ラウーロさんに憑依   作:須美寿

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わー、たくさんの人に楽しんで頂けているようで何よりです。
頑張って続けていきたいと思います。

この話は三人称視点なのですが、難しいですね……。


第5話

 酔って迂闊な発言をしたラウーロがジョゼに説教されている頃、エルザは自分の部屋でいつものようにライフルを磨いていた。

 

 時折手を止めては、空き部屋から持ってきた箪笥の上に置いた、ラウーロと自分の写真を見つめる。

 その表情は恍惚としていて、エルザは自身が幸福で満たされていることを強く確信していた。

 

 しかし、とエルザは考える。

 今までの自分であれば、ラウーロさんへの想いを抱きながらこうしているだけで良かった。この閉じた幸せな世界は、完成されていた。けれど、これからはそれだけでは駄目なのだ。

 

 義体同士の交流。

 

 ラウーロに言われたときは、即座に受け入れることはできなかったエルザだが、盲愛とは別に聡明な面も持ち合わせている彼女は、ラウーロの説得の内容と自分達の現状を分析し、今ではその必要性を十分に理解することができていた。

 

 今後、五共和国派をはじめとするテロリストや敵対組織に関わる任務は増えていくことが予想される。その中で、ラウーロさんと自分が死なないことは勿論だが、可能な限り負傷も避けたい、とエルザは考える。

 何しろ、負傷をすればするだけ、それを直す処置で薬が使われ、副作用がもたらされるのだ。寿命も心配だが、記憶が失われてしまうことを、エルザは酷く恐れた。

 

 最初期の義体で、自分達1期生のプロトタイプとも言えるアンジェリカ。彼女自身に興味はなかったエルザだが、その記憶が減退しているという事実は彼女にいずれ自分にも訪れるであろう未来を想起させる。

 

 できるだけ、そうはなりたくない。

 だがそれが避けられない事ならば……。

 

 ラウーロと自分にとっての最善と、次善の策をエルザは常に考える。

 まずは、負傷を可能な限り避ける為に、他の義体と仲良くなろう。

 次善の策は、もう少し時間をかけてだ。

 

 しかし、つい数日前まではラウーロさんのこと以外眼中になかった自分が、どのように他の義体と接し、交流をすればいいのだろう、とエルザは悩む。

 自分から他の義体に話しかけたことなどほとんどないし、自分に話しかけてくるのはトリエラが連絡事項があるとき程度だ。

 重要性は理解しているが、どうすればいいかが分からない。

 

 ヘンリエッタがエルザの部屋のドアをノックしたのは、まさにエルザがそのように考えているタイミングだった。

 

「誰?」

 

 返事の代わりに開けられたドアと、顔を出すヘンリエッタ。

 

「何か用?」

 

 原作では不機嫌そうに顔を背けながらの発言だったが、エルザはヘンリエッタにきちんと顔を向けて尋ねた。

 口調も、穏やかなものにしようと出来る限り努力する。

 

「ちょっと、お話しようと思って」

 

 前々から、自分達とほとんど話をしないエルザに対してヘンリエッタは苦手意識を持っていた。進んで話しかける気にならないし、そもそも何を話せばいいのかが思いつかない。

 しかし、どうやら今度一緒に仕事をすることになるようだ。

 

 トリエラと、エルザについて話したときに聞いた「苦手な人を避けるのは簡単だし、楽なんだけど……」というトリエラの言葉。そして、あまり覚えていないが自分やクラエスも昔はエルザのようで怖かったという話。

 それが、トリエラと話をすることで変わったならば、エルザも話をすることで変わるかもしれない。

 いきなりは無理でも、理解は深まるかもしれない。

 

 そのような考えから、ヘンリエッタは勇気を出してエルザの部屋に訪れたのだった。

 

 

「……お茶もなければ、ベッドくらいしか座らせられる場所もないけど、構わない?」

 

 頷いて入ってくるヘンリエッタを見て、エルザは磨いていたライフルをケースにしまった。

 

「それで、なんの話をしたいの?」

 

 原作では、ライフルは手にしたまま、ヘンリエッタも立たせたままで「話すことなんてないわ」とにべもない様子だったエルザ。ジョゼと対話を通して親睦を深めるラウーロとは対比の構図のようになっていた。

 

 しかしこちらでは、交流を深める切っ掛けにしようとエルザは彼女にできる最大限の努力をしてヘンリエッタに接しており、2人そろってベッドに腰掛けて話を始めた。

 

「ほら、今度一緒にお仕事するかもしれないから」

 

「……ある程度の任務内容はラウーロさんと準備をしたから知っているけど、決定してから正式に打ち合わせをした方がいいと思うわ」

 

 極めて合理的な回答をしたエルザだが、ヘンリエッタの困った顔を見て、自分が話の接ぎ穂を潰してしまった事に気づく。

 これでは交流を深め、今後の任務中の安全性を高める計画が進まないと内心歯がみをした。

 

「ええっと、お仕事の内容のことじゃなくて。一緒にお仕事するから、エルザの事をもっと知りたいと思ったの」

 

 ヘンリエッタが会話を継続してくれたので、エルザはほっとする。

 

 

「わたしは、ラウーロさんが一番大事。他のことはどうでもいいわ。わたしの時間は、全てラウーロさんのために使うわ」

 

 

 エルザは自分という存在を大変分かりやすく伝えた。

 

 

「エルザは、ラウーロさんのことが大好きなんだね」

 

 

 普通の人間ならばいろいろうわぁとなるエルザの自己紹介だが、ヘンリエッタはわりと普通に受け入れ、自分が理解しやすい言葉で解釈する。 

 

「ええ、勿論よ。ヘンリエッタ、あなたも、自分の担当官のことが好き?」

「うん、わたしも、ジョゼさんのこと大好き」

 

 満面の笑みを見せるヘンリエッタ。 

 

「他の義体の子達よりも?」

「うん、大事な友達だけど、一番はジョゼさんだよ」

 

 すかさず問うエルザだが、ヘンリエッタはあっさりと肯定する。

 

 ヘンリエッタの明確な線引きを受けて、エルザはある程度の価値観の共有が可能であると判断した。勿論、自分がラウーロに抱いている程の愛情とは違うだろう。だが、担当官への慕情や恋心があるのならば、理解ができる。

 

「そこがきちんと自覚できているのなら、あなたとは協力して任務ができると思うわ」

 

 隣に座るヘンリエッタの顔を見て、エルザは言う。

 

 初めて共同で任務に当たるのがヘンリエッタなのは都合がいい、とエルザは思う。

 これが担当官に何ら思慕の情を持っていないであろうリコや時に反発することさえあるトリエラとだったら、難しかったのではないだろうか。

 

 そう考えると、ヘンリエッタ・ジョゼ組を選んだラウーロさんは凄い、とエルザはますますラウーロへの尊敬の念を強めるのだった。

 だからこそ、ここまでお膳立てをしてもらっておいて、ぶち壊しにしてしまう事など到底許されることではない。

 ここから成功を積み重ね、他の義体達にはラウーロと自分の役に立ってもらわなければ。エルザは決意をみなぎらせる。

 

「ラウーロさんは、わたしにフラテッロ同士で仕事をする経験をさせたいって言ってくれたわ。だったらその経験は、必ず成功でなければいけないの。よろしくお願いするわ」

 

「う、うん。一緒に頑張ろうね」

 

 瞳に炎を燃やすエルザに、大きなプレッシャーを感じるヘンリエッタだった。 

 

 

 

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