剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 お待たせしました、12話目完成でございます。

 拙作が日間ランキングの一位にあった時には、思わず目を疑いました。

 これもひとえに読んでくださっている皆様もお陰、本当にありがとうございます。

 退魔忍RPGも新たなレイドボスイベントが発生していますが、こちらの方もボチボチやりながら、更なる精進を行っていきたいと思います、

 こんな作品ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。



日記12冊目

〇月××日(土砂降り)

 

 

 今日、久々に濤羅(タオロー)兄が枕元に立った。

 

『いいか、妹が『女の顔』で迫ってくるという場面に遭遇しても心を乱してはいけない。焦りも戸惑いも全て呑み込んでクールに首筋へ手刀を打ち込み、速やかに意識を奪うのだ』

 

 と、何故かあおむけの状態からマウントを取ろうとする相手の意識を刈り取る練習をさせられた。

 

 いや、なんつう事態を想定してるんだ、この人は。

 

 言われるままに異様に実践的な訓練に付き合ったものの、何の意味があるのかさっぱりわからん。

 

 あれか?

 

 妹さんと何かあったのか?

 

 だとすれば本当に失礼な話である。

 

 兄弟子にこんなことを言うのはどうかと思うが、ウチの銀零はハイライトの消えた目で背中にへばり憑いているアンタの妹と違って健全です。

 

 最後に濤羅兄は前世で鍛錬で俺を打ち負かした時のような厳しい表情で、『もしもの時は戸惑うな。迷ったら喰われるぞ』と言い残して消えた。

 

 本来であれば『何を馬鹿な』と一笑に付す話なのだが、達郎という悲劇の例もある。

 

 …………備えはしておくべきか。

 

 

〇月×■日(晴れ)

 

 

 前回の寄生虫騒ぎで、カーラ女王から勲章を授与したいと打診があった。

 

 確かにめでたいのだが、今後の事を思うと素直に喜ぶことはできない。

 

 隼人学園での猶予期間の後に亡命する予定のヴラド国は、なんだかんだ言っても吸血鬼の国である。

 

 そこに女王の肝いりという形で人間が移住するだけでも目立つのに、勲章まで貰っていては国の上層部に良からぬ感情を抱かれないだろうか?

 

 しかも今回始末したグラム・デリックはカーラ女王の叔父、(すなわ)ち王族である。

 

 条約違反で一度断罪されたうえに他国でのバイオテロ+クーデターを引き起こそうとしたのだから、奴を擁護する要素はカケラもない。

 

 だとしても、王族である奴はヴラド国に於いてカーラ女王の政策に反対する者を初めとして、そのパイプを国の多方面に伸ばしていたのは想像に難くない。

 

 今回の寄生虫を育成する施設等々を見ても、断罪後も存命していたことを自身のシンパに伝えていたのは明白だ。

 

 ということはだ、今回の件で勲章を貰うという事はグラムの取り巻きを丸々敵に回すという事になる。

 

 そんな考えもあって最初は叙勲を断っていたのだが、それは女王から却下された。

 

 本件は日本とヴラド国の二国を巻き込んだテロであり、ヴラド国にとっては国家の存亡にもかかわるモノだ。

 

 あの時点で手を打つことが出来ずに寄生虫が隼人学園に蔓延した場合、神村教諭や上原理事長、さらにはカーラ女王やクリシュナ卿まで感染していただろう。

 

 そうなればグラムはヴラド国はおろか日本の退魔組織の一大勢力までも手中に収める事となり、下手をすれば第二のエドウィン・ブラックとなっていたかもしれない。

 

 そういった事実を鑑みれば、これだけの成果を上げた者に褒美も与えないのでは王として示しが付かないのだそうだ。

 

 まあ、女王の思惑の中には今回の件を使って人間の集団であるふうまの地位確立と、同時に自身の政治的基盤の強化もあるのだろう。

 

 正直気が進まないが相手は未来の雇い主、こちらの我を通して不興を買うのは愚策でしかない。

 

 約束されてしまったリスクに内心頭を抱えながらも俺は勲章の叙勲を了承した。

 

 クリシュナ卿の話だと、叙勲の式典に関しては俺達がヴラド国に移住した後になるらしい。

 

 華やかな場所など縁のない生活をしてきた事もあって猶予期間を挟むことに胸を撫で下ろしていた俺は、その後で上原理事長から告げられた事に頭を抱えることとなった。

 

 なんと女王とは別に宮内庁と防衛庁から、今回の件に関しての功労の式典があるというのだ。

 

