東方摩耗録 連載 作:力尽きても復活した奴
話の流れは全く変わりません
山の中、薄暗い獣道を歩く一匹の妖怪がいる。
その妖怪の外見は少女とほぼ同じ見た目であり、茶色のショートヘアーで緑色の帽子を被っていて、服は赤を基調としたワンピースで袖とスカートは白く胸元にはリボンが着いている。
そして、彼女が一目で人ではないと分かる特徴的な部分がある。黒い猫耳と同じ色の二本の猫の尻尾である。
猫の妖怪であるその少女は青い布の袋を抱えており、邪魔になっている枝を鋭い爪で切り落としながら進んでいく。
そうして獣道を進むこと十数分、多くの猫がくつろいでいる小さな廃村に辿り着いた。
そこは猫の楽園。種々様々な猫が自由気ままに暮らし、他者に踏み荒らされることの無い空間。
そんな場所に着いた少女は抱えていた布からマタタビを取り出し、不敵な笑みを浮かべる。
「ふふふ。今日こそ忠実な配下を得て、藍さまにいっぱい誉めてもらうんだから!」
猫の妖怪の手下を獲得する戦いが、今ここに始まる。
「どこだ、ここ……?」
気が付いたら知らない場所にいた。
意識を失う前は湖にいたはずだ。少なくとも木や草が生い茂るような所ではなく、周囲に人がいないために連れてこられた訳ではないだろう。例え誘拐犯が人がいたとしてもこんなところに放置する理由もないはずだ。
少し意識がぼんやりとしながらも辺りを見回す。
見渡す限りの木。道すら確認出来ず、傾斜があることから丘や山の通りから逸れた場所なのだろう。人影がないのは都合がいい。
あまり荷物は持っていなかったが、時計型通信機のT2phoneは左腕に身に付けていたため、猫の保護シールがついたパネルを二本指で二回タップして、空中投影ディスプレイを起動する。
日付は2035年4月5日9時43分と表示されており、気を失う前から一日も経っていなかった。
地図を呼び出しても現在地が表示されない。電波も届いていないために電話は出来ず、ネットに繋げることも出来ない。
「GPSが反応してない。本当に何処なんだここは」
呟いた言葉は、そよ風に揺れる頭上の葉のさざめきと同化して消える。
ゆっくりしていたところで何も進展しない。そう思った俺は地図の移動履歴機能をオンにして、取り敢えず下る方向に歩き出した。
しばらくは代わり映えのしない木々の間を草や枝を掻き分けながら進んでいく。
「っ! いってぇ……」
枝の先が引っ掛かり、服が少し切れて血が滲む。
「くそっ、もう少し気を付けて進むか」
気付かずに焦っていたのだろう。段々と速くなっていた歩くペースを下げ、ゆっくりと進んでいく。
数分の間何事もなく進んでいると、ふと後ろの方からガサガサと音が聞こえ出した。
正確な位置は分からないが、恐らく怪我をした方向から聞こえている。
体制を低くして様子を窺う。姿の視認は出来ず、音も聞こえない。
状況から考えると野生の動物だろう。最悪の場合飢えた相手に襲われる可能性があると判断して静かにその場から離れる。
慎重に離れていくなか、唐突に木がざわめいた。
突風だった。低い体制だったのが幸いして体制を崩すことはなかったが、風の向きは音がした方向からで──
ミ ツ ケ タ
怖気が全身を支配するよりも先に走り出していた。
ソイツは獣よりもおぞましい咆哮を上げて走り出す。
後ろを振り向いても姿は見えない。
しかし、音の発生源はどんどん近付いていく。
このままでは追い付かれる。それは嫌だと必死に走ると、地面は踏み固められ枝もあまり延びていない獣道に出る。
直ぐに下ろうとするも、その先にはナニカが飛んでいるのが見えた。
即座に反転して駆け上る。
茂みから飛び出す様な音が聞こえて振り返る。否、振り返ってしまった。
遠くからであれば大型の犬にも見えるだろう。しかし、この短い距離であればはっきりと違いがわかってしまう。
様々な大きさの複数の目、耳まで裂けた歯が剥き出しの口、6本の脚。
ソイツの表情が嗜虐心に塗れているように見え、息が絶え絶えになりつつも喰われるだけでは済まないだろうという想いが足を動かす。
走り続けていると、ふと気が付く。先程までの速さであれば既に追い付かれていてもおかしくないはずだと。
