剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 対魔忍RPGをプレイした結果、脊椎反射で書いてしまいました。

 運営からの対魔石で大爆死したのが原因ではない。

 コンセプトは『野郎が対魔忍の世界で生きていくのに最も必要なもの』

 ここまでしないと男は生き残れないあたり、対魔忍は地獄だと思います。


日記1冊目

 〇月×日(晴)

 

 今日、時子姉から日記帳をもらった。

 

 文字の練習がてらに日記をつけろとのことらしい。

 

 2年前の事故以来、日本語はもちろん英・中・露・独・仏・ラテンと読み書きは完ぺきになったので、今更といえば今更なのだが……。

 

 まあ、絶賛ネグレクト中のクソ親父に代わって面倒を見てくれている人の言なのだ、多少手間でも断るべきではないだろう。

 

 とはいえ、俺は日記なるものを書いたことがない。

 

 日々に起きた事を徒然なるままに記すのだと言うが、それをそのまま実践するのも芸がなさすぎる。

 

 ここは情報整理もかねて俺自身のことを書いていくことにしよう。

 

 俺の名前はふうま小太郎。

 

 異母姉の時子曰く、本名ではなくふうま頭領になるべき者が継承する名前なんだとか。

 

 その割にはクソ親父は本名である弾正を名乗っているのだが、この辺はどうなっているのか?

 

 因みに物心がついた時から小太郎呼ばわりなので本名は俺も知らん。

 

 で、そんな妙な風習がある実家はなんと忍者である。

 

 科学万能な現代に何を馬鹿なと言いたいところであるが、残念なことに事実なのだ。

 

 この世界の闇には魔界やそこに住まう魑魅魍魎が確固として存在し、奴らは人間界への勢力拡大を虎視眈々と狙っている。

 

 そんな魔の手から国と国民を守るために存在するのが対魔忍。

 

 忍術と呼ばれる超常の力と古来からの忍びの技を武器に、闇に紛れ魔を討つことを使命とした者達だそうな。

 

 で、我等ふうまもその一翼を担う勢力なんだが、どうもウチの親父は勝手が違うらしい。

 

 ウチによく顔を出す心願寺の爺様が零す愚痴を聞くに、親父は己が欲望を満たすためには手段を択ばない人間らしく、怪しい噂が絶えない企業や「ヤ」の付く自由業の面々、さらにはアンクルサムなお米の国に中華なお友達まで、節操無しに依頼を受けて回っているらしい。

 

 当然、日本の為に動いている他の対魔忍にとっては裏切り行為に当たるわけで、中でもふうまに匹敵する大家である井河や甲河からは非難や警告が絶えないそうだ。

 

 深々とため息をつく爺様を前に、額を床に擦り付けた俺はきっと間違っていない。

 

 さて、そんなヒャッハー上等なモヒカン集団に退化しつつある我が一党であるが、その中における俺の立場はとっても悪い。

 

 というのも、今年で五歳になるのだが未だに忍術に目覚めていないのだ。

 

 忍術というのは対魔忍ならば大概が使えるもので、米連的に言えば対魔粒子なるものを基点に発動する超能力の事である。

 

 ふうま一門に受け継がれているのは邪眼・魔眼の類で、宗家の人間は物心がつく前に目覚めるのが普通なんだとか。

 

 ところがどっこい俺の魔眼様は未だに惰眠を貪っているらしく、その影響で右目まで開かない始末。

 

 それが原因で妾をワンサカ囲っている万年発情期の親父からは、『目抜け(邪眼・魔眼が使えない、転じて忍として成長の目が無い出来損ないという意味だ)』というありがたい評価を戴いている。

 

 正妻であるお袋が俺と入れ違いで逝ってしまったのをいい事にやりたい放題なクソ野郎の評価なぞどうでもいいし、こっちとしては早々に見捨ててくれた方が都合がいい。

 

 なにせ、俺は対魔忍になる気など欠片も無いのだから。

 

 俺が目指すのは全身ピッチリタイツの怪しい忍者ではなく剣士である。

 

 これは二年前の訓練の際に頭を強打したことで、前世の記憶を取り戻した事に起因する。

 

 前世の俺は上海の黒社会で暗躍していた兇手(きょうしゅ)だった。

 

