【2045年 4月17日 帝王国際学園 学食】
『次のニュースです。国際異能力開発機構IDDMは、中東で多発する異能力犯罪に対しての軍事的処置を取るとして、本日会見を開きました。これに対して中東諸国の首脳陣は・・・』
既に毎回恒例となった、0組フルメンバーでの昼食の場にて、相も変らぬ物騒なニュースを学食備え付けのテレビで聞きながら、俺は不安を拭いきれないでいた。
『この学校で喧嘩売っちゃいけないやつランキング』なるものの存在とランキング堂々の1位がリナさんであることを先輩から教えられてから早三日。
今までの流れだとリナさんが何故ランキング1位なのかが判明する頃なのだろうが、そんな事は一切ないまま、三日が経過している。
よって、いつ前回の『霧島俊哉に喧嘩を売るな』と『カミラ・ロックバードと敵対するな』のような実践的教訓が出てくるか分からないのだ。
0組上級生で唯一のまともな人間である(と俺は信じている)リナさんまでもが危険な人物であったならば、もう0組には俺以外に一人もいないことになってしまう。
それだけは勘弁して欲しい。
常識的な人間が一人しかいないクラスで三年間も過ごさなければならないなど、地獄でしかない。
「ちょっと俊哉さん、すいません」
今日でで5日連続生姜焼き定食を頬張っている俊哉さんに話しかける。
この人は生姜焼き定食以外を食えない呪いにでも掛かっているのだろうか。
「なんだ秋雨。生姜焼きはやらんぞ」
最近、打ち解けてくれたのか口調が丁寧じゃなくなってきた俊哉さん。
ていうか、誰も、喧嘩を売ってはいけないランキング2位の生姜焼きなんて狙いませんよ。
「いえ、生姜焼きは狙ってませんから・・・。それより、ちょっと小耳に挟んだんですが・・・」
俺は俊哉さんにランキングの事を話す。
「ああ、まだ残ってたのかその話。懐かしいな」
遠い目をして答える俊哉さん。
一体何があったのだろうか。
「まあ、ウチのクラスに関わることだからなあ。よし、秋雨、それとカミラも。ちょっと昔話に付き合え」
一人無言でもっしゃもっしゃとチャーハンを食べていたカミラさんも呼ぶ。
そして、その言葉から、本日の教訓を知る有難いお話は始まったのだった。
「で、何の話だ?」
「喧嘩を売ってはいけない奴ランキング第一位」
「ああ、リナか」
それだけで話が通じてしまった。
どれだけ有名なんだ、この話。
「さて、まず最初に、お前はリナの異能力を知っているか?」
最初は、確認だった。
「いえ、知りません」
俺が異能力を知っているのは、俊哉さんの重力制御だけだ。
アスラやリナさんは異能力を見る機会などないし、カミラさんは授業中常に寝ているので、異能力を見せてもらうこともない。
余談だが、俺は俺の異能力すらまともにどんなものか理解していない。
俺の異能力は、今までに例がない上に、発動条件や能力の質がいまいち安定しないなど、様々な理由から、漠然と『なんかレアな能力』という事しか分かっていない。
性質だけは分かっていたので、ちょくちょく使っているのだが、結局どういうものなのかは分かっていない。
「OK。まずはリナの異能力の説明からしていくぞ」
俺が頷くと、俊哉さんの説明が始まった。
「リナの異能力は、『見通し』って呼ばれてる能力だ。これは、視力が上がるとかそういうのじゃなくて、リナの異能力の前では絶対に嘘が吐けなくなる」
それはまたプライバシーガン無視の異能力だな。しかし
「それだけで喧嘩売るなランキング第一位になるんですか?」
確かに怖い異能力だが、実際に喧嘩売りたくないのは俊哉さんやカミラさんだ。
「まあ、異能力だけならランキング上位にも上がらないんだがな、前にちょっとあってな・・・」
カミラさんが遠い目で言う。
何でこの二人そんなに遠い目をするのだろうか。
「そう、あれは、1年前。俺がまだ0組に編入する前のこと」
なんか小説の回想シーンみたいな喋り方だな。
「当時、俺は常に無言を貫き、読書に励んでいた」
今よりも重症っていうことですか。
「結果、入学から2週間程で、俺に話しかけてくる奴は激減した」
そりゃそうでしょう。
「それでも健気に話しかけてきた奴を、重力制御を使って黙れせたりもした」
「ひどっ!」
俺のツッコミを無視し、俊哉さんは話を続ける。
「そんなある日、学食でヤンキーに絡まれてるリナを見つけた」
おお、やっとまともになってきた。
「絡まれてる理由が、『お前の異能力ウザイんだよ』というシンプルなものだったが、俺は元々助けるつもりなんてなかったんだ、ある出来事が起きなければ」
「ある、出来事?」
なんだろう、俊哉さんが助けるつもりのなかったリナさんを助けた理由って。
「ヤンキーの一人がリナの座っていたテーブルを叩き、それによって飛んできたリナのオレンジジュースが俺の読んでいた本にかからなければ・・・」
へ?
「ブチギレた俺は、そのヤンキーを、何故か一緒に殴り込んできたカミラと一緒にボコボコにした。俺の本にジュースをかけた奴が全治5年、他の奴らが全治2年。あの日を境に、ウチの学校の生徒が20名減った」
「まさかとは思いますが・・・リナさんがランキング1位なのって、喧嘩をふっかけた奴らがお二人にボコボコにされたからですか?」
だとしたらリナさん、全く関係ないのではないだろうか。
「正確には『リナに手を出した奴らがランキング2位と3位にボコボコにされたから』だな」
やっぱりリナさん関係なかった。
「そういえばカミラ、お前何でリナに絡んでた奴らボコったんだよ」
それもそうだ。俊哉さんのようにキレる理由がなければカミラさんも戦おうとはしないのではないだろうか?
「ヤンキーの一人がリナの座っていたテーブルを叩き、それによって飛んできたチキン南蛮が俺の食っていたラーメンに入ってきた。タルタルソース付きで」
あなたたちはまともな理由で人を助けようとは思わないのか・・・。
「まあ、その大乱闘が理由で俺とカミラは『危険人物』として、リナは『事件誘発対象』として0組に叩き込まれた訳だが。いやー、リナには本当に悪いことをしたなあ、カミラ」
上級生組が0組に配属になったのは、そんなお馬鹿な理由だったのか。
「まあ、悪いとは思っているが、俺はこのクラスの方が気が楽だし、良かったと思っているがな」
「違いねえ。『沈黙する重力支配者』とかいう小っ恥ずかしいあだ名を付けられるようなクラスよりよっぽどいいしな」
今日、学んだこと。
意外と俊哉さんとカミラさんは、0組が好きなようだ。
そして、リナさんはかりそめの一位だった。
受験シーズン真っ只中に今回の話を書いていましたが、正直言ってかなり辛いです。
受験というモノがこの世から無くなればいいと何度呪詛の言葉を吐いたか分かりません。
本作品を読んでくださっている読者の方の中に受験生がおられ、本作品で少しでも受験の苦しみを紛らわせることがあったのなら、それはとても嬉しいことと作者は考えます。
それでは、本作品を読んでくださっている全ての方々に最大級の感謝を込めて。
シドラ