(この新月だ一旦見失えば再び発見するのは難しいだろう
私は航跡が消えてしまうまで足止めさえしていればいい)
航跡を辿って追い付かれる訳にはいかない
自らを囮にして気を散らせる
ハエの様に飛び回ればいい
しつこく何度でも何度でも……私の命が燃え尽きるまで
空になった魚雷発射装置を捨てて軽量化する
ナイフを引き抜き構える
(まさか実戦が初使用になるなんてね)
一寸の光もない暗闇のなか
頼りの探照灯は頼りない
(きっと相手からは丸見えなんだろうな)
(圧倒的に此方が不利なのに更に縛りプレー ドMも真っ青ね)
視界から情報を集めるのを諦め他の感覚に集中する
(せめて一泡吹かせてやりますよ)
砲塔の旋回音 上空には浮遊砲台 投下される魚雷の音
最大戦速にスロットを上げると同時に全身のバネを使用して真横に飛ぶ
(艦砲はおそらく榴散弾 信管は時限式 爆発前に抜ける)
速度をそのままに慣性のベクトルを変えて前進する
弾が3メートル右を通過し背後で炸裂する
内部に敷き詰められた小弾が広範囲に広がる
(装甲があってないような私には脅威ね)
(次弾はもっと手前に信管をセットしてくるはず)
仮に手前にで炸裂すれば逃げ場はない
(だから次は撃たせない)
放線上に放たれ広がった5連装魚雷の一部を飛び越えて着水 更に加速体勢をとる
(最大戦速38ノット 性能の限界だけどまだ足りない!)
鉄製の円筒……新しく製造した装備のコックをひねりスイッチを押す
管の中を内包された液体が通り抜け艤装ボックスの内燃機関に流れ込み規定限界以上出力を叩き出す
ナイトラス・オキサイド・システム通称nosやニトロと呼ばれるものだ
亜酸化窒素がエンジンの熱で化学変化を起こし窒素と酸素に分解される
この分解で得られる酸素は大気の2.5倍でこの高密度の酸素と共に燃料を燃焼して更なる出力を得るというシステムだ
ストリートレース映画で使われるあれである
(元々航空機が酸素の薄い上空で安定した出力を確保するためのものだったみたい
偶然だけど私の艤装の内燃機関は航空機のエンジンが入ってる!出来ないことはないでしょ)
体を持っていかれそうな位の加速
けたたましく鳴り響くエンジン音
(エンジンの寿命を削ってるのは知っている
だけど気にしてる暇などない)
青白い探照灯の光を残しながら39…40ノットと加速していく
浮遊砲台からの砲撃が彼女の通った後を雨のように降り注ぐ
チューニング次第では2倍近くの出力を増加させることが出来るものだ
突然の加速に艦載機の攻撃は間に合わない
(もっと早く!もっと鋭く!)
45……46ノット……戦艦の砲台が此方に照準を向け始める
47!減速など一切せずに眼前の駆逐水鬼の腹部にナイフを突き立てる
(ここまでしても装甲を抜けないか)
軽度のダメージだが怯ませるには充分だったようだ
駆逐の腕をつかみ取り戦艦の射線に誘導する
直後 砲撃音 吹き飛ばされそうな衝撃
(流石に戦艦の攻撃は通るか……)
盾にされ砲撃を受けた駆逐の装甲は破損している
大破手前といったところだ
駆逐の傷ついた白い背中に全く役にたたない7.7mm機関銃を押し当て引き金を引く
瞬く間に弾丸を数百発吐き出し地味に装甲を削ってくれた
大破した駆逐の腹部に回し蹴り つきだした顎に飛び膝蹴り
そのまま頭を太ももでホールドして相手の背中側に倒立前転する要領で戦艦に投げ飛ばす
(後2人)
投げ飛ばす際に駆逐から拝借した魚雷を戦艦の艤装砲身に叩き込み
砲弾の誘爆を誘う
(後1人)
砲台の攻撃を避けながらゴスロリとの距離を縮める
背中の艤装が火を吹きそうな位熱い
(Nosの連続使用時間は48秒程度……時間オーバーしてるけど…どこまでもつか)
~離島棲姫~
退屈だった
深海棲艦達の統制も
私を殺しに来た艦娘達も
手応えないまるで蝿みたいな存在だった
その者も初めは他と大差無かった
違和感に気づいたのは探照灯をつけた辺り
それまでの動きとは比べ物にならない速度であっという間に味方を無力化した
艦載機の攻撃を避けながら近づいてくる
とても鮮烈だった
故にこの幕切れは残念に思う
私に後一歩というところで艤装が壊れた事も
決着を付ける際に射線上に少女が
割り込みかわりに撃たれた事も
笑いながら私達と殺し合った少女が泣きながら自分を殺すように懇願してきたことも……
今日はこれ以上引き金を引く気になれない
気絶した仲間を回収して帰るとしよう
・
・
・
どれ程時間がたったのだろう
彼女は「また会う日を楽しみにしている」と言い残し去っていった
私はまだ動けずにいる
だって私の腕の中には可愛い妹が居るから…
冷たくなっていく体を抱き締めながら
戦死者13名
消息不明3名
残り14名
途中で意識を取り戻した妹は
仲間の制止を無視し単身で姉の元へ戻ります