 氣功術を修め内家戴天流という流派の免許皆伝を得た俺は、鉄砲玉同然の扱いで無茶ぶりを連発する組織の命令に従って、サイボーグ武術家と戦い続けていた。

 

 そんな血で血を洗う鉄火場を潜り抜ける中で剣術の奥深さにハマって行き、16で組織に裏切られてくたばるまで修羅道を歩んだわけだ。

 

 その記憶を受け継いだ身としては前世では半ばとなった剣の道を今度こそ極めたいワケで、その為には忍者の修行なんてやってる場合じゃないのである。

 

 そういう事なので、俺の将来設計の為には戴天流の修行のための時間を増やさねばならない。

 

 さて、どうやって時子姉の目を出し抜いたものか……。

 

 

 ◇月■日(曇り)

 

 

 日課である戴天流の套路(とうろ)を練り直していると、紅姉がやってきた。

 

 紅姉は心願寺の爺様の孫で、年は俺より少し上な金髪に蒼い瞳の別嬪さんだ。

 

 とある理由で引っ込み思案の人見知りな性格だが、俺と幼馴染である骸佐や蛇子と仲がいい。

 

 特に蛇子は「姉さま、姉さま」とエライなつき様で、当の紅姉が戸惑うほどだ。

 

 紅姉が訪れた理由だが、どうやらまた里の連中から心無い事を言われたらしい。

 

 彼女はその性格からか、そういう事を唯一の身内である爺様に話すことなく自分の内に溜め込みやすい。

 

 なので、愚痴を聞いてストレスを発散させるのは俺達の役目になっている。

 

 同い年の友人がまったくいない、なんてツッコミはタブーである。

 

 さて、紅姉がここまで里の人間から敬遠されるのには当然理由がある。

 

 心願寺の爺様曰く、彼女は吸血鬼と人間のハーフなのだという。

 

 事は今から数年前、紅姉の母親である心願寺楓殿が任務に失敗して魔族の手に堕ちた事から始まる。

 

 当然、情に厚い爺様が一人娘である楓殿を見捨てるわけがなく、クソ親父を言いくるめて心願寺の手勢と共に敵のアジトを急襲。

 

 しかし、待っていたのは魔族の中でも有数の力を持つという吸血鬼。

 

 手塩にかけて育てた精鋭も次々と倒れ、決死の覚悟で脱出した爺様が助ける事が出来たのは楓殿と吸血鬼の間にできた孫、紅姉だけだったという。

 

 里に戻った爺様にクソ親父は紅姉を処分するように迫ったが、爺様はこれを拒否。

 

 当時存命だったお袋さんを始めとした里の女性陣の強烈なサポートもあり、紅姉は心願寺の直系として一応は認知される事となった。

 

 しかし、世紀末モヒカン同然とはいえ『ふうま』もまた魔や怪異と戦う忍、対魔忍である。

 

 魔族の混血を跡取りに据えようとした事で派閥を構成していた者達は次々と離れ、ふうま八将に名を連ねる名家であった心願寺は大きく力を落とす事となった。

 

 その話を聞いた俺の感想は『あいつ等、ダンピールの伝承を知らんのか?』である。

 

 東欧やロシアの伝説によると吸血鬼と人間の混血であるダンピールは、不死である吸血鬼を殺す力と吸血鬼を探知する能力を持つとされる。

 

 これだけでも対魔忍としての適性は花丸だろうに、厄介者として(うと)んでどうするというのか?

 

 とはいえ、この事で迫害まがいの事を受けていた紅姉は、自分が人とは違うことにコンプレックスを抱いていた。

 

 俺からしてみれば実年齢は上とはいえ精神年齢的には小さな女の子、『あっしには関わりの無い事でござんす』と無視するのは寝覚めが悪い。

 

 そこで俺は忍術が使えない『目抜け』と侮られている事をダシにして、紅姉のコンプレックスを軽減しようと試みた。

 

 こちらの異常性を示すなら前世の記憶の事を伝えればいいのだろうが、さすがにそこまで迂闊な真似はできない。

 

 そういう意味では『目抜け』のレッテルは好都合だったわけだ。

 

 紅姉はオドオドした様子で『自分の事が怖くないのか?』と尋ねてきたので、全力でNOを突き付けた。

 

 ぶっちゃけ、吸血鬼など怖くもなんともない。

 

