魔法少女さやか☆マギカ   作:神谷萌

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第8話:出会えてよかったと思うよ

 上条家。

 バイオリン練習用の防音室。恭介の左腕の上で、弦の上を、弓が滑るように走っていく。バイオリンは滑らかな音色を、美しい旋律として奏でていく。

 ────すると。

 ティローン、ティローン

 それを遮るにはあまりに無粋な電子音が、演奏に没頭していた恭介を我に返らせた。

 一度バイオリンを下ろすと、小さなテーブルの上に置いてあった、黒のDoCoMo・Panasonic P-01Cに手を伸ばす。

 メールの着信が入っていた。

 フリップを開いて確認すると、仁美からのメールが1通。

「くすっ」

 その、中学生の少女らしい、他愛もない内容のメールに、恭介は声を漏らして微笑みつつ、返信を打ち込み始めた。

 それを送信し終えたところで、、恭介はふと思い出すように考える。

 そう言えば、まだ、退院してから、さやかとじっくり話してないな……

 そう思った恭介は、メモリダイヤルから“美樹さやか”のアドレスを呼び出す。

 入院中は酷いこともしてしまったし、それに……昨日の事も気になるし。

 心の中で言い訳めいた言葉を紡ぎながら、恭介は通話ボタンを押した。

 トゥルルルルル……と、呼び出し音が鳴る。

 

 

 

 沈黙が支配する、光を吸い込む黒い霧の中で────

 突然、電子音が『微熱S.O.S!!』のサビ部分の着メロを奏で始めた。

 静寂を切り裂かれ、その音の中心にいたさやかは、ゆっくりと歩いていた姿勢からビクッと背筋をはねさせる。

「いけね、着信音切っとくの忘れてた」

 視界の届く範囲には自分しかいないにも関わらず、さやかは、気まずさを感じて、声に出して誤魔化すようにそう呟いた。慌しくスカートのポケットに手を入れ、ピンクのAU・日立beskeyを取り出し、そのフリップを開いた。

「恭介……?」

 ディスプレィに表示された発信元の情報を見て、さやかは、一瞬キョトンとしてそれを凝視してしまう。

 浅く息を飲むようにしてから、通話ボタンを押そうと指を伸ばして────

『いたぞ! 信号の1本手前の路地だ』

 杏子の発したテレパシーが、頭に響いてきた。

 さやかは、まだ着信音を鳴らし続ける携帯電話のフリップを折りたたみ、

「ごめん恭介、また後で」

 と、そう呟きつつ、軽く後ろ髪引かれる様にしながら、それをポケットにねじ込む。それから、右手の指に嵌っているソウルジェムの指輪を本来の姿に戻すと、その発する光を身に纏いながら、その場から駆け出した。

 魔法少女の装束姿になったさやかは、澄み切った青の閃光のように、黒い闇を切り裂いて、水平に跳躍するように駆け出した。

 

 ビュビュビュビュッ

 目の前にいる魔獣の、その身体の前に、無数の、シャープペンシルを模ったモノが現れたかと思うと、それは弾丸となって、対峙する杏子に襲い掛かる。

「ちぃっ」

 後ろにさがりつつ、右に転がるようにしてそれの大半をかわす。槍の柄の連結をはずして多節棍に変えつつ、軌道を微妙にカーブさせながら杏子を狙ってくるシャープペンシルを、すべて弾き返した。

「こりゃ相性悪いな……あいつら来ないとどうしようもないか?」

 妙な線に姿を変えた、元は電柱だったそれに身を隠しつつ、顔だけ覗かせてその様子を伺う。

 その魔獣は、日本の女子学生用としては古典的な、白と紺のセーラー服に身を包んでいた。

 だが、その体形は明らかに男性のものであり、しかも──人間の数倍のスケールであることは別にしても──衣装がぱっつんと張るほどの巨躯だった。

 顔はケインのついた、中世欧風の兜ですっぽりと隠し、虚ろに彷徨う両腕の、右手にはシャープペンシルが握られていた。

「!?」

 杏子が、はっと、意識を己の周りに戻したとき、あたりを無数の、どす黒い光球が取り囲んでいることに気がついた。

「しまっ……」

 杏子が己の失態に気付いたとき、黒い光を放つスフィアは、矢に姿を変えて杏子に襲い掛かろうとするところだった。

 まずい、死んだか。

 杏子がそう意識した、次の瞬間。

 発射されるはずだった黒い光の槍に向かって、同じ数の黄金色の閃光が迸り、撃ち砕いていく。

「もっと早く来るべきだったかしら?」

 近くにあった別の、2基の柱上トランスの乗った電柱の頂点に立ち、マミが微笑みながらそう言った。

「うっせ」

 杏子は、照れ隠しに鼻の下を擦りつつ、マミを振り返って苦笑交じりにそう言ってから、槍を構えて、魔獣を正面に見据えるように、路地の中央に仁王立ちになる。

「行くぜ! しっかり援護しろよ!」

「任せておいて」

 杏子は、槍の穂先を下げて突進の大勢を作りながら言う。

 杏子の言葉に、マミは、そう答えながら、左手、右手の順で、その身体の横に弧を描くように手のひらを開いた状態でゆっくり振り下ろす。星屑のような光とともに、白銀の銃床をもつスナイドル銃が、無数に出現する。

