剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 お待たせしました、15話完成です。

 ゆきかぜ救出ミッション、最後まで行けませなんだ。

 後編に関しては早めに上げたいと思いますです、はい。

 


日記15冊目

〇月▽×日(今日も岩天井)

 

 

 えー、業務連絡、業務連絡。

 

 剣キチ君が体調不良のため、本日予定されていた『アンダー・エデン』襲撃が明日以降に延期となりました。

 

 簡単に纏めると、朝起きた瞬間から想像を絶する筋肉痛が襲ってきた。

 

 原因は先日のブラック戦で使った分身貫光迅雷。

 

 前世で自分に止めを刺した技を再現するとか胸アツ!とか思ってやったんだけど、見通しが甘いにもほどがある。 

 

 よくよく考えたら、豪軍ってあの時人体を完全に再現したサイバーボディだったのよ。

 

 だからホイホイ音速超えブチかましてたワケで、生身の俺が真似したら反動が来るのは『コーラを飲んだらゲップが出る』くらいに確実な事だった。

 

 まさにアホの所業である。

 

 ぶっちゃけ靭帯とか筋肉が断裂してもおかしくなかったので、この程度で済んだのならマジに御の字だろう。

 

 電磁発勁の反動治療用に覚えた内養功を使えば日常生活に支障はないくらいには動けるけど、今の状態で戦闘はさすがに無理と言わざるを得ない。

 

 というワケなので、今日は全員自由行動である。

 

 昨日は骸佐達に続いて学生たちの護衛をしてくれた魔鈴からも滅茶苦茶怒られたので、今日は部屋で大人しくしようと思っていたんだが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 突然ですが問題です。

 

 潜入作戦中に仲間の一人(♂)から非処女である事を告げられました。

 

 どのようなリアクションが適切か、答えなさい。

 

 回答 分かるわけねーだろ。

 

 突然何事かと思うだろうが、悲しいかな全て事実である。 

 

 昼過ぎに少しでも筋肉痛を和らげようと部屋でストレッチをしていたところ、話があると訪れた上原鹿之助君から上記のカミングアウトを食らったわけだ。

 

 本人の希望で女性陣を排して設けた場だったが、同席していた他のメンバーは唖然。

 

 俺も体の痛みがぶっ飛ぶほどの衝撃だった。

 

 とはいえ、野郎が雁首揃えて白目をむいていても仕方がない。

 

 話している内に思い出がフラッシュバックしたのだろう、泣きが入った鹿之助君を宥めて聞いた話はこうだ。

 

 以前にも書いたが彼は『電輝』の異名を持つ一級の対魔忍、上原燐の従弟である。

 

 当然彼女とも幼少からの付き合いなのだが、鹿之助君が電遁(『雷遁』の間違いと思われる。おそらくは自身の出力不足を自嘲しての物言いだろう)に目覚めたことを切っ掛けに燐と婚約が結ばれる事となった。

 

 まあ、これについてはウチの業界ではさして珍しいことではない。

 

 対魔忍が使う術の源となる異能、それは遺伝によって齎されるものだ。

 

 その為『雷遁』や『隼の術』といった強力な物や『空遁』のような希少な能力をより確実に後世に伝えようと、同能力者による婚姻が古くから推奨されてきた。

 

 とはいえ、意図的に有用な能力を継承させようと試みれば、突然変異でも出ない限りは一つの家系に能力者が集中するのは必然と言える。

 

 その結果、倫理観の薄い戦国時代などはより確実な能力継承の為にと、従兄妹間はもちろん兄妹や親子間での交配も是とされていたらしい。

 

 現代では世間一般の倫理観が定着したことによって親子や兄妹での交配は無くなったが、従兄妹間に関しては未だに行われているのだ。

 

 そんなワケで生まれ落ちて五年目にして許嫁を得てしまった鹿之助君。

 

 彼の不幸は相手が10歳も離れているうえに、少年愛好者かつドSであったことだろう。

 

 現在でも鹿之助君の容姿は少女と言っても通用しそうな代物である。

 

 初めて燐と顔合わせをした5歳なら、女の子としか見えなかったに違いない。

 

