「西野さん、お気をつけて行ってらっしゃいませ。古姫も人を殺さないように気をつけて下さいね。」
「はーい!行ってきます!」
「行ってきます。留守はよろしくねナギサ。」
二人を玄関で見送るナギサ。
二人が出掛けてしまいドアが閉まるとナギサはほっと息をついた。
「ふぅ、今朝は西野さんに叱られるようなミスはありませんでしたね。」
ことメイドに異常なほどのこだわりを持っている西野は掃除や料理はもちろんのこと、仕事中の立ち振る舞いも細かく見ているのだ。
そして何か悪いところがあれば夜のメイド講座にてとことんごうも‥‥こほん、指導されるのだ。
しかし、今日はミスがゼロつまりは‥‥
「まさに完璧な朝!そしてやったね安寧の夜!」
うふふ、これも私が西野さん好みのメイドとして板についてきた証拠でしょうね!
しかも最近は人間の常識も身につけてきました。
そのおかげで前みたいに郵便の人を敵と勘違いして締め上げたりしなくなり笑顔で対応しています。
「でも!油断はせずにこれまで以上に精進を‥‥」
ピンポーン~♪
「あ、来客‥‥にしては早いですね。はぁ~い!」
ナギサは仕事用の笑顔になった。ドアを開けて早朝から来た来客を確認する。
「どちら様でしょうか?‥‥はっ?」
「おはようございます姫様!」
ガチャ!
「姫様!?無言で閉めないで!」
「‥‥だってアナタが直接来る時って大抵緊急のヤバい内容なので。一応聞きますけど何のようですか?」
「あ、はい。姫様が申し上げた通り緊急のヤバいです。」
「‥‥とりあえず中へ。」
誰かに聞かれたら不味いので中で聞くことにした。
「それで、今回はどのような?」
「はい。実は‥‥。」
リ級の顔が険しくなった。
「き、基地司令が数日後来ます‥‥」
「‥‥‥え?」
ナギサはその言葉を理解するのに少しかかった。
そして聞き違いだと思いもう一度聞き直した。
「残念ながら、基地司令は本当に来ます。」
「嘘です!?」
そ、そんな!
あの方が何で来るの?いや、それ以上に
「あの方が来たら絶対にトラブルが起きます!」
「あ‥‥確かに問題を起こすと我々が潜伏していることが鎮守府にばれる恐れも」
「私が西野さんに叱られる!せっかく今日はパーフェクトで説教なしなのに!!」
「‥‥はい。そうですね。」
姫よりも西野と言う人間が恐いとは、何者だ?
「では、お伝えしました。」
「では、じゃないです!何しにどこに等とかは無いのですか?」
「用件は私も知りません。ただ、直接ここに来るとのことなので都合の付く日にちを教えて欲しいだそうです。」
「本当にそんな所は律儀ですね。週末の日曜でお願いします。」
「かしこまりました。」
後ついでに定期連絡もここで済ませてしまうとリ級を帰らせる。しかし、先ほどまでの明るい気分はもう帰って来なかった。
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その日の夜
ナギサは西野に今日のことを報告した。
「と、言う訳です。」
「何とんでもないことを決めちゃってるの。まったく。とりあえず簡単に言うとナギサの上司が来るの?」
「まぁそんなところです。」
「姉様‥‥それは本当ですか?」
「みたいですね‥‥」
ナギサと古姫は同時にうなだれた。
「えっ?そんなにヤバい人なの?」
「いや~なんと言いますか‥‥優しい人なのですが‥‥」
この反応で西野は察した。
「普段は優しいけど怒らせたら滅茶苦茶になるタイプで二人とも過去に怒らせた経験がある、そんなとこ?」
「お、お見事‥‥」
「西野凄い~♪」
「で、具体的にどんな人なの?」
「基地司令、港湾棲姫は基地型、上陸型等と分類される姫クラスです。この手の姫たちはこと陣地防衛と陸上活動全般において最強のアドバンテージを誇っています。」
「陸の上だと深海最強!」
うーん、深海棲艦なのに陸にいること前提なのもそうだけど陸上最強って名誉なの?
「特に港湾棲姫は整備や補給に特化してます。後私はこと夜戦においては最強ですよ!」
わざわざ自慢しなくても‥‥
「ふーん、で。そんなのがわざわざ来る理由は?」
「さあ?それは私にもわかりません。」
「そっか‥‥。」
「そ、そうなんです!ではお休みなさい‥‥」
「でもその話で私の胃が死にそうになったから、私のストレス発散には付き合ってもらうよ?」
「嫌ー!せっかくのパーフェクト日が!!メイド講座はもう嫌ぁぁぁぁぁ!古姫!助けて!」
「西野、姉様、お休み~」
「うん、お休み古姫ちゃん。」
「裏切り者~~!」
「さあ!楽しい夜の始まりだ!」
がしっ!ズルズル
「もう~~(涙)夜恐いの~。西野さんのせいで夜が恐いの~!」
「まったく。夜戦最強が聞いて呆れるよ。」
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ナギサが悪夢の夜戦ルート(メイド講座)へ突入したころ。
例の深夜のコンビニでは‥‥
「‥‥ふぅ」
「立花さん?何かフラフラしてるけど大丈夫?」
「店長、大丈夫です。」
「そ、そうかい?」
立花ことリ級は疲労がピークになっていた。
それもそのはず、基地司令の日本訪問が決まってからその打ち合わせや下準備で基地と隠れ家を行ったり来たりしているのだ。海軍の警戒を掻い潜る今のルートを秘匿するのも一苦労なのに、それを何度も行い長距離航海を行うのだ。
疲れない方がおかしい。なのにバイトをサボらないのはこれこそ彼女の生命線なのに外ならない。
(また売り上げ計算してお菓子貰って‥‥それから上がるついでにエナジードリンクも買っておこうか‥‥)
糖分とドリンクでどうにかしのいでいるリ級。
しかし、それもここまで来ると当然ボロが出る。
「あ‥‥」
ふと体から力が抜けて倒れそうになる。
「うおっと!?」
それを南波がどうにか抱える。
「大丈夫か?!」
「え、うん。大丈夫‥‥」
「いやいや、どう見ても大丈夫じゃないだろ。」
この状況は二人にとってはあまりよくなかった。
リ級にしてみれば弱っているとはいえ人間なんぞに支えられているなんて我慢ならないが先ほどから本当に力が出ないので助かったと素直に感謝している気持ちが押し合っており、素直に感謝できず。
南波にしてみれば、本当に立花を心配している気持ちとそう思っているからこそ今のこの状況を少しラッキーと思ってしまったことに残悪感が発生している。
つまり。二人揃って
((不味い‥‥なんか気まずい‥‥!))
と思ってしまった。
「はぁ。やれやれ‥‥」
この様子を見ていた店長は助け船を出すことにする。
「ほら、やっぱり元気ないね。立花さんは休憩室で休みなさい。」
「はい‥‥」
「南波君、休憩室まで支えてあげなさい。ついでに南波君も休憩入って立花さんの面倒を見てあげてね。」
「はい‥‥えっ?」
「私はレジに立ってるから。頼んだよ。」
南波君‥‥
頑張ってね♪
「‥‥‥。」
(えええええっ!?)
突然の店長の優しさとお節介に驚く南波は叫ぶのは内心だけに押さえた。
「ふら~~」
「はぁ。仕方ない。ほら、行くよ立花さん。」
「うん、ありがと‥‥」
こうして立花と南波は休憩室へと向かった。
この翌日
リ級は打ち合わせのために再び航海へと出るのだがその足どりは軽くどこか楽しそうに見えるのでした。