なぜ、こんなことに成ってるのでしょうか?
この私が、ここまでニンゲンに恐怖させられることになるとは‥‥
これまで彼らに大砲を向けられたこともあった。爆弾を空から落とされることもあった。ある時は無謀にも刃物で斬りかかられたこともあった。それでも私は奴等の事を恐いと思ったことはなかった。
西野さんの所でメイド?とか言う役目を貰い住まわせてもらってから早数日。
彼女との生活に不自由がないようにと人間どもの常識とか言うものを勉強している。
いくら愚かな生物とは言えども仮にも知的生物である。ならその常識は自分でも理解できると考えていた。
しかし、いざ学んで見ると人間の社会の有り様というは実に奥が深い。正直、ある一定の分野のことなどについてなら我々深海棲艦でも取り入れる価値があると思う。
ところが今日‥‥
私はより人間の深みに、不理解のドン底に突き落とされることになる。そして今日ほどニンゲンが恐いと思ったこともなかった。
週末‥‥
人間たちの大体は休日を取るらしい。
まぁ疲れ知らずの我らにすれば必要のないものではあるが好きな事をできると言う点について素晴らしいと思う。
現にこの日1日中西野さんが家にいて構ってくれるのだ。素晴らしきかな週末‥‥
今日の夕方頃に西野さんの同僚で同志と言う人間が遊びに来るらしい。
どんな奴かは知らないが来るならこい!
そして、迎えたこの女性が西野さんの同僚?
一見落ち着きのあるただの人間である。
なにやらケースを持ってきていて大荷物だが‥‥
「この子がナギサちゃん?うん、流石は西野さん。よく仕込んでますね。」
「い~や、まだまだだよ。」
到着してすぐ仲良く語り始める二人。
西野さんがあんなに楽しそうに話すのは見ていてこっちも嬉しくなるが、その相手が自分で無いことに軽くあの東田とか言う人間に殺意が沸いてくる。
やがて二人は買い置きしていた缶ビールを空け始める。なのでかねてからの予定通り私は軽く料理を作り始めた。
ここまではほぼ予定通り‥‥
そして、あの人間も最初の印象通りのなんでこんな奴が西野さんと、と考えてもいたがアルコールが入り一時間もしないうちに様子がおかしくなる。
「だからね!私は嘆かわしいんだよ!最近は紛い物が増えすぎてるの!」
「いえいえ!それは極論と言えますよ!」
「違わない!」
「違います!」
「ど、どうしたのですのかお二方!?」
突然の怒声に思わず火を止めて駆けつける。
「ああっナギサ!いいところに。ナギサはわかってくれるよね?私が教え込んであげたんだから!」
「えっ?な、なにを?」
「こらっ!押し付けはよくないですよ!ナギサちゃんもそんな格好してるってことはやっぱりこっち派だよえ?」
「東田さん!彼女は私のメイドよ!」
「誰のメイドでも価値観の押し付けは良くないことは私達が一番知ってるのでは?」
「押し付けじゃないもん!絶対こっちのほうが似合うもん!」
「なぜか既に彼女には目隠しキャラが出来上がってるのだからそれを活かさないなんて邪道よ!」
「「むむむむむっ!!」」
こ、これはどうすれば‥‥
なんか二人ともさっきより言葉づかいが荒くなってるし顔真っ赤だし‥‥何がどうなってるの!?
「け、喧嘩は止めて下さい!一体何の話をしてるんです?!」
「何ってそれはナギサちゃんが」
「伝統派かコスプレ派のメイド服のどっちが似合うかって話を」
「ちょっと西野さん!コスプレ派は酷い!ロマン派って呼んでっていつも言ってますよね?」
「何がロマンよ!あのねメイド服はねぇ言うなれば仕事着!決められた形式のないその仕事着を着たメイドの仕事姿と服の総合美術こそが至高なのよ!」
「アナタこそ何をおっしゃる!その長いメイドの歴史の中で生まれた白黒の服‥‥そう!今日メイド服と呼ばれる様になったあの服の歴史、そして時代と共に錬成され美しくなっていったことにこそ美のロマンが隠れてるの!」
「なぁにが歴史よ!それっぽい事を言ってるけど!それこそが今のような紛い物を生んでいる元凶なのよ!」
「古い!!古いんですよ西野さんはっ!コスプレと呼ばれるメイド服‥‥それもまた時代の流れによって派生した別の姿、またメイドという人種への仕事、需要の変化多様化の表れなのよ!」
「あんなゴスロリで仕事ができるかっ!!可愛さの重要性は重々承知してる!けれどあれでは総合美術としてのメイド服としては認められない!」
「確かに!可愛さはその身のこなしから生まれる美しさと服の足し算‥いえ!掛け算であることは私も十分理解してます。けれど!」
東田はナギサの方を見る。
「こんな綺麗な子に仕事着としてのメイド服を着せるなんて勿体無いのです!」
「それはわかる。だからこうして話が縺れて‥‥」
「そうです!このまま話し合ってたら収拾がつきません!なので‥‥」
東田は持ってきたケースを開ける。
「私が作った様々なバリエーションの服があるので着せて見て白黒つけましょう!(メイド服だけに)」
「いいね東田さん!私の言ったことが正しかったって事を冥土の土産にしてあげる!(メイド服だけに)」
二人はバッチバチに目から火花を散らす。
「あっ!火で思い出しました。そろそろ料理の続きを‥‥」
ナギサはこれまでの経験から培った勘ですぐさま逃げる事を選択する。
「待ってよナギサちゃん」ガシッ
「誰が戻っていいって言った?」ガシッ
「い、いや‥‥その‥‥」
しかし逃げられなかった。
「せっかくアナタの為に作ったのですから着て貰わないと‥‥ね?」
「ほら、脱いでよ」
「ぬ!?い、いえ脱げと言われましてもこれ装甲のようなものですし‥‥」
「つべこべ」
「言わない」
二人は強制実行!
い、いやああああああああ!
「ほらね、やっぱり白黒が一番似合う♪」
カシャカシャ カシャカシャ
「く、くやじい‥‥でもナギサが可愛いから許す!」
カシャカシャ カシャカシャ
「‥‥‥‥」
二時間に及ぶ着せ替えの結果‥‥
勝敗が付き、二人はメイド服のナギサを写真に納め始めた。一方、ナギサはぐったりとしていた。
「あ、そのメイド服はあげるから使ってね♪」
「ハイ‥‥‥‥」