東方摩耗録 連載 作:力尽きても復活した奴
洋館を食べてたので修正しました
「それで、大事な話ってなんですか?」
「橙と結婚するには条件があるの」
「なんの話ですか?」
一体このヒトは何を言ってるのだろうか。
「まず私のことはママと呼びなさい。敬語も要らないわ。そうね、子供は流石にまだ早いかしら」
押し倒されたあと、話があるからと向かい合って炬燵に入ったのだが、これが大事な話だったのだろうか。早く橙のところに行きたい。
「あ、初夜の前に」
「席外しますね」
「やーね、少しだけ冗談よ」
席を立とうとするも肩を抑えられた。その顔は先程までとは違い真剣なものだった。
「少しは想像がつくと思うけど、話というのは貴方のことについてよ。時命、橙に依存しているってこと、分かっているわよね」
図星だった。橙が居なくなれば、俺はまた理由を失うだろう。
ただ、それを表に出したつもりはなかった。
「自覚があるなら構わないわ。止めますで変わることでもないし、生ある者は少なからず何かに依存するものだから。でもね、それ以外の世界にもちゃんと目を向けて欲しいの」
「だって、誰かの幸せを願うのは貴方だけじゃないんだもの」
「……覚えておきます」
「ええ。今はそれで十分よ」
満足そうに頷く紫さん。
「でも、何時までも内に籠ってたら外に引きずり出しちゃうから。覚悟してね」
――はい。
「それで、橙と一緒に住むことについてなのだけれど、貴方の暮らしていた所とは生活も生物も異なるから、色々修行させてもらうわよ。いいわね?」
「はい」
必要ならば是非もない。
「詳細はまた後でね。話はそれだけよ」
橙のところへ行こう。
「あっ、まだママって呼ばれてないわ!戻ってきなさい!」
……。
「時命は家族としてこの家で一緒に暮らすことになりましたー。パチパチー」
「お待ち下さい紫さま。確かに橙と二人きりにするよりは大分マシだとは思いますが、それでは橙がお願いした一緒に暮らすのとは違ってしまうのでは?」
橙を探して回るも見つからず、仕方なく居間に戻ると全員集まっており、紫さんが唐突にそう宣言した。
「橙もここに住めば万事解決ね。山籠りは無期限休止よ」
「みんなと一緒に暮らせるんですか!!」
橙の尻尾が凄いことになっている。皆と居られるのが余程嬉しいらしい。
「藍。貴女もまだまだ感情制御が甘いわね」
こっちも尻尾がわっさわさしていた。
――表情が変わらなくとも態度に出るのは、なんだか爺さんを思い出すなぁ。
「とりあえずは生活に慣れてもらって、その後に最低限妖怪から身を守る術を学んでもらうわ。そうしたら橙と一緒に外出も出来るでしょう。幻想郷の案内もその時にね」
特に異議はなかった。
「家事は橙に教えてもらいなさい」
「任せてください!」
全身を使って元気良く返事をする橙。
「他はー……そうね。藍、頼んだわ」
丸投げしたな。
「何時ものことではありますけど、面倒になると全部こっちに寄越しますよね」
「そのための式だもの」
「少しは動かないと本当に太りますよ」
「もう太ってたわ。能力あって良かったー」
そう言いつつ茶菓子に手を伸ばす。
「……」
藍さんは頭を抱えてしまっていた。
しかし、もはや慣れているのか、額に手を当てつつも指示を出し始める。
「橙、家事は昔のように手分けしようか。分担表は後で作っておくよ。時命はそれを手伝うように。午後に修行の時間を設けるが、橙は現状の確認から始めて時命は薪割り等から始めようか」
「はい!」
「わかりました」
「あ、藍。お風呂はもう沸いてるわよね」
炬燵の上に上体を寝かせて羊羹を食べながら話しかける紫さん。
だらけ過ぎではないだろうか。
「はい、何時でも入れますよ」
「なら橙も時命も疲れてるだろうし、ちゃっちゃと入って来ちゃいなさい」
紫さんがそう言うと、藍さんは橙と俺を見比べる。
「そうですね。……橙、先に入って来なさい」
「んー、時命が先で良いよ。疲れてるでしょ?」
「その気持ちはありがたいけど、俺は後で良いかな」
「むむむ」
藍さんが悩んだ理由も、最終的に橙を先にした理由も分からないほど鈍感ではないし。
「そうだ、一緒に入ろう時命!」
ん?
「あら、良いじゃない」
「いや良くないですよ紫様!?橙、時命は男なんだから、その、一緒には入らない方がいいと思うぞ」
「んん?男だと何で駄目なんですか?」
「うっ……と、時命からも何とか言ってくれないか!」
こっちに振らないで下さい。何も言えませんから。
「言い考えだと思ったんだけどなぁ」
「ぐっ……」
悲しそうな橙の姿に罪悪感があるのか、呻く藍さん。
後になってこの時に口を挟んでおいた方が良かったと後悔した。
「……ぅぅううう~~!わかった!私と一緒に三人で入るぞ!」
「やったー!」
どうしてそうなる。もっと頑張って下さいよ。形だけ厳しくしてても実際は物凄く橙に甘いですよね藍さん。
そう思いながらも、顔を赤くしつつも喜ぶ橙を見て微笑む藍さんと一緒に、嬉しそうに二人の手を握る橙に連れていかれる。
「え?私だけ除け者?」
寂しく吹き抜ける風。世界を淡く照らす月明かり。一人取り残される私と楽しそうな三人。そこには世界を隔てる壁があるかのような錯覚を――
って、感傷に浸ってる場合じゃないわ!何で私だけ寂しい思いしなきゃならないのよ!
「待ちなさい!私も一緒に入るわ!」
能力を使うことも忘れて走り寄る。
「紫様まで来たら流石に狭いですよ」
「能力で広くすれば問題ないわ、私も一緒に入るんだもん!」
「だもんって、子供ですか……。全く、普段もこれぐらい行動的なら……」
何やらぶつぶつ言っているが、私には関係ないことだろう。
呆れてるよう藍も、楽しそうな橙も、魂が抜けてるような時命も、全員巻き込んで騒ぎながら風呂場へ向かっていった。
なお、サービスシーンはありません