剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

10 / 52
 お待たせしました、退魔忍10話完成です。

 今回は初めての手法をチラホラと入れていますので、変な事になっていなければいいのですが……。

 あと、年始のお年玉ガチャですが、来たのは不知火でした……。

 年始のモチベーションが一気に落ちたよ、ド畜生が!!

 やはり、俺には紅は来ない定めなのだろうか……




日記10冊目

【乗り切れ】ふうま下忍が愚痴をこぼすスレ【奴隷生活】

 

 

165 名無しのふうま下忍

しかし、例の一件でふうまと若様が一躍有名人になったよな

 

 

166 名無しのふうま下忍

忍者なのに有名とはこれ如何(いか)にって感じだけどな

 

ところで、あの事件で死んだのってウチのメンツなの?

 

 

167 名無しのふうま下忍

いや、イガグリんトコの掃除屋らしいぜ

 

聞いた話だと、この前汚職で消えた○○って政治家からの依頼で、ジジイ共が女王暗殺に動かしてたんだと

 

 

168 名無しのふうま下忍

そマ?

 

 

169 名無しのふうま下忍

つーか、ソースは何処だよ?

 

 

170 名無しのふうま下忍

この前、若様がウチに来たんで本人から聞いた

 

 

171 名無しのふうま下忍

ウソ乙

 

 

172 名無しのふうま下忍

俺等みたいな下っ端の家に若様が来るとか(ヾノ・∀・`)ナイナイ

 

 

173 名無しのふうま下忍

いや、そいつの話マジだぞ

 

ウチにも来たし若様

 

 

174 名無しのふうま下忍

オレもオレも

 

 

175 名無しのふうま下忍

マジか!

 

 

176 名無しのふうま下忍

え……このスレに来てる中で若様にお宅訪問食らった奴

 

 

177 名無しのふうま下忍

 

 

178 名無しのふうま下忍

 

 

179 名無しのふうま下忍

 

 

180 名無しのふうま下忍

 

 

181 名無しのふうま下忍

 

 

182 名無しのふうま下忍

 

 

183 名無しのふうま下忍

 

 

184 名無しのふうま下忍

 

 

185 名無しのふうま下忍

 

 

186 名無しのふうま下忍

 

危うく隠し撮りの等身大パネルとプロマイド

 

あとヤバイ汁がついた抱き枕を本人の前に晒すところだった

 

バレた時の展開を想像してちょっとアレな気分になったけど、しっかり隠し通したぜ

 

 

187 名無しのふうま下忍

オイ…オイ……

 

 

188 名無しのふうま下忍

自重しろ、ショタコン

 

 

189 名無しのふうま下忍

こんな変態野郎に目を付けられるなんて

 

若様も可哀そうに

 

 

190 名無しのふうま下忍

紳士じゃない、淑女だ!

 

オーク共にアヘらされる寸前で助けられて五年

 

舌足らずな声で『大丈夫か?』って聞かれた時は生殖猿共が出す汁の5倍は濡れたわ!!

 

(めかけ)募集があったら迷わず逝くぞ!

 

 

191 名無しのふうま下忍

 

 

 

192 名無しのふうま下忍

 

 

 

193 名無しのふうま下忍

 

 

 

194 名無しのふうま下忍

……なんでこう、女の対魔忍って肉食が多いんだろうな

 

 

195 名無しのふうま下忍

若様、逃げて! 超逃げて!!

 

 

196 名無しのふうま下忍

心配するな

 

若様の剣の腕なら190がマミって終わるだけだ

 

 

197 名無しのふうま下忍

なら問題ないな

 

 

198 名無しのふうま下忍

YESロリショタ NOタッチ!の法則を守れん奴が消えるのは社会の為だしな 

 

 

199 名無しのふうま下忍

若様ってもう13だろ、ショタって言えるか?

 

 

200 名無しのふうま下忍

ギリギリ大丈夫じゃね?

 

 

201 名無しのふうま下忍

しかし、あれだよな

 

若様ってえらく俺等の中で人気になったよな

 

 

202 名無しのふうま下忍

反乱失敗した時って、ここの宗家ディスりは物凄かったのにな

 

 

203 名無しのふうま下忍

ここに来てる下忍連中は、全員一度は若様に助けられた経験があるからだろ

 

……と米連の兵隊に頭パーンされる寸前で助けられた俺が通りますよっと

 

 

203 名無しのふうま下忍

普通の忍の一党じゃああり得ないからな、頭首が下忍を助けに来るなんて

 

例えるならバイトや契約社員のミスを社長がわざわざフォローしにくるようなもんだし

 

イガグリの下忍連中が逃げる時間を稼ぐ捨て駒にされた時、マジでお世話になりました。

 

 

204 名無しのふうま下忍

助けても威張るどころか『親父が迷惑をかけてすみません』って謝られたし

 

アフターフォローもバッチリで、私の場合奉公に出てた百地家の下忍から奴隷みたいな扱いされてたって言ったら

 

すぐに二車の下に付くように手配してくれたからね

 

淫魔族に掴まった時、生きてるキモイマシーンに入れられそうになったのを助けてくれたのは忘れられません。

 

その場にいたオークや魔族の首が一斉に飛んだ光景は、ある意味壮観だった。

 

 

205 名無しのふうま下忍

そう言えば、移籍の時って宗家が持ってる資産を使って違約金を払ってるって噂、マジかな?