 そんな彼に一目惚れした当時高校生の燐は、週七で鹿之助君に会いに行くという熱烈なアタックをかけたという。

 

 男女間の機微などまだまだ遠い世界に生きていた鹿之助君は、構ってくれる従姉の来訪をただただ喜んでいた。

 

 そんな純粋かつプラトニックな関係は7年に渡って続いたそうだが、それも彼の肉体が男としての機能に目覚めた時に終わりを迎えた。

 

 自分の体に起きた突然の変化に戸惑った彼は、両親ではなく最も信頼できる従姉に相談を持ち掛けた。

 

 それが悲劇の扉を開く行為であるなどと露とも思わずに。

 

 鹿之助君の男としての性の目覚めを知った燐はその態度を豹変。

 

 肉食獣の如く襲い掛かり、その日のうちに彼は童貞を奪われたそうだ。

 

 以前から思っていたのだが、対魔忍の女の肉食っぷりは普通じゃない。

 

 負けたらアヘられるのが分かっているから、機を見れば男を食う本能でもあるのだろうか?

 

 ともかく、これを切っ掛けに自重を無くした燐は事ある毎に彼へと肉体関係を強要。

 

 子供ながらに『性行為は大人にならないとやってはいけない』程度の知識は持っていた鹿之助君は従姉との関係を親に告げる事も出来ず、獣さながらに自分を貪る燐への恐怖と少しの好意から言われるままに抱かれ続けた。

 

 その事が燐の更なる暴走を引き起こし、冒頭のセリフのような惨劇を招くことになったワケだ。

 

 鹿之助君の話が終わった時点で、部屋の中には何とも言い難い空気が流れていた。

 

 俺達ふうま組は彼が憐れ過ぎて何も言えんかったし、達郎に至っては姉の暴虐に晒された者としてシンパシーを感じるのか号泣であった。

 

 特に俺としては今回の話がまったくの他人事と言い切れないから、SAN値へのダメージはかなりの物だった。

 

 先ほど挙げていた異能の集約に関してだが、これはふうまでも取り扱われていた事だ。

 

 宗家を始めとして八将の多くが邪眼を継承している事を思えば、その辺は容易く読み取れる。

 

 仮に邪眼を後世に継承させることが宗家の使命であるとしたら、俺にも近親婚がカッ飛んでくる可能性が高いのだ。

 

 数年前に災禍姉さんが銀零にその辺の事を匂わせていたし。

 

 まあ、世間の目もあるのでその辺は分家や八将から嫁を貰う形になるだろうが、反乱によって減った宗家の血を増やすなんて名目を持ち出せば時子姉あたりと一緒になる可能性も出てくる。

 

 鹿之助君や達郎の事は決して笑えないのである。 

 

 ここまでの事を話すと、鹿之助君は跪くと額を床に擦り付けてきた。

 

『燐姉ちゃんは好きだけど、俺は姉ちゃんの愛玩動物じゃないんだ! だから今回の事で手柄を上げて相応しい男として隣に並びたいんです!!』

 

 腹の底から叫ぶようにして願いを口にする鹿之助君。

 

 あれほどの目に遭っても愛情を捨てる事なく、好いた女の隣に立とうとする男子の気持ちを同じ男として撥ね退ける事など出来ようはずがない。

 

 アサギの全裸土下座など比較にならない漢らしさを感じる堂々とした礼に、目頭を熱くしながら部屋にいた全員が全面協力を約束。

 

 俺も休養を返上して、鹿之助君を如何に運用するかを考えるようになったわけだ。

 

 鹿之助君の忍術は自らが『電遁』と蔑むほどにその威力は小さい。

 

 静電気と見間違うほどの出力でしかないのなら、戦闘ではタイミングを計っても目くらまし程度が精々だろう。

 

 骸佐や権左兄ィが頭を悩ませる中、俺はスッパリと戦闘での使用をあきらめることにした。

 

 では何に用いるのかと言えば、ズバリ電子セキュリティ破りだ。

 

 実は鹿之助君の雷遁を見た時、俺はある物に近い運用が可能ではないかと踏んでいた。

 

 そのある物とは電磁発勁である。

 

