東方摩耗録 連載   作:力尽きても復活した奴

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初日ぐらいは連投しときます

微修正です。内容に変更はないです


第2話

 不思議と恐怖は無かった。ただただ苦しんで死ぬんだなと諦めていた。

 

 ソイツから目を離すことも出来なかった俺は、

 

 叫びと共に跳び蹴りをかます少女の姿をみた。

 

『ァガッ!!』

 

 異形の犬は十数メートルほど吹き飛び、少女は一回転して目の前に着地する。

 

「後は任せて」

 

 こちらを見ることなく少女は異形の犬へと飛び掛かった。

 

 飛び起きたソレは少女へと牙を向けるも、出来たことはそれだけだった。

 

 少女に顔を切り裂かれて首を蹴り上げられたソレは、なす術もなく晒した胴体を真っ二つにされる。

 

 その後二度と動くことはなくなった。

 

 振り返る少女。未だ混乱しながらもその少女に見惚れる。

 

 まだあどけなさを残すその容姿。それに動く猫耳とちらちらと体の影から姿を表す尻尾。

 

 その耳と尻尾は最後の家族だった彼女によく似ていた。

 

「大丈夫?」

 

 呆然と少女を見ていると心配そうに声をかけられる。

 

「あ、あぁ」

 

「そっか。よかった」

 

 何とか声を絞り出すと、安堵の言葉と笑顔が向けられる。

 

 少女の目が怪我をした腕の方を向いた。

 

「怪我してるね。手当てしてあげるから、こっちに来て」

 

「ん」

 

 返事を聞いて廃村の奥へと歩みだす少女についていく。

 

 庇った猫たちは後ろを着いてきて、瓦礫などの陰から多くの猫が見つめてきていた。

 

「みんなを庇ってくれてありがとう」

 

「いや、そんな。そもそも俺が連れてきてしまったんだ。こちらこそ助けてくれてありがとう」

 

 お礼をいう彼女に慌てて礼を返す。感謝しなければいけないのはこちらなのだから。

 

「そう? んー、うん。それでもありがとう。見捨てて逃げることだって出来たんだもの」

 

 俺の言葉を聞いて少し考えた少女は納得したようにうなずくと笑顔で答えた。

 

 笑顔の彼女に手を引かれて比較的形の残ってる廃屋に入ると、棚をあさって救急箱を取り出した。

 

「じゃあ水を汲んで来るからちょっとだけ待っててね」

 

 そう言って、たらいを抱えて出ていった。

 

 周りの猫たちがみゃーみゃー鳴いていて、正直煩くもあるが癒される。

 

 すり寄ってくる猫を撫でながら待っていると、戻って来た少女が驚いたような表情で耳と尻尾をピーンとたてる。

 

「あー! 私よりも懐いてるー! 何で!?」

 

「あはは……」

 

 何と反応したら良いのか分からず、曖昧な笑顔でごまかす。

 

「好かれる秘訣を後で絶対教えてもらうからね! じゃあはいっ、そこに横になってね」

 

 言われた通りに横になる。

 

「あまり見ない服だけど、あなたは外の人間? 幻想郷って分かるかな?」

 

 手当てをしながらも彼女が話しかけてくる。

 

「外? 幻想郷は……初めて聞いたと思う」

 

「じゃあそこから説明した方がいいのかな」

 

 少女はしばらく考えてから口を開いた。

 

「えっとね。ここは幻想郷って言って、貴方のいた外の世界とは隔絶された場所なんだ」

 

「隔絶された場所?」

 

「うん。結界によって区切られた、外では否定されたり忘れ去られた存在が住む場所。さっき襲いかかってきたのが妖怪だね。それに私も妖怪だよ」

 

 確かに普通では信じられない話だが、さっきの化け物や目の前の少女を見た後だ。もはや信じるもなにも無い。

 

「なら、何で俺はここにいるんだろう。隔絶されてるなら簡単には行き来できないんだろ?」

 