 

 

206 名無しのふうま下忍

多分マジ。

 

オレ等がふうまに戻ってから、出先だったイガグリの奴が急に羽振りが良くなってたの見た事がある

 

 

207 名無しのふうま下忍

俺も見たことあるわ

 

つーか、ランドローバーの新車なんて下忍の給料で買えるかってんだ

 

 

208 名無しのふうま下忍

そう考えたらオレ等、若様に絶対足向けて寝られないよな

 

 

209 名無しのふうま下忍

厨房におんぶに抱っこって、大人としては情けない限りだけどな

 

 

210 名無しのふうま下忍

だからこそ、私は若様がどこに行こうと最後までついて行くって答えたんだけどね!

 

忠誠心も若様のお蔭で清いままのこの身体も、全部捧げる準備万端だし!!

 

若様prpr

 

 

211 名無しのふうま下忍

お前190だろ

 

 

212 名無しのふうま下忍

安定の変態である

 

 

213 名無しのふうま下忍

YESロリショタ NOタッチ!とあれほど……

 

 

214 名無しのふうま下忍

つうか、210のカキコからすると若様は対魔忍と袂を分かつつもりか?

 

 

215 名無しのふうま下忍に代わってTC

今月の宗家情報

 

若様からの訪問を受けたオマエラは、内容をこの板に書き込まないようにしてほしいとの事

 

まだ若様が来てないところも今月中には回る予定なので正座待機しておくように

 

今日の画像

『若様とバイク』

URL

 

 

216 名無しのふうま下忍

お、TCさんから宗家情報だ

 

 

217 名無しのふうま下忍

TCさんって誰だよ?

 

 

218 名無しのふうま下忍

半年間ROMれks

 

 

 

TCさんは8年前から宗家情報をこの掲示板に流している人

 

掲示板の保守やメンテもやってるらしく、セキュリティをペンタゴン並みに引き上げた

 

オレ達も掴めない宗家についての情報を持ってることから、宗家直属の忍であるのは確実

 

実質の管理人みたいなモノなので、垢BANされたくなかったら忠告には従うべし

 

 

219 名無しのふうま下忍

ツンデレ乙

 

そう言えば、昔からこの掲示板に任務先と内容を書いておけば

 

万が一の時に若様が助けに来てくれるって話なかったか?

 

 

220 名無しのふうま下忍

あったあった!

 

けど、あれってマジな話らしいぞ

 

書いた奴の八割近くが救出されたって聞いてるし

 

 

221 名無しのふうま下忍

マジで!?

 

という事は、若様もこの掲示板を巡回してるって事になるんじゃ……

 

 

222 名無しのふうま下忍

おいやめろ

 

 

223 名無しのふうま下忍

こんな便所の落書きみたいなのを若様が見てると思うと、胸が熱くなるな

 

 

224 名無しのふうま下忍

アホか、背筋が凍るわ!!

 

 

225 名無しのふうま下忍

ぶっちゃけ、ここの書き込み見られたら、俺等見捨てられても文句は言えないと思う

 

 

226 名無しのふうま下忍

対魔忍のどの勢力を探しても、現頭領をショタ扱いしてるのはウチくらいだろうしな。

 

 

226 名無しのふうま下忍

若様が強カワイイのが悪い。

 

若様の所為でショタに目覚めた奴、知り合いだけで五人もいるし。

 

おねショタで薄い本が厚くなるな!!

 

 

227 名無しのふうま下忍

お前、マジでやめろよ

 

そんな本が出回ったら、若様マジでふうま見捨てるぞ

 

 

227 名無しのふうま下忍

いい加減、そっちの話題から離れろオマイラ

 

今回の情報に移るぞ

 

 

228 名無しのふうま下忍

書き込みを見る限り、全部の下忍の家を回るつもりらしいな。

 

若様、学校にも行けないくらい忙しいって聞いたのに大丈夫かって……なにこのバイク!?

 

 

217 名無しのふうま下忍

前面に牙付いてるんだけど、超ゲテモノ改造なのになんかカッケー!!

 

 

218 名無しのふうま下忍

これ、多分元はスズキのGSX1300Rハヤブサだな。

 

ノーマルでも300kmは出るスポーツバイクなのに、こんな妙な改造なんかしてたら街を走れないだろ

 

 

219 名無しのふうま下忍

つーか、若様の歳で免許取れねーだろ

 

 

220 名無しのふうま下忍

バイクに目を輝かせている若様prpr

 

 

221 名無しのふうま下忍

おいやめろ

 

 

221 名無しのふうま下忍

だから、おまえ190だろ

 

 

221 名無しのふうま下忍

ショタコンであることを少しは隠せ

 

 

 

 

 次々と行われる書き込みによって掲示板が流れていくのを見ながら、ふうま時子は小さく息を付いた。

 

 彼女の部屋にあるモニターの一台が映しているのは、某大型掲示板サイトでふうまの下忍連中が好んで利用しているスレッド。

 

 実はこの掲示板、時子が引き取られたふうま宗家の執事を輩出していた家が管理していたものだ。

 

