東方摩耗録 連載 作:力尽きても復活した奴
二つ目の段落のゆかりんの最後のセリフちょい修正。
狐の耳と尻尾が付いている美女を置き去りにして、橙に手を引かれて奧へと進む。
長い廊下を進んで居間に着くと、そこには立派な紫色の炬燵があった。
もう大分暖かくなってきてはいるのだが、布団はとらないのだろうか。
「紫さま。お話しがあるのですが、少し良いですか?」
「その必要はないわ、話は聞いていたから」
その声は、妖艶な感じがするも何処か少女を想起させるような、なんとなくお婆さんの様な気もするような、そんな印象を受けた。
「藍はああ言ってるけど、私は良いと思ってるわよ」
「本当ですかっ!」
「ええ。外来人なんて久しぶりよ。ましてや幻想郷に残ろうとするなんて何時振りかしら」
炬燵から聞こえるその声は、嬉しそうでもあり哀しそうでもあった。
「ただ、分かっているわね?幻想郷における注意事項等は貴女が教えること。八雲に連なる式としてしっかり責任をもって面倒を見ること。藍は貴女が説得すること。出来るわね、橙」
「うぅ、藍さまの説得は難しいよぉ……」
「しょうがないわね、耳を貸しなさい。アドバイスしてあげるわ」
「本当ですか!ありがとうごさいます、紫さま!」
「うわっ!なんだこれ」
突如橙の耳の所に、端にリボンのついた裂け目が現れる。その裂け目からは多数の目が覗いており、凄く不気味だ。
しばらく何事かを聞いた橙は、お礼を言ってから何処かへと駆けていった。
「そこの貴方、此方へいらっしゃい。炬燵のなかは快適よ」
「は、はい」
「あ、襖は閉じておいてね」
呼び掛けに応じて炬燵に入る。
中は言われた通り快適であり、むしろこれ以上に人間にとって最適な環境など無いのではないかと、そう思わせるほどのモノだった。
「どう、凄いでしょ」
「はい。こんな快適な炬燵は初めてです」
「ふふーん」
表情は分からないが凄くドヤ顔をしていそうだ。
「えっと、俺の名前は儚意時命といいます」
「私は八雲紫よ。橙の主である藍の主といったところね」
まぁ、種族が違うようだから、親子ではないとは思っていた。しかし、藍さんと橙はまだ分かるけど、紫さんと藍さんはどういう経緯で知り合ったのかは気になる。
「紫さんは炬燵の妖怪ですか?」
「ぶっふぉ!」
盛大に吹く音が炬燵の中から聞こえてきた。
「え?今の私炬燵の妖怪に見えるの?」
「炬燵しか見えなかったのでてっきりそうなのかと。違うみたい、ですね」
「うっそぉー」
正直なところ、炬燵しか見えてなければそういう発想にもなると思う。名前もややこしいし。
立場が逆でも同じなんじゃないかな。
「酷いなぁ、自分で言うのもなんだけど、私美人なのになー」
俺には判断不能なんですが。
「ほらほら、私の手スベスベで気持ちいいでしょ」
「んんっそんなところ触ったら汚いですよ」
「良いじゃない減るもんじゃないしー。それに汚くなんてないわよ」
「っ」
「ビクビクして面白いわね。思ったより逞しいし」
「んっやめっ」
「コラァ!!何しとるカァァァぁぁぁ……ん?」
襖を勢い良く開いた藍の瞳に飛び込んできた光景は、炬燵に片足を突っ込んでのたうち回る男の姿だった。
「やーねー、そんなに鼻息荒くしてどうしたのかしら」
「……何をしているので?」
「何って、見ての通り足を擽ってるだけよ」
「……」
ようやく解放された時命は、息絶え絶えながらも足を炬燵から引き抜いて部屋のすみに逃げる。
「ナニをしていると思ったのかしら」
「…………」
「ナニを想像したの?ねぇ、ねぇねぇ?」
「う、う、うわああぁぁぁぁぁん!!」
顔を真っ赤にした藍は叫びながら何処かへと走り去っていった。
「あれ、藍さまどうしたんだろう?」