 こちとら前世では人間社会の底辺を見た上に、イカレたサイボーグ共と殺し合いをしてきた身。

 

 遺伝子汚染で奇形化したドブネズミや人肉の味も知ってるし、死ぬちょっと前なんてガチの剣狂いで修羅とか鬼の世界に頭の先までドップリ漬かっていたのだ。

 

 それに比べたら紅姉なんて可愛いものである。

 

 そんな俺のカミングアウトに続いて、一緒にいた骸佐は『人の怨念をエネルギーにしてキン骨マンになる』という自身の忍法を暴露。

 

『どう見ても正義の味方じゃなくて悪の幹部だよっ!!』と崩れ落ちる奴の後には、足がタコになるという蛇子の忍法が追い打ちだ。

 

 里の中でも特に濃い特徴を持つ面子には紅姉もコンプレックスなど気にするのが馬鹿らしくなったようで、これが縁で遊び仲間となった俺達は紅姉のメンタルケアに努める事となった訳である。

  

 しかし正義の忍者気取りの癖にこの体たらくとは、親父の件も考慮に入れると対魔忍は早めに見限るべきかもしれない。

 

 

 ▲月■×日(晴)

 

 

 忍者の訓練やら当主教育やらで剣術鍛錬のための時間が足りない。

 

 一応は次期ふうま当主候補としてなので必要なのは理解できるが、人生目標を定めているこちらとしては無駄な事に時間を費やしている感がハンパ無い。

 

 焦りとストレスからワリと本気で『出奔したろうか!』なんて思う時もあるが、紅姉や骸佐達の事を考えるとそうもいかない。

 

 とはいえ戴天流のための時間は何としてでも確保したい。

 

 記憶というのは薄れていくものだし、剣術の基礎は幼いうちから仕込んだほうが馴染みが早いのだ。

 

 いい方法は無いものかと頭をひねった結果、俺の中にある梅干し大の脳みそは戴天流の有用性を知ってもらえばいいじゃんという結論を吐き出した。

 

 これが良策か愚策かはわからないが、ともかく善は急げである。

 

 精力的に働きかけた結果、どうにかお披露目の舞台を整えることに成功した。

 

 で、今回ギャラリー兼審査員となったのは心願寺の爺様と時子姉である。

 

 紅姉を助ける際の傷で第一線を退いたとはいえ、爺様はかつてはふうま八将最強と言われた男。

 

 俺の戴天流を見極めるのに、これほど相応しい人選はないだろう。

 

 時子姉は只の付き添いというか、わざわざ爺様を呼んで妙な事をしないか心配だったようだ。

 

 さて肝心の演目の方は套路に軽身功、あとは試し切りである。

 

 当然のごとく全てを成功させたのだが、最後の試し切りで爺様がえらい驚いていた。

 

 『さすがに木刀で斬鉄はやりすぎだったか』と自室で反省していたら、時子姉が理由を教えてくれた。

 

 どうも最後に斬った鋼板は鉄じゃなくて、米連が対魔族用に造り出した特殊装甲のサンプルだったらしい。

 

 内家の達人が得物を取るとき、それは硬さ鋭さだけでは語れない。

 

 丹田より発する氣を込めて振るわれれば、布帯は剃刀に、木片は鉄槌へと変ずる。

 

 そして、鋼の刃の変ずる果ては、ただ因果律の破断のみ。

 

 それは形在るもの総てを断ち割る、絶対にして不可避の破壊なり。

 

 内家拳の口伝ではこうあるが、よもや木刀で因果の破断に手がかかるとは……。

 

 対魔忍の修行がより良い結果を招いたのか、はたまたふうまの血か。

 

 なんにせよ、吉報である事に変わりはない。

 

 最後に結果だが、爺様からお墨付きがあったお陰で修行の時間をもぎ取ることが出来た。

 

 周りのみんなは忍術に目覚めるまでのツナギだと思っているようだが、こちらにそんな気はさらさらない。

 

 ここからは戴天流剣士目指してまっしぐらだ。

 

 

 ×月■▲日(雨)

 

 

 マジでシャレにならん事態が起きた。

 

 クソ親父がふうま一門を巻き込んで対魔忍の主流に反乱を起こしたのだ。

 

 理由は井河と公安が中心となって進めていた『対魔忍の国家戦力化に向けての統合』に反発した為。

 