 この世ならざる物質である対魔粒子を媒介に生まれる雷遁と外法の練氣によって発する電磁発勁。

 

 生前から片方を使い続けてきた身としては、何らかの類似点があるような気がしていたのだ。

 

 それを確かめるべく貧民街のジャンク屋に足を延ばし、廃棄された電子ロックのユニットやセキュリティーシステムの操作盤等々を買いあさってきた。

 

 一山いくらで投げ売りされていた物の中には、民間企業はもとより米連施設で使われていた物や自衛軍からの横流し品といったお宝も混じっていた。

 

 この辺は魔界都市ならではといったところだろう。

 

 それから必要な配線やら工具やらを買い込んだ俺達は、部屋に帰るとそれらを繋ぎ合わせてユニットが疑似的に動くよう組み上げた。

 

 因みに俺は前世で電子工学をそれなりに学んでいる。

 

 これは電磁発勁でセキュリティー関連のみをピンポイントで破壊する為に必要な知識だったからだ。

 

 前世の地球は壊滅的な環境破壊の元にあり、大都市は保護フィールドを形成することで高濃度の酸性雨や汚染された大気などの脅威から自身の敷地を護っていた。

 

 とはいえ外界から完全に遮断されているわけではないので、循環器やインフラ関係が破壊されてしまえば下水道などから上がってくる毒気によって建物は瞬く間に地獄へと変わる。

 

 いかに黒社会だとしても、こちらの事情に堅気の衆を巻き込まないのが最低限の仁義だ。

 

 それすら守らない者は没義道として、ほかの組織から袋叩きとなってしまう。

 

 そんなワケで組織として無駄な犠牲を出さない為に、鉄砲玉だった俺達にまで教育は浸透していたのだ。

 

 さて昔取った杵柄で組んだ電子ロックだが、それを使って俺が鹿之助君に課したのは雷遁でロックを破壊・もしくは無力化することだった。

 

 まずは雷遁の電流が絶縁体を透過するかを調べ、次に電磁発勁で見本を見せたうえで静電気ではなく電磁パルスを出せるかを確認。

 

 さらには配線や機器の回路図を用いて構造を把握させ、如何にして効率よく破壊するかを講義する。

 

 はっきり言って一日で覚えるには無理があり過ぎる物だが、鹿之助君は宣言通りに歯を食いしばってついてきた。

 

 そうして何十個もユニットをダメにし続けた結果、カードリーダーのような情報端末から電流を流し、配線を通って機能中枢にアタックを仕掛けるという離れ業が出来るようになっていた。

 

 正直ここまでは想定していなかったので、彼の成長には本気で驚いた。

 

 聞くところによると鹿之助君は電流の強弱や種類を感覚的に見分けることができるそうで、破壊のほかにも正規のカードキーを通した際に発生する正常な信号を確認することが出来れば、雷遁で疑似信号を偽造して破壊することなく開錠することもできるそうな。

 

 はっきり言おう。

 

 彼の才能は電磁発勁なんかよりもよっぽど汎用性に優れている。

 

 このまま成長を続ければ、鹿之助君の能力は電子ロックに対する生体スケルトンキーになり得るレベルである。

 

 いまさらながらに思うが、俺は突いてはいけない藪を突いてしまったのかもしれない。

 

 藤林(ふじばやし)左武次保武(さぶじやすたけ)が著した忍術書『万川集海(ばんぜんしゅうかい)』を紐解けば『忍芸はほぼ盗賊の術に近し』とされ、忍術に『陰忍』と『陽忍』ありと記されている。

 

 『陽忍』とはその姿を公に晒す事で計略によって目的を遂げる方法、いわゆる諜報活動や謀略、離間工作などがこれに当たる。

 

 対する『陰忍』とは姿を隠して敵地に忍び込み、内情調査や破壊工作をする方法である。

 

 鹿之助君の才はこの時代に於ける陰忍のそれであり、アサギを代表するように戦闘力極振りの対魔忍全盛の現在においては芽吹くことがない代物だったのだろう。

 

 成り行きで開花を促してしまったが、ぶっちゃけ現代において彼の能力はヤバい。

 