「うらぁ!」

 杏子が突進をかける。

 魔獣は、黒い光のスフィアを生み出し、それを矢に変えて杏子めがけて迸らせる。

「Sparalo!!」

 マミが手を前に振りかざしながら叫ぶ。空中に浮かぶ無数のスナイドルのサイドハンマーが叩かれ、銃口から黄金色の閃光が迸る。

 黄金色の閃光の雨が、黒い光の矢を撃ち砕いていく。

 杏子は、剣呑な雨が交錯する中を、魔獣めがけて突進していく。

「!」

 杏子が眼前に迫ると、魔獣は今度は、シャープペンシルの槍を無数に生み出した。その穂先が、悉く杏子を睨んでいる。

「早々同じ手を食うかよ!」

 杏子がそう言った瞬間には、槍の柄の連結が外れて、多節棍がシャープペンシルの槍を薙ぎ払う。

「行けっ」

 杏子は、まるでそれが予定されていたかのように、シャープペンシルの槍を打ち払いながら、不敵に笑って、そう言った。

「はぁぁぁっ!」

 杏子の背後からすり抜けるように現れたさやかが、その周囲に何本かの細身の剣を纏うようにしながら、青い光を身体に纏わせつつ、魔獣に向かって迫る。

 魔獣は、さやかに迫られて、じりとわずかに交代する。だが、そこまでだった。

 さやかが、右手に握っていた剣で、魔獣の身体を横一文字に薙ぎ払う。兜に覆われた、というより、兜そのものがそれであった首が跳ね飛ばされる。

 魔獣はそれでも、腕を虚空にばたつかせてもがくように暴れていたが、

「これで、とどめだぁっ」

 と、さやかが、空中に出現させていた剣の1本を新たに手に取り、魔獣の胴を袈裟斬りにした。

 青い光を纏った剣に斬り裂かれた魔獣は、ぐらりと姿勢を崩して倒れかけたかと思うと、そうなりきる前に、身体が塵のように崩壊して消滅して行った。

「よっしゃあ!」

 さやかは、細い裏路地の、アスファルトの路面に着地すると、その場で腕を振り上げて勝ち鬨を上げる。

「おい、こら、最後においしいとこだけもってって、自分が主役みたいな顔すんな」

 杏子は、連結させた槍を片手にゆるく持ちながら、さやかに近付いてきて、ため息混じりに、呆れたようにそう言った。

「えー、だってあたしがいなかったらとどめはさせなかったじゃん?」

 さやかは、頭の後ろに両手を組みながら、そう言った。

「マミがいるだろ? …………いつものアレでよ」

 杏子は、そう言ってしまってから、気恥ずかしそうに鼻先を赤らめつつ、ちらりとマミを振り返る。

「そうね、なんとかならないことはなかったかもしれないけど、佐倉さんを援護しながらだし大技は難しくはあったわね。かといって私1人じゃあ、照準(エイム)の時間を貰えたか疑問だし……さやかさんがいて、助かったんじゃないかしら?」