 冷静に考えればわかる事だが、グラムが起こそうとしたテロの舞台は日本、しかも魔界勢力に対する国防の要の一つである隼人学園なのだ。

 

 そりゃあ日本側からも何らかのアクションがあるに決まっている。

 

 俺が未成年であることに加えてふうま衆の存在が機密対象である事から、式典に関しては大々的に行うわけではないそうだが、それでも政府高官や大臣なんかは参加するらしい。

 

 例の移籍騒ぎの所為で、めっちゃ警察庁や公安のお偉さん方と顔を合わせ辛いんですが。

 

 当然、これも欠席は認められない。

 

 せめてもの救いは寄生虫発見に尽力した研究チームも表彰の対象らしいので、米田のじっちゃんがいる事だろうか。

 

 ……ああ、今から胃が痛い。

 

 

〇月×☆日(晴れ)

 

 

 久々に剣の話をしようと思う。

 

 二度目の生を受けて早や14年、戴天流の修練も大詰めを迎えているのだが未だに成っていない技が一つある。

 

 その技とは戴天流において幻の秘剣と言われている『六塵散魂無縫剣(りくじんさんこんむほうけん)』である。

 

 神速と針の穴を通す精度を併せ持つ10連刺突。

 

 極めし者が放てばその剣閃は音を置き去りにし、相対した者の目には十の刺突はその(はや)さ故に剣を横に薙ぎ払っているように見えるという。

 

 前世においてこの技を極めた時は、アンチマテリアルライフル並みの速度と威力を持った暗器、それと同時に襲い掛かってきた至近距離からの機関銃の斉射を全て切り払ったうえに、眼前にいたガイノイドの首を刎ねる事が出来た。

 

 肝心の今生においてだが、今の時点ではだいたい70%くらいでしかない。

 

 今日は宿舎にある池に浮かんでいた木片を足場にして宙を舞っていた桜の花びらを標的にしたのだが、結果は8枚しか真芯を捉えることが出来なかった。

 

 これは後半の刺突が失速したことによって、脳内のイメージと実際の動きにズレが生じたことが原因だ。

 

 この技において肝要なのは全ての刀が同じ速度を維持すること。

 

 この体たらくでは、秘剣を名乗るなどおこがましいにもほどがある。

 

 やはり、この身はまだまだ至らない。

 

 修練あるのみ。

 

 

〇月▽〇日(くもり)

 

 

 今日は感謝状を貰うために登庁してまいりました。

 

 この件については裏の事情は一切明かされていない為、俺は事件解決の功労者ではなく感染者を最初に発見したという位置づけになっている。

 

 そういう訳なので俺は()え物であり、本当の主役は寄生虫の発見と駆除に貢献した米田のじっちゃんと上原の研究班だった。

 

 とはいえ、こちらが(ないがし)ろにされているという事はなく、例のNINJYA騒ぎの余韻もあって防衛庁長官から感謝状を渡される時はマスコミによる写真撮影が凄かった。

 

 というか、俺の戸籍上の名前『小太郎』だったんですが。

 

 この名前って代々の頭領が引き継ぐって話じゃなかったのかよ。

 

 あと、保護者として付いてきてもらった天音姉ちゃんのテンションがヤバかった。

 

 『ようやく若様の力を認めたか、役人どもめ!』とか鼻息を荒くしてたのがめっちゃ恥ずかしかったんですが。

 

 ともかく、これにて寄生虫テロに関する面倒事はクリアである。

 

 明日からは平和な日々が戻ってくるだろうから、秘剣習得に向けて邁進せねば。

 

 

〇月▽×日(くもり)

 

 

 今日、公安を通して対魔忍主流派から応援要請が来ました。

 

 いや、はえぇよ。

 

 こっちが移籍してまだ二か月ちょっとだぞ。

 

 もうちょっと頑張ろうよ、アサギ殿。

 

 とはいえ、この要請を断るというのは流石に拙い。

 

 こちらから言いたい事は山とあるとしても、同業他社としてこれから連携を取る事もあるだろう相手なのだ。

 

 積みあがった互いの因縁を考慮に入れても、ここは貸しを作って関係改善の足掛かりにすべきだろう。

 

 と言う訳で会談に臨んだわけだが、ついてきたメンツがヤバい。

 

 執事役の天音姉ちゃんに秘書官の災禍姉さん、右腕の骸佐とその腹心である権左兄ィ、あとは護衛として心願寺の爺様。

 

 現ふうま衆オールスターのそろい踏みである。

 