 電子機器との相性の良さを思えば、熟達した場合は米連を始めとした科学技術を主力とする組織の天敵となるレベルだ。

 

 あまり考えたい事ではないが、もしかしたら将来的にはこちらも彼を消さねばならなくなるかもしれない。

 

 …………不確定な未来の事を考えるのは止めよう。

 

 手応えは感じていたものの能力の地味さに不満そうに口を尖らせていた鹿之助君に、俺は一つの異名を付けてやった。

 

 『サイバー・スレイヤー』

 

 それは嘗ていた世界において電磁発勁を用いる者達の俗称にして忌み名だったものだ。

 

 前世の事はボカして由来を教えてやると、鹿之助君は大層気に入ったようだ。

 

 本人は出力を上げてサイボーグの義肢機能も掌握できるようになると言っていたが、果たして彼はこの世界の『紫電掌』に成り得るだろうか?

 

 先達だった者としては少し楽しみである

 

 

 

 

 魔族、オーク、犯罪者とキナ臭い連中が闊歩する魔界都市ヨミハラのメインストリート。

 

 そこから少し外れたピンク街に居を構えるひときわ大きな娼館『アンダー・エデン』を前にして、俺達は息を潜めている。

 

 満を持してというべきか、今回の主目的である水城ゆきかぜ救出作戦が開始されるのだ。

 

 今回の作戦は部隊二つに分けている。

 

 一つは店へ派手なカチコミを仕掛けて護衛の目を引く陽動部隊。

 

 これには俺と達郎、凜子、魔鈴が参加する。

 

 もう一つは俺達が目を引き付けている隙に、裏口から潜入してターゲットを回収する救出部隊。

 

 こちらは骸佐、権左兄ィ、鹿之助君に任せることとなった。

 

 作戦の決行は15:00、娼館としては最も客が少ない時間帯である。

 

『01から各員、最終確認を行う。準備ができた者から発信せよ』

 

『02、準備良し』

 

『03、問題ありませんぜ』

 

『04、こちらも大丈夫よ』

 

『05、準備は出来ている』

 

『06、問題ない。いつでも出られるぞ』

 

『07、OKです』

 

『01了解。これよりターゲットの回収まで無線封鎖を行う。緊急事態発生時以外の発信は控えるように心掛けよ。……作戦開始まで10秒、カウントダウンを開始する』 

 

 秒針が時を刻むこと10。

 

『作戦開始。各員、行動を開始せよ!』

 

 デジタル表示が15:00を示すと同時に、俺は指示を出しながら跨っていたバイクのアクセルを全開にした。

 

 その辺でギッた黒塗りの大型バイクは、けたたましいエンジン音と共にアスファルトを蹴って一気に加速する。

 

 そしてこちらに気が付いたオークのSPを撥ね飛ばすと、総ガラス製の入り口扉を粉砕しながらエントランスに飛び込んだ。

 

 宮殿のホールを思わせる格調高い空間を疾走した俺は、中央にある噴水を踏み台にして空中へと跳ね上がるとバイクを離脱。

 

 置き土産としてレイジングブルの弾丸をタンクに叩き込めば、轟音を伴って鉄騎馬は火の玉へと化けた。

 

 紅蓮の炎に包まれたバイクが噴水の中央にある趣味の悪い黄金の裸婦像を叩き潰すと、ようやく従業員や娼婦、昼間っから女を買いに来たスケベ共の悲鳴が木霊する。

 

 それに釣られるのようにして現れたのは、オーク傭兵を中心とした迎撃部隊だ。

 

 押っ取り刀で駆けつけてきた役立たず共の数は約50。

 

 先日の件でブラックはノマドの構成員を引き上げさせているはずなのだが、予想よりも数が多い。

 

 連中に淫魔族が混じっていたのを見れば、裏で糸を引いているのが何者かは一目瞭然だが。

 

 こうも短期間に人員が補充されているのを見るに、ブラックの懸念は当たっていたという事なのだろう。

 

「ナメた真似しやがって、ガキが! ここが何処かわかってんのか!?」

 

「鼻息荒くすんなよ。アンダーエデンに新しいオーナーが付いたって聞いたんでな、祝いの花火を上げただけじゃねえか」

 