 マミは、スナイドルの1丁を両手で抱えたまま、そう言いつつ、近付いてくる。

「ほーらみろー」

 さやかが、どこか勝ち誇ったように、ニタニタと笑いながら杏子を見る。

「でも、さやかさんはあまり調子に乗って、油断に繋がらないようにね」

「うっ……」

 苦笑気味のマミにそう言われて、途端にさやかが顔色を失う。

「へっ、怒られてやんの」

 逆に、杏子がにやりと笑う。

「うっ、うるさいやい」

 さやかが、杏子に向かって乱暴に声を上げた。

「へへっ、まだまだひよっ子なんだから、気ぃ抜かないようにしろよ」

 杏子はそう言いつつ、

「よっ」

 と、左足を上げた。

「って、アンタ!?」

「佐倉さん!?」

 さやかとマミはそれを見てぎょっとする。

 杏子の左脛を、黒い光の矢が貫いていた。「ジジッ」と音を立てながら消えかけているそれが穿った傷口から、足へ向かって血が滴っている。

「別に驚くほどのもんじゃねぇだろ、アタシらの身体、これぐらいはどうってことないんだし、出血が多いわけでもないしよ」

 杏子自身は慌てた様子もなく、落ち着き払ってそう言った。

「そういう問題じゃないでしょ、そういうのは早く見せなさいよ」

 さやかは、身を乗り出して、杏子の上げた足に手を伸ばそうとする。

「なんだよ、大丈夫だって、アタシでも、これぐらい」

「見てるこっちが痛々しいのよ」

 杏子は面食らったような声を出すが、さやかは、構わずその場にしゃがみこんで、杏子の脚の傷に右手を近づける。

 優しげな青い光が、さやかの手のひらから杏子の傷口に向かって流れていく。黒い光の矢は霧のように掻き消えて、傷口そのものも、最初からそれがなかったかのように消えた。

「これでよし……と。手間かけさせないでよね」

「う、うっさいな、別に頼んだわけじゃねーだろ」

 やれやれといったようにため息混じりにいうさやかに対し、杏子は、顔を真っ赤にしながら、困惑交じりに荒い声を出すものの、

「け、ど、まぁ、変に傷跡とか残さないですんだし、ありがと、な」

 と、急に視線を伏せがちにして、つけ加えるようにそう言った。

「まったく、素直じゃないんだから」

「ふふ」

 さやかはふんぞり返るような態度をとる。

 そんな2人を見て、マミは微笑ましげに笑い声を上げた。

「さ、とりあえずこの場は解散しましょうか」

 マミが、そう言って微笑みながら、魔法少女の装束を解く。

 辺りを覆っていた黒い霧はすでに晴れていたが、とうに陽は沈んでいて、商店街の表通りから零れてくる鮮やかな光だけがあたりを照らしていた。

「へーいへい」

 杏子が適当に言いつつ、さやかともども、2人もマミに倣って衣装を元に戻した。

「と言っても、アンタは別に帰る場所一緒でしょ」

 さやかは、杏子に向かって苦笑交じりにそう言った。

「なんだよ、来いって言ったのはマミの方だぞ」

 杏子は、少し決まりが悪そうに言い返す。

 杏子は今、1人暮らしのマミの家に転がり込んでいた。

「だって、佐倉さん、ほっとくとホテルに不正宿泊したり、危ない場所で野宿したりするんだもの……ほっとけないでしょ?」

 マミは、軽く短いため息をついて、苦笑しながらそう言った。

「アンタねぇ……」

 さやかは、杏子にジト目を向けて、呆れきったように言う。

「なんだよ、しょーがねーだろ、アタシの家はあんなだし、他に行くトコなんてねーんだからよ」

「あっ……」

 決まり悪そうに、顔を赤らめながら言う杏子の言葉を聞いて、さやかは、はっと口元を押さえる。

「ごめん……あたし、また考えなしな事言っちゃって」

「いや、構わないさ。褒められたことじゃねぇのは解ってるしな」

 杏子はさらりとした感じでそう言った。

「さやかさんも来る? まだそれほど遅い時間でもないし、夕飯ぐらい一緒にしてもいいでしょう?」

 マミは、口元で穏やかに笑いながら、さやかを見つめてそう提案した。

「いいんですか?」

 さやかは、目を円くしてそう言うものの、口元は笑ってしまっている。

「ええ、人数が多い方が楽しいものね」

 マミは、そう言ってニコッと満面の笑みになった。

「あっ、じゃあ、是非お願いします!」

 さやかは軽く興奮気味に言う。

「ええ、喜んで」

 マミは笑顔のままそう答えた。

「おい、早く行こうぜー」

 杏子が、待ちきれないと言ったように、2人を振り返りつつも、早くも歩き出そうとしながら、そう言った。

「あ、待って」

 マミが慌てて杏子を追い、さやかがそれに続く。

「あ、ウチに電話しとかないと」

 さやかは、2人の後ろに続いて歩きつつ、スカートのポケットから携帯電話を取り出した。

「あ」

 さやかは、フリップを開いてそのメインディスプレィを見たところで、その事を思い出す。

 ディスプレィには『着信あり 1件』と表示されており、それを選択して決定ボタンを押すと、着信履歴の先頭に『恭介携帯』と表示された。

「そっか、さっき出られなかったんだっけ」

 さやかは、前にいる2人にも聞こえない程度の声で呟いた。そのまま折り返し連絡しようと、発信ボタンを押そうとして、その直前で指を止めた。

「…………」

 視線を上に向けて少し逡巡してから、別にキーを押してアドレス帳情報を呼び出し、メールに切り替える。

 

 ティローン、ティローン

 再び、バイオリンの音色を、電子音がさえぎった。

 自らの演奏に割り込んできた無粋なそれに気がつくと、恭介は、再び演奏を止めて、携帯電話に手を伸ばした。

 フリップを開くと、Eメール着信の表示が出ていたため、キーを押してその情報を表示させる。

「えっ」

 恭介は、そのメールの本文を開いて、軽く驚いたような声を出した。

 発信者は『美樹さやか』になっている。

『さっきは電話出られなくてごめん。でも、なにか困ったことがあるんなら、仁美に相談してあげなよ。その方が仁美、喜ぶよ』

 さやかにしてみれば、やや思い込みはあるものの、善意のつもりでの提案だった。

 だが、それを見た恭介は、軽く自失したように、しばし目を見開いていた。

「なんで……?」

 恭介は、クモの巣にまとわりつかれているような、言いようのない中途半端な不快感を感じていた。

 

