嫉妬とは、緑色の目をした怪物だという。
鏡とは、過去の自分を映すものである。
すれ違う温度
ぬるま湯は嫌い。どっちつかずの温度は、私の「炎」を鈍らせるから。
だから、シャワーを浴びる時は必ず、肌がひりつくほどの熱湯にする。
その痛みは、頬を張られた痛みによく似ているから。
シャワーに打たれながら、曇った鏡のガラスを拭う。そして、映っている自分の左目の、赤い涙のタトゥーに指で触れる。
コレがある限り、私に安息は訪れない。外ならぬ私が、ソレを受け入れられない。
痛みに焼かれながら、私はタトゥーを刻んだ日の誓いを呟く。
「何時か『奴ら』に取って代わる……いつか……」
鏡の中の緑色の瞳が、じっと私を睨んでいた。
ぬるま湯はあまり好きじゃない。それはとても心地が良くて、何時までも浸かっていたくなる。
だから私は、身体の芯まで凍り付くような冷水を浴びる。
その冷たさは、きっと孤独の温度と似ているだろうから。
閉じていた左目を開いて、鏡を見る。右目の辺りに触れれば、鏡の中の私が手で傷跡を覆い隠す。
そうして、傷の見えなくなった私の顔が、あの頃の記憶を思い出させて。
感傷に浸りかけた私を、冷気が現実へと引き戻す。鏡に映った私の顔には、後悔と、懐古と、そして――……
「……ははっ。なんて顔をしてるんだ、私は」
情けなく歪んだ顔に頭突きをかまして、嘲笑をこぼす。身体がすっかり冷え切るまでシャワーを浴びて、止めた。
「……416?」
「……M16」
シャワールームの個室から出たところで、二人はばったりと顔を合わせた。
「お前も……シャワー浴びてたのか」
「……ええ」
「そうか……」
一言、二言言葉が飛んで、それで彼女たちの会話は途切れる。
何か話題はなかったか、とM16は考えようとして、すぐにその思考を切り捨てる。今の自分たちは、談笑するような仲でも、何でもないのだから。
それ故に、M16は416から顔を背け、言葉もなく立ち去る。これが他の人形だったら、別れの言葉くらいは言っただろうかなどと、益体もない事を冷めた頭の片隅で考えながら。
そんなM16の背中に、416は思わず手を伸ばそうとして。
しかし何かに拒まれるように止めて、そっと自分の胸元へと引き寄せる。
そして、胸の中のナニカを確かめるように、手を固く握り締めて。
M16が去った方向へ背を向けて、歩き出した。
冷水と熱湯は、混ざり合えばぬるま湯となる。
けれど、混ざらず、触れ合わず、冷やし続け、熱し続けるのなら。
冷水は冷水のままで、熱湯は熱湯のままだ。
いつまでも、ずっと。
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