そう思い少しだけ後ろを確認すると、嗤うのが見えた。
完全に遊ばれていた。が、どうすることも出来なかった。止まったら飽きて見逃してくれるなんてことは無いだろう。
捕まったらどうなるのか何て考えたくもない。
酸欠でぼんやりとした意識のなかそう思っていると、気付いた時には明るい開けた場所に出ていた。
周りには朽ちた家があり、人の気配は無かった。
後ろを見ると、異形の犬モドキが走る方向を変えた。
このタイミングでこちらから離れる理由は分からないが、この隙に出来るだけ距離を空けようと視線を前に戻そうとしたとき、近くの廃屋の影で数匹の猫が震えているのが視界に入った。
「嘘だろっ!」
嫌な予感がして犬モドキの向かった方を見ると、猫が慌てて逃げ出していくのが見えた。
慌てて犬モドキを追いかける。
自分が連れてきてしまった。
見捨てる事は出来なかった。
それに何よりも、俺にとっては猫は大切な存在なのだ。
独りだった俺に妹が遺してくれた、唯一傍に居てくれた黒猫。
彼女が居なければ俺に幸せな最後の時間は存在しなかった。
近くに落ちていた木材を引っ掴んで走る。
「クッソォオオオ! ふざけんなこの化物がァ!!」
犬モドキがイラついたようにこちらを向く。
間に合え
数匹の猫が此方に逃げこむ。
恐れるな
犬モドキが俺に飛び掛かる。
奴を倒せ
木材を掲げ、狙いを定める。
集中しろ!
体全体を使って振りかぶり、
奴の顔を全力で打ち抜いた。
『ガッ!?』
犬モドキは殴られた勢いで後ろに着地する。
その姿に怯んだ様子は見受けられず、ダメージも無さそうだった。
「どんだけ頑丈なんだコイツ!」
飛び掛かりに備えて木材を構える。
犬モドキを見据えていると、その体が震えているのが分かった。
同時に、凄まじい程の怒気が放たれているのを感じた。
『エサノブンザイデ、アラガッタナ』
ひどく不快になるしゃがれた声で、人の言葉を話した。
「なっ、喋った!?」
『ダマレ』
たった一言で体が動かなくなる。それはまるで金縛りにあったかのようで、目をそらすことも出来ない。
『タノシマセテクレタレイニ、アマリ苦シマナイヨウニ殺シテカラ喰ッテヤロウトオモッタガ、キガカワッタ。イキタママ喰ライ尽クシテヤル』
ソイツは六本の脚を曲げて体制を低くして、多数の目を厭らしく細めると、口を大きく開けて飛び掛かってきた。
「うーん。今日もついてきてくれる猫は見つからなかったなー」
今日一日の成果はなく、自分の行動を見つめ直す。
先ずはマタタビを与えて関心を集めて、自分の下につく利点を説いた。
その後は追いかけっこ等で遊び、廃屋に保存してある餌を与えて、一緒に昼寝をすることで友好を深めた。
そして配下になるかを問えば、みんな知らんぷり。
特に行動に間違いは無かったはずなのに、何故駄目だったのだろう。
もっとマタタビの量を増やした方がいいのかな。
そう思ったその時、嫌な気配が廃村の結界内に侵入したのを感じた。
この結界は外部からの認識を阻害するもので、侵入者がいれば内部に教えてくれるものだ。感じる存在は二つ。
外敵に敏感な猫たちは各々隠れているが、侵入者に近い者は危険だ。
跳ぶように駆け出した。
「なんで反対側なのっ、急がないと!」
みんな友達で未来の仲間なのだ。そして今はまだ力が無い普通の猫、妖怪相手じゃ一分も持たない。守らなければならない。
全力で駆けていくと、遠目に一人の男が犬の姿をした妖怪に向かって何かを打ち付けるのが見えた。
その男の後ろには、怯えている猫がいた。
嬉しさで心が溢れる。自分の命も危ういというのに、力も無いただの人間が友達を守ってくれていた。
妖怪の様子が変わる。
だけど、問題はない。
手足に妖力を溜めつつ走る。
──時間を稼いでくれてありがとう
妖怪が飛び掛かる。彼は動かない。しかし、確実に巻き込まないためにはむしろ都合が良かった。
溜めた力を解放し、妖怪目掛けて宙を飛ぶ。
仲間を助けてくれた彼はもう──
「私の仲間に手を出すなぁぁぁあああ!!」
友達だ。
(´・ω・`)短編の更新頻度を知っている方はお察し下さい。
細々と頑張ります。