 

「行ってきまーす」

 翌日。

 美樹家の玄関を開き、さやかが背後に威勢良くそう言い残しながら、あわただしく出てくる。

「ふぁ……眠いなぁ……」

 1人で登校路を進みつつ、不意に出た欠伸を手で抑えながら、さやかはそう呟いた。

「マミのところに長居しすぎだよ。ご両親が甘いからって、あんまり遅いのは感心しないけどな」

 さやかの隣を、小動物姿のサッきゅんが、トコトコと4本足で歩きつつ、嗜めるようにそう言った。

「しょうがないじゃん、むにゅ、杏子のやつがもう1回もう1回ってしつこいからさ」

 さやかは、眠たげな表情で、口元を捏ねるようなしぐさをはさみつつ、そう言った。

 巴邸に置いてあったNintendo Wiiと、Wii版『太鼓の達人』を杏子が見つけたのがことの始まり。

 アーケードの、所謂音ゲーなら早々負けない程度の実力、と、自負していた杏子だったが、彼女が家庭用ゲーム機のWiiコントローラーに慣れているはずもなく、結果さやかにもマミにも大惨敗。

 しかしそこは負けず嫌いな杏子のこと、再戦をせびっては23時近くまで2人をつきあわせた挙句、

「ダンレボならぜってー負けねぇ!」

 と、捨て台詞を残しつつ、自分はダイニングのベンチベッドで不貞寝を始めてしまった。

「あいつ自分は早起きする必要ないからって、ふぁぁぁ……」

 杏子の行動に愚痴る間にも、さらに欠伸が出る。

 そしてふと、今日もその、信号もついていない小さな交差点でさやかの足が止まった。

「…………」

「やっぱり、何か感じるのかい?」

 無言で、新興住宅地を覗き込むさやかに、サッきゅんが声をかけた。

「うん……なんだろうね?」

 さやかは、眠気のせいか、あまりはっきりとしない口調で、そう言った。

「さ、遅れちゃう、さっさと行こ」

 さやかは、自分に言い聞かせるように言うと、登校路を行く歩みを再開した。

 やがて、見滝原中学校正面の、公園の遊歩道までたどり着く。

「あ……」

 その行く先に、遠目によく見知った後姿が見えた。

 さやかは、一度歩みを止め、僅かにおいてから、明らかにそれまでよりゆっくりと、歩みを再開した。

「声……かけないの?」

 傍らをトットッと歩くサッきゅんは、はるか前方に見える仁美の後姿を見て、視線は向けずにさやかに問いかけた。

「……うん」

 さやかは、うつむきがちの姿勢で、躊躇うような口調でそう答えた。

「友達、やめちゃうの?」

 サッきゅんは、トットッと歩きつつ、首をかしげるような仕種でさやかを見上げて、聞き返した。

「そんなつもりはないけど……今は、ちょっと……」

 さやかは、俯いた姿勢のまま、言葉を詰まらせながらそう答える。

「そっか……」

「乙女心は複雑なの。アンタたちには、解からないかも知れないけどね」

 さやかは、その場の微妙に重苦しい雰囲気を誤魔化すように、苦笑しながらそう言った。

「! ひっどいなぁ、ボクたちは感情を持たないわけじゃないんだよ?」

 サッきゅんが、ややおどけ混じりにしつつも、憤慨したように声を上げる。

「でも、へんてこな宇宙生物にそんな事言われても説得力無いって」

 さやかは、歯を見せて苦笑しつつ、サッきゅんに視線を向けてそう言った。

「この身体は単なる生体端末。君たちとは多少形態は違うけど、文明を築くのに必要な肉体を持ってたんだよ」

 サッきゅんはそこまで勢いよく言ってから、

「……もともとはね」

 と、軽く自嘲するように、静かに付け加えた。

「その存在意義を喪ってはいるけれど、それでも、ネットワークの向こう側には誰かがいる。文明的な産業を基礎にした社会の形成において、個性(パーソナリティ)の交錯は不可避かつ必須の事象だよ」

