誤字報告ありがとうございます。助かります!
今回、義体の記憶減退の部分に捏造というかご都合主義が含まれます。ご容赦ください。
最後以外三人称視点です。
話も一段落し、少しは打ち解けられた実感を得たヘンリエッタはベッドから立ち上がる。
後はまた明日ねと挨拶をして辞去するつもりだった彼女の視界に、あるものが写った。
「わあ、2人で写ってる写真だ。いいなぁ」
箪笥の上の写真を見ながら、ヘンリエッタは羨ましそうな声を出した。
これに、エルザはラウーロから貰ったものを尊びたいという気持ちをくすぐられる。
「この前の仕事の時に、ラウーロさんが一緒に撮ってくれたの」
「そうなんだ! わたしも、ジョゼさんと一緒の写真撮りたいな……」
エルザは、ラウーロに対して抱くのとは別種の満足感が自分にもたらされているのを感じた。
――ああ、こういうことなんですねラウーロさん。
他の義体と交流を持つようにという話の時――ここでかけられた魔法を思い出し頬を緩ませるエルザだが、その思い出はそっと置いておいて、今重要な点であるラウーロの言葉を思い出す。
自慢話が出来る友達。
今自分を満たしている喜びの種類を正しく理解し、エルザはラウーロの慧眼にますます恐れ入るのだった。
「写真立ても一緒に買いに行ったし、ラウーロさんも同じ写真を持ってくれてるのよ」
「うわー! いいなぁ!」
ヘンリエッタは素直に羨望の声を上げる。
ラウーロさんとの関係を、他人に羨まれる。これは、ちょっとクセになりそう。エルザは身のうちから湧き上がる歓喜と自尊心の高まりに小さく震えた。
「あなたがお願いすれば、一緒に撮ってくれるわよきっと」
余裕の表情で話すエルザ。
しかし、一方的に上から目線では反感を買う、ということをエルザは知識的に知っていた。
ここは相手の話も聞くのが今後のためになると判断する。
「ヘンリエッタは、ジョゼさんから何か貰ったことはあるの?」
「うん、可愛い服をもらったよ」
――服は、まだ貰ってないわ。
先程までと打って変わって、自分の中にどろりとした感情が疼くのをエルザは感じた。
「へえ、いいじゃない」
渾身の力で平常心を保つエルザ。
服、服か。ラウーロさんがくれるとしたら、どんな服をくれるんだろう。どんな服が、わたしに似合うと思ってくれるんだろう。
ヘンリエッタにはお願いすればなんて言えたけど、こっちから頼むなんて無理よ。お願いして断られたら、わたし――。
「うん、前にジョゼさんと一緒に星を観に行くときにくれたの」
エルザが心を焦がしていることなどつゆ知らず、にこにこと話すヘンリエッタ。
「一緒に星を……。それは、夜に2人っきりだったということね」
自分は任務以外でラウーロさんと夜に一緒にいたことはない。
夜に2人っきり。
そのシチュエーションを夢想し、既に果たしているというヘンリエッタにエルザは嫉妬の炎を燃やす。
「星を観るんだから、夜だよ」
当たり前じゃないというヘンリエッタの言い方。平時ならば別段引っかかるようなものでもないのだが、今のエルザは妙に気に障り、何とか言い負かしたくなった。
「あら、知らないの? 朝や夕方だって星は見えるわ」
「……え?」
ヘンリエッタが、一瞬固まった。
これはいけると踏んだエルザは、更にたたみかける。
「金星は地球より内側を回っているもの。星を観るからといって、夜とは限らないわ」
勢いで言ってしまったが、自分が内容が殆ど言い掛かりなことを自覚し、エルザは失敗したと思い、うつむく。
沈黙がエルザの部屋を支配する。
「思い、出した……」
「え? ヘンリエッタ!?」
これは流石に謝るべきかと顔を上げたエルザの目に飛び込んできたのは、ぽろぽろと涙を流すヘンリエッタだった。
確かに自分が悪いのだが、ここまで泣かれる程の事だたろうかとエルザは慌てる。
「ご、ごめんなさい。少し言い過ぎたわ」
対人関係について、知識はあっても実戦経験が少ないエルザは非常に困った。やはり自分には交流を深めるのは無理なのかとも思う。
「違うの……。わたし、ジョゼさんと夜に天体望遠鏡で星を観る前にも、一緒にライフルスコープで金星を観て、教えてもらってたの。でも、それを忘れちゃってた……。大切な、大切な思い出だったのに」
泣きながら話すヘンリエッタ。
その姿に共感を覚えるが、エルザはそれ以上に重要な事に気づく。
「でも、わたしとの話の中であなたは思い出せたのよね?」
「……うん、ありがとうエルザ。でも、もしかしたらこの思い出も、他の思い出も忘れちゃうのかもしれない。ううん、もういくつも忘れてしまって、その事にきづいてすらいないのかも――」
「だから、できる限り共有しましょう。担当官との思い出を話して、時々振り返って。少しでも手放さないように」
エルザは真っ直ぐにヘンリエッタを見つめる。
これは、独りでは出来ないことだ。
仲間がいる。
そして、ヘンリエッタは仲間たり得る。
あくまで自分とラウーロの為ではあるが、エルザはヘンリエッタに価値を見いだしていた。
「……できるかな?」
「……やるのよ。わたしとあなたで、お互いの担当官のために」
バーでジョゼにしこたま説教を食らってから数日、ついに狙撃任務の日が来た。
俺はエルザと一緒に、駐車場でジョゼとヘンリエッタを待っている。
うん、それにしてもあの夜はどうかしてたな俺。この世界のジョゼと薄い本のジョゼが別人なのは分かっていたはずなのに。
というか、ラウーロの体、前世の俺より酒に弱い気がする。前世だとあのペースでも大丈夫だったからなぁ。気をつけないと。
などと反省していると、すぐに2人が来た。
さて、原作だと自分はラウーロに構ってもらえないのに、いちゃいちゃしてるジョゼとヘンリエッタを目の当たりにしてエルザの調子が狂いミスを連発、ラウーロに失望されてパァンにつながった。
まあ、現時点で俺はめっちゃエルザを構ってるし、万が一失敗しても責めるような気はないので既にその懸念は無いのだが、他の義体と組んだときのエルザがどうなるかは未知数だ。
今後の任務での生存率にも関わってくるのでしっかりと見定めたいのだが――
「ヘンリエッタ、頑張りましょう」
「うん、エルザ」
任務を前に、エールを送り合うエルザとヘンリエッタ。
え、君たちどうやってそんな急速に仲良くなったの?
他の義体と仲良くしてみろとは言ったけど、ここまでとは!
エルザ! 恐ろしい子!
俺とジョゼは2人の関係の変化を不思議に思いつつも、それぞれ車に乗り込み会話を楽しみながらシエナに向かった。
なお狙撃任務は、何の不調もなかったエルザがほぼほぼ心臓と思しき当たりを撃ち抜いてから、倒れ伏した瞬間にヘンリエッタが追撃のヘッドショットを決めてどうみても間違いないレベルで暗殺に成功。
狙撃後ハイタッチをする2人を俺とジョゼで褒めて、それぞれでシエナを観光して帰りました。