ラウーロさんに憑依   作:須美寿

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第1話 

「それでは、警官ごと?」

 

 電話の最中に、ゆっくりと「自分」の意識が浮上してくるのを感じる。

ここはイタリアで、今は「仕事」の真っ最中なのだが、今までの自分が行動をしているのと同時に、違う自分の意識がじんわりと広がっていく。

 

 違う自分。

 

 それはここから遠い、日本という国で生まれ育ち、死んだ浦野という男だ。

 三十路を過ぎた会社員で独身、趣味はアニメ視聴と旅行というどこにでもいるような人間。しかしその最後はやや劇的で、歩道に突っ込んできた車から少女をかばうというもの。

 最後の記憶がそこで途切れているので、そこで死んだのだろう。

 

「了解」

 

 今までの自分が会話を終える中で、浦野の人格と知識が拡大を続けていく。これは浦野の知識によれば、転生とか憑依とか言われるような現象だ。残念ながら、神様と出会って何らかのチート能力を授けられるというイベントはなかった。

 しかしながら、今は鳥瞰図のように、車に乗って電話をしている自分が外から見えている。そして、このシーンは浦野の記憶の中にあり、浦野としての自分は焦燥に襲われ始める。

 携帯が鳴り、出る。

 

 

『ラウーロさん、エルザです』

 

 

 紡がれる、ウィスパーボイス。

 俺こと浦野は、ガンスリンガーガールのラウーロに憑依転生してしまったようだ。

 

 

「なるべく大袈裟に殺してこいや。写真を忘れるな」

 

 エルザへの指示を出して電話を切ると同時に、俺とラウーロの意識が完全に統合された。先程までの鳥瞰図のような視点も消える。

 

「うおおお、マジかよ。よりによってガンスリの世界か……」

 

 俺は頭を抱えた。

 

 ガンスリンガーガール。

 

 イタリアが舞台で、体を改造された義体と呼ばれる少女達が主人公のガンアクション漫画だ。義体とその担当官が所属する社会福祉公社は対テロ機関で、五共和国派と呼ばれるテロリスト達を相手に壮絶な戦いを繰り広げる。

 どれくらい壮絶かというと、最終決戦で主人公陣営がほぼ死ぬくらい。

 

 そんな中、担当官俺ことラウーロさんはどうなったかって?

 最終決戦には行ってない。

 というか初登場シーンが死体だよ! 頭吹っ飛ばされてのな!

 しかも殺ったのはさっきのウィスパーボイスだよ!

 

「どうすっかなぁ……」

 

 幸いなことに、原作で出落ち死をキメたエルザとラウーロのエピソードはアニメで前日譚が補完されていて、前世の俺はしっかり視聴済みだ。なので死亡フラグである『エルザを冷たくあしらう』を防げるポイントは分かっている。

 なのだが、

 

「問題はその後だよなぁ……」

 

 この仕事、対テロ機関だけあって常に命の危険がつきまとう。ここで死ななかったとしても他の作戦でうっかり死ぬ可能性はあるし、最終決戦の原発占拠事件に投入されれば生き残るのは厳しいだろう。

 生き残ることを考えれば公社を辞職するのが一番に思えるが。

 

「ラバロ大尉か」

 

 義体の少女達の扱いに疑問を持ち、告発を試みて消された担当官。

 裏切るような素振りを見せなければ見逃されるか? 

 ……甘い考えは止めた方がいい。それに何より、

 

 

「……エルザ・デ・シーカ」

 

 ガンスリの魅力。それはやはり主人公である義体の少女達だ。

 様々な不幸な生い立ちを背負い、体を改造され、条件付けと呼ばれる処置で担当官と社会福祉公社への忠誠を植え付けられ、戦いに赴く少女達。

 彼女たちは戦い傷つく中で、条件付けや負傷を治す薬の副作用により記憶を徐々に失っていく。そして、その寿命も決して長くはない。

 そのことに担当官達はあるいは思い悩み、あるいは割り切る。

 ラウーロとしてだけの意識ならば、自分が生き残ることを優先できた。しかし浦野としての意識と統合された結果、彼女たちをどうにかしたいという思いが、強く湧き上がっている。

 ラウーロとしての知識と経験はそのまま使える。原作ではエルザが単騎突入する場面しかなかったが、社会福祉公社に雇われてるし優秀だったと言われるだけあって、ラウーロは戦闘技術にも長けていた。これに原作知識が加われば、どうにかできるかもしれない。

 

「俺とエルザ、他の担当官と義体、ベッドの上で死ねるように、頑張るか」

 