 サッきゅんは、重々しい口調で吐露するように言う。が、その相手のさやかは、理解の範囲を超えてしまったらしく、目を円くして返答に困っていた。

「本来なら」

 より低い声で、サッきゅんはさらに言う。

「こんな、キミたちを耐久消費財扱いするような出会い方じゃなくて、ボクたちと地球文明と、友好的な出会いを果たしたかった」

 それを聞いて、さやかの表情が真剣なものに変わった。

「この広い宇宙の中でボクらもキミたちも孤独じゃないんだ、って。この星で『E.T.』って映画が公開されたときは、多くの仲間がその内容に泣いたよ」

「…………」

 サッきゅんの言葉に、さやかは真剣な表情で少し逡巡した後、

「でも、あたしはサッきゅんと出会えてよかったと思うよ。凄く後悔したこともあるけど、それは自業自得ってところもあるんだし、結果的にはよかったんだと思える」

 と、ニコッと笑ってそう言った。

「…………ありがとう、さやかにそう言ってもらえると多少は気が楽になるよ」

 サッきゅんも、まだ自嘲混じりながらも、そう言って笑った。

 さやかは、仁美とは接触しないまま、校門、昇降口を通り、階段を上がって、2年4組の教室へと向かった。

「おはよーっす」

「あ、さやか、おはよー」

 さやかが挨拶しながら教室に入ると、クラスメイトがそれに気づいて振り返り、挨拶を返す。さやかは、そのまま自分の席に向かうと、カバンを机に放り出しつつ、椅子を引いて座ろうとする。

「おはよう、さやか」

 そう、よく知った声が背後からかけられたとき、さやかは心臓が飛び出るかと思うほどに驚いて、全身を跳ね上がらせた。

「って、なんだ、恭介か」

 さやかはそう言って振り返る。本当は彼の声だから驚いたのだが、反射的な言葉はそれに触れない。

「さやか、昨日はどうしたの?」

「へ?」

 恭介の言葉の意図が理解できず、さやかは目を円くする。

「電話かけた時出なかったし、それに……」

「ああ、うん、一昨日言ってた3年の先輩とちょっと遊んでて、それと──」

 さやかは、そこまで言って、少し考えてから、

「他の学校のやつと」

 と、そう言って、杏子のことについてははぐらかした。

「あんな時間まで?」

「いや、それがそのもう1人ってやつがさ、負けるたびにもう1回もう1回って言うもんだから、ついつい遅くなっちゃってさ」

 怪訝そうに聞き返してくる恭介に対して、さやかは、後頭部を掻く仕種をしながら、苦笑してそう説明した。

 実際には恭介の携帯電話から着信があったときにはそうではなかった、が、さやかは、誤魔化すのにこれ幸いと、杏子を出汁に使った。

「それならいいけど……あまり家の人に心配かけちゃだめだよ?」

 恭介は心配そうな表情をして、さやかにそう言った。

「大丈夫、解かってるって」

 さやかは、表面的にそう答えてから、急に表情を砕けさせる。

「そんなことより、いくら相手があたしだからって、他の女の子と話してると、仁美が妬いちゃうよ? 女の嫉妬は怖いんだから」

 さやかは、そう言って、恭介を仁美のいる方に向かって、半ば突き飛ばすようにして押し出した。

「え、あ、うん」

 恭介は、そう言って仁美のいる方に視線を向ける。

 当の仁美は、自分の席に……ではなく、教室の廊下側の壁に寄りかかって、俯きがちにこちらを伺っていた。

 恭介がそちらの方に立ち去った後で、さやかは、急に気が抜けたように、はぁ、とため息を吐き出し、それから、がっくりと頷いた。

「やっぱきっついなぁ~」

 思わず、声に漏れる。

 あたしの気持ちに、気づいてよ!

 割り切ったはずなのに、いざ言葉を交わすと、心の片隅でそう悲鳴が上がった。

 さやかは、無意識のうちに、苦しげに、右手で胸を押さえていた。

 

「ヒマだ……」

 屋上。

 授業が始まってしまうと、マミやさやかのところにいるわけにも行かず、サッきゅんは、屋上に設置されたベンチの上でちょん、と座っていることぐらいしかできない。

 サッきゅんがヒマなのは、魔獣の気配もなく平穏ということで好ましいのだが、どうにも手持ち無沙汰でしょうがなかった。

「杏子の所にでも行ってみようかな」

 サッきゅんがそう逡巡していると、キーンコーンカーンコーン、と、屋上の屋外スピーカーから、チャイムが鳴り響いた。

「そういえば、マミが持たせてくれたクッキーがあったっけ」

 サッきゅんはその存在を思い出すものの、

「でも、別にボクたちは食べ物を必要としているわけじゃないからなぁ」

 と、自嘲気味に呟く。

「あ、そっか」

 さらに、ある事実に気がつくと、右耳にピアスでぶら下がるソウルジェムを点滅させた。

 変身してこの星の人間の姿になれば、食物を採ることが可能になる。ただし、もともと経口による栄養補給を必須としない以上、嗜好以外の意味はなかったが。

 とは言え、さやかや杏子が絶賛するお菓子作りの腕前だし、サッきゅん自身も、マミを満足させることが主目的だったとは言え、何度か口にしたことはあるし、それに対して高い評価を持っていた。

