらゆらと動く夕立に山風を始め、姉妹たちがゾッとした
続いて時津風も夕立と同じ真似をし 怖がっている山風に近づいて遊んでいた
(幽霊……か。ないだろうけど……)
翌日 南方海域
「これより!南方海域深層部へと突入す!皆!着いてきて!」
「待て!提督よ!かなり傷を負っている艦娘もいる!ここは一度退くべきだ!」
艦隊には傷を負って満足に戦えない飛龍と蒼龍の姿もあり 弾薬燃料も浪費していた
長門の声を聞き静止した清霜は 下を向いてこう答えた
「……私だけでも進むから、長門さん達は傷を負っている人たちと帰還して」
「駄目だ!深層部に一人で出向かうなど無謀すぎる!」
「そうしないと!ずっとこのまま立ち止まっただけなんだよ!」
「……そこまでして進みたいというのは、何かあるってことなのかしらね」
「そうだよ、だからここで立ち止まっちゃ駄目なんだ」
清霜の問にリシュリューは間を入れ 一息ついてこう答えた
「……今の私達じゃ押し返されるも当然よ」
「飛龍と蒼龍もあの状態じゃ満足に艦載機も飛ばせないし、制空権を取れるかどうかもわからない」
「この状態で進撃するなんて、ただの無謀よ」
「……わかったよ、私が駄目なんだよね。まだまだ未熟ってことか」
「じゃあ一度戻ろうか、みんな」
素直に承諾した清霜だったが その顔は納得のいかない顔にも見えた
鎮守府 提督の私室
出撃から帰還した清霜は部屋に籠もり 今日の出撃を振り返っていた
自分自身が未熟……強くなるにはどうするべきかと考えていた
(やっぱりだめだ……数が多すぎて太刀打ちできない……)
(もっともっと強くならなきゃ……そうしないと前へは進めない)
(そのためには……力をもっと手に入れなきゃ)
(でもどうすれば……あの夢の中に入ればできるかな?)
もう一度 もう一度だけあの人のところに行きたい
そう願いながら 就寝することにした
その願いが通じたのか――
?????
「おや?また来たね。今日はどうしたの?」
「……もう一つ、お願いがあるんだ」
「へぇ?それって何?」
謎の人物が清霜に聞くと 清霜は拳を握りしめ こう答えた
「私をもっと強くできる?」
「強くって……君はもう十分強いんじゃないのかな?」
「ううん、まだまだ力が欲しいんだ」
「違う、誰にも負けないぐらいの力が欲しい」
真剣な表情で答えた清霜に 謎の人物もしっかり受け止めた
「……わかったよ。ただ、強くなりたいってことだよね?」
「うん」
「じゃあまた同じように扉開けなよ、そしたら強くなってるよ」
「ありがとう、じゃあね」
短い言葉で別れを告げると 清霜は扉を開けて入っていった
その後姿を見て 謎の人物も一つ息を吐いた
「ただ強くなりたい……か。誰かのようにじゃなく、ただ力が欲しい、と」
俯きながら呟いた謎の人物 表情はわからないが 何故か悲しく聞こえるようにも感じた