 現代において、情報収集にインターネットは欠かせない。

 

 だが、彼女の義実家はそれ以前1990年代にディープなユーザーが利用していたパソコン通信の時代から、ネット環境での情報管理に目を付けていた。

 

 弾正から宗家の執事となるべく養子に出された時子もその為の技術を習得しており、視界のみを遊離して何処へでも潜入できるうえに本やPCと言った端末に触れる事で中の情報を閲覧する事が可能な彼女の邪眼『千里眼』がその有用性に拍車をかけた。

 

 遺伝上の父であったあの男は、時子の才能をふうまではなく自身の為に使うつもりだったようだが、彼女がそれを発揮したのは弾正の死後であるというのは皮肉な話である。

 

 机の上で湯気を立てる湯呑を呷って緑茶の風味に一息つくと、時子は並べられたディスプレイの間に立てられた写真に目を向けた。

 

 そこに映っているのはふうまが衰退する前、何も知らなかった頃の小太郎と自分。

 

 青空の下、小太郎を抱き寄せながら無垢な笑みを浮かべる幼い自分の姿に、時子の胸の奥がチクリと痛んだ。

 

 今の時子にあんな笑みを浮かべることは出来ない。

 

 何故なら彼女はふうまの存続と引き換えに、異母弟を修羅地獄に突き落としたも同然だからだ。

 

 弾正が引き起こした反乱の末期、小太郎がふうまの敗北を予見していたように時子もまた弾正の失敗を悟っていた。

 

 明らかに予め用意されていた迎撃態勢、潤滑に尽きる事無く寄せられる兵站と補給物資、そして伊賀忍に交じるように配置された自衛軍等。

 

 ふうまが反乱を起こしたのではなく、誘発させられたのだと悟るには十分すぎる状況であった。

 

 敗色が濃厚になるふうまに、時子は小太郎と共に反乱に加担していなかった者達を連れて里を脱出した。

 

 その際、彼女は宗家に残された財産や実印など、頭領が持つべきとされる貴重品を根こそぎ持ち出すのを忘れなかった。

 

 そして弾正の死が知らされると同時に、時子はふうま八将三家と上忍全ての署名を集め、小太郎を頭領として正式に就任させたのだ。

 

 執事となるべく忍の勢力争いなども頭に叩き込まれていた時子は、井河の老人達が勝利の後に何をするかは手に取るように分かっていた。

 

 だからこそふうま一門が井河に吸収されるのを防ぐ為に、宗家から持ち出した正式な書式や家印を用いて彼等に先んじて次代の頭領を立てる事で、ふうま健在をアピールしたのだ。

 

 宗家の執事となる事を第一に教育されていた彼女にとってこの一手は最善であり、ふうまが健在であればで弾正亡き後も自分達はやっていける。

 

 そう信じていた。

 

 だが、彼女のそんな甘い考えはすぐさま打ち砕かれる事となった。

 

 井河の老人達が仕組んだふうまと井河の頭領対決。

 

 それによって彼女は忍術を使うことも出来ない五歳の弟を、当時から対魔忍最強と言われた井河アサギの前に送り出さねばならなくなった。

 

 多くの者の前で弟が嬲り者にされる。

 

 この時初めて、時子は自分の取った手がどれ程残酷な物を弟に背負わせたのかを悟った。

 

 結果は言うまでも無く小太郎の敗北。

 

 10分もの間一方的に攻撃を受けた弟は傷だらけであり、自分の足で帰って来たものの歩調はおぼつかないものだった。

 

 それでもなお涙一つ見せない弟を泣きながら抱きしめた時子は、自らが頭領としてしまった弟に降りかかるであろう試練に対して矢面に立つ事を決意した。

 

 だが、運命は残酷である。

 

 その決意とは裏腹に、小太郎が出した推測によって彼女は任務に出ることが出来なくなってしまう。

 

 彼女の弟は言った。

 

 『現在、井河一党が最も消したがっているのは自分ではなく時子である』と。

 

 ふうま敗北の際に見せた機転とあの短期間で自分を擁立する政治的手腕、そして老人達の思惑を潰した事による恨み。

 

 なにより、彼女自身が先代弾正の娘であるという事実。

 

 仮に小太郎が死亡した場合、自ら頭領として立つ事のできる時子は知識や内政的能力を見ても、嫡男という理由だけで頭領の座に就いた弟よりも格段に脅威となる。 

 

 その的を射た意見に彼女は反論の言葉をもたなかった。

 

 それでもなお任務に出ようとしていた時子であったが、『忍の世界や裏社会の世情に疎い自分を情報面でバックアップしてほしい』という小太郎の強い願いによって折れる事となった。

 

 剣士としての才を開花させ、前人未到の勢いで任務を熟す小太郎。

 

 そんな彼を補助する為の手段として時子が選んだのがインターネットである。

 

 主流派の中核である井河から狙われていた時子にとって、対魔忍の本拠である五車の里は敵地同然であった。

 

 それ故、基本的に時子単独で外に出る事が無く、災禍が来るまでは小太郎が任務の度に心願寺幻庵の下に身を寄せる始末であった。

 

 そんな境遇の彼女が情報を収集するとなれば、その方法はごく限られている。

 

