【2045年 5月7日 帝王国際学園 合同学年0組】
「いいか秋雨。補修や留年が嫌なら、死んでも1点は取れ」
テスト直前、イカサマの準備を終えたらしい俊哉さんが物凄い真面目な顔で言ってきた。
内容は全然真面目ではないのだが、俊哉さん曰く、5教科の合計点が5点以上(1教科でも0点取ればアウト)なら俊哉さんのイカサマのおかげで留年や補修を回避できるらしい。
どういう作戦なのかは一切教えてもらえず、そもそも作戦の存在自体他言無用。
神楽坂先生にイカサマの事が知れたら2度と同じ作戦が使えないし、全員が死ぬほど怖い折檻を受けることになると青い顔で言われた。
一体過去に何があったのだろうか。
キーンコーンカーンコーンッ!!
寮長が最近いじったせいで馬鹿みたいに大きくなった音量のチャイムを聞きながら、テストが開始された。
今回こそは真面目に5点を取る!
あれ?これは真面目なのか?
少なくとも俺は真面目だと思っているのだが、目標点数5点(総合)っていうのは如何なるものか?
『別にいいんじゃないか?お前の自由だろ、目標点数なんて』
頭の中で仏が入学式以来初めて喋った。
『もっと高みを目指せよ!諦めるな!』
無駄に熱い神が俺に、これも入学式以来初めて喋りかけてきた。
『お前には無理だ。2点にしろ』
おいキリスト、テメエ俺を見くびりすぎだ。
俺ならもっと点取れるんだよ!
『無理』
『無理』
『無理っ★』
テメエら入学式の時から変わってねえぞ、おい!
だが、俺はテメエらとは違う、進歩してるんだよ!だから叫ばねえ!
『なん・・・だと?』
つーかこれ以上テメエらと喋ってる時間はねえ。
シャーペンでカリカリと答案を書く音だけが教室に響き渡る。
俺にしか聞こえない三馬鹿(神仏キリスト)も俺が真面目にテストを受け始めたからなのかもう喋りかけてこなくなった。
カリカリ。
カリカリ。
イカサマなど本当にやっているのだろうかと思いたくなるほど静かに、何の変哲もなくテストは続く。
「おい秋雨。調子はどうだ」
最近俺たち以外は近寄らなくなった学食のテーブルで、俺の知る限り入学式からずっと食べ続けている生姜焼き定食を口に頬張りながら俊哉さんが聞いてくる。
この人は本当に生姜焼き定食しか食べられない呪いでも受けているのだろうか。
いや、朝食や夕食では普通になんでも食べているから違うのか?いやでも・・・。
「おい、人の話を聞け」
俊哉さんのチョップで俺が思考を元に戻すと、満面の笑みで答える。
「すげえいいです。これなら行けます!」
実際、俊哉さんやさじを投げた後も渋々勉強に付き合ってくれたアスラや、その後手伝ってくれたカミラさんやリナさん、夜食を割烹着姿で作り続けた寮長など、様々な助けのおかげか、5点どころか普通にテストで勝負できそうな気すらする。
「ふーん・・・まあ、それならそれでもいいな。イカサマは続行するが」
ああ、やっぱり続行はするんだ。
「頼むぞ大河。お前が補修になると俺たちまで巻き添えを食う」
何故に先輩方まで。
「神楽坂先生は『大河君があれだけ頑張ってテストを受けて、その結果が悪くて一人補修なんて可愛そうです。さあ、皆さんも一緒にやりましょう』とか笑顔で言ってくると思いますよ。一年間の付き合いで分かっています」
リナさんが乾いた笑みを浮かべる。
どうやら以前にも似たようなことがあったらしい。
「それにしても、テスト終わったら少し羽を伸ばせますかね?」
少しでも気を紛らわせるためにそんなことを言ってみる。
そんな俺の発言に、俊哉さんが手帳を確認して、さらに苦い顔をする。
「つーか、テスト終わっても他クラス交流会とかいうイベントある・・・またあいつらと関わるのか・・・」
全力でげんなりしていた。
他クラス交流会という単語を聞いて、カミラさんとリナさんもげんなりとした顔になる。
「その・・・俊哉さん、あいつらって、一体」
「黙れ秋雨。今はテストに集中しろ」
俊哉さんの放った威圧感に、質問を最後まで言い終えることすら許されず、俺は沈黙した。
今まで見たこともない、寮長に対して怒るのとも、俺の勉強について怒るのとも違う、そんな顔を俊哉さんはしていた。
「・・・悪い。脅かす気は無かった。だが、その話はするな」
それだけ言うと、車椅子を操ってどこかへ行ってしまった。
「まあ、俺からも今話すことはねえな。とりあえず今はテストを頑張れ」
カミラさんもそう言い残してどこかへ行ってしまう。
「私からも何も言うことはありません。テスト頑張ってくださいね」
リナさんもそう言ってどこかへ行ってしまう。
残されたのは俺とアスラだけだ。
なんか男子と女子で二人きりっていうのも気まずいので、俺は早足に学食を後にする。
その時、俺の頭の中は俊哉さんの語らなかった話と、アスラと二人っきりという気まずさと、テストの事で一杯だった。
だから気づかなかったのだ。
俺たちを値踏みするように、集団で観察していた生徒たちに。
それから何事もなくテストも進み、
「お疲れ様でしたー!!」
久々に勉強漬けの日々から解放され、開放感のある夕食を迎えられた。
当日中に発表されたテストの総合平均点は、65点。
俺のテストの結果は合計点135点。
ぶっちぎりで平均点越えだ。
「お前が平均点取れないなら、平均点を地に落とせばいいじゃねえか」
というのは俊哉さんの言葉。
Kと名乗るサングラスを装着した先輩が、俺たち以外の生徒の答案をすべてすり替えたらしい。
先輩の異能力は『転送』と呼ばれ、金庫や封筒の中身をすり替えることもできるらしい。
俊哉さんが頼み込んで手伝ってもらい、適当な答案とすり替えてもらったらしい。
「まあ、何はともあれ、秋雨とアスラの補修回避を祝して、乾杯!!」
ジュースをグラスに注いで全員で騒ぐ。
間違ってアルコールの入った俊哉さんが妙に絡んできたり、酔っぱらった寮長とカミラさんが殴り合いに発展したり、アスラのペースに合わせて食べていたリナさんがぶっ倒れたり。
様々な騒ぎが起こる中、俺たちは終始笑顔だった。
しかし、次の週に俺たちの笑顔は凍り付くことになる。
奴らのせいで。