 心願寺の爺様によると、台湾危機や半島紛争といった数年前に起きた米連と中華連合の武力衝突と冷戦により、日本の治安は著しく低下する事となった。

 

 さらに紛争の合間に人間界に進出してきた吸血鬼エドウィン・ブラックに代表される魔界の者の介入や東京キングダムやヨミハラなどの犯罪都市の発生もあって、日本政府は治安維持の為に魔界の者に対抗できる戦力を欲した。

 

 そこで白羽の矢が立てられたのが対魔忍というわけだ。

 

 山本という元日本自衛軍の公安調査官を中心にしたこの計画は、表向きは井河の若当主アサギを代表として進んでいる。

 

 爺様の見立てでは、実権を握ってるのはアサギの後ろに控えた井河・甲河の老人達らしいが。

 

 で、対魔忍と一言で言っても伊賀忍者を基にした井河、甲賀を源流とする甲河など一枚岩ではない。

 

 当然、この流れに異を唱える馬鹿野郎も存在する。

 

 それがクソ親父率いる世紀末マッポーニンジャ集団ふうま一党、つまりはウチだった。

 

 今まで所属もクソもあったもんじゃねぇ! とばかりに好き勝手やっていた野獣な親父である。

 

 それがいきなり公務員になるなんて、ナッパが超サイヤ人になるより無理な大変身だ。

 

 そりゃあ、反発の一つもしたくなるだろう。

 

 だがしかし、自分一人で特攻するなら兎も角、レミングスよろしく一族郎党を率いて奈落へダイブはいただけない。

 

 普通はこういった頭領の暴走は引退した先代などの老人達が(いさ)めるものなのだが、親父は用意周到な事に当時現役だった心願寺の爺様を除いて幽閉や追放処分にしていたらしい。

 

 あのおっさん本当に余計な事には知恵が回るな、マジで。

 

 俺の下らない所感は置いておいて、現状はマジでヤバい。

 

 ふうまが対魔忍最大勢力と言われているとはいえ、一人一人の質においては井河・甲河の方が上だ。

 

 正面からカチ合った場合はふうまに勝ち目は薄い。

 

 さらには仮に勝利したとしても、主流派の後ろに控えているのは日本という国家そのものだ。

 

 政府が対魔忍を魔界への対抗勢力と捉えているという事は、裏を返せば魔界の魔物並みに危険な存在と見ているという事。

 

 それが反旗を(ひるがえ)したとなれば、むこうに一切の容赦はないだろう。

 

 如何に対魔忍が超人じみているとはいえ、精々500人程度で対抗できるほど国と言うのは甘くはない。

 

 ぶっちゃけ、反乱に踏み切った時点でふうまの命運は尽きているということだ。

 

 とはいえ、このまま座して滅びを受け入れるワケにはいかない。

 

 骸佐や蛇子、紅姉に時子姉、権左や二車の小父さん小母さんに心願寺の爺様と、俺にだって護りたいものがある。

 

 それに宗家の下忍である天宮家は女の子が生まれたばかりだ。

 

 こんなアホみたいな自爆劇に付き合わせるワケにはいかない。

 

 反乱を起こす前なら俺が親父の首を落とせば何とかなったかもしれないが、実際に武力衝突が起こった以上はそれも無理だ。

 

 こうなったら、負けるにしても余力を残した形で敗北するように仕向けるしかない。

 

 差し当たっては心願寺の爺様を味方に引き入れる方向で動くとしよう。

 

 

 

 ▲■月〇日(晴れ)

 

 

 クソ親父が引き起こしたふうまの反乱は、案の定親父の敗北に終わった。

 

 親父をはじめとして、ふうま八将の多くは討ち死に。

 

 俺が引き留めることが出来たのは、結果的には心願寺の爺様だけだった。

 

 二車と紫藤はこちらに協力してくれたが、親父の目を逸らす為に二車の小父さんと紫藤の婆ちゃんが犠牲になってしまった。

 

 葬式で頭を下げる俺をぶん殴ったあと、『謝るくらいなら、当主として身体を張ってふうまを護った父上を褒めろ!』と言った骸佐は凄い漢だ。

 

 ふうま宗家を始めとする一党はその力を失い、余力を残しているのは早期に手を引いた二車と現当主の甚内氏が主流派に寝返った紫藤のみ。

 

