ありがとうございます。
頑張って続けていきたいと思います。
トスカーナ州のシエナからE35号線を通ってローマに向かう。順調にいけば2時間30分程度の道のりだ。
普段と違ってカーラジオはつけていないのだが、エルザはどこか上の空で特に声をかけてくることもない。
せっかくなのでこれからの行動について考える。
原作通りでいくと、今日から数日後にシエナ県警の本部長狙撃任務がある。明記されていないが、恐らく今日撮った写真を送りつけて脅すが効果がなく、社会福祉公社のロレンツォ課長が暗殺を決定。その後、シエナで銃の用意や狙撃地点の確保などの下準備をした帰りに、ジョゼに狙撃の手伝いを頼む流れになるはずだ。
その夜、俺はジョゼと飲んで打ち合わせをしつつ親睦を深め、エルザは話をしようと部屋にやってきたヘンリエッタを拒絶する。
そして狙撃任務の日にエルザがやらかして俺に失望され、クリスマスイブにラウーロさぁん!パァンが発生。
よし、今後の俺とエルザ、他のフラテッロ(兄弟の意味。この場合は義体と担当官を指す)の生存率を上げるために、義体同士親睦を深めるように言い聞かせてみよう。
俺を盲愛してる関係で義体同士の交流をほぼ絶っているから、嫌われたり敬遠されたりしてるからなぁ。リコに至ってはエルザが殺されて悲しくないのか聞かれて友達じゃなかったから別に関係ありませんというコメントだったし。
うん、やはりエルザには自分の意思で健全な友好関係を築けるようになってほしい。
条件付けで何とかなるのかもしれないけど、できるだけエルザの副作用を減らしたいからね。
サービスエリアで休憩がてら軽食を取ることにした。
銃だの殺人現場を撮ったカメラだのがある車を空っぽにしていくわけにはいかないので、原作のラウーロにセリフにあったようにエルザにパニーニとエスプレッソを買いに行かせた。
エルザはやはりどこかぼぉっとした感じでパニーニを食べている。
「エルザ」
「は、はいっ!」
突然我に返ったようであたふたするエルザ。可愛い。
「パニーニはどうだ? 味は薄く感じないか?」
「はい! 美味しいです」
条件付けの副作用は味覚障害から現われる。
エルザはまだ大丈夫なようで、ほっと胸をなで下ろし、エスプレッソを一口飲む。
「なあエルザ、普段他の義体の子とはどんな話をしているんだ?」
そう聞くと、エルザは気まずそうに視線を落とす。
うん、何も話してないもんな。そりゃ答えられんわ。
「……俺はなエルザ、同僚とはたくさん話をするようにしている。変に避けないで腹を割って話せば、良いところが分かったり今まで嫌いだったところが良いところに見えてきたりするからな」
「……でも、わたしは」
「俺を一番に考えるのは良い。義体と担当官はそうあるべきだからな。だけど、これから俺たちの任務は厳しいものが増えてくるかもしれない。そんな時、一緒に戦うのが他人と仲間じゃ大分違う」
俺はエルザの顔をそっと上げさせる。
「だからできるだけ、他の義体とも仲良くしてみてくれ。そうすれば、俺たちがピンチの時に助けてくれる可能性が上がる。こっちも、出来る範囲で他のフラテッロを助ける。優秀な仲間がいるのは、俺たちにとってプラスになるんだ」
「……………………」
エルザは黙ってしまった。今まで、俺のためだけを考えて行動していた彼女にとって、大き過ぎる変化だろうからな。あ、そうだ。
「それに、自慢話が出来る友達がいないのはつまらないもんだぞ」
言いつつ、エルザの額にキスをする。
「ふわぁっ!?」
真っ赤になって額を押さえるエルザ。あー可愛い。
本当は唇にしたかったんだけど、前世がDTだったせいかラウーロの経験をもってしてもおでこが精一杯でした。本当にこんなんでエルザとできるのだろうか。なんか不安になってきたよ……。
と、エルザの様子を見ていると赤面しつつ額を押さえていた手をじーっと見つめ、目をつむって唇に当てた。
それからゆっくりと目を開ける。うわ、何かエロい。
「……そうですね、他の義体の子たちとも、もっとお話してみます」
「あ、ああ。そうしてみるといい」
突然の妖艶な雰囲気にどぎまぎするが、分かってくれたようでよかった。
それからパニーニを食べ終えると、俺たちはローマの社会福祉公社に戻った。
ラウーロさんが褒めてくれた。
ラウーロさんが心配してくれた。
ラウーロさんが一緒に写真を撮ってくれた。
車に揺られながら、わたしの頭の中ではさっき立て続けに舞い降りた幸せがぐるぐる回っている。
心臓は早鐘を打つように鳴りっぱなしで、今日はラジオが流れていないのでラウーロさんにまで聞こえるんじゃないかと思う程だ。
そう、今日は移動中いつもついているラジオがついていない。
せっかく話が出来そうな機会だけれど、今のわたしはさっきの幸せを噛み締めるので精一杯だ。
わたしはラウーロさんが一番大事。他の事なんてどうでもいい。
そう思って、今まで訓練や任務をしてきた。
いつか、ラウーロさんがわたしを見てくれると思って。
だけど本当は、ラウーロさんにとってのわたしが一番じゃないことには気づいていたし、この想いが報われなくてもいいとも思ってた。
ただ、ラウーロさんのお役に立てればそれでいい、と。
名前をくれただけで十分だ、と。
けれどわたしは知ってしまった。
ラウーロさんから与えられることが、どれだけわたしの胸を満たしてくれるのかを。
そして、わたしは怖い。
今は、消化しきれないだけの幸せに満たされている。
だけど、この幸せに慣れてしまったら。
そして、それっきり何も与えられなかったら。
わたしは、耐えることができるのだろうか。
サービスエリアでパニーニを食べながらも、わたしは幸せに満たされつつそれを失う未来に怯えた。
そんな中、ラウーロさんは自分の考えを聞かせてくれた。
ラウーロさんがこういうことを話してくれるのは初めてなのでそれ自体は嬉しいのだが、ラウーロさんのことだけを考えてきたわたしにとって他の義体と仲良くするというのは難しいことだ。
ラウーロさんの言うことだから従いたいという衝動と、ラウーロさんのことだけを考えてはいけなくなることへの拒否感。
相反する感情から動けなくなったわたしの額に、魔法がかけられた。
額に押し当てた手をじっと見つめ、その熱をもっと感じようと唇に当てる。
そう、このぬくもりを失わないためなら、あらゆるものを利用しよう。
ラウーロさんと、わたしのために。