 早速とばかりに、魔法少女システムを濫用しかけたとき。

 ガチャリ、と、校舎からの出入り口である鉄扉が開いた。

 サッきゅんは、驚いて、変身を中止して、その場でびくんと前足を突っ張って硬直する。

 その人物は、金網の内側にあるハシゴ型のフェンスに向かってまっすぐに歩き、正面からそれにもたれかかった。

「はぁ……」

 複雑そうな表情で、深くため息をつく。

「こうなることは覚悟していたはずですのに……どうして今更……」

 その人物は、しばらく重苦しそうに遠くを見つめていたが、

「あら?」

 と、不意にベンチの方を見て、短く声を上げた。

「可愛らしい縫いぐるみ……どなたかの忘れ物でしょうか?」

「えっ?」

 くすっと微笑みながら自分を覗き込んでくる相手の言葉を聞いて、思わず、サッきゅんは声に出していた。

「志筑仁美、キミにボクが見えるのかい?」

「まぁ、最近の玩具は対話もできるんですの?」

 仁美は、いつもの世間知らずのお嬢様然とした様子でサッきゅんを覗き込みつつ、誰にともなくそう声に出したが、急に怪訝そうに眉を潜める。

「…………どうして、私の名前を?」

「ボクは玩具じゃないよ。ボクはSQ。サッきゅんて呼ぶ人もいるね」

 サッきゅんは、仁美に向かって向き直り、そう言った。

「ボクと契約して魔法少女にならないかい? ボクは、魔獣と戦う運命を背負ってもらう代わりに、ひとつだけ、キミの願いをかなえる奇跡を起こしてあげるよ」

「まぁ」

 この時点でも、仁美にはサッきゅんが己の意思で会話しているとは感じていなかった。

 魔法少女……テレビマンガのマスコットかなにかでしょうか?

 仁美は、そのよくできた玩具、程度に思っていた。

「魅力的なお話ですけれど、私、今充分充実しておりますし、遠慮させていただきますわ」

 仁美は、相手を玩具だと思いつつも、わざわざ言葉にしてそう言った。

「それでは、失礼させていただきますわね」

 そう言って、仁美はその場を立ち去る。

 本音では、目の前にある玩具を置き忘れた誰かに、今の自分を見られるのが嫌だからだった。

 だが、背後にこんな言葉を聞いた。聞いてしまった。

 

「キミにはそれが正しい選択だと思うよ。お互いのためにね」

 

 

 キーンコーンカーンコーン……

 鐘の音を模した電子音が、放課を告げる。

「お待たせ」

 昇降口で、さやかが下駄箱にもたれかかりながらキョロキョロとしていると、そこへマミがやってきて、声をかけた。

「あ、大丈夫です、今来たところですから」

 さやかは苦笑混じりにそう言った。

「3年生はどうしても長くなりがちなのよ」

「まぁ、しょうがないですねー」

 昇降口から出て、校門へと向かいながら、そんな会話を交わす。

「そういえばマミさん、進学とか、どうするんですか?」

「そうね……」

 さやかに訊ねられて、マミは口元に手を当て、視線を上向かせて軽く考え込む。

「あまりはっきりと決められていないわね……今までは生きるのに精一杯で、将来がどうとか深く考えたことがなかったから」

「そっか……マミさん……」

 マミの答えに、むしろさやかの方が深く落ち込んだかのように視線を下げる。

「でも、一応高校は出ておきたいかな。それなりのレベルのところでいいから」

「あたしはそのそれなりも駄目そうだ……」

 決して成績優秀というわけでもないさやかは、マミの言葉を聞いて、オーバーリアクション気味にがっくりと肩を落とす。

「私も人のことが言えるような成績じゃないわよ」

 マミはそう言って苦笑した。

 そんなやり取りをしながら、校門を出て、公園の遊歩道へと歩みを進める。

「そう言えば、サッきゅんは? さやかさんと一緒にいたんじゃなかったの?」

「えっ」

 マミが辺りを見回すようにしながら言うと、さやかはキョトン、としたような表情になる。

「昼休みぐらいから姿が見えなくって、てっきりマミさんの方に行ってるのかと思いました」

「私は見てないわ。それに、3年の教室には近づきたがらないの」

「えっ、どうしてです?」

 マミの答えに、さやかはさらに聞き返す。

「微妙な時期でしょ、“見え”やすいのよ」

 複雑そうな表情で、マミが言う。

「さすがに受験なんて一過性のもので契約受けちゃうと、大変なことになっちゃうでしょ。だから」

「なるほど……」

 さやかは、感心したような声を出してから、

「魔法少女の世界も世知辛いものですなぁ」

 と、おどけ交じりに苦笑しながらそう言った。

「佐倉さんのところかしらね、ひょっとしたら、魔獣が出て彼女が対処してたのかも知れないし」

 マミは、軽く逡巡するようにしつつ、そう言ってから、

「それだったら、早く戻ってあげないと。今頃佐倉さん、お腹空かせてるわ」

 と、穏やかに苦笑しながら言った。

「あいつ、ほんっと常に何か口に入れてるイメージですもんねー」

 さやかも、おどけたように苦笑しながら、そう同意した。

 