 そうして、俺は覚悟を決めた。

 

 

「ねえ本部長さん、いい加減国とテロリストと、どっちにつくのが利口か考えてみて下さいよ。あんまりゴネるようだと、あなたも暗殺しますよ? こちらもいろいろと忙しいんでね」

 

 原作(この場合はアニメ1期)通りに、五共和国派を匿う地元警察の本部長への警告の電話をした。この辺りはラウーロとしての記憶と経験で違和感なく行うことが出来た。

 

 電話終えると、控えめに車の窓が叩かれる。

 五共和国派を警察官ごと始末したエルザが戻ってきた。

 

「ラウーロさん」

「終わったか?」

 

 反射的に原作通りの返事をしつつ、エルザを見る。

 三つ編みお下げの金髪にオリーブグリーンの瞳。

 原作だと明記されてないけど、ラウーロの知識だと11歳。

 俺を盲愛していて、ヤンデレ属性(無理心中する級)あり。

 

 そして何より、超可愛い!

 

 いや、さっきまで真面目な事言ってたけど、実物みたらそんな取り繕えんわ。

 俺ロリコンだからもう刺さる刺さる。

 こんな子を冷淡に扱ってたとかマジないわー。

 もうね、原作の原作である同人誌でジョゼ山がエッタちゃん抱いてるんだから何の問題もないよね!

 といった欲望の赴くままな思考が脳内を駆け巡るが、無論表には出さない。それくらいの自制心は備わっているようだ。よかった、ここで変なことしてエルザに幻滅されたらことだ。

 

「とっても簡単なお仕事でした」

「そうか、よくやったな」

 

 原作だとエルザの台詞を途中で遮ったのを最後まで聞き、褒めてみる。

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

 褒められたことが余程意外だったのかあたふたと驚きつつも、幸せそうに微笑むエルザ。

 いかん、可愛すぎる。

 

「怪我はなかったか?」

 

 原作で右腕を撃たれていたのを思い出し、聞いてみる。あっちのラウーロは完全にスルーというか気づいてすらいなかったようだしエルザも気にしていなかったけど、義体的にあの程度は怪我に入らないのだろうか。

 と、エルザの表情がみるみるうちに曇っていく。

 

「あ、あの……、一発だけ、当たってしまいました」

 

 恐る恐る報告するエルザ。

 簡単と言っていたのに怪我をしてるから叱られるとでも思ったのだろうか。

 

「できるだけ怪我をしないようにしろよ。パーツ交換すれば直るって言っても、処置に使う薬はお前の体に負担をかける」

「は、はいっ! もう絶対に撃たれません……」

 

 いい返事をするなぁ。これは本気の目だ。

 

「写真は撮ったか?」

「はい」

 

 車に乗り込んだエルザからカメラを受け取る。

 

「まだフィルムが残ってるな……」

 

 原作だと適当に撮っておけよと言いつつ車内から外を撮り、たまたまバックミラーにラウーロが写った写真が撮れた。それが、空っぽのエルザの部屋で唯一の私物になるのだ。

 

 いやー、悲しい。

 

 原作だと、結局彼女がもらったものは名前と写真だけ、ってセリフがあったけど、写真は正式にもらったんじゃなくて現像されたの受け取ってこっそり抜いたとかな可能性が極めて高いわ。

 部屋でライフルの手入れをする手をふと止めて、写真を見て目を潤ませるシーンがあったけど、そんな写真で不憫過ぎる……。

 

「エルザ」

「はい――っ!?」

 

 俺はエルザに顔を寄せると、カメラを自分達に向けた。

「撮るぞ。3・2・1」

 

 カシャと音がする。フィルム式のカメラ、懐かしいな。とか考えていたら、隣でエルザが真っ赤になっていた。いちいち可愛いなぁおい。あっ、なんかいい匂いがする。

 

「公社に戻ったら現像に出しておけ。ああ、最後のは2枚にしてもらうんだぞ。1枚はエルザにやる」

「い、いいんですか?」

「当たり前だろ、お前も写ってるんだから」

 

 俺が頷くと、エルザはカメラを宝物のように両手で包み込んだ。

 感情が希薄と言われるエルザだが、本当に嬉しそうだ。

 あー、どうしよう。俺ロリコンだけど、こんなピュアに慕ってくれる子に手を出せるんだろうか……。原作の原作のジョゼ山ってば鋼メンタル過ぎだろあの野郎。

 

「よし、それじゃあ移動するぞ」

 

 これからの事を考えながら、俺は車のエンジンをかけた。

 

 

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