 その中で義実家で教え込まれた技術を活かせるこの手段に手を出したのは、当然の帰結と言えるだろう。

 

 元より時子は生真面目な性格である。

 

 道を定めれば、その行動に戸惑いは無かった。

 

 自身が管理していたふうまの資産を潤滑に使ってネット通販で機材を揃え、ハッキング・クラッキングに限らず必要と思われる技能は全て習得。

 

 そうして小太郎が10歳になる5年間で、彼女の邪眼の効果も相まって当時の米連国防総省へのハッキングが可能なほどの化け物じみた情報管理システムを形成するに至った。

 

 小太郎が下忍達の救出に驚異的な数値を記録することが出来たのも、偏に時子のバックアップのお蔭である。

 

 そして現在では五車学園や井河はもちろん、公安までもが電子面において彼女の監視下に置かれており、その監視の目はノマドや米連にまで入り込んでいる。

 

 さすがに電脳を介さない書面や監視カメラの範囲以外で行われた会談などは把握できないが、そこは災禍を始めとする実働部隊がフォローしてくれる。

 

「今日も『ふうまちゃんねる』の住人は面白おかしいですね。さて、そろそろ爆弾を準備するとしましょうか」

 

 モニターの光に映し出された秀麗な顔に冷たい笑みを浮かべながら、時子はフォルダに収納された動画ファイルをネットへ時間指定でアップロードする。

 

 そのファイルの銘にはこう記されていた。

 

『対魔忍定時報告会20××年 12月』と。

 

 

 

 

◆月〇×日(曇り)

 

 

 思わぬ形で、例の計画の根幹に関する事柄の言質が取れた。

 

 これが老人達の耳に入れば『ふざけるな!』といきり立つだろうが、許可を出したのは奴らが選んだ頭領であるアサギだ。

 

 いかにご意見番を気取っていようと所詮は相談役、現体制のトップが出した判断を差し止める権利はない。

 

 アサギにしてもこれから来る下からの反発を思えば、こちらの出した条件に首を縦に振るなど御免被るところだろうが、そこは『右腕』を勝手に使われた己が不覚を呪っていただこう。

 

 さて、今回の事が首尾よく進めば一月ほどで対魔忍とはおさらばと相成るワケだが、その前に俺には片付けねばならない問題がある。

 

 それは現在ついて来てくれているふうま一党150世帯への事情説明と意思確認だ。

 

 忍の世界は縦社会であり、一党全体に影響がある決定事項は宗家から幹部(ふうまであれば八将)へと通達が行き、後の上忍・中忍・下忍といった面々へは各々の主家から命令という形で情報が伝わる仕組みとなっている。

 

 本来なら頭領である俺が言葉を交わすのは八将三家だけであり、その下の者達の事は気にする必要はない。

 

 だが、今回の一件に関しては俺はそれを良しとしていない。

 

 祖先から今まで綿々と引き継いできた対魔忍の道、それを一時とはいえ途絶えさせる事になるのだ。

 

 ならば、その決定を下した俺が家の一つ一つを回って部下の進退を確認するべきだろう。

 

 彼等が変わらずふうまに付いてくれると言うのならば、こちらも全力で面倒を見る。

 

 仮にこちらに付き合っていられないという答えを貰ったとしても、アサギの方で受け入れるようには話はついている。

 

 今のアサギの部下は純然たる井河一党ではなく、甲河の残党も交じっている。

 

 ならば、ふうまから離反した者が入ったとしてもやって行けない事はないだろう。

 

 …………いや、正直言うとかなり不安ではあるんだよ。

 

 この数年間の事を思えばさ、主流派の中核である井河に対する信用なんて欠片も残ってない。

 

 けど、今の対魔忍って実質井河一強なのよ。

 

 根来やら上杉家に仕えていた軒猿衆なんて殆ど廃業して数えるくらいしか残ってないし、対抗馬だった甲河も数年前にエドウィン・ブラックに滅ぼされてしまったもの。

 

 そりゃあ、井河の老人達も好き勝手するわけだ。

 

 つーか甲河の襲撃にしたって、隠れ里の場所をノマドにリークしたのは奴等だって噂もあるくらいだしな。

 

 甲河宗家の跡取りとその後見人が対魔忍に戻らんのも納得である。

 

 彼女達とは数か月前に任務でブッキングしたんだけど、跡取りはともかく後見人の彼女がああいう形で生きてたとは思わんかった。

 

 曰く、ノマドにいるのは前に使っていた身体を魔界技術で改造した偽物らしいし。

 

 どういう仕組みかというのは相手の忍術に関わる事なので聴けなかったが、甲河が対魔忍に見切りを付けていた事は理解できた。

 

 むこうはお米の国でNINJAとして再起を図ってるみたいなので、同じ復興を目指す者としては是非頑張ってほしいものだ。

 

 話を戻して配下の家への説明行脚だが、カーラ女王との会合の後から諸手続きの合間合間に行っている。

 

 始めた当初はガキの頃に『目抜け』と侮られていたのもあって付いて来る奴などいないと思っていたのだが、意外な事に半分を終えた現在で離反者はゼロだったりする。

 

 これも俺のカリスマ性……はないな。

 

 五車の里に残っていても井河の下に付くしかない事が分かっているので、みんなそれが嫌なのだろう。

 

 理由はどうあれ、付いて来ると言うのであればこちらもしっかり受け止めねばなるまい。

 

 ちなみに前回保留にしていた二車の小母さんと甚内殿だが、半数の同意という結果を持っていったら両者から色よい返事がもらえた。

 

 まあ、二人が悩んでいたのは部下の意見がどうなのかという事なので、その辺が解決すれば動きも早いのだろう。

 

 しかし甚内殿は五車学園に通う娘さんがいたはずなんだが、その辺は大丈夫なのだろうか?