 その二家でもふうまに(ろく)を食(は)んでいた一般の忍全てを世話するには足りず、上忍・下忍に問わずふうまの忍達は主流派の家に奉公へ出る事となった。

 

 申し訳ないと思うが、名ばかりの宗家当主である俺に出来る事などない。

 

 差し当たっては心願寺の爺様と今後の事を話し合う必要があるだろう。

 

 こっちを心配してか紅姉のメール攻撃も半端無いし、爺様の家に行くとしようか。

 

 

 

 ×月■日(曇り)

 

 

 ふうまの反乱終結から一年が過ぎた。

 

 あれから結構いろいろな事があったが、一番の変化は俺自身が前線に出る事になった事だろう。

 

 言っておくが、あの対魔スーツを着ているわけではない。

 

 俺の仕事着は前世と同じく、防弾防刃使用の黒コートに皮手袋、動きやすい黒のスラックスに黒のインナーである。

 

 あとは身体に合わせた日本刀と素顔を隠す鬼の仮面、任務内容に合わせて遠距離対処用の棒手裏剣を備える程度。

 

 間違ってもピッチリタイツなどゴメンである。

 

 というか、あのスーツ着てたら逆に身元割れるから。

 

 任務に就いて一年になるけど、あんな格好してる奴なんて対魔忍しかいないからな。

 

 閑話休題。

 

 七歳を迎えて任務に放り込まれるようになったとはいえ、反逆者の息子になど華々しい舞台が用意されるわけがない。

 

 大体は下忍がやる様な情報収集やその裏取り、あとは死んでもいい奴を送り込むような難所への潜入とかか。

 

 大体が米連・魔族の縄張りとなった東京湾に浮かぶ人工島『東京キングダム』が目的地となるのだが、あの町とヨミハラは俺と妙に相性がいい。

 

 あの退廃と混沌、血と臓物が腐ったような空気は前世の上海を思い出す。

 

 初めて行った時は余りのなつかしさから、思わず鼻歌交じりに道行くオーク共の首を刎ねてしまったほどだ。

 

 対魔忍上層部から容赦なく振られてくるのは前世と同じくエクスペンダブルな任務ばかりだが、これはこれで利点が無いワケでもない。

 

 まず第一に剣の腕がメキメキ上がる。

 

 オークに始まり魔獣や淫魔、さらには低級吸血鬼に魔界医療が生んだ謎の生物など、戴天流を鍛える為の素材には事欠かない。

 

 他にも米連特性の強化外骨格や、前世に比べれば性能は下の下とはいえ懐かしのサイボーグまでいる始末。

 

 テンション上がり過ぎて紫電掌をぶっ放したあと、内傷でのたうち回ったのはいい思い出だ。

 

 そして二つ目は、任務に失敗して捕らえられた元ふうまの忍を助ける機会が多いという事だ。

 

 現在、井河や甲河傘下の家に奉公に出ているふうまの忍は、以前の身分に拘わらず下忍のような扱いを受けている。

 

 愛と正義の対魔忍(笑)とはいえ、人間である事には変わりはない。

 

 危険な任務に出すのなら、自身の直系ではなく裏切り者の敗残兵を選ぶのは当然である。

 

 そして、そんな任務ばかりを(こな)していれば失敗するのも必然と言える。

 

 男性の場合は失敗=死なので遺品回収という結果に終わってしまうのだが、女性の場合は生きたまま救出出来る事が多い。

 

 というのも、魔族であれアウトローであれ女性対魔忍を捕えたら凌辱しようとするのである。

 

 さっきまで自分の命を脅かしていた相手を抱こうとするなど、まったく以て理解できん。

 

 情報を引き出すとしても、快楽で墜とす手間を思えば自白剤をブチ込んだ方が何倍も効率的だろうに。

 

 そういう理由で女性の救命率はすこぶる高いのだが、実際に凌辱されている場面は見た事がない。

 

 俺が現場に到着するのは、人間・オークに(かかわ)らず決まってヤロウがズボンを降ろした瞬間なのである。

 

 鉄火場に出るに先立って氣功に於ける氣殺法の極意、天地合一による圏境の極みに達した俺は並の事では捉える事は出来ない。

 