 隊長格であろう顔に付いた傷が歴戦を物語るオーク傭兵に言葉を返しながら、俺はレイジングブルをホルスターに戻した。

 

 そして微かな刃音と共に倭刀を鞘走らせると、オーク共の後ろに控えたタキシード姿の淫魔族にその切っ先を向ける。

 

「この街のボスはお前達を歓迎してるぜ、俺みたいな屑に害虫駆除を頼むくらいにはな」

 

「……ッ! 殺せぇ!!」 

 

 淫魔族の号令と共に押し寄せるオーク傭兵たち、それに合わせて、俺も大理石で出来た床を蹴る。

 

 一番手は戦斧を持ったオークの中でも大柄な個体だが、その動きはあまりにも鈍い。

 

 怒号と共に得物を振り上げている隙を突いて刀を一閃させれば、その首は熟した果実のように地面へ落ちる。

 

 ある程度の集団戦に慣れているとはいえ、オーク傭兵共は基本は一匹狼の集まりだ。

 

 こうして出鼻を挫いてやれば、後続の者たちは途端に動きが鈍るのだ。

 

 二の足を踏む前衛を飛び越えて銃火器で武装した後衛の頭上を取った俺は、舞い上がった粉塵を足場に斬撃を放つ。

 

 一閃に付き首3つ。

 

 術理を解せぬ輩には宙を駆けているように見えるのだろう。

 

 唖然とした表情を張り付けた生首が次々と舞い上がる。

 

 異臭を放つ紫色をした血の噴水が上がる中、5刀目で最後の後衛を切り伏せると入り口の方がにわかに騒がしくなった。

 

 見れば魔鈴が『隼の術』と『対魔殺法・刀脚』を併用して、出入口を封鎖していたSP共を蹴り殺している。

 

「せっかく魔族の本拠に来たのに子守だけとか、どういう事よ!!」

 

 などと不満をぶちまけながら高速のつま先で淫魔族の甘いマスクを八つ裂きにする魔鈴。

 

 どうも先日のブラック戦に参加できなかった事が納得いかないらしい。

 

 しかし、彼女は何のためにコスプレしてるのかを忘れてないだろうか。

 

 というか、お前の正体をブラックに知られたら事態のややこしさが三十倍になるし、情報が拡散した日にはふうまがヤバいんだよ。 

 

 それ以前に今回は潜入兼救出任務なんだから、戦闘極振りなんて人材の使い道なんて護衛とカチコミ以外にありません。

 

 こちらの心の声をよそにコスプレの付属品である鷲星座の聖衣レプリカを纏った彼女は、父親の形見である忍者刀も持たずに亜音速の体捌きで次々と魔族達を蹴り殺していく。

 

 その様を見ていた年配の客が『アテナの聖闘士(セイント)……実在していたのか!?』と驚愕の表情を浮かべていたが、バリバリ偽物なので安心してほしい。

 

 残る学生二人だが、達郎も凜子も逸刀流師範の家系に恥じない剣捌きを見せていた。

 

 道場剣術の性か集団での乱戦には慣れていないようで、攻撃後の隙や太刀筋に戸惑いが見られたがその辺はご愛嬌といったところだろう。

 

「くそっ! 邪魔するな……どけぇ!!」

 

 ゆきかぜの安否を確かめようとしているのか、焦りを隠そうともせずにしきりに苦無を店の奥に投げ込もうとする達郎。

 

 例の『飛雷神の術』で囲いを突破しようという腹なのだろうが、その悉くが途中で撃ち落されて上手くいっていない。

 

 まあ、撃ち落しているのは姉である凜子だったりするのだが。

 

 あのハイライトが消えた目と、苦無を弾く度に浮かぶ笑みが不気味すぎるので見なかったことにしようと思う。

 

 世の中には知らない方がいいこともあるのだ。

 

 そんな感じで陽動のメンツは気持ちよく暴れていたのだが、こういった娼館は用心棒を飼っているのが常である。

 

「先生! お願いします!!」

 

 追い詰められたオーク傭兵の叫びに応えて現れたのは、どこぞで見た事のあるヘタレ騎士。

 

