少女短編集   作:北間 ユウリ

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M4A1,M16A1

 特殊幸福理論第四定理

 

 

 

 M4は少々引っ込み思案が過ぎる、とM16は考える。

 別に、それ自体は悪いことではない。引っ込み思案ということは臆病ということであり、それは物事を俯瞰的に見ることに繋がるからだ。小隊のリーダーであり、最重要とされる人形であるM4にとって積極的に直すようなものではない。

 ただ、それが必ずしも全てにプラスに働くわけではなく、その一例かつM16が懸念しているのが、彼女の恋愛についてである。

 M4は指揮官に恋愛感情を抱いている。これは姉であるM16の目から見て、間違えようのない事だ。出会いからして、囚われのお姫様と助けに来た王子様のような出会いであり、王子様が人の良い人物なのだから、M16にもそれは納得できた。

 しかし、指揮官を恋慕するのがM4だけかというと、そうではなく。基地に居る殆どの人形がM4のライバルであるのだ。その中に、同じ小隊の仲間であるAR15も含まれている。

 そして、今もっとも指揮官に近い人形といえばAR15であり、M4はその後塵を拝するということになっている。

 当然のこととして、M16は仲間であるAR15も大切に思っているし、AR15がうまくやってることも喜ばしいと思う。が、それはそれとして妹であるM4を応援したいというのも本心であり、色々と考えた結果として、M16はM4を呼び出したのだ。

 

「……つまり、お酒を飲みたいから私を呼んだ、というわけではないんですね?」

「あああ当たり前だろ!? 私が妹の恋バナを肴に酒を飲むような奴に見えるか!?」

 

 返答は冷たい視線。先ほど受けた説明の最中にも、M16は何度もその右手に握ったグラスを呷っているのを、M4は見逃していなかった。

 そんな妹の冷たい視線を咳払いで受け流しつつ、M16は再び唇を湿らす。

 

「……で、だ。M4はどう思ってるんだ?」

「どうって……」

「今の現状をだよ。AR15に先を行かれて、今のままじゃ指揮官とくっつくのはAR15だぞ? それを指咥えて見てるのか?」

「私は……」

 

 M16の問い掛けに、M4は水の入ったグラスをぎゅっと握り締める。からん、と氷がグラスとぶつかった。

 

「……私は、それでもいいんです」

「……そりゃ、どうしてだ?」

 

 すっと、片方だけの目が細められる。それは威圧ではなく、理解のための目。

 右側に座る少女は、じっとグラスを見つめて、ぽつり、ぽつりと言葉を溢す。

 

「……確かに、私は指揮官のことが、好きです。でも……AR15のことも好きなんです。AR小隊の仲間だし、友達だから……」

「……だから、私は、AR15が指揮官と……それでも、きっと……彼女を祝福できると思うんです」

「……私は、部隊の皆がいれば、部隊の皆が幸せなら、それで……十分だから」

 

 言い終わって、M4はふっと嗤う。水の中の氷は、まだ形を保って水に浮いている。

 妹のその表情を見て、M16はすっと視線をさ迷わせ。

 

「……ま、お前がそう言うなら、私からは何も言わないさ」

「……」

「だから、こっから先は私の独り言だ」

 

 いいか、独り言だからな?

 

 念を押すようにもう一度言って、M16はウイスキーをちびちびと飲みながら、ゆっくりと話始める。

 

「M4が仲間を大切に思ってくれることは嬉しいよ。だがな、それは私だって同じだ。AR15も、SOPMOD2もな」

「その上で、それぞれが自分の好きなものを追っかけてるんだ。私の場合はコレで、SOPMOD2は……あー、コレクションな。で、AR15は言わんでも分かるだろ?」

「まあ、私が思うに、M4はもっとワガママになっていいと思うんだよな」

「欲しいものは欲しいって言って良いし、その為に行動したって良いんだ。皆がそうしてるのに、M4だけやっちゃいけないなんて決まりは何処にだって無いんだからな」

「それで、仲間の誰かの欲しいものをお前が持ってっても、最後にゃ皆祝福するさ。スパッと割り切れはしないだろうが、私達の絆はそんなもんで崩れるようなもんじゃないだろ?」

「……ま、私からはこれだけだ。後はM4のやりたいようにすればいいさ」

 

 あくまで独り言に過ぎない、隣に座る妹に向けた言葉を紡ぎ終え、M16は喉にウイスキーを流し込む。

 

「……私は、指揮官が、好きです」

「ああ」

「でも、AR15も、指揮官が好きなんです」

「そうだな」

「……きっと、取り合いになっちゃいます」

「だろうな」

「最後には、きっと……傷付きます」

「そりゃ、仕方ないだろうな」

「それでも、私は、指揮官と……指揮官が欲しいと、そう思っても、いいんでしょうか?」

「良いんだよ」

「今からでも、間に合うのかな……?」

「がんばれば、間に合うかもな」

「そっか……」

 

 小さく、口の中で呟き。

 M4は、立ち上がった。

 

「ちょっと、行ってきます」

「おう、行ってこい。……頑張れよ」

 

「……はい!」

 

 少しだけ、何かが吹っ切れたような笑顔を浮かべて、M4が駆けて行く。

 その背中を見送り、M16は、最後の一杯をぐいっと呷って。

 

「……はぁー。ライバル増やしちまったなぁ……でも仕方ないよなぁ、妹かわいいしなぁ……」

 

 そう言って、M16はカウンターに突っ伏した。

 基地に居る人形の殆どが、指揮官を恋慕している。

 その中に、M16が居ないと、誰が言っただろうか。

 

 

 

 

 特殊幸福理論第四定理/改訂第十六版

 




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  • 孤独乖離曲線(WA2000)
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