 なので、救出劇は臨戦状態のムスコを(さら)す馬鹿を頭からズンバラリするところから始まるワケだ。

 

 この手のバカ騒ぎに於ける一番槍は往々にしてグループのトップ、もしくは実力者である。

 

 そういう輩が真っ先に逝くと、後の連中を(みなごろし)にするのは奇襲である事も相まって非常に簡単に終わる。

 

 そうして汚される前にふうま忍を助けるワケなのだが、その反応は様々である。

 

 自身の現在の境遇を親父の失態の所為として怒りを露にする者、『目抜け』と馬鹿にしていた俺に助けられた事を屈辱と思う者、子供がこんな任務に就いている事に驚き哀れに思う者等々。

 

 感謝の言葉を述べる者はごく僅かだが、別にそれで構わない。

 

 俺がふうま忍を助けるのは宗家として育てられた義理と親父のケツ拭きが理由であり、別に感謝されたいなどとは思っていないからだ。

 

 時子姉は俺を中心にふうまの復興を考えてるみたいだけど、こっちとしてはケジメと成り行きで頭首をやってるにすぎない。

 

 ふうまの忍達が『目抜け』なんかに任せられるかと言うのなら、八将の誰かに譲って退く気満々なのだ。

 

 骸佐や爺様まで時子姉に協力し始めているのを見ていると、それも難しいかなと思わなくもないが。

 

 頭首代行の小太郎君としては、民主主義を推したいと思います。

 

 

 

 ×月▲■日(曇り)

 

 

 東京キングダムで仮眠を取ったせいか、妙な夢を見てしまった。

 

 その内容だが、気が付くと俺は春の日差しの中、桃の花びらが舞い踊る庭園に立っていた。

 

 まるで桃源郷を思わせる神秘的な光景に目を瞬かせていると、前方に覚えのある人影が見えてくる。

 

 桃の木々を背景に立っていたのは、前世の兄弟子である孔濤羅(コン・タオロー)だった。

 

 濤羅兄の服装は仕事用の黒ずくめではなく、OFFに着ていた白い部屋着。

 

 さらには髪も上でしっかりと纏めていた。

 

 そんな彼は全てを悟ったような笑みと共に、俺に向かってこう言った。

 

『我等の剣は内家戴天流、濡れ場にあっても色は無し』

 

 それは助言だった。

 

 前世の俺ならば首を傾げていたところだが、東京キングダムの色欲に塗れた者達を見た今ならば理解できる。

 

 男は下衣を脱いだ瞬間が最も無防備なのだ。

 

 さらには逸物を逸らせれば、それが邪魔をして足の動きを大きく阻害する事となる。

 

 あの欲望の街を生き抜こうと思えば、常在戦場の理の下に色欲を捨て去り、目の前に立つのなら天女であろうと夜叉であろうと斬って捨てねばならないのだ。

 

 あと対魔忍の死亡原因トップである油断と慢心だが、俺には縁のないものである。

 

 前世でも一発掠ればあの世逝きというオワタ式で戦ってきたうえに、現在は小学二年生の身である。

 

 それでオークや魔族なんかを相手取るのだ、そんな阿呆な感情が入る余地などあるはずがない。

 

 さらに言えば、こちとら下手をすれば対魔忍の主流派からも邪魔者として殺されかねないのである。

 

 気を緩める暇など何処にあるというのか。

 

 万感の思いを込めて感謝の言葉を述べると、濤羅兄はニコリと穏やかな笑みを浮かべた。

 

 その涼やかな笑みには俺も再び頭を深く下げさせた。

 

 この礼は時空を超えて金言を与えてくれた兄弟子への謝意である。

 

 決して、彼の後ろに憑りついて死んだ目を向けてくるキモウトを恐れての物ではない。

 

 また条件反射で読んでしまった読唇術で『兄様はルイリだけのもの』という言葉にドン引きしたわけでも、去り際に濤羅兄が残した『俺のようになるなよ』という言に戦慄した訳でもない。

 

 というか、あんな禍々しい悪霊になるような身内は俺にはいないしなッ!!

 

 とりあえず、濤羅兄から貰った言葉は清書して額縁に飾っておくこととしよう。

 

 この世界で生き抜くうえで最も必要な要素のような気がするし。

 




今日の教訓『対魔忍の世界で生き残るには、ズボン一枚脱いだら負けよぉ』

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