 自称『嵐騎』のリーナであった。

 

「ノマド傘下の店を荒らす不埒者共め! 嵐騎のリーナが成敗してくれる!!」

 

 威勢よく啖呵を切ったリーナであったが、俺を見るなりあっという間に蒼褪めた顔で半泣きになった。 

 

 そう言えば、以前立ち合った時は剣を両断した途端にガチ泣きしながら『何でもするから殺さないでください……』って全力で命乞いされたんだった。

 

「か…かかかかかか仮面の、け……けけ剣士の真似なんかしても、だだだだ騙されないんだからな……」

 

 ガチガチと歯の根が合わないままに何とか言葉を絞り出すリーナ。

 

 数年会っていないが、そのヘタレ具合は今も健在なようだ。

 

 いつもなら憐れと見逃すか、ブラックが『アンダー・エデン』を見限った事を説明するのだが、今日の俺は少々虫の居所が悪い。

 

 踏み込みと同時に腰が引けた奴が構える剣の柄を手に刃が掠るくらいの位置で切り飛ばすと、返す刀で放った横薙ぎを頸動脈の寸前で止めて見せた。

 

「残念ながら本物だ。今日はムシャクシャしてるからな、邪魔するんなら手足の一、二本無くなるくらいは覚悟しろよ」

 

 こんな感じで脅し文句を吐いてみたのだが、その後の相手の反応が予想の斜め上を行った。

 

 なんとリーナの奴は泣きながらお漏らししてしまったのだ。

 

 流石にこれには面食らってしまった。

 

 以前の命乞いも酷かったが、魔界騎士を自任している奴が小便漏らすとかあり得んだろう。

 

「ごめんなしゃい……ゆるひて、ゆるひてくだひゃい……」

 

 嗚咽のためか、それとも呂律が回っていないのか。

 

 再び涙ながらに命乞いをするノマドの騎士。

 

 これで俺が油断したところを『隙ありぃぃぃぃっ!!』と不意打ちの一つでも繰り出せば職務上何とか言い訳も効くんだろうが、濡れたパンツ丸出しの大股開きでズルズル後ろに下がる様にそれを期待するのは酷な話だろう。

 

 用心棒のあまりの醜態に周囲のSPは呆気に取られているが、当然ながら魔鈴がそれを見逃す筈がない。

 

 再びの『イーグルトゥフラッシュ(偽)』の犠牲者として、あっという間に始末されてしまった。

 

 結局、興ざめした俺は敵の影が無い事を確認した後、抜けた腰を入れてやったあとリーナを連れていくことにした。

 

 『なんで、こんなドン臭いのを連れて行くのよ?』と魔鈴は不満げだったが、これにはちゃんと事情がある。

 

 残念極まりない娘であるが、奴がノマドの構成員でイングリッドの部下である事は間違いない。

 

 淫魔族の内通から見限られたこの娼館の従業員はともかく、限定的にとはいえノマドと契約を結んでいる以上こいつを殺すのは流石に拙い。

 

 それにあのまま放置していては万が一オークなんかに生き残りがいた場合、死を免れて発情した奴らに無体を働かれる危険性だってある。

 

 それがノマドの上層部に知れて奴等の不興を買えば、帰りの道行きの難易度が格段に跳ね上がってしまうではないか。

 

 そんな理由を説明しながら店長室に向かって歩を進めていると、骸佐から無線通信があった。

 

『こちら01、02どうぞ』

 

『こちら02、ターゲットの確保に成功した。目標は多少の肉体改造と調教の跡があるが、一応は無事だ』

 

『こちら03、矢崎の変態野郎の【快楽漬けにして、自分から純潔を貰ってほしいと言わせる】なんてねちっこい趣味が幸いして、一応は清い身体のままのようですぜ』

 

 どこか疲れたような声の骸佐に続いて、通信越しにもわかる苦笑いを滲ませた権左兄ィの報告が入る。

 

 とりあえずは朗報である。

 

 廃人化や快楽堕ち、さらには魔族化なんて最悪の可能性を想定してたので、そうならなかったのは幸いだ。

 

 まあ処女云々に関しては完全に蛇足だけどな。

 