「うーん、考えられる可能性はいくつかあるかな。存在を忘れられたか否定された存在がたどり着く、結界の綻びに偶然迷い混んだ、移動能力を持つ変なのに引きずり込まれた。聞いたことがあるのはこの三つかな」

 

「じゃあ俺は皆に忘れ去られたのかもな」

 

 自嘲気味に笑う。

 

「人間がその年で全ての人から忘れられることはそうそうないはず何だけど」

 

「俺の事を気にかけてくれた唯一の家族が一ヶ月前に死んじゃったからな。他に知り合いもいなかったし」

 

「そっか……」

 

 少し暗い空気になってしまったが、話を続ける。

 

「その家族は猫だったんだけど、結構歳でさ。眠るように旅立ったんだ」

 

「猫と家族だったの? 大切に思ってくれてたんだね。なんだか嬉しいな。ほら、私も猫だから。化け猫だけど」

 

「うん、大切な家族だった。黒い猫で、耳と尻尾が君に似てたな」

 

「どんな子だったの?」

 

 優しく問いかけられ、どんどん思い出が甦る。

 

「やんちゃだった」

 

 死角から急に飛び掛かられる事が多かった。

 

「嫉妬心も強くてさ」

 

 本やテレビに夢中になると、破かれたり消されたり。

 

「手はかかったけど」

 

 怪我も絶えなかったけど

 

「辛いときにただただ傍にいてくれる様な奴だった」

 

 ずっと助けられていたんだ

 

 気付いたら涙が出ていた。彼女が死んでから一度も泣いたことはなかったのに。

 

 頭を撫でる感触があった。もう誰かの温もりを感じることは無いと思っていた。

 

 俺はもう一人で誰にも気づかれずに消えていくのだと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり泣いたあと、膝枕をされて撫でられていた体を起こして少し離れた。無言で。

 

「ふふっ、照れなくてもいいのに」

 

 うっさい。

 

「ねぇ、その子の名前聞いてもいいかな?」

 

「いいよ。ちょっと待ってね」

 

 T2phoneを出し、漢字を表示させた。

 

「トウ、っていうんだ。妹が付けた名前なんだ。黒猫なのに変だよな」

 

 その字を見た少女は目を丸くしていた。

 

「……どうかした?」

 

「ううん、ちょっと驚いただけ。良い名前だと思う」

 

 そう言って彼女は微笑んだ。

 

「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺は儚意(はかない) 時命(ときさだ)、よろしく」

 

「私は(ちぇん)。貴方の家族の猫と同じ漢字なんだ。よろしくね」

 

 彼女は満面の素敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、これからどうするの?」

 

 しばらく話しあった後、外を見た橙が話を変える。

 

 これからの事を考えようにも、外の世界に戻る気もなければここにいてどうなるわけでも無かった。

 

「もしよかったら家に来ない?」

 

「え?」

 

「外に未練は無いんでしょ? だったら一緒に暮らしたいかなーって」

 

「俺は助かるけど、良いのか?」

 

「うん。今日は迷い家に行く日だから、藍様達に紹介もできるし」

 

 期待の籠った眼に射ぬかれる。

 

「……迷惑じゃないなら」

 

「全然! 決まりだねっ、行こう!!」

 

 そう言うと橙は手を引っ張って俺を立ち上がらせると、そのままギリギリ着いていける速さで走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拾ってきた場所に戻しなさい!」

 

「いやです! 一緒に住みます!」

 

「わがまま言わない!」

 

「もう決めました! 面倒はちゃんとみるから!」

 

「そう言ってウサギの面倒は私が見たじゃないか!!」

 

「藍さまのイジワルっ、もういいよ!! 紫様に挨拶しに行こう、時命!」

 

「こら、まだ話は終わってないぞ! 橙、待ちなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 捨て猫扱いされてないか、これ?




しばらくはほのぼる予定

なお、次回投稿は未定

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