月に叢、華に風   作:くさむらじゃないよ、むらくもだよ!

1 / 3
その男、クズにつき

どうやら自分には娘がいたらしい。

 

 

聞いた時はまさしく驚天動地ではあったが、心当たりがないかと言われれば否であった。それというのも、少し前はそれはそれは爛れた性生活を送っていたからだ。日本全国をふらふらと、宿業のままに転々とし、その旅の道中で数々の女性と関係を持った。

 

 

それは自分が移ろ気なこともあったが、同時にあの頃人肌に飢えていて、そしてそういう行為が力を得ると言う点に置いて手っ取り早く、また効率的という面もあったからだ。

 

 

セックスとはすなわち命を生み出す行為であり、本来神聖なものだ。自身がやっていたことはセックスフレンドとのお遊びじみたことと言われると反論はしないが、とにもかくにもセックスをして気を得るというのは、理に適ったことである。故にあの頃、力に飢えていた自分はそれはもう、女性を口説いてヤった。正確な数など覚えていないが、おそらく30は下るまい。

 

 

幸いにして、自分はモテた。絶世といってもいい外宇宙邪神並のルックス、十把絡げのモデルを遥かに超越する黄金比スタイル、余人から聞くところに因るどこか浮世離れした神秘的な雰囲気。それもあって、スキンなどという無粋なものもつけず、生でヤることも容易かった。危険な日でも関係なしだ。子供が出来るのも、ある意味当然であった。つまり、自業自得である。

 

 

だからといって、認知しろ、とは言ってこないしまたこちらもする気はない。養う金などいくらでもあるが、認知すると扶養責任とかいろいろ面倒だし。高々血がつながっている程度の子供のためにどうして私が心を砕かねばならないのか。

 

 

それに私と夜を共にした女性たちは、皆一様に凡人とは言い難く、また通常の精神からはかけ離れていた所謂異常者であった。私から異常者呼ばわりされるなど彼女たちは烈火のごとく怒るだろうが、事実であるため他に言いようもない。そしてそんな彼女たちは程度の差はあれ、男女の愛という()()()()を信じておらず、セックスという恋人同士の営みより、雌雄がする交尾といったほうがしっくりくるような、そんな原始回帰した精神の持ち主だったのだ。故にこそ、私は今もこうして一人で暮らしているわけであるし。

 

 

そしてそんな異常者同士の子供ならば、程度の差はあれ、ズレた人間になるのは当然の事であったのだろうか。

 

 

 

「養ってください。」

 

 

などと戯けたことを、開口一番にほざいた彼女を見ながら、そんな無意味な思考を巡らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、一応自己紹介しておこうか。私は駿河叢(むらくも)。それで、君の名前は?」

 

 

「睦柄(むつがら)このえです。」

 

 

「ふぅん。」

 

 

興味なさげな私の反応に苛立ったのか、若干このえの目が険しくなったが仕方がない。実際興味がないのだから、睨まれたところでどうでもよいことでしかない。

 

 

しかし睦柄か。

 

 

 

「君の母親は椛であってるね?」

 

 

「はい。」

 

 

やはりか。睦柄、というのも珍しい名字だしそうだとは思っていたが、そうなるとなぜ彼女の子供が私のところに来たのかということだが。ギャンブルでスって口減らしとかだろうか。有り得ないだろうが。

 

 

「何で来たの?」

 

 

「養ってもらいに来ました。」

 

 

「だからなぜと聞いているんだが。」

 

 

「母が死んだので。」

 

 

「ふぅん。」

 

 

死んだ、死んだ。あの睦柄椛が。いや、私のような不死でもないのだから死ぬのは当然だろうが、それにしたってまた急な話だ。現代の女性にしては気も腕っ節も強い彼女は、滅多なことでは死ななさそうだったが。

 

 

あるいは、その滅多なことが起こったのだろうか。少し興味が湧いた。

 

 

「なんで死んだかは分かるかい?是非とも聞かせてほしいのだが。」

 

 

心なし目を輝かせて身を乗り出す私に、故人をネタにするなんて不謹慎だとでも思ったのか。もはやこのえの機嫌は最下層ぶっちぎりだが、それでも文句を言わないあたり私よりもよほど出来た人間らしい。

 

 

あるいは、ここで私の不興を買えば養ってもらえなくなるから我慢しているのだろうか。そっちの線が濃いか。

 

 

「三カ月くらい前に母は取材に行くと言って、山に向かったんです。私たちが住んでいた町から5kmほど東の、()()()()()のある山に。」

 

 

「吸血・・・姫かい?聞いたことがあるよ。話によるととても良い女らしいじゃないか。それに大層嫉妬深いとも。」

 

 

「・・・私はそこまで興味がないので知りませんが、とにかく。母は民俗学?とかそういう伝承を解明することに目のない人だったので、私も初めはああまたか、くらいにしか思ってませんでした。でも---」

 

 

「待てど暮らせど帰ってこなかった、と?」

 

 

「はい。それで母が音信不通になって一カ月ほど経ったあとで、その山の麓で母の死体が見つかったと連絡があったんです・・・。」

 

 

となると、死ぬまでに最大一カ月のスパンがあるわけだ。その間に彼女が何を見たのかも気になるが、死因も知っておくべきだろうと、私の第六感とも言うべき直感が囁きかけてくる。

 

 

 

「死因は分かるのかい?どうやって、何時死んだとか?」

 

 

「---死因は失血死。体に大小様々な傷は在りましたけど、特に大きいのはお腹に開いた穴みたいな傷でした。でも・・・」

 

 

「でも、なにかな?」

 

 

 

 

 

「普通、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてこと、有り得ますか?」

 

 

 

「---ハ、いいね、とてもいい。俄然やる気と興味がムンムン湧いてきた。」

 

 

ミイラ化した死体に吸血姫伝承。この二つだけ分かっていればそれでいい。動く理由には弱かろうが、所詮単なる暇つぶしだ。何もなければそれでもいい。

 

 

停滞は毒だ。既知は病だ。未来永劫日常という牢獄に囚われ続けるなど御免だし、ここいらで一石を投じたいと思う気持ちはある。故、こちらから動くとしようか。

 

 

---そうだね、とりあえずは吸血姫を家政婦にでもしようか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。