 達郎、ガッツポーズは見えないようにしろ。

 

 あと、凜子は舌打ちすんな。

 

『それと一緒にベッドに入っていた矢崎のアホも捕まえてるが、一つだけ厄介な事がある』

 

『厄介な事?』

 

『水城ゆきかぜの体内には反乱防止用のナノマシンが注入されてやがる。矢崎の証言ではリーアルのリモコン操作一つで手足を吹き飛ばせるらしい』

 

『…………了解した。それに関してはこちらで何とかする、お前達はそのまま店長室に向かってくれ。そこで一度合流しよう』

 

『了解だ』

 

 プツリと音を残して切れる通信、俺はその後で口寄せによって骸佐に一つの指示を出しておいた。

 

 追い詰められたリーアルがゆきかぜを人質に取るのは確定している。

 

 ならば、俺も肚を括らねばなるまい。

 

 立ちはだかる淫魔族やオーク、番犬代わりの魔界生物をナマスにしつつ進むことしばし。

 

 店の廊下を血みどろに変えて俺達は、ようやく店長室の前に辿り着いた。

 

 到着したのはいいが店長室の扉は電子錠で固く閉じられており、当然ながら開く気配は感じられない。

 

「ぱっと見は普通だが、随分と頑丈そうな扉だな」

 

「えっと、リーアルの奴は核シェルター並みの防護力があるって言ってました……」

 

 精巧な彫刻が入った木製の扉を軽く拳で叩いていると、震える声でリーナが助言をくれた。

 

 道中でノマドがこの店から手を引いた事を伝えると『そんなの聞いてない!?』って嘆いていたが、見捨てられたか連絡ミスかどっちなんだろうな。

 

 その辺は割とどうでもいいので置いておくとして、気配から察するにリーアルがここに閉じこもっているのは間違いない。

 

 本来ならゆきかぜを救出した時点で任務完了なんだが、ブラックとの約束もあるので矢崎とリーアルは確保、もしくは抹殺しておかねばならない。

 

「それで、どうする気なの?」

 

「突っ立ってても仕方がないし、ぶった斬るか」 

 

 言葉と共に鯉口を切ったところで、向かい側の通路からこちらに近づいてくる気配を感じた

 

 目を向けてみると、曲がり角から現れたのは救出班の四名と一匹のナマモノであった。

 

「お疲れさん。みんな、怪我とかしてないな?」

 

「ええ。鹿之助坊やのお陰でけっこう敵をやり過ごす事ができましたから」

 

 そう言って前にいた鹿之助君の頭をポンポンと叩く権左兄ィ。

 

 やられる方も満更でもない様子を見るに、なかなかいい関係を築けているようだ。

 

 無事に合流できたのは喜ばしいのだが、どうも一部の様子がおかしい。

 

 夜叉髑髏を展開した骸佐が、シーツをローブのように巻き付けたゆきかぜを姫抱きしている。

 

 これ自体は特に問題ない。

 

 おそらくは人体改造と調教の影響から歩けない程に衰弱しているのだろう。

 

 おかしいのは当事者たちの態度であった。

 

 何故かゆきかぜは頬を染めて嬉しそうに骸佐の首に手をまわし、骸佐は夜叉髑髏越しでも分かるほどに嫌そうな雰囲気を醸し出している。

 

 脇にいた権左兄ィは二人の様子に顔を引きつらせ、鹿之助君は苦笑いだ。

 

 それとナマモノというのは、権左兄ィが豚のように引き摺っていた矢崎宗一のことである。

 

 中年太りの体に紫ラメのブーメランパンツというキッツイ外見に加えて、原型を留めていないくらいにボコボコの顔。

 

 さらには手枷・足枷にギャグボール、亀甲縛りが施されており最後にはリード付きの首輪ときたもんだ。

 

 ぶっちゃけ、醜すぎて見れたものではない。

 

 ゴミ屑の事は置いておくとして、骸佐とゆきかぜがああなった理由だが、鹿之助君が言うにはこういう事らしい。

 

 一年ほど前、達郎の心無い言葉によって仲違いした二人であったが、時間を置いて頭が冷えたゆきかぜは仲直りをする為に秋山家へと向かった。

 