 現在の関係が関係だから是非もないのだが、少々過保護すぎやしないだろうか。

 

 そう言ったら『総大将が敵陣に乗り込むんだから、この位は当たり前だ。いい加減、頭領だって自覚持て!』と骸佐に怒られてしまった。

 

 たしかにふうま衆は対魔忍の一派閥ではなくなったのだ、お飾りであろうとトップとして自重すべき事は見極めねばならないか。

 

 上記のメンバーでも十二分に仰々(ぎょうぎょう)しいのだが、それにプラスして引っ付いて来たのがこの世界の自分に会うと聞いて自分も行くと聞かなかった若アサギである。

 

 話を聞くに、彼女は政府の下部組織となっている自身の世界の対魔忍の体制が気に入らないようで、『利権やしがらみに縛られて正義を貫こうとしない政府の犬のボスに、自分がなっているなんて信じられない』だそうな。

 

 まあ、こっちと違って彼女はまだ高校生だ。

 

 清い理想に燃える青い時代なんだろうさ。

 

 本当なら許可なんて以ての外なんだが、相手は世界が違うとはいえアサギである。

 

 下手に抑えつけて勝手な行動を取られては目も当てられない。

 

 そんなワケで同行を許可した訳だが、当然のことながらスッピンで出せるはずがない。

 

 なので、彼女には顔を隠してもらう事にした。

 

 今の若アサギの顔を覆っているのは、聖闘士星矢に出てくる女性聖闘士『魔鈴』の仮面である。

 

 偽名の方も考えるのが面倒くさかったので、仮面の持ち主からそのまんま頂いた。

 

 話を戻して今回のアサギからの依頼だが、ヨミハラに潜入して消息が途絶えた五車学園の生徒を助ける手助けをしてほしいとのことだった。

 

 この時点でツッコミ所満載なんだが、いちいち挙げていては話が進まないのでお口にチャックである。

 

 件の生徒の名は水城ゆきかぜ。

 

 一時はアサギと双璧と言われていた凄腕、『幻影の対魔忍』水城不知火の娘である。

 

 本件の始まりはひと月ほど前。

 

 ヨミハラの娼館において、数年前に任務で消息不明になった不知火の目撃証言が上がったことが切っ掛けだった。

 

 全盛期はアサギに迫ると言われた不知火の生存は、ふうま一門が抜けた事で深刻な人手不足に苛まれていた主流派にとっては福音といえた。

 

 そんなワケでアサギをはじめとした上層部はすぐさま救出に向けて動き出そうとしたのだが、悲しいかな現状の主流派は現役の者は軒並み任務に忙殺されており、動かせる人材などほとんど存在しない。

 

 それでも不知火を諦められない彼女達が何とか人員を捻出しようとしていたところ、どこから噂を聞き付けたかはわからないが一人の生徒からの志願があった。

 

 その生徒がゆきかぜである。

 

 優れた雷遁の使い手であり若手の中でも頭一つ抜けるほどに優秀だった彼女は、纏い(潜入捜査の事)の任務である本件はまだ早いと止める周囲の言葉を振り切って強硬に救出作戦への参加を願い出た。

 

 ゆきかぜの頑固さにほとほと困り果てていたアサギであったが、彼女も父親を任務で(うしな)っている為に家族に固執するゆきかぜの気持ちが分かるので突き放すことが出来ず、さらには無理に外した場合にゆきかぜ単独でヨミハラに潜入する危険性を考慮して志願を受け入れた。

 

 その結果、当初の救出プランに組み込まれた彼女はヨミハラに奴隷娼婦を装って潜入する事となったわけだ。

 

 ちなみにゆきかぜには男性経験はない。

 

 この説明を聞いた俺の感想は『正気か、貴様等!?』であった。

 

 14歳の女の子、しかも男性経験ナシを奴隷娼婦として敵陣に送り込むなんて、どう考えても失敗するに決まっているだろうに。

 

 当然、彼女一人で潜入させていたわけではないだろうから本命である彼女の他にもバックアップの為の人材がいるだろうと尋ねてみると、表情を曇らせながらアサギが手渡してきたのはタブレットだった。

 

 画面を見てみると映っていたのは風俗のホームページで、そこには対魔スーツを着て目のあたりを手で隠した3人の女の姿が……。

 

 そう、負けた対魔忍お得意の『いつもの』である。

 

 とりあえず、今にも暴れだしそうだった『魔鈴』を視線で制した俺は、返事は後日と今回はお茶を濁しておいた。

 