 

 まあ、それに関してはこっちが心配しても仕方が無いので置いておくにかぎる。

 

 ともあれ、ウチの意見を纏めることが出来れば、対魔忍として残っているのは愉快なお楽しみタイムだけだ。

 

 ウチの三人いる有能な秘書たちのおかげで、仕込みは全て万全。

 

 あとは結果を御覧じろってところだな。

 

 うん、面倒な事はさっさと終わらせるとしよう。

 

 

◆月〇●日(晴れ)

 

 

 ようやく現ふうま衆の聞き取り調査が終了した。

 

 その結果は驚く事に離反者ゼロである。

 

 ぶっちゃけ、二車の小母さんか時子姉に金でも握らされているのでは……と一瞬勘繰ってしまったが、これはあまりにも失礼なのですぐに訂正した。

 

 しかし、全員がついてくるとは思わんかった。

 

 やはり約十年間も下っ端生活を強いられてきたことで、対魔忍を辞めてもいいくらいに井河の下に付くのが嫌になったのだろうか?

 

 まあ、人間って奴は自分より下と見ている奴が上がって来るのを嫌う性質がある。

 

 仮に残ったふうま出身の忍が何かの功績で出世したとしても、それまで上にいた主流派の奴らは認めようとしないだろう。

 

 俺が対魔忍の中でふうま再興を諦めたのには、そういう心理も多分にあるのだ。

 

 しかし思った以上に早く終わったものだ。

 

 正直言って来月くらいまで掛かると思っていたのだが、これも『さよなら対魔忍』計画へのテンション故か。

 

 上原学園長には事前に連絡はついており、彼女を通して宮内庁が動き出している。

 

 主流派に関してはアサギと交わした契約から手を出されることはない。

 

 あれを反故にするのなら、俺は持てる手段を全部使って井河宗家を絶滅させるつもりだ。

 

 まずは時子姉が仕掛けた爆弾が炸裂するのを待つとしよう。

 

 お楽しみはそれからだ。

 

 

 

 

「ふうまの小倅(こせがれ)め、よもやこのような手を打つとは……。闇に潜むべき対魔忍を白日の下に晒し、さらにはその名誉を貶めるなど……ッ! あれはやはり人ではない、鬼じゃ! 風魔の祖が先祖返りした鬼子じゃ……ッ!!」

 

 東京都の郊外にある古風ながらも立派な武家屋敷。

 

 その母屋にある夜闇に閉ざされた一室で、老人は布団を顔まで被りながら震える声で呪詛を吐いていた。

 

 彼の名は藤林勘蔵。

 

 今は井河と名乗っている対魔忍の一大勢力である伊賀忍軍の名家の一つ、藤林長門守を祖先とする藤林家の頭首を務めていた男である。

 

 9年前のふうまの反乱を制した事で他の伊賀4家と対魔忍の実権を握った彼は、彼等が育てた最強の対魔忍たるアサギを表の頭領に据える事で裏から忍全てを支配していた。

 

 そしてこれからもこの国の守護を裏から担う事で祖先のように歴史に名を刻む……その筈だった。

 

 しかし、彼のそんな計画を粉微塵に打ち砕くような真似をした愚か者が居たのだ。

 

 忌むべき者の名はふうま小太郎。

 

 ふうま宗家の血を引きながらも忍術が使えぬ落ち零れ。

 

 一方で奇怪な剣術によって現役対魔忍を凌ぐ戦果を挙げる怪異。

 

 そして対魔忍の(ろく)()む者であるにも拘わらず、その掟に唾を吐きかける外道である。

 

 小太郎とその手勢は、以前に吸血鬼の女王であるカーラ・クロムウェル暗殺の際にマスメディアを利用してこちらの動きを封じた事があった。

 

 それに味を占めたあの鬼子は伝統ある対魔忍の定例報告会の様子を隠し撮りし、あろう事かその様子をネット配信で世界に流したのだ。

 

 相手は反乱を起こした前科のある勢力の首魁の子。

 

 それ故に対魔忍の明日を担う自分達に万が一があっては一大事と、凶器の持ち込みを許さぬよう衣服を着せてはいなかった。

 

 だが、世間はそれを虐待であると断じた。

 

 件のカーラ・クロムウェル襲撃事件で鬼子の顔と名が世間に知れていた事も災いし、この画像から始まった騒動は瞬く間に大火となって井河の対魔忍の名声を焼き尽くしたのだ。

 

『あんな小さな子供の顔に陶器を投げるなんて酷過ぎる』

 

『子供を裸にして晒し者にするなんて、虐待なうえにセクハラだ』

 

『あの老人達は分厚い防護板越しでなければ子どもと接することも出来ないのか? だとしたらとんだ臆病者だ、忍者が聞いて呆れる』

 

 何も知らぬ世間の虚け共が好き勝手にベラベラと舌を回すのを、男は歯を食いしばりながら聞いていた。

 

 顔に湯呑がどうした!? そんなもの、我等の時代からすれば撫でる内にも入らん!!

