ラウーロさんに憑依   作:須美寿

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第3話

 社会福祉公社に戻った俺はエルザを写真の現像依頼に行かせ、課長に今日の任務の報告に向かった。

 写真で脅しても変わらない可能性が高いので暗殺の方向で動いておくように指示を受ける。数日後に暗殺のGoサインが出るくらいだから、ほぼ既定路線だったのだろう。

 関係部署に狙撃場所の確保や装備の手配の連絡をし終えたあたりで、封筒を抱えたエルザがこっちに走ってきた。

 

「おおエルザ、写真は現像してもらったか?」

「はい。すぐに脅迫文と一緒にシエナの警察署に届くように手配するそうです」

「分かった。まあ、結局のところ暗殺になりそうだけど、段階は踏まないといけないからな」

「ラウーロさん、あの……」

 

 エルザが何やらもじもじしている。はい可愛い――じゃない、ああそうか。

 

「最後に撮った写真はどんな感じになった?」

「こ、これです」

 

 ぎくしゃくとした様子で封筒から写真を取り出すエルザ。

 受け取って見てみると、少し軽そうに笑う俺と、顔を真っ赤にして驚いた表情のエルザがほとんどくっついて並んでいる。

 自撮りにしては結構良い写真になったと思う。それが、2枚重なっている。

 しかしながら、これを現像した公社の職員はどう思っただろうか。凄惨な殺人現場の死体の写真が並んだ最後にこの幸せツーショット。しかも焼き増し指定。

 原作アニメでラウーロが、ヘンリエッタを構い過ぎるジョゼに「例の噂とか、本当なのかよ」と言うシーンがあったけど、俺もいろいろ噂されそう。

 仲間だぞジョゼ山ぁ! 義体ックスの奥義を伝授してください!

 

「あの……、ほ、本当に頂いてもいいんですか」

 

 やくたいもないことを考えている俺に、消え入りそうな声で尋ねるエルザ。

 考えてみるまでもなく、今までのラウーロはエルザに物を与えたことなど一度もない。そんな状況下なのだから、写真の現像を待ちながら時間が経つにつれて、いろいろと考えが巡り、不安になったのだろう。

 よしよし、これからは俺が欲しいものは何でもあげるからな。

 

「もちろんだ。ああ、でも――」

「あっ」

 

 逆接が出た瞬間、エルザの瞳からハイライトが消えた。

 うおぉ、なんたる反応速度。これはちょっと怖いぞ!

 

「エルザの部屋に写真立てってあったか? あればいいんだが、ないなら買いに行こう――」

「ないです! 綺麗さっぱり何もありません!」

 

 食い気味に、女の子的にはどうなのかという主張を全力でするエルザ。

 うんうん、それじゃあ素敵なやつを買いに行こうね。

 それにしても、だったら原作のエルザの写真立てはどこからどうやって手に入れたものなのだろう?

 他の義体からもらったというのはないだろうし、今となっては謎である。

 

 

 公社から車を出して、ローマのそこそこ大きな本屋に来た。

 文具コーナーに行くと、写真立てが並ぶ一角があった。落ち着いた雰囲気のものから可愛さを前面に押し出したものまで、それなりにデザインの種類がある。

 さてエルザはどれにするんだろうと思ったら、エルザは写真立てではなく俺に期待のまなざしを向けている。

 ふと、前世の実家で飼っていた犬を思い出した。ごはんを前にお座りと命令されて、いつよしと言われるかを待っていたときの犬の様子と、今のエルザが被る。

 

「エルザはどういうのがいいんだ?」

「ラウーロさんが買ってくださるなら、どれでも嬉しいです!」

 

 やっぱりかぁ。

 エルザにとって、ものが写真立てだろうが何だろうが関係なく、俺が与えたものであるという事だけが重要なのだ。

 そこまで慕われるのも悪くはないが、やはりエルザにはもっと視野を広く持って、自分で考えられるようにして欲しい。

 

「そうだな……、じゃあこうしよう。エルザの写真立ては俺が選ぶから、エルザは俺用の写真立てを選んでくれ」

 

 ふと思いついたことを言ってみると、エルザは分かりましたと返事をし、もの凄く真剣に写真立てを見ながら検討し始めた。やはり俺のため、となると何でも頑張ってくれるんだなぁ。

 しかし、今までこういったものに興味をもってこなかったからだろうか、どれにしたらよいのか分からないといった風にうんうん悩み始める。

 

「ちなみに、俺は落ち着いた色合いの方が好みだ」

 

 ヒントを出すと、天啓を得たような表情になって該当するものを見比べ、その中から1つを選んだ。選ばれたのは、ダークブラウンのシンプルな写真立て。

 

「これにします」

「うん、いいのを選んだな。他にも候補がいくつかあったようだが、どうしてこれにしたんだ?」

「あの、ラウーロさんの髪の色と同じだったから」

 

 あー、そう来たか。

 ……じゃあ、俺はこうしよう。

 

 俺は目当てのものを見つけて手に取った。

 オリーブグリーンの縁の写真立て。

 

「やっぱり、エルザにはエルザが選んだやつをやるよ。俺はこれにする」

 

 突然の前言撤回に不思議そうな顔をしたエルザは――、

 

「エルザの瞳と、同じ色だからな」

 

 真っ赤になってうつむいた。

 

 

 

 

 

 寮の部屋に戻ったわたしは、ラウーロさんからもらった写真をラウーロさんからもらった写真立てに入れた。

 写真を見つめる。

 自然と、笑みがこぼれてくる。

 ああ、この宝物をどこに置こう。

 

 今まで、ラウーロさんを想いながら銃の手入れをし、眠るためだけにあったわたしの部屋。それが今は、ラウーロさんからもらったものを収めるという役割が出来た。

 そうなると、いろいろ考えなければいけない。

 今わたしの部屋にあるのは、ベッドと椅子とクローゼット。

 写真立てを置くのにぴったりの場所があるとは言えない。

 窓辺にもスペースはあるけど、日光で写真が痛んでは困る。

 寮の空き部屋に、箪笥か何かがないか見てみよう。

 

 やっぱり、ラウーロさんは凄い。

 今まで何とも思っていなかった部屋を、大切な場所に変えてくれたのだから。

 

 わたしは、ラウーロさんの手元にある写真と写真立てを想う。

 ねぇラウーロさん、わたしの瞳の色の写真立てに収まった、わたしが一緒に写った写真は、ラウーロさんの大切なものになれますか?

 

 

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