落ち零れの異能力者たちの学園戦争   作:シドラ

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06.霧島俊哉に喧嘩を売るな

【2045年 4月12日  帝王国際学園  学食】

 

 清潔なテーブルを0組メンバー5人で囲み、各々が自由に食事をとっていたところ

「テメエら、0組のクセに何学食で飯食ってんの?」

 とても分かり易いヤンキーに絡まれた。

 しかし、俊哉さんは我関せずといった感じに食事を再開し、カミラさんもヤンキー達を一瞥しただけで特に反応せず、アスラに至ってはまるで気づいていないように目の前にある大量の食べ物をほおばり続ける。

 0組メンバーでヤンキー達の存在を気にしているのは、俺とリナさんだけのようだ。

 仕方がないので、俺も気にせずに注文した焼き魚定食を口に運ぶ。

 うん、塩気がきいてて美味い。

「テメエら無視すんじゃねええ!!」

 しかし、分かり易いヤンキー達は、俺たちが無視したと思ったようだ。

 いや、実際に無視したが、別に悪気があったわけではないのだが。

「俺たちは帝王国際学園高等部の生徒だ。クラスが何組であろうが、ここで食事をとるのは自由だ。それよりも、目障りだから即刻ここを立ち去れ、類人猿共」

 口に運んでいた生姜焼きを皿に戻し、侮蔑を込めた眼差しで、俊哉さんが言い放つ。

「んだと、ごるああ!」

 ついにブチギレたヤンキーが、俊哉さんに殴りかかる。

 が、その拳が俊哉さんに届くことはなかった。

「俺は立ち去れと、言ったはずだが?」

 パチンと、俊哉さんが指を鳴らす。

 瞬間、ヤンキーは地面に這い蹲るようにして倒れ込む。

 ヤンキーは現在、四つん這いの状態で、俊哉さんの前にひれ伏している。

 ヤンキーの周りの地面は、ビキビキと音を出してきしみ、ヤンキーは顔に脂汗を浮かべている。

「『この学校で霧島俊哉に無益な喧嘩は売るな』というのは、馬鹿でも知っている常識だと思っていたが、俺の知名度がそこまで高くないのか、もしくは貴様が筋金入りの大馬鹿か・・・どちらかな?」

 いつもの涼しげな笑みを浮かべながら問いかける俊哉さんの左目は、蒼色に輝いていた。

 異能力を使用する際、使用者の体は、それぞれの色に輝く。

 俺の場合は、体全体が発行するが、俊哉さんの場合は左目限定のようだ。

「まあ、俺に喧嘩を売った度胸は認めてやるが、そんな無様な姿で、まだ0組を見下せるか?」

 確かに、勢いよく殴りかかってきて、直後に土下座のような体勢にされているのだから、威厳もへったくれもない。

 それも、相手を見下しながらの登場だったので、なおのことだ。

「えーっと、確か・・・2年8組の平井善哉だったっけ?これ以上喧嘩売ってくるようなら、全力でお前の体中の骨バラバラに砕くから覚悟しとけ」

 それだけ言うと、俊哉さんはもう一度指を鳴らすと異能力の発動をやめ、少し冷めてしまった生姜焼き定食を食べるのを再開する。

 まるで、何もなかったように。

 

 