 こっちに応援をよこす位だから相当ヤバい案件だと覚悟していたが、予想の斜め上を行き過ぎである。

 

 恩を売るには打って付けのチャンスなんだが、部下にこの尻拭いの為に命を掛けろとはよう言わんわ。

 

 はてさて、どうしたものか。

 

 

〇月▽☆彡日(雨)

 

 

 過日(かじつ)の水城ゆきかぜ救出任務応援の件ですが、受けることに決まりました。

 

 現在の体制はもとより、ヴラド国に移籍後も対魔忍と連携を取る事を視野に入れている俺達にとって、恩を売れる今回の案件は初めからNOという答えはない。

 

 会談当日はあんまりな話に色よい答えを返せなかったが、一度クールダウンする時間を得た事で迷いを振り払うことが出来た。

 

 で、一番の問題であるこちらからの人選だが、俺と骸佐と権左兄ィ、あとは若アサギこと魔鈴を起用した。

 

 俺と骸佐が行くのは借りの値段を思い切り吊り上げるためだ。

 

 将来有望とはいえ一介の見習い対魔忍を救出するために他流の頭領と、その右腕であるふうま八将の一つである二車の当代が動く。

 

 下忍を貸し出すのとは恩義のケタが違う。

 

 こんなアホな話で部下を危険にさらすのは超カンベンという本音も多分にあるが、その辺に関しては心のポケットにしまっておこう。

 

 当初は俺が単独で行くつもりだったのだが、家族や八将にめっちゃ反対された為に敢え無く白紙となった。

 

 頭領なんだからホイホイ現場に出るんじゃないと説教を食らってしまったけれど、恩を売る云々やヨミハラへの潜入経験があるために俺を外すことはできない。

 

 ならばとメンバーに志願したのが骸佐だった。

 

 俺に万が一のことがあったら次の頭領はコイツなので危険地帯に連れて行きたくないのだが、それを言うと『お前が言うな』とツッコまれるのは目に見えている。

 

 日頃から右腕と公言している以上、俺が動けば奴も付いてくるのは当たり前なのだ。

 

 骸佐が出るとなるとその執事である権左兄ィも付いてくるワケで、大体のメンツはこれで決定。

 

 最後の一人は俺の独断で、平行世界の自分に怒り心頭で八つ当たりに精を出していた魔鈴をガス抜きついでに連れて行くことにした。

 

 汚い考えを明かせば、腕が立つ上にこの世界の人間ではない魔鈴は、ふうま衆の犠牲を極力出したくない今回の件には打って付けなのだ。

 

 さすがに捨て駒にする気はないが、もしもの際には骸佐達の代わりにヤバい橋を渡ってもらうくらいの覚悟はできている。

 

 ま、そん時は一人に任せることはせず、俺も一緒に渡ってやるつもりではいるがね。

 

 そういう訳で直通回線を使って了承とメンバーを伝えた訳だが、通信先で何故か顔を青褪めさせるアサギ。

 

 不穏な空気を感じていたところ、秘書役である紫から向こうの救出メンバーが発表された。

 

 主流派から派遣されるメンバーは秋山凜子、秋山達郎、そして上原鹿之助。

 

 全員五車学園の生徒で下忍ですらねぇ。

 

 聞かされた時は骸佐と二人クロ●ティ高校ヅラで『それはひょっとしてギャグで言ってるのか!?』ってなってしまった。

 

 なんでも当初予定していた『電輝(でんき)の対魔忍』の異名を持つ手練れの上原燐が、政府からの緊急要請によって引っ張られていったらしい。

 

 で、どうすんだと混乱していたところで名乗りを上げたのが、学生ながらに任務をこなしている空遁使いの秋山姉弟と上原燐の推薦を受けた従弟の鹿之助だそうな。

 

 はっきり言ってこっちからしたら『ナメんな』以外の何物でもない話なのだが、今後の事を思えばここで関係を打ち切るのは拙い。

 

 そもそも現在進行形で奴らを襲っている人手不足も、元をただせば俺達が抜けたのが原因なんだし。

 

 ここは井河殿の貫禄すら感じさせる渾身の全裸土下座に免じて許す事にしよう。

 

 というか、モニター越しでいきなり服を脱ぎだした時は何事かと思ったわ。

 

 流れるように繰り出された敗北のベストオブベストを見た魔鈴は泡を吹いて気絶したし。

 

 会談の後、骸佐とアサギに対して『今後はちょっと優しくしてあげようか』と話し合ったのは秘密である。


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