【2045年 4月10日 帝王国際学園 多目的体育館】
「と、いうわけで。君たちはこれからこの学園の生徒として、18歳まで生活してもらう。初めての学校で戸惑うことも多いだろうけど、頑張ってくれたまえ」
桜の開花もピークを通り過ぎ、『出会いと別れの季節』なんて呼ばれる四月上旬。
真新しい制服を身につけ、無駄に広い多目的体育館に並べられた椅子に座りながら、この俺、秋雨大河は壇上で長ったらしく喋るこの学園の校長を恨みがましい目で見ていた。
ここ、帝王国際学園は海の上に浮かぶ東西10km、南北16kmの巨大な人工島だ。
太平洋のど真ん中に存在するこの島には、航空機での出入りが禁止されているため、船に数十時間乗って、こんなところまで来たのだが、着いて早々この入学式だ。
長旅の終了直後に要領を得ない校長の話を数十分も聞かされ続ければ、大抵の人間はその校長に恨みがましい目の一つも向けるだろう。
なんとか意識を保ちながら校長の話を聞き流しているが、正直眠くてしょうがない。
船の中では寝ていなかった――否、眠ることができなかった――せいで俺の体力も限界に近づいている。
「さて、長話もなんですので、そろそろ話を終えて、入学式を閉じましょうか」
喧嘩売ってんのかと問い詰めたくなる校長の言葉を最後に、入学式は終了した。
入学式という名の拷問を終えた俺たち新入生は、廊下に張り出されたクラスごとに移動していく。 初等部から高等部まで存在するこの学園は、異常なまでに人数が多い。
生徒総数は10万人を超え、一学年につき1万人近い生徒が存在する。
そんな訳で、当然クラスの数も馬鹿みたいに多い。
今年の新入生1万人を少しづつ振り分けたのだから、数百クラスは存在する。
しかし、そこは巨大すぎる人工島。
当然校舎も巨大で、教室に加えて特別教室も数多く存在し、10万人では使いきれないほどの大きさを誇っている。
そして、そんな巨大な後者の最果て、第3校舎6階の最奥部。
合同学年クラス0組。
入学資料に書かれている限り、この学園のいろんな意味の最底辺が集まる超問題児学級。
何故俺がそんな問題児学級に送られることになったのか、それは少し前にさかのぼる。
あれは、俺の帝王国際学園入学が決まった日から始まった・・・
【2044年 12月23日 某市立中学校 会議室】
「俺が、推薦?」
当時中学3年生だった俺は、担任教師に聞き返した。
定年退職間際でバツ2のウチのクラスの担任は俺に確かに「推薦」と言った。
「そうだ、推薦だ。お前の学力じゃ他の高校には行けないし、お前の家には私立に行く金もないだろう」
そう、俺はぶっち切りで勉強ができない。
全教科平均点6点。
今までよくやってきたというレベルだ。
そんな俺に推薦というのは冗談にしか聞こえない。
俺なんて、ここら辺じゃ珍しい『異能力者』であるだけだ。
その能力も、対して役に立たないポンコツ能力だ。
「まあ、推薦の話を信じるとして、推薦先って、何処ですか?」
この現状で高校を選んでられる場合ではないのだが、自分の行く高校を知る権利くらいあるだろう。
「まあ、知りたいだろうな。いいか、秋雨。驚くなよ?お前に声が掛かったのは帝王国際学」
「お断りします失礼しましたまた明日」
担任のセリフをぶった斬り、俺は会議室の扉に手をかける。
「いやいや!待て待て待て待て!何で断るんだ秋雨!」
断るに決まってるだろこのバツ2ハゲ!
帝王国際学園は海に浮かぶ人工島の学園で全寮制、ここまではいい。
帝王国際学園は『異能力者』を育成している、ここまでもいい。
だが、育成された異能力者は見込みがあれば戦場へ、見込みがなければ天国へ。
それがまことしやかに囁かれている帝王国際学園の噂だ。
俺はその噂を信じていなかったが、流石に入学させられて本当にそうだったら洒落にならない。
そんな物騒な噂が流れている学校に行って、万が一にも死んだら大変どころじゃねえだろうが!
「秋雨は噂を気にしているのか?大丈夫だ。そんなの嘘に決まっているだろう」
担任(バツ2ハゲ)が朗らかに言ってくるが、生憎と俺はそんな言葉では乗らん。
「とにかく、帝王国際学園に行くくらいなら中学浪人でいいです」
俺はそう言って会議室から出ようとした。
が、俺を阻む者がいた。
担任ではない。担任はさっきまで俺のすぐ後ろにいたのだ。
会議室を清掃に来た業者?違う、今日は清掃の日じゃない。
会議室に用があった生徒?否、生徒はもう全員帰宅している時間だ。今残っているのは、推薦の話で残っている俺くらいだ。
それでは誰が?そう思って一歩引き、俺を遮った人間を見てみる。
2mはある身長に、漆黒のスーツ、真っ黒なグラサンをかけ、耳には映画とかでたまに見かけるインカムを装着した黒人男性がこちらを見下ろしていた。
誰だ?この人。
新任の英語教師とかそういうのではないだろう。離任式はまだ先だ。
誰かのご家族?そもそも会議室に来る理由がないな
まさかとは思うが
「あの、先生?」
俺は恐る恐る首を回し、担任に話しかける。
俺の予想が外れていることを願いながら。
「ん?何だ?」
この黒人男性に一切疑問を持ってなさそうな顔を見て、俺の当たって欲しくない予想が当たっている気がしてくる。
「この外国人男性、誰っすか?」
俺は冷や汗を流しながら担任に聞く。
「ああ、帝王国際学園からのお迎えだよ。先生、もうお前の推薦出してたから」
ピクピクと俺のこめかみに青筋が浮かび上がる。
担任は何故かにこやかかつ、晴れやかな顔でこちらを見ている。
そんな担任に俺から贈る言葉はただ一つ。
「死に晒せこの腐れハゲがぁあああ!!!」
俺は思いっきり担任の顔面を蹴り飛ばした。
「ぐふああ!」
吹っ飛んでいくハゲ。
そのまま壁に激突し、泡を吹いて気絶する。
「誰が帝王国際学園なんか行くかよ!」
幸いにも一階だった会議室の窓から飛び出し、俺は黒服から逃走する。
後ろから「Wait! Do not run away!」とか黒服が叫んでいるけど、英語のテストで一桁常連組の筆頭である俺にそんな言葉が理解できるはずもなく、そのまま逃走を続行する。
今思えば、あの時俺が黒服から逃げていなければ、0組に入ることもなかったかもしれない。
俺は今現在、あの逃走を人生で一番後悔しているのだった。