 

 セクハラだと? 米連かぶれの阿呆が! 相手は反逆者の血を引く鬼子だ、我らのような徳の高い者と相対するのなら危険が及ばぬように裸に()くのは当然の事。

 

 むしろ四肢を拘束していなかっただけ有情と思え!!

 

 我らが臆病者だと? 何も知らぬ輩が寝ぼけた事を!

 

 奴は正体不明の力を使う危険な化け物よ! 直に向き合ったとして対魔忍、()いてはこの国の未来を担う我等にもしもの事があったらどう責任を取るつもりだ!?

 

 液晶モニターの先で好き勝手に論ずるタレントや自称有識者の言葉を思い出し、ギリギリと歯ぎしりを漏らす勘蔵。

 

 何より度し難いのはこちらの傀儡たるアサギが、この一件を理由に対魔忍から自分達を排除した事だろう。

 

 しかもその通達もただ一方的に『今回のような醜聞を犯した者を組織の相談役に置いておくわけにはいかない。政府への信用回復を図るために、長老衆の相談役は全員解任する』という旨の書簡を送るのみ。

 

 当然、こんな紙切れ一枚で納得など行くわけがなく、即座に五車学園に向けて抗議したのだが結果は梨の(つぶて)だ。

 

 ならばと藤林旗下の者達と共に井河から離脱を計ろうとすれば、現頭首である息子から絶縁を喰らった上に使われなくなって久しい別荘の一つに幽閉される始末。

 

 聞けば服部、山中の同志も同じ扱いを受けているというから堪らない。 

 

「おのれ……ッ! おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ!!」

 

 御しきれぬ怒りに被っていた布団を跳ね飛ばしながら立ち上がる勘蔵。

 

 苛立ちのままに部屋の中にある物を手あたり次第壊していた彼は、ふとある事に気づいた。

 

 この場所を護っていた暗部の気配が無いのだ。

 

 暗部とは藤林の当代も知らぬ秘密の部隊、勘蔵達相談役が己が手足として独自に育て上げた精鋭である。

 

 役職を解任されたとはいえ、そんな忠実な手駒が彼を裏切るはずがない。

 

 久々に感じるきな臭い空気に先ほどまでとは違う冷たい汗を一粒垂らしながら、勘蔵は部屋に響くように手を打ち鳴らした。

 

 これは屋敷に配置した暗部を呼び出す合図であり、彼等に異常が無ければすぐさま駆けつける事になっている。

 

 だが、パンという軽い音が夜闇の中に虚しく響くだけで屋敷からは勘蔵以外の気配が現れる様子はない。

 

「馬鹿な……ッ!」

 

 最後の侍従にすら見捨てられたかもしれない、という恐怖からムキになって手を打ち鳴らす勘蔵。

 

 虚しくどこか間抜けな手拍子が幾度か続いたあと、ようやく彼の部屋と中庭を(へだ)てる障子は微かな音と共に開いた。

 

「遅いぞ! なにをやって───ッ!?」

 

 振り向いた勘蔵はそれ以上言葉を出すことが出来なかった。

 

 何故ならそこにいたのは彼が望んでいた者ではなく、足元に六人分の生首を転がした仮面の少年だったからだ。

 

「お待たせして申し訳ない。六人分揃えるのに少々手間取ってね」

 

 ゴロゴロと素首を蹴り込みながら部屋の中に入って来る仮面の男。

 

 そのハートのような形に禍々しい悪魔の顔が描かれた仮面と血塗られた刀に戦慄を覚えた勘蔵は、足元まで転がってきた生首を見てとうとう悲鳴を上げた。

 

 殺された事にすら気づいていないかのように普通の表情で固まった死相は、彼が手塩にかけて育てた暗部の隊長のものだったからだ。

 

「さて、この世を去る覚悟は決まったかな、藤林のご老公?」

 

 まるで夜道で遭った知り合いに話しかけるかのような声音と共に、仮面の男はゆっくりと勘蔵に歩み寄る。

 

 そして、その時初めて目の前の男が誰かという事に、彼は気が付いた。   

 

「貴様───ッ!? 鬼子ッッ! ふうま小太郎ぉぉっ!!」

 

「いかにも」

 

 腰が抜けたのか、へたり込み這いずるようにして後ろに逃れながら上げる老人の言葉を仮面の男、小太郎は事も無げに肯定した。

 

「この(うつ)けめッ! 分かっておるのか!? 儂を……井河の名家である藤林の家長である、この勘蔵を手に掛ければッ! せ、戦争だぞ!! 次はふうまなぞ一人たりとも残らんのだぞ!?」

 

「そう心配すんな、ジジイ。こいつは井河の頭領、アサギからの依頼なんだからよ」

 

 (もつ)れる舌を必死に動かして紡いだ言葉に応えた声は小太郎の物ではなかった。

 

