【2045年 5月16日 帝王国際学園 特別アリーナ】
『さあ!いよいよお互いの大将の登場だあああ!』
中々に強い日差しの下、古代ローマの闘技場のような見た目のアリーナの中央で、俺は奴と睨み合っていた。
同じ歳でありながら、将来を有望視されている異能力者。
柏原裕大、それが俺の目の前に立っている敵の名だ。
「へえ、逃げずに来たんだ。いいね、そういうの」
軽薄な笑みを浮かべながら、こちらを見つめる柏原。
この睨み合いを見ている大多数の人間は知らないだろう。
俺が何故こいつと睨み合っているのか、そして俺は何故こいつに勝負を挑んだのか。
説明すると長くなるが、あれは5日程前、交流会の熱も冷め始めた昼の頃だった。
「俊哉さん。俺、たまに貴方が賢いのか馬鹿なのかわからなくなるんですよね」
「うるせえ」
今日も今日とて、いつもの0組の面子で学食の一部を占領している中、俺が呟き俊哉さんが反論した。
そんな俊哉さんの言葉も、いつもより元気がない。
「いや、今回ばかりはフォローできねえよ。お前」
目を細めてカミラさんが俊哉さんを一瞥する。
当の俊哉さんは不機嫌そうに、否、物凄い不機嫌に生姜焼き定食を口に運んでいる。
この人と初めて学食に来たのが4月の半ば頃だったが、1か月間毎日一緒に学食へ来ているのに生姜焼き以外を食っている光景を見たことがない。
最早、生姜焼き定食以外のものを昼飯にしてはいけない、とかいう呪いにでもかかっているのだろうかと本気で考えそうになる。
「俺の体がどうなろうと、俺の勝手だ。一々口をはさむな」
普段より、七割増しでぶっきらぼうになっている俊哉さんだが、その原因は本人の足にある。
俺が入学して初めて見た時よりも入念に包帯で固定され、絶対に無理ができないようにしてある。
座っているのは学食備え付けの椅子ではなく、愛用の車椅子。
もうお分かりだろうが、俊哉さんの足の怪我は悪化し、もう一度車椅子生活となったのだ。
原因は当然、無茶な異能力の運用に復帰直後の過剰な運動。あと、俺が吹っ飛ばして壁にぶつけたのも響いているらしい。
「まったく・・・神楽坂先生の説教は食らうし、体育館の倒壊届と反省文は書く羽目になるし、挙句の果てに中崎の野郎は無傷だし・・・ッ!」
怒りに任せて箸を握りしめる俊哉さん。
その顔には青筋が浮かんでおり、物凄く怖い。
同じクラスじゃなかったら、絶対にこの席で食事などできなかっただろうってくらい怖い。
ミシミシという音が箸から聞こえ始めたため、慌てて止めるも、そのせいで俊哉さんの機嫌は更に悪くなった。
「ま、まあまあ!落ち着いてください俊哉君、顔が怖いですよ」
リナさんが俊哉さんをなだめるが、いまいち効果がない。
そんな殺伐とした日常風景を送っていると、なにやら学食の中央あたりが騒がしくなってきた。
「どうしたんですかね、あれ」
俺が親指で騒がしい方向を指差す。
そこでは、複数人の生徒が何やら言い争っているようだった。
「大して珍しくもねえだろ、騒ぎくらい」
カミラさんがそう言う。
実際、そうだから否定もできない。
活気盛んなお年頃であるこの学園の異能力者たちは、事あるごとに喧嘩したり殴り合ったり異能力で喧嘩したりと、騒がしい。
喧嘩など日常茶飯事で、むしろ学食が静かな方が珍しいという。
「それって、喧嘩してるのが個人じゃないからじゃないんですか?」
リナさんが、そんなことを指摘する。
俺は、振り返って騒がしい方向を見る。
そこには、百人以上の生徒が睨み合っていた。
中央にいるのは、黒い長髪が暑苦しそうな男子と対照的に坊主頭の涼しそうな男子だ。
「あれ?あのロン毛、噂の転校生じゃねえのか?」
一人黙々と食事を続けていた俊哉さんが言う。
「転校生?そんなのいたんですか?」
普通、転校生が来ればそこら中が騒ぎ立てること間違いないのだろうが、そんな噂の転校生なんていう話は一度も聞いたことがない。
「いや、転校生は年がら年中普通に来るぞ。異能力者なんて、それこそ腐るほどいるしな」
俊哉さんが、そう補足する。
世界人口の4割が異能力者と言われている現代、確かにこの学園に入る異能力者は多いだろう。
「ただ、その腐るほどいる転校生の中でも、特に注目されてるのがあのロン毛だ。名前は・・・なんつったっけ?」
ただ、大して興味はないようだ。
「柏原裕大君・・・だったと思いますよ。かなり希少な異能力を持っているとか」
リナさんがそう呟く。
この人は他学年他クラスにも人脈があるため、そういう話も知っているのだろう。
「で、その期待の転校生サマがなにやってんだ?」
料理を平らげたカミラさんが、頬杖を突きながら言う。
確かに、そんな有名人がいきなり大人数の喧嘩をするのも妙だ。
「大河、アスラ。これだけはよく聞け」
少しの間黙っていた俊哉さんが、真面目な顔で言ってくる。
「どうもあの一年、嫌な感じがする。目を見ればわかるが、あれは徹底的に他人を道具としか見てないタイプの奴だ。今も、相手の坊主頭のことをジャガイモか五月蠅い虫くらいにしか見てねえ」
俊哉さんはそう警告すると、さっさと食堂を出て行ってしまった。
今思えば、あの時にもう少し調べていればよかったのかもしれない。
あの忌々しい、略奪者の事を。