「へっくしゅ」

 同じ頃、見滝原駅南口商店街の裏路地。

 建物の影で、昼間でもあまり直射日光の指さないそこにいた杏子は、魔法少女の装束を身にまとっていた。

「さやかのやつ、下んない話でもしてるんじゃないだろうな」

 鼻の下を擦りながら、杏子は1人で毒つく。

 マミやさやかの予想は、サッきゅんの動向という点では外れていたが、残り半分は当たっていた。

 巴邸でゴロゴロとヒマをつぶしていたところ、至近に魔獣の気配を感じて、その捜索に当たっていた。

 ────近くにいる、こっちへ来る!

 黒い霧は出ていない。あまり強くはない魔獣なのだろう。

 裏路地の、さらに建物と建物の隙間から、それは現れた。

「なっ!?」

 その姿を見て、杏子は面食らったように、素っ頓狂な声を漏らした。

 それは、まるでゴブリン、とでも表現すればいいのか、明らかに異質な小人が、操り人形を操りながらふらふらと彷徨っている、というものだった。

 問題はそのディテール。

 異質な小人は、ワンピースを着て、前髪にヘアピンを2つ留めたボブカットの少女という、杏子が最近知った姿を模していた。

 半ば無軌道に彷徨いつつ、両手で操り人形の糸を操る。糸に操られるまま、人形はミニチュアのバイオリンを弾き続けている。

「なんだ、この、胸糞悪い!」

 杏子はその姿に対する嫌悪感のあまり、相手の規模も考えない全力の攻撃で、一瞬にして魔獣を木っ端微塵に砕いていた。

「!」

 魔獣の気配が消えるのを感じたところで、杏子は我に返る。

「まさか!? アイツ!」

 目を見開き、見滝原中学校のある方角を身体ごと振り返っていた。

 

 

