東方摩耗録 連載   作:力尽きても復活した奴

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2話辺りでほのぼのするとか言ってた気がしましたけど、……こ、ここからの事だから(震え声

洋館を食べてたので修正しました


第5話

「それで、大事な話ってなんですか?」

 

「橙と結婚するには条件があるの」

 

「なんの話ですか?」

 

 一体このヒトは何を言ってるのだろうか。

 

「まず私のことはママと呼びなさい。敬語も要らないわ。そうね、子供は流石にまだ早いかしら」

 

 押し倒されたあと、話があるからと向かい合って炬燵に入ったのだが、これが大事な話だったのだろうか。早く橙のところに行きたい。

 

「あ、初夜の前に」

「席外しますね」

 

「やーね、少しだけ冗談よ」

 

 席を立とうとするも肩を抑えられた。その顔は先程までとは違い真剣なものだった。

 

「少しは想像がつくと思うけど、話というのは貴方のことについてよ。時命、橙に依存しているってこと、分かっているわよね」

 

 図星だった。橙が居なくなれば、俺はまた理由を失うだろう。

 

 ただ、それを表に出したつもりはなかった。

 

「自覚があるなら構わないわ。止めますで変わることでもないし、生ある者は少なからず何かに依存するものだから。でもね、それ以外の世界にもちゃんと目を向けて欲しいの」

 

「だって、誰かの幸せを願うのは貴方だけじゃないんだもの」

 

「……覚えておきます」

 

「ええ。今はそれで十分よ」

 

 満足そうに頷く紫さん。

 

「でも、何時までも内に籠ってたら外に引きずり出しちゃうから。覚悟してね」

 

 ――はい。

 

「それで、橙と一緒に住むことについてなのだけれど、貴方の暮らしていた所とは生活も生物も異なるから、色々修行させてもらうわよ。いいわね?」

 

「はい」

 

 必要ならば是非もない。

 

「詳細はまた後でね。話はそれだけよ」

 

 橙のところへ行こう。

 

 

 

 

 

「あっ、まだママって呼ばれてないわ!戻ってきなさい!」

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時命は家族としてこの家で一緒に暮らすことになりましたー。パチパチー」

 

「お待ち下さい紫さま。確かに橙と二人きりにするよりは大分マシだとは思いますが、それでは橙がお願いした一緒に暮らすのとは違ってしまうのでは?」

 

 橙を探して回るも見つからず、仕方なく居間に戻ると全員集まっており、紫さんが唐突にそう宣言した。

 

「橙もここに住めば万事解決ね。山籠りは無期限休止よ」

 

「みんなと一緒に暮らせるんですか!!」

 

 橙の尻尾が凄いことになっている。皆と居られるのが余程嬉しいらしい。

 

「藍。貴女もまだまだ感情制御が甘いわね」

 

 こっちも尻尾がわっさわさしていた。

 

 ――表情が変わらなくとも態度に出るのは、なんだか爺さんを思い出すなぁ。

 

「とりあえずは生活に慣れてもらって、その後に最低限妖怪から身を守る術を学んでもらうわ。そうしたら橙と一緒に外出も出来るでしょう。幻想郷の案内もその時にね」

 

 特に異議はなかった。

 

「家事は橙に教えてもらいなさい」

 

「任せてください!」

 

 全身を使って元気良く返事をする橙。

 

「他はー……そうね。藍、頼んだわ」

 

 丸投げしたな。

 

「何時ものことではありますけど、面倒になると全部こっちに寄越しますよね」

 

「そのための式だもの」

 

「少しは動かないと本当に太りますよ」

 

「もう太ってたわ。能力あって良かったー」

 

 そう言いつつ茶菓子に手を伸ばす。

 

「……」

 

 藍さんは頭を抱えてしまっていた。

 しかし、もはや慣れているのか、額に手を当てつつも指示を出し始める。

 

「橙、家事は昔のように手分けしようか。分担表は後で作っておくよ。時命はそれを手伝うように。午後に修行の時間を設けるが、橙は現状の確認から始めて時命は薪割り等から始めようか」

 

「はい!」

「わかりました」

 

「あ、藍。お風呂はもう沸いてるわよね」

 

 炬燵の上に上体を寝かせて羊羹を食べながら話しかける紫さん。

 だらけ過ぎではないだろうか。

 

「はい、何時でも入れますよ」

 

「なら橙も時命も疲れてるだろうし、ちゃっちゃと入って来ちゃいなさい」

 

 紫さんがそう言うと、藍さんは橙と俺を見比べる。

 

「そうですね。……橙、先に入って来なさい」

 

「んー、時命が先で良いよ。疲れてるでしょ?」

 

「その気持ちはありがたいけど、俺は後で良いかな」

 

「むむむ」

 

 藍さんが悩んだ理由も、最終的に橙を先にした理由も分からないほど鈍感ではないし。

 

「そうだ、一緒に入ろう時命!」

 

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

 

 

 

 

「あら、良いじゃない」

 

「いや良くないですよ紫様!?橙、時命は男なんだから、その、一緒には入らない方がいいと思うぞ」

 

「んん?男だと何で駄目なんですか?」

 

「うっ……と、時命からも何とか言ってくれないか!」

 

 こっちに振らないで下さい。何も言えませんから。

 

「言い考えだと思ったんだけどなぁ」

 

「ぐっ……」

 

 悲しそうな橙の姿に罪悪感があるのか、呻く藍さん。

 

 後になってこの時に口を挟んでおいた方が良かったと後悔した。

 

「……ぅぅううう~~!わかった!私と一緒に三人で入るぞ!」

 

「やったー!」

 

 どうしてそうなる。もっと頑張って下さいよ。形だけ厳しくしてても実際は物凄く橙に甘いですよね藍さん。

 

 そう思いながらも、顔を赤くしつつも喜ぶ橙を見て微笑む藍さんと一緒に、嬉しそうに二人の手を握る橙に連れていかれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?私だけ除け者?」

 

 寂しく吹き抜ける風。世界を淡く照らす月明かり。一人取り残される私と楽しそうな三人。そこには世界を隔てる壁があるかのような錯覚を――

 

 って、感傷に浸ってる場合じゃないわ!何で私だけ寂しい思いしなきゃならないのよ!

 

「待ちなさい!私も一緒に入るわ!」

 

 能力を使うことも忘れて走り寄る。

 

「紫様まで来たら流石に狭いですよ」

 

「能力で広くすれば問題ないわ、私も一緒に入るんだもん!」

 

「だもんって、子供ですか……。全く、普段もこれぐらい行動的なら……」

 

 何やらぶつぶつ言っているが、私には関係ないことだろう。

 

 呆れてるよう藍も、楽しそうな橙も、魂が抜けてるような時命も、全員巻き込んで騒ぎながら風呂場へ向かっていった。




なお、サービスシーンはありません

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