 勘蔵が振り返ると同時に背にしていた障子が開くと、無人であるはずの部屋に浮かぶ三つの影。

 

 一つは槍を手にした長身の男、もう一つは鬼と髑髏が融合したような鎧を纏った少年。

 

 そして最後は床から突き出た巨大な針のようなものと、その先端に突き立てられた丸い物体。

 

 なにか分からずに目を凝らした勘蔵は、差し込む月明りが闇を払った瞬間に引きつるような悲鳴を上げた。

 

 そこにいたのはふうま八将の一家、二車の跡取りである骸佐とその執事である土橋権左。

 

 そして権左が土遁の術で作り上げた土槍に突き立てられた、己と同じ長老衆である山中の首だったからだ。

 

「そういうわけでしてな。こんな風にアンタのお仲間を殺ったところで、何のお咎めも受けんというワケですわ」

 

 手にした槍で山中の翁の首を勘蔵へと飛ばす権左。

 

 宙を舞うそれを反射的に受け取った老人は、甲高い悲鳴と共に四つん這いで部屋の奥へと逃げ込もうとする。

 

 しかし、そこにも先客がいた。

 

「随分と情けないザマじゃねえか、勘蔵。天下に名高い藤林の頭首だったお前さんが、老いさらばえたからって洟垂れだった頃に戻っちまったのか?」

 

 自身の退路の奥から現れた人物に、勘蔵はバタつかせていた手足を止めた。

 

 勘蔵はこの声に聞き覚えがあった。

 

 彼が現役だった頃、何度も辛酸を嘗めさせられた仇敵。

 

 藤林旗下の精鋭六人で挑んだ際には、自分以外の者が輪切りにされて敗走する結果に終わったこともある。

 

 当時からふうま八将最強と言われた二刀流の使い手。

 

 あの苦い体験があったからこそ、勘蔵はふうまに対して苛烈なまでの仕打ちを強いて来たのだ。

 

「ひ…人喰い……幻庵……ッ!?」

 

「───応よ。テメエ、(おい)らの可愛い孫娘を売りやがったんだってなぁ。ウチの身内に手ぇ出したってこたぁ、このボンクラみてぇに全身の肉と皮を剥がれる覚悟はできてるってことだよなぁ?」

 

 普段の好々爺然とした口調とは全く違うドスの効いた物言いで、心願寺幻庵は手にぶら下げていたモノを勘蔵に投げ渡した。

 

 彼の左手のすぐ傍に落ちて転がった物体。

 

 それは剃刀のような鋭利な刃物で顔の肉を半分削がれた服部の長老の首であった。

 

「あ…あ…あぁ……」

 

 最後の同志の変わり果てた姿に自分の末路を見た勘蔵の身体から全ての力が抜けた。

 

 彼とて一流の対魔忍であった者、現状では己に生きる目が無い事を悟ったのだ。

 

「アンタに恨みは……まあ、腐るほどあるか」

 

 風切り音と共に紅い飛沫を振り払った小太郎は、ゆっくりと銀光を取り戻した刃を持ち上げる。

 

「なんにせよ、俺達の今後には邪魔なんでな。──────大人しく死んでくれや」

 

 無慈悲と言える宣告と共に振るわれた剣閃を土産に、勘蔵の意識は覚める事の無い暗闇へと堕ちていった。

 

 

 

 

 惨劇が行われているであろう藤林家の別荘、その外では対魔スーツに身を包んだアサギとさくらが待機していた。

 

「お姉ちゃん、本当にいいの?」 

 

「いいのよ。───老人達はやり過ぎた。本来なら私の情報をノマドに売った時点で、井河家と共に他の者も粛清すべきだった」

 

 今まで井河一党を牛耳っていた長老の暗殺。

 

 しかも井河頭領による粛清ではなく、ふうまの手による物である。

 

 本来であればアサギが許可を出すなど言語道断な事柄だ。

 

 しかし、今回に限っては仕方がない。

 

 彼等は現存するふうま一党と対魔忍主流派との戦争回避、並びに移籍する彼等との関係改善の為に生贄に選ばれたのだ。

 

 井河の今後を思えば、あれだけの醜聞を晒した事とその影響力を考慮すれば、彼等を生かしておく選択肢はない。

 

 そもそも頭領の許可無く、指令書をねつ造して部隊を動かした時点で誅殺されて(しか)るべきなのだ。

 

 どうせ殺すなら、対魔忍全体の今後の為に役立ってもらおうというワケだ。

 

「……終わったようね」

 

 音もなく彼女達の前に現れた四つの人影に、アサギは無意識の内に目を細めた。

 

 二車の骸佐と権左ははっきりと気配を感じた。

 

 心願寺幻庵に関しては辛うじて感じる程度であったが、彼はかつてふうま八将最強と言われた手練れの対魔忍だ。

 

 数年前に現役復帰をした事で腕を取り戻しつつあると思えばおかしくない。

 

 問題は頭領たる小太郎である。

 

 彼に関してはアサギを以てしても、全く気配を掴むことが出来なかった。

 

 それは小太郎がその気ならば、自分と妹の首が今頃地面に転がっていてもおかしくないという事だ。

 

