【2044年 1月7日 帝王国際学園行き定期船内】
目が覚めると、俺は船内のベッドの上にいた。
服装はアスラに倒された時とは違い、見覚えのない制服を着ている。
黒を基調とした軍服のようなその制服の右肩には、紅い五芒星が描かれていた。
悪名高き、帝王国際学園の校生である。
となると、この船は帝王国際学園へ向かっているのだろう。
アスラが「帝王国際学園へ送検する」って言ってた通り、俺は連れ去られたわけだ。
ポケットに入っていた携帯で日付を確認すると、12月30日。
俺がアスラに倒されてから2週間以上が経過していた。
アスラに蹴り飛ばされたみぞおちが痛むが、それを両手で抑えることも今の俺には出来ない。
俺の左腕は見るからに頑丈そうな鎖でベッドの柱に固定されていた。
引っ張っても叩いても全然壊れそうにないその鎖で俺は繋がれているのだが、はてさて、帝王国際学園へ連れていかれて俺に未来はあるのだろうか。
帝王国際学園にはアスラのような人間が恐らく多く在籍しているだろう。
むしろ、それ以上の存在が。
俺の捕獲なんてものを命じられたアスラがあれだけ強かったのだ。
それ以上の存在なんて五万といるだろう。
まあ、考えていてもしょうがないかな。どうせ逃げられそうもないし。
『おや、目が覚めましたか』
そんな事を考えていると、室内のスピーカーから声が聞こえた。
低く、威圧感があるが、どこか暖かい、そんな不思議な声だ。
『秋雨大河君、少々待っていてください、食事を運びます』
言われて気づくが、俺は2週間以上の間、何も食べていなかったのだ。
当然、栄養も足りてないし腹もペコペコだ。
数分後、食事を持ってきてくれた軍服のような服を着た青年が食事のために鎖を外してくれた瞬間、青年の顔面を殴り飛ばし、食事を口に詰め込むと、即座に部屋の外に出た。
こんな場所に監禁された状態で学校へ向かわさせるなんて、絶対にまともな学校じゃねえ。
ここは船の上で逃げ道はないが、最悪海に飛び込んで泳いで何処かへ逃げよう。
そんな計画を立てているうちに、けたたましい警報が船内に鳴り響いた。
『逃亡者アリ、逃亡者アリ!逃亡者は入学番号9878秋雨大河!繰り返す!逃亡者は入学番号9878秋雨大河!』
もうバレたのか!
俺は一刻も早く船から脱出するために窓から逃げようとする。
しかし、人生そう上手くはいかない。
「再び逃走するのか、秋雨大河」
聞き覚えのある声が、今一番聞きたくなかった声が聞こえた。
振り返ると、そこにはやはり銀髪に青い瞳、2週間前と同じ灰色のパーカーとズボンを身につけた少女、アスラが立っていた。
「いい加減にしろ、秋雨大河。学園に到着するまで大人しくしていろ」
アスラの言葉を無視し、窓からの逃走を試みる。
だが、やっぱりというかなんというかアスラの攻撃が来る。
だが、今回は前回のようにはいかない。
俺は心の奥にいる何かに念じるように集中する。
俺の異能力を発動するために。
アスラの蹴りがあと少しの所まで迫る。
そして、蹴りが直撃する寸前、俺の体が黄緑色の粒子で包まれる。
瞬間、爆発的な速度で俺の体はアスラから離れた。
10m離れ、着地する。
「貴様…異能力を…」
アスラが意外そうにこちらを見ている。
「はっはっは!!いつまでも単調な蹴り技が通用すると思ったら大間違ふがああ!!」
俺の言葉が途中で中断されたのは顔面にアスラの投げた花瓶が激突したからだ。
「ふむ、人でなければ避けられないようだな」
冷静に分析しているアスラをよそに、割れた花瓶の破片が顔に刺さっている俺は悶絶しながら床を転げまわる。
「があああ!!痛えええ!!」
顔に刺さった破片を抜いていくが、抜いた部分からだらだらと血が滴る。
「おい、秋雨大河。顔が物凄く気色悪いぞ」
「誰のせいだと思ってやがるんだテメエ!!」
あくまで淡々と自分の主張だけを言ってくるアスラに向かって怒声を上げる。
「いたぞ、秋雨大河だ!」
聞こえたのは男性の声だ。
俺がその方向を見ると、若干ビビリながらもこちらを見ているさっき俺が殴り飛ばした青年と同じ服を着た女性がいた。
女性に素でビビられたのに多少のショックを受けていたが、そんな事を気にしている場合ではないと気づいた時には、既に10名ほどの同じ服を着た人間に囲まれていた。
広いとは言い難い船内で暴れ回りながら叫んでいたら、そりゃあ気づかれるな。
そして、俺を取り囲んでいる軍服たちは全員拳銃を所持している。
流石に武装した集団相手に勝てるわけがない。
俺は静かに両手を上げると、顔面血だらけで降伏の意を示した。
それからというもの、それはそれは悲惨な3ヶ月だった。
懲罰として3ヶ月の間、独房のような場所に放り込まれ、毎日毎日説教を聞き続け、俺がぶん殴った青年に謝り、時々茶化しに来たアスラと言い争いをしては怒られ…。
ろくな時間もないまま、今に至る。
中学の卒業式も出席できず、友人たちに別れも告げずにこんな学校へ来てしまった。
それに、入るのは正体不明の0組。
不安でしょうがない。
「おい、秋雨」
正直こんな場所で生きていく自信もないし、俺の異能力では喧嘩になってもせいぜい逃げに徹することしかできない。
「おい、聞いているのか」
アスラにも一度見られただけで破られたし、他の人間にも効くには効くが、効果的とは言い難いだろう。
となると、何かほかの使い方でも考えるしか
「人の話を聞けえええ!!」
俺はいきなり後ろから蹴っ飛ばされた。
「ぐふえああ!!」
謎の奇声を上げながら俺は廊下に倒される。
「誰だゴルアアア!!」
考え事をしていた矢先にいきなり蹴っ飛ばされて切れない人間はいないだろう。
俺もご多分に漏れずキレる人間だ。
「私の声を忘れたのか?記憶力の乏しい男だな、お前は」
知り合いには多少人間的なことがこの3ヶ月で判明した、アスラがそこにいた。
「テメエは挨拶がわりにぽんぽん人を蹴るのをやめろって言ってんだろうが!」
「ふむ、努力はしているが、何分面倒でな」
「人の後頭部をその低身長で蹴っ飛ばす方がよっぽど面倒だ!」
「貴様・・・誰が低身長だと?」
そんな言い合いをギャーギャーとしながら、俺は思っていた。
こんな奴とは知り合いたくなかった、と。
だが、当時の俺は、知らなかったのだ。
問題児集団でありながら、最高の仲間であった0組の連中と、こいつのお陰で知り合えることを。