深夜のコンビニ
戦争開始から人の動きもほとんどないこの時間帯に明かりを灯している数少ないものである。
そんな夜の町の灯台に今晩もシフトに入る一人の男がいた。
「あ、南波君。今からなの?」
南波と呼ばれた彼は女性に声をかけられたから少し照れながら答える。
「おう立花さん。あれ?店長は?」
いつもなら真っ先に声をかけてくるであろう店の主がいなかった。
「うん。店長なら今朝から風邪でお休みだって。」
「そ、そっか。お大事にだな。」
そう言うと南波は店の奥へと入りバイトの制服に着替える。
着替えてから店頭に立つ。
(き、気まずい‥‥)
この静かな店内には客はいなければ店長もいない。南波と立花の二人っきりだ。
静かな上に何もすることの無い分余計に意識してしまう。
「南波君?」
「へぇあ!?」
突然声をかけられて変な声が出た。
これに恥ずかしさで真っ赤になる。
「なな、なに?」
「いや、暇なのにそこで立ってても辛いだろうからこっちで座ってたら?お茶入れるよ?」
「お、おう‥ありがとう‥‥」
立花に促され休憩室に向かった。
いつもの定位置に座ると立花がお茶をいれてくれた。
「はい。」
「ありがとう。」
恐る恐るお茶を手にとり南波はお茶をすする。
立花は南波の近くに座るといつも通り売り上げの計算を始める。
休憩室はたちまち南波のお茶を飲む音と立花のペンの音だけとなった。
もちろん。こんな状況では南波の内心は穏やかではなかった。
(しまった!お茶をいれてもらえる事に浮かれてたがこれは向こうで突っ立てるよりキツい!)
いつもなら店長もいて落ち着くはずの時間が、今では幸運なのか不幸なのかわからない。
「‥‥」じろ
南波はそっと立花を見る。
ここしばらくで髪が伸びた立花はロングを一本に束ねポニーテールにしていた。
それだけでもなかなか眼福だったが、この髪の存在がこれまでも目を見張っていた彼女の白い肌をより認識することになった。
(うう、立花さんが計算に夢中で少しうつ伏せるとギリ隠れてたうなじが‥‥‥って!何を見てるんだ俺はよう!)
南波は目を逸らそうとする。しかし、目は正直だった。じっと彼女から視線をずらさない。
(ぐああああ!!見てしまう!どうしても見てしまうんだよ!不味い!こんなの立花さんにバレでもしたら!!)
しかし、当の本人は気付かない。
そんな中、いつも彼女の計算している姿を盗み見している彼はある異変に気付いた。
(あれ?)
立花‥‥いや、リ級は今日も黙々と計算していた。しかし、頭の中は全く集中できていなかった。
リ級は悩んでいた。
一体何にそこまで悩んでいるのか?
少し前までは変装の為とは言えども髪を伸ばした事を面倒がっていたがそれもポニーテールにして解決している。
では、何にそれほど悩んでいるのか?
それはこの状況である。
店長がいないのが彼女にとっても大問題だったのだ。
ただし、南波と二人っきりなのは別に気にしてない。
(店長がいないからお菓子貰えない‥‥‥)
今彼女がやっている計算はお菓子と引き換えでやっている。しかし、今日はお菓子をくれる店長が不在でどれをもらって良いのかわからず手が出せなかった。
いくら対価の約束はあるとは言え勝手な事をして万が一問題を起こせば彼女の苦労は水の泡。
ここにはいられなくなり今後お菓子にあり付くことや任務に支障が出てしまう。
なので今日はおとなしく仕事だけして帰ろう。
と、思っていたのだが
(ああ~~甘いもの欲しい~~!)
我慢しなければと思うほど欲しくなってしまう甘味に彼女の思考はここに有らず状態だった。
(うへぇ~クリーム‥‥、チョコ‥‥)
なので声をかけられてもしばらく気が付かなかった。
「立花さん。」
「ひぃ!あっ南波君‥‥なにかしら?」
「いや‥‥何かいつもと様子が違うと思って‥後、そこ計算間違ってる。」
「え?!あ、あああ!ホントだ!うわっ!元から数字ずれてる!」
「計算ミスるなんて立花さんらしくないな。どうしたの?」
「い、いや何でも‥ないよ。」
言えるか。栄えある深海棲艦の重巡洋艦がまさか甘味欲しさにぼーっとなってたなんて下等生物に知られてたまるか。
「ふーん。まあ、無理しないでよ。あ、そうだ!」
突然立ち上がると南波はレジの方へと行ってしまった。
「南波君‥‥?」
南波はすぐに戻ってきた。
その手には新発売のチョコがあった。
「立花さん、はい。」
「えっ?でもそれ商品‥‥」
「大丈夫。会計は済ましてる。」
南波は自分の財布を取り出して見せた。
「でも‥‥いいの?」
「おう、何か疲れてるならそれ食って元気出せよ。」
「じ、じゃあ、いただきます‥」
立花はチョコを受け取った。
冷静を装うが内心は大喜びだ。
(やったぁぁぁぁぁ♪チョコだ♪しかも前から食べて見たかった新作の!)
「あ、ありがとう‥‥」
しかし、喜びのあまりニヤニヤが少し出てしまい綻んで見えた。
「いやいやいいよ。お茶の礼だ。」
なんて南波も澄まして見せたが彼の内心も大荒れだった。
(うおおおおおお!!あの立花さんが微笑んだ!すっげーー可愛い!)
お互いいつもなら出さない顔をしているがお互い相手の顔どころではない。自分を静めるのに手一杯だった。
(やっぱ買ってよかったな。)
いつも彼女を見ている彼は立花のわずかな変化に気付いたのだ。それで元気にしたくて甘い物をあげることにしたのだ。
‥‥店長がいなくてお菓子を食べさせる人がいないので彼女が食べる姿を見れなかったのが寂しかった気持ちもちょっぴりあったのは秘密だ。
その後、お菓子を食べて元気になった立花はあっという間にミスを直したりしていると二人のシフト交代の時間がやってくる。
「それじゃあねーまたね南波君。」
「おう、またな立花さん。」
二人はまだ暗い道をそれぞれ帰って行く。
(立花さん。可愛いかったな笑ってくれたし‥‥よし!次も何か差し入れしよっと!)
(南波君‥‥人間にしてはいい奴だ。よし、アイツも殺さない人間リストに入れてやるか。)
と、かなりすれ違っているが仲は深まった二人だった。
冗談のつもりがまさか古姫ちゃんよりも先に話思い付いてしまった‥‥この二人の話続くの?