少し遅れてやって来た橙は、藍が走り去った方向を不思議そうに見る。
「あの子はちょっとエッ」
「きっと鍋に火をかけたままにでもしてたんだよ多分」
追い打ちをかけようとした紫の言葉を遮る時命。
「藍さまはそんなミスしないよ、藍さま凄いんだから!」
「新しい修行方法でも閃いたのかもしれないな」
「そうかも!ちょっと聞いてみるね!」
そう言うや否や、橙はまだ微かに聞こえている声の方へと向かっていった。
「二人っきり、だね」
面倒事を増やされそうだと思った時命はその場を逃げ出した。
「ちょっと用事思い出s」
「行かせないわ!」
「う゛っ゛」
が、一歩踏み出すと同時に足を捕まれてしまい、勢いよく倒れ込んでしまう。
うつ伏せになっている時命の背中に誰かが乗る感触がした。
「ごめんなさいね、ちょっとだけ大切な話があるの」
仰向けにさせられた時命の目に飛び込んできたのは、孫を心配するような表情をした美少女だった。
「うーん、やっぱり素敵快適スキマ炬燵はいいわぁ~」
「紫様、動かないでいると太りますよ」
河童と共同開発した炬燵に潜っていると、洗濯物を取り込んだ藍に怒られる。
「その時は肥満との境界を弄るから問題ないわね」
「えぇ~……。今日は橙が来る日ですよ。示しがつかないのでは?」
そういえば今日だったっけ。あの子には思うところもあるけれど、私達ですら目を見張る程の直感と素直さは好きなのよね。
「あの子は良い感じに解釈してくれるから大丈夫よ」
「全然大丈夫じゃないですよねそれ」
「細かいことばかり気にしてると老けるわよお婆ちゃん」
「ソレを言ったら紫様なんてミイラじゃないですか」
失礼な。まだ若いし、全然イケてるわ。こちとらピチピチのナウでヤングなプリチーギャルよ。
「心も見た目もセンスも少女だからセーフね。完全無欠の美少女よ」
「自分で言うことですかそれ」
「事実だから良いのよ」
「まったく……」
最近の藍はお母さんみたいね。あの子を式にしてから本当に変わったわ。
元々はマヨヒガで暮らしていただけの普通の猫だったのに、気付いたら猫又になっていて孤独な毎日を送っていた子だった。――まぁ、生まれを考えたら当然の帰結だったのだけど。
動物と触れ合うことで少しは丸くなると思ってマヨヒガに通わせていたのだが、予想の斜め上に行ったのは嬉しいやら悲しいやら。
これが本当のキレたナイフというやつだろう。
「ただいま戻りましたー!!」
気付いたら時間が経っていたのだろう。橙が帰って来て藍が迎えに行った。
「……?」
何時もなら橙が走ってくる位の時間が経つも何も聞こえて来ず、気になってスキマを開くと、
「拾ってきた場所に戻しなさい!」
藍の大きな声が聞こえてきた。
うっさぁ……。
と、げんなりしながらも覗いてみると橙の隣にあまりパッとしない男が立っていた。
話を聞いてみるとどうやら橙がこの男と暮らしたがっており、藍が認めないという状況のようだ。
橙が認めたのなら特に問題はないもは思うけど、万が一のこともあるわよね。ちょっと記憶の境界をいじって人物の確認をしようかしら。悪い影響が出そうなら、そうねぇ、どうしようかしら。
と、藍を置き去りにして此方へと向かう橙達を見ながらも後のことを考え、最悪の場合は気付かれないように排除することも考慮する。
そして橙がやって来ると、ただ子供が親に甘えるだけのやり方を教えて時命と二人きりになり、足をつかんで安全に心の境界を操作して記憶に強く残る過去を覗き見るのだった。
ゆかりんは美少女異論は認めない。(スキマ送りは嫌なのです)
次は少しだけ主人公の過去が分かります。
紫の生息地は迷い家で、猫の楽園はマヨヒガとしていますが、何か自分でもこんがらがりそうですね……