医務室にいたメンバー、夕雲型の姉妹 江風と時雨 そして古鷹は朝霜の足が動かないことをあまり口外にしないようにと約束した
しかしいつかバレるであろう そう考えることもあり 不安を持ちながら過ごしていた
そんな中でも朝霜は足が動かないことをみんなに知られないように明るくすると言っていた
数日後...
鎮守府 医務室
「来たぜ―!朝霜!って多いなおい!」
「おー長波姉!来てくれたのか!」
同じ夕雲型の長波が医務室に訪れると 多くの駆逐艦が見舞いに来ていた
中には霞 初霜と言った別の型の駆逐艦も来ており 長波は額に汗をかきながら医務室に入った
「長波さん、こんにちわ」
「まぁ、同じ姉妹だから来て当然ね」
「お、おう」
(毎日この調子じゃ……いつかバレちまうぞ……)
朝霜が目覚めたと聞き お見舞いに来ていた
もちろん元夕雲型駆逐艦 提督清霜の姿を見たものはいなかった
「どうだ?調子は」
「すこぶる元気だぜ!早く出撃してーな!」
「でも明石さんから安静にと言われたんですよね?だめですよ朝霜さん」
(それももう無理なんだよな……)
「……」
部屋には長波と朝霜 そして霞と初霜だけが残った
「なぁ霞、お前はまだ帰らねぇのか?」
「……」
「……霞さん?どうかされましたか?」
「……あんた、何か隠してるんでしょ?」
「何言ってんだよ霞、アタイはこの通りピンピンしてるぜ?」
「何なら今この場で踊ってやっても――」
「できるの?」
真剣な表情で聞かれ 朝霜の答えは返らなかった
その間に長波が割り込み フォローを始めた
「で、できるに決まってるだろ?!でも今は明石さんが安静にしないとって!なぁ初霜!そうだよな?」
「え、えぇ……」
「出撃はできなくても、鎮守府内を移動できるぐらいの元気はあるじゃない」
「それならどうして早くあの娘の元へと行ってやらないのよ?あんたのことだから踊れるくらいの元気があるのなら真っ先に向かうはずよね?」
沈黙が続く部屋の中で 朝霜は観念したかのような表情を見せ 口を開いた
「……わかったよ、言うよ」
「お、おい朝霜!」
「アタイ、もう足が動かないんだよ。感覚がないっていうんだっけ……はは」
「そ、そんな……」
あまりの出来事に絶句する初霜 頭を抱えて悩む長波 そして俯いたまま何も喋らない霞
「こんな事言えば、誰かが清霜に反発するだろうからって、みんなには内緒にしておくようにしたんだ」
「でもこれはアタイが勝手にでしゃばったせいだ。清霜のせいじゃないからな」
「……そんなことじゃないのよ。そんなことじゃないったら!!」
霞の一声が部屋に響き渡った
「アンタもそうだしあの娘だってそうよ!どうして無茶ばっかりするのよ!」
「もう痛い目にあってるのを見るこっちだって辛いのよ!」
「それに足が動かないだなんて……どうしてなのよ……」
涙を流す霞を見て朝霜も申し訳ない気持ちと後悔を悔やんだ
「……すまねぇ霞。でも、もう駄目なんだ」
「修復剤を使っても治らないし。明石さんもお手上げ状態なんだ」
ベッドのシーツをギュッと掴み 悔しさを交えながら歯ぎしりをした
あの時気づいてあげていれば……こんなことにはならなかったはず
後悔の念が表れ 涙が一粒一粒 シーツに落ちていった
いつか戦艦になった清霜と出撃して 深海棲艦を倒して――
そんな願いも一瞬にして消え去り 残ったのは悲しさだけだった
「長波さん、朝霜さんは……これからどうなるのでしょうか?」
「どうにもこうにも行かねぇよ初霜。足が動かなくなった朝霜はもう出撃できない」
「これを清霜が聞いたら……想像がつくから絶対に知られたくない」
長波も朝霜のそばに寄り そっと体を寄せて頭をなでた
同じ夕雲型駆逐艦としてなにかしてやりたいが どうにもできない長波も無念の表情を浮かべた
同時刻 鎮守府 駆逐艦寮
「朝霜は無事に目覚めたが、戦力としては考えないほうがいいだろう」
「でもさ、無事に目覚めてよかったよ。このまま目覚めなかったら大変だったぜ?」
磯風を筆頭に 駆逐艦の中で会議が開かれていた
まずは朝霜が起き上がった知らせ そして今後の作戦についての報告の件だった
「まぁ駆逐艦は大勢いるし、みんなで協力していこうぜ」