 さくらもその事に気づいているのだろう、普段の楽天的な雰囲気は鳴りを潜めて彼を見る視線も険しい。

  

「終わりましたよ、井河殿」

 

 不気味な仮面を付けたまま、小太郎は手にしたものをアサギ達の前に無造作に投げつける。

 

 ゴロゴロと彼女たちの足元に転がってきたのは3つの生首。

 

 それは藤林、服部、山中の老人のものだ。

 

 8年前にアサギ自らの手で粛清した井河、そして数か月前に脳梗塞で急逝した百地を含めれば、これでかつての井河長老衆は全滅したことになる。

 

「これでお互い約定の一つは果たした。あとは───」

 

「分かっているわ。山本長官へは貴方が送ってきたリストにあった対魔忍の廃業を認める旨の報告書は上げている。色々と反発があったみたいだけど、そこは上原家と宮内庁が抑えたようよ」

 

 陰陽寮を祖とする退魔結界の大家である上原家。

 

 彼らがふうまを引き抜こうと動いているのをアサギが知ったのは、数日前に行われた山本との会合の時だ。

 

 アサギとしては反対したかったが例の約定によってそれを口に出すことが出来ず、公安も先立って公表された例の『報告会』の動画による世論を味方に付けた宮内庁、その後ろにいる上原の要請を断れる状況ではなかった。

 

 結果として、彼等はふうまの移籍を指を咥えて見ているしかなかったワケだ。

 

「なら、後は井河殿が主流派を纏めるだけですね。これから同業他社として現場で遇うこともあるでしょうし、互いの良好な関係の為にも頑張ってください」

 

(簡単に言ってくれるわね、こっちの苦労を考えもしないで……)

 

 軽い調子で言い放つ小太郎に、アサギは内心で呪詛を吐いた。

 

 ふうま一門、150世帯約300人の人材が一斉に抜けるのだ。

 

 普段から人手不足に喘ぐ対魔忍にしてみれば、この上ない大打撃である。

 

 特に10年もの間、自らの下にあった小間使いを失う事になる井河の混乱はひとしおだろう。

 

 ふうま側が公表した動画によって醜聞ゆえにと理由をつけることが出来たとはいえ、名家の長老を切った事も含めて相当な反発がくるのは想像に難くない。

 

 父が早逝した為に若くして井河の頭領の座に就いたものの、裏で牛耳っていた祖父がいた為に加えて、現場主義だったアサギは内政や外交を苦手としている。

 

 彼女が長老衆を実力で排除できなかったのは、彼らのコネクションや外交的手腕を当てにしていた部分があったからだ。

 

 しかし、これからはそれも期待できない。

 

 せめて始末する前にノウハウや彼らの持つパイプを確保していればと思うが、今となっては後の祭りである。

 

「それじゃあ、井河殿。俺達はこのまま引き上げますんで、後はよろしくお願いします」

 

「皆さん、帰りにラーメンでも食っていきませんか?」

 

「いいな。今日は心願寺の爺ちゃんもいるし、小太郎の奢りでパッと行くか」

 

「これこれ、儂は年寄りなんじゃぞ。ラーメンではなくうどんにせんかい」

 

「なんだよ、爺様。しゃべり方が元に戻ってるじゃんか」

 

「事は済んだでな、気合を入れる必要もないからの」

 

「つーか、藤林のジジイが言ってた『人喰い幻庵』ってなんだよ?」

 

「今はこんな老いぼれでも、昔は何かと無茶をしておったのじゃよ。井河や甲河の腕自慢に喧嘩を売ったりGHQの事務所に殴り込みをかけたりの。ま、若気の至りと言う奴じゃな」

 

「面白そうですね。飯の肴に聞かせてくださいよ」

 

「いや、他流派のふうまアンチってそれが原因じゃね?」

 

 自身に降りかかるであろう苦難に眩暈(めまい)がする思いのアサギを他所に、和気藹々(わきあいあい)と市街地へ向けて歩を進めるふうまの男性4人。

 

 頭を抱え始めた姉に寄り添っていたさくらは、遠ざかっていく彼等から聞いたことのあるフレーズを耳にした。

 

「これって……長渕剛の『とんぼ』?」

 

 歌い始めたのは恐らく土橋権左。

 

 最初は茶々を入れていた骸佐や小太郎、さらには心願寺の翁も巻き込んで今や大合唱となったそれは、さくらには何故か決別の曲の様に感じられた。

 

「きっと、これがあの子たちの今の気持ちなんでしょうね」

 

「お姉ちゃん……」

 

「良く分からないうちに国の名の元に対魔忍という一つの組織として統合され、私達にとって都合のいいように使われる。彼等からすれば政治家や公安、井河もみんな纏めて東京にいるバカヤロウなんでしょう。そして、それから解放された彼等は幸せを探して東京を離れる……」

 

「でもさ、対魔忍から離れて幸せ(それ)が見つかるのかな?」 

 

「さあ。もしかしたら見つけても、舌を出して笑われるだけかもしれないわよ」

 

 そう肩をすくめる姉に、苦笑いを浮かべるさくら。

 

 そんな井河姉妹に見送られながら、四人の影はゆっくりとネオンの光の中に消えていくのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。