 だが、タイミングの悪いことにそこで達郎と凜子の禁断の関係を偶然目撃してしまい、秋山姉弟との関係は完全に瓦解してしまう。

 

 それから暫く塞ぎ込んでいたゆきかぜだったが、母である不知火の目撃情報を聞いて発奮。

 

 未だ冷めやらぬ精神的ショックから半ば依存のようになった母への気持ちも手伝って、不知火探索に強引に自身をねじ込んだ。

 

 だがしかし、主流派の防諜のガバガバっぷりに作戦のダメさも手伝って、あっという間に捕らえられたゆきかぜ。

 

 彼女は以前に闇組織との密会を邪魔された事を根に持つ矢崎の恨みと変態趣味により、純潔を残しながらもメス奴隷として調教を受けてしまう。

 

 肉体改造と催眠によって苛烈な責めを受けたゆきかぜ。

 

 身体を作り替えられる恐怖と快楽の中、彼女は母への想いに縋って必死に抗っていたが、それも限界を迎えていた。

 

 そうして陥落寸前であった彼女が最後の力を振り絞って助けを求めた瞬間、その手を取ったのが骸佐であった。

 

 言うまでもないが奴にそんな意図はなく、完全にただの偶然である。

 

 だがしかし、そんな事情はゆきかぜには関係ない。

 

 今までの精神的不安定さに加えて、吊り橋効果に危機を救ってもらった恩人やら何やらが混ざり合った結果、髑髏武者同然の骸佐が白馬の王子様に見えるほどの一目惚れをカマしたそうな。

 

「いや、なんで水城の心情まで知ってんの?」

 

「……助けた時に彼女が二車君にマシンガントークでしゃべってたんです」

 

「………OH」 

 

 我が『右腕』はなかなかに強烈なアタックをかけられているようだ。

 

 しかし、これはヤバいな。

 

 仮にゆきかぜがマジだった場合、頭の緩い女が大嫌いな小母さんが猛反対しそうなんだが。

 

 そんなことを考えていると、カランと金属が落ちる音がした。

 

 目を向けてみれば、何故か床に崩れ落ちている達郎の姿が。

 

「ゆきかぜ、どうして……」

 

 呆然と言葉を垂れ流す黒ずくめの阿呆。

 

 例のバイザー越しに見える顔にベッタリと張り付いているのは絶望の表情だ。

 

 聞いた経緯を思えば、どうしてもへったくれも無いとおもうのだが、死者に鞭打つ事は武士の情けで留めておく。

 

 そしてそんな達郎を後ろから抱きしめ『だから言っただろう、達郎。ゆきかぜはもう手遅れだ、お前には私しかいないんだよ』と悪魔の囁きを掛ける凜子。

 

 そんな二人に件のゆきかぜは腐った生ごみを見るような眼を向けている。

 

 ある筈がない達郎のソウルジェムが光の速さで濁っていくのが手に取るように分かったが、あえて一言言わせてもらいたい。

 

 手遅れなのはこのシチュエーションで股間をおっ立てている奴の方である。

 

 さて、愉快な修羅場に気も解れたところで頭を切り替えよう。

 

 俺達がいるのは鉄火場、セイガク共の恋愛事情なぞ気にする必要はないのである。

 

「鹿之助君、開錠を頼む」

 

「了解です」

 

 そう言うと鹿之助君は部屋の右わきの壁に設置されたカードリーダーに手を当てる。

 

 目を閉じて何かを探る様に磁気の読み取り部分を指でなぞることしばし、彼が目を開くと同時にピピという認証音を伴って扉のロックが開いた。

 

「へへっ、楽勝」

 

 ドヤ顔と共に親指を立てる鹿之助君。

 

 ロック解除に掛かった時間は三秒弱、現場を経験したせいか昨日よりもさらに早くなっている。

 

 鹿之助君の成長はともかくとして、こっから先は第二幕。

 

 むこうに待ち受けているのはリーアルだけではないだろう。

 

 かつて名を轟かせていた『幻影の対魔忍』と一戦交える可能性もあるのだ、気を引き締めていこう。

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