「そうだな、では早速だが……」
「なぁ時雨の姉貴、磯風のやつ、もしかしたら薄々気づいてるンじゃあ……」
「分からないけど……江風、喋ったりとかはしてないよね?」
江風はこの質問に首を思いっきり横に振った もちろん喋ってないということだ
「江風、どうした?磯風の作戦で問題が合るのか?」
「ンン?なんでもないよ!ちょっと首のストレッチしてンだよ」
「ふむ……それと、夕雲。先程から下を向いているがどうした?」
「……え?あ、あら……なんでもないわ。話を続けて頂戴」
「磯風さん!朝潮が気になった件ですが――」
こうして駆逐艦の会議は続いた
時折夕雲の様子を何度も時雨は横目で気にしていたが 終始暗い表情だった
会議が終わった後 江風と時雨は 夕雲とともに空き部屋で話し合うことにした
駆逐艦寮 空き部屋
「夕雲、大丈夫かー?白露の姉貴と陽炎にも色々言われてたぞ」
「え、ええ。ごめんなさい」
あの後も夕雲はたまに思いつめた表情をすることがあり 話を聞いていなかったことがあり 会議が中断することがあった
何度も謝る夕雲を見て 時雨と江風も心配し 夕雲を連れ出して悩みを打ち明けることにしたのだ
それに対して夕雲は笑顔で返事を返したが すぐにまた表情が変わった
「その様子だと相当駄目だな……朝霜のお見舞いとか行ってンのか?」
「朝霜さんのお見舞いは、みんなで交代しながらしようって話があって、最初は私だったの」
「あの娘ったら明るく振る舞っちゃって……でも、どこか無理してそうにも見えるの」
「それを見てしまうと……私、何か辛くて……」
「朝霜らしいね……」
夕雲の目から涙が流れ落ちた 姉妹艦の振る舞いに心を打たれたのか
もう足は動けない 出撃もできない だが、元気に見せようとしたり 笑顔を見せようとしたり
朝霜なりに何か心配させまいとしていたが 夕雲にはそれが無理にしてるように見えた
「私……いえ、私達姉妹は何もできないのが悲しいの……」
「提督……清霜、あの娘もあんな風になってしまって……私達姉妹は何ができるのかしらって……」
「みんな考えてるんだけど……何も思いつかなくて、辛くなってくるの」
「できれば、私の脚をあげたいぐらいだわ……」
自分の脚をあげたい できるならそうしたい
夕雲の中では涙を流しながらの精一杯の言葉だった
しかし 時雨はそんなことを気に食わず 夕雲の前まで移動し 頭をぽんっと叩いた
「……そんなこと言わないでよ。夕雲がそんな発言してるところ、他の姉妹が見たらどう思う?」
「主力of主力の夕雲型の長女がそんなことじゃ、駄目に決まってるじゃないか」
「脚をあげるとかじゃない、今は姉妹全員で助け合って朝霜、そして提督を助けてあげようよ」
「……あぁー!辛気クセェなおい!江風こういうの苦手なンだよ!」
「いいか?夕雲。長女のアンタがそんなんじゃ白露の姉貴や陽炎に笑われるぜ?」
「成るようには成る!今は今で頑張ろうぜ!」
「……江風にしては良いこと言うんだね」
「ンン?!どういうことだよ姉貴!」
説得された夕雲は二人の掛け合いを見て 自然と笑顔になった
その隣では時雨がフフッと微笑み 江風はニシシと笑った
江風らしい言葉で元気づけられた夕雲の表情も柔らかくなり 3人で笑いあった
こんなことじゃ駄目ね ともう一度考え直した夕雲は今を一生懸命頑張ることにした
また姉妹全員で笑い合える日々を戻したい この思いが夕雲を奮い立たせてくれた
そして……ついに作戦も最後を迎え
出撃メンバーと防衛メンバーも気力十分でこの日を迎え
最後の闘いに挑むのであった
鎮守府 提督の私室
一方の提督清霜はベッドに座ったまま何かを見つめていた
それは古い手袋であったが 清霜にとっては何か温かい感じがあった
「この手袋、確か私が夕雲型の部屋から出ていくときに持ってきてた……」
「……武蔵さんが使ってた手袋だ。でも今はもう関係ないや……」
清霜はそっと手袋を引き出しの中に直し 出撃する艦娘を部屋から見送った
(みんな、私がいなくてもやっていけてるのかな……やっぱりいないほうがいいのかな)
こうして 提督清霜抜きで 最後の作戦が発令された