「あいつ、あんだけ強がってたくせにあっさりと負けやがったぜ」

「いや、相手が悪かっただろ、あの霧島だぜ?」

「それにしたって、もうちょっと戦えたでしょうに、あ~あ、哀れ」

 周りからは、先ほどの喧嘩(というには圧倒的すぎたが)に対する論評が飛び交っていたが、少し聞くだけでも分かる。

 あのヤンキー改め平井とかいう生徒の評価は、みるみる下がっているみたいだ。

 あれだけ無様な負け方をしたらそうだろうが、少しばかり哀れになってくる。

「別に気にする必要はないぞ、秋雨」

 声をかけてくれたのは、エビピラフを食べながら静観していたカミラさんだ。

「霧島のせいでプライドをズタズタにされたり、居場所を失ったヤツなんざ何百人もいる。いちいち罪悪感を感じてたらキリがないし、何よりお前が気にする必要もない」

 確かにそうなんだろうが、どうにも哀れになってしょうがない。

 それに、さっきの雪辱を晴らそうと、もう一度突っかかってこないとも限ら

「霧島ああああ!!!」

 ほら、やっぱりきた。

 さっきの平井が、数人のこれまた同じようなヤンキーを連れてもう一度やってきた。

「さっき警告したのに、懲りずにやってきたか、類人猿」

「うるせえ!!さっきから見下したような態度とりやがって!この0組があ!!」

 ああ、完全に頭に血が上ってるわ、この人。

「さっきから事あるごとに0組0組と言っているが、元々、合同学年0組は育成が困難な生徒を集め、互いに高め合うためのクラスだ。別に落ちこぼれでも何でもないし、むしろ貴様のような欠陥類人猿よりはよほど優秀だと自負している。それに、見下した態度をとられたくなかったら、それに見合った人間になって出直せ」

 俺たちクラスメイトに接する時とは180度違う、他者を圧倒的に嫌う、冷たい口調で俊哉さんが言い放つ。

「グッ・・・グルアアアアアアアア!!!!」

 言葉にもなっていない叫び声を上げながら、平井の体が膨張を始める。

 体は醜く膨れ上がり、目は真っ赤に充血し、爪や歯は鋭く尖り、まるで童話に出てくる狼男のような姿となった。

「ふむ・・・自身の体を変化させる異能か?また随分と醜い姿に変化させたな」

 車椅子に座っている俊哉さんと、化物と化した平井の身長差は、実に4mを超えているだろう。

 にも関わらず、いつも通りの落ち着いた表情に戻った俊哉さんは、冷静に平井を観察していた。

『グルアアアア!!オマエ・・・コロス!!!』

 人間の声とは思えない不気味な声で、平井が叫ぶ。

「知能が随分低下してるみたいだな。本能だけで俺を殺そうとしてるのか?」

 俊哉さんがそんな事を呟いた瞬間、平井が腕を振り下ろした。

 車椅子に乗っている俊哉さんでは、避けることは不可能。

「俊哉さん!」

 俺が意味もなく叫んだ瞬間、俊哉さんは落ち着いた口調で、言った。

「学習しろよ、平井。お前は俺には勝てない」

 次の瞬間、俊哉さんの左目が蒼く輝き、平井の動きが止まる。

「秋雨君、アスラちゃん。俊哉くんがどうして平井くんの動きを止めていられるか、分かる?」

 いきなり、今まで全然喋っていなかったリナさんが、聞いてきた。

「え?えっと、俊哉さんの異能が、相手の精神に干渉できる能力だから、とかですか?」

「私は相手の筋肉の動きを弄っているのかと思ったが」

 俺たちは、思っていた理屈を話した。

 まあ、どちらにしろ相手の動きを操っていたのだと思っていた。

「残念、不正解。実は俊哉くんの異能力は」

 そこまでリナさんが言ったところで、平井の体が地面から浮かび上がり、地上10mくらいまで持ち上げられる。

 浮かび上がるのが止まったかと思うと、今度は物凄い速度で地面に叩き付けられた。

 叩きつけられたのは俺たちの座っているテーブルから少し離れた場所だったので、俺たちに被害はない。

 地面に叩き付けられた平井は、メキメキと嫌な音を立てながら地面にめり込んでいる。

 恐らく、俊哉さんがさっきの警告通りに平井の全身の骨を折ろうとしているのだろう。

「俊哉くんの異能力は、重力制御なの。重力を限りなく小さくして異能力の対象を浮かべたりもできるし、限りなく大きくして今みたいに対象を地面にめり込ませることもできるの。他にも、重力を捻じ曲げてバリアみたいにしたり・・・」

 何ですかその応用範囲が極端に広いインチキ能力。

「それと『この学校で霧島俊哉に無益な喧嘩は売るな』っていうのは、俊哉くんが強すぎるから、怪我したくなかったら関わるなって意味なの。本当は優しいんだけど、怒るととっても怖いから」

 そんな説明をリナさんがしてくれているうちに、勝負がついてしまった。

 全身の骨は折れていないようだが、体中ボロボロの平井が元の姿で横たわっていた。

「全く、食事くらい静かに食わせろっての」

 そう言うと、再び何もなかったように食事を再開する俊哉さん。

 俺は、ひっそりと心に誓った。

 絶対に俊哉さんだけは怒らせないようにしよう、と。

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