 上条邸の防音室。

 恭介の左腕の上で、バイオリンが滑らかな音を奏でていた。

 日常的な光景。

 ただ、いつもと違ったのは、珍しく身内以外のギャラリーがいたことだった。

 弓は滑るように弦を引き、整った音楽を奏で続ける。

 ────と。

 ギィ

 不意に、弓が弦に対して逆らう動きをし、耳障りなノイズを立てる。

「っ……」

 恭介は、一瞬、下唇を噛む仕種をしてから、はっと我に返った。

「ごめん、まだ……本調子じゃないみたいでさ」

 少し緊張した様子で苦笑しながら、相手に向かってそう言った。

「無理はいけませんわ」

 外部の人間には滅多に見せることのない練習風景に入り込んだ相手──志筑仁美は、心配そうな表情を恭介に向けて、そう言った。

「まだ、怪我が治ったばかりなのですし、脚のほうはまだ完治していないのですから」

「うん、でも大丈夫」

 恭介は、にこやかな笑顔で言う。

「手の方は、まったく問題ないからね。まるで怪我なんか最初からなかったみたいだ、奇跡としか言いようがないって、言われるほどだから」

「ですけれど、身体全体のことを考えてくださいませ」

 仁美は、なおも心配気に言った。

「うん、ありがとう」

 恭介は、屈託のない笑顔で言う。

「少し休憩しようかな」

 恭介は身体の緊張を解すと、本来立って演奏するところを、用意されたパイプ椅子の、背摺りにもたれかかるようにして、言う。

「お茶のおかわりでも用意するかい?」

「あ、それでしたら、私が────」

 恭介の言葉に、仁美は、休憩用においてあるソファから立ち上がって、そこで、譜面の並べられた本棚の片隅にある、それに気がついた。

「これは……?」

 その写真立てには、、何かの表彰の盾らしきものを持った幼い頃の恭介が、家族や知人と写っている写真が飾られていた。

「ああ、それは」

 仁美が凝視するものに気づいた恭介は、リラックスした態度で、苦笑混じりに言う。

「県のジュニア・コンクールで初めて金賞をとった時の写真なんだ」

 なるほど、確かにそれなら記念品として、この部屋に飾ってあるのも頷ける。

 だが、問題は、一緒に写りこんでいる人物、その中の1人だった。

「さやかさんとは、この頃からのお付き合いでしたのね……」

「え?」

 恭介は、一瞬、聞き返すような声を出してしまってから、

「ああ、うん。もともと家族同士の知り合いだったんだけど、僕とさやかが2人で遊ぶようになったのは、この頃からだったかな」

 と、懐かしそうに言った。

「さやかはまるで男の子みたいでね、僕はどっちかって言うとおとなしい方だったから、お互い両親にどっちが男の子だか解からないって言われてたな」

 ついつい、思い出話を口にしてしまう恭介だったが、写真を凝視して押し黙っている仁美の様子に、さすがに気まずさを感じ取った。

「……ごめん、さすがに志筑さんにする話じゃなかったかな。今朝もさやかに注意されたばかりだってのに…………」

「いえ、そんなことはありませんわ」

 仁美は、そのときばかりはその言葉に他意があるわけではなく、そう言って恭介を振り返った。

「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」

 恭介は苦笑しながら言う。

「昔からそう言う付き合いだからさ、男と女としてじゃないけど、お互い大切な親友なんだ」

「…………!」

 そこで、恭介の表情が俄かに曇り始めたことに、仁美は気がついた。

「僕が入院してたときも、さやかは3日とあけずにお見舞いに来てくれてね。鬱陶しいって感じちゃったこともあるけど、今になってみると、それで僕もずいぶん助けられたんだなって思う」

「ええ、それは解かります……」

「でも……」

 恭介の表情から、すっかりと笑みが消えた。

「最近、さやかは僕を避けているような気がするんだ」

「…………」

 すれ違っている気持ちのことを、仁美は気づいていたが、それを口に出すことはできなかった。

 なにより恭介は、自分の想いに答えてくれたのだから。

「確かに、入院中、僕はさやかに対してひどいことをしてしまったこともあったんだ。でも、手が治ったときは、一緒に喜んでくれて……怒ってるとは、思わなかったんだけど、それは、甘かったのかな」

 恭介は、寂しそうにそう言った。

 一方、仁美は、目を円くして恭介を凝視しつつ、頭の中でパズルが一気に組みあがっていくような感覚を覚えていた。

 ────それを組み上げてはいけない、と、心のどこかで悲鳴が上がるのを感じながら。

 

 

 バンッ!

 巴邸。

 玄関の鉄扉が、乱暴に開けられた。

「ちょっ、何やってんのよ、アンタ」

 台所に立っていたマミに代わり、何事かと様子を見に来たさやかは、そこに杏子の姿を認めると、その乱暴な態度に軽く憤ったような態度で、声を上げる。

 だが、さやかの言葉にはかまわず、杏子は土足なのも構っていられないというように、一気にさやかに迫ってきた。

「ちょっ、な、何よ?」

「アンタ……大丈夫なんだよな? なんともなってないよな!?」

「はぁ?」

 あまりに唐突な杏子の態度に、さやかは目を白黒とさせるばかりだった。

「ちょっと、ワケ解かんないってば。ってか、アンタこそ大丈夫?」

 さやかは思い切り怪訝そうに眉を寄せて、杏子に問いただし返す。

「商店街にいたんだよ! アンタそっくりの魔獣が! だから、もしかしたらアンタに何かあったんじゃないかと思って!」

「あたしそっくりの魔獣? って言われても……」

 杏子は、切羽詰ったような真剣な言葉でそう言うが、正気を失った覚えもないさやかは、怪訝そうに、鸚鵡返しに聞き返すことしかできない。

「キミの心配は杞憂だよ、杏子」

 杏子の背後、開けられたままのドアから、小動物姿のサッきゅんが姿を現す。

「サッきゅん?」

「杏子が心配するのも無理はないんだ」

 サッきゅんはそう言って、説明を始める。

「魔法少女は、ソウルジェムとなった魂に、一時的に外部からの負の感情のエネルギーを溜め込んで、その一部を魔力にしながら、最終的に大半を昇華させる。だから、魔法少女自身が呪いを生み始めると、その反動で、人間のそれが生み出すものとは比べ物にならない、強力な魔獣になるのさ。ボクらはそれを魔女とも呼んでる。何度も言ったよね、軽率な願いは本末転倒になるって。それは、そう言うことなんだ」

「…………それは解かったけど、別にあたしはなんともないわよ?」

 さやかは、まるで押し倒してきそうな杏子を振りほどこうとしつつ、今度はその怪訝そうな表情をサッきゅんに向けて、問いかけるように言う。

「うん、ボクには解かるよ。さやかは今はそれほど不安定じゃない。地球人ならよくある程度の感情の振幅だ。心配するほどじゃないよ」

 サッきゅんは静かな口調でそう言った。

「じゃあ、あれはただの偶然かよ?」

 杏子は、ようやくさやかを解放して、サッきゅんの方を向きながらそう言った。

「ボクは実際にその魔獣を見ていないからね。でも、そうとしか言いようがないんじゃないかな」

 サッきゅんは、楽観そうにそう言った。

 

 

 すれ違う想いに気付いていた。

 それに付け込んだのも事実だった。

 でも、“Why”をたださなかったのも事実だ。

 

 そのパズルが音を立てて、頭の中で完成していこうとする。

 心をきしませながら。

 

 奇跡としか言いようがないって────

 

 キミの願いをかなえる奇跡を起こしてあげるよ────

 

 避けているような気がするんだ────

 

 魔獣と戦う運命を背負ってもらう代わりに────

 

「ま、さ、か……────!!」

 

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