剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 お待たせしました、19話の完成です。

 というか、魔界行ルートを希望する人多すぎぃっ!?

 これも銀零の『女子力』の為せる技なのか……。

 


日記19冊目

 ◇月□◆日(晴れ)

 

 

 今日も何事もない平和な穏やかな日だった。

 

 水城親子を救出してから数日、ふうまではトラブルの無い日常が続いている。

 

 偽りの平穏? 

 

 ……………言うなよ。

 

 家の壁に銀零が『結婚式』までの手製のカレンダーを吊ってるのを見たときには、いろんな意味で泣きたくなったんだから。

 

 というか、十二年分の日付が書かれたカレンダーなんて掲示しないでいただきたい。

 

 赤のバッテンで消されていく日にち達が、死刑執行へのカウントダウンに見えて仕方ありません。

 

 ……こちらの精神衛生の為にも書くお題を変えよう。

 

 水城親子救出任務で手に入れた情報は、数日の猶予を置いて一昨日に世間へ公開された。

 

 当然ながら情報の重大さ故に霞が関は現在蜂の巣を突いたようなパニックとなっている。

 

 政権与党の幹事長であった矢崎宗一が引き起こした特大のスキャンダル。

 

 金銭的な汚職も相当な規模だったが、それよりも中華連合へのスパイ行為や人身売買の事が暴露された事は、現内閣にとって致命傷となった。

 

 事件の規模からして矢崎単独による犯行は不可能なのが明白なこともあり、野党の議員達は『民新党による組織ぐるみの犯行である』として内閣不信任案を提出。

 

 総理を始めとする民新党の幹部も対策を取ろうとしたものの、自党の幹事長が国家反逆罪を犯したのでは手の打ちようがない。

 

 このまま行けば、一か月も経たずに日本のトップは入れ替わる事になるだろう。

 

 そうなればアンダーエデンの顧客リストの情報から、相当数の政治家達が公安によって逮捕されるはずだ。

 

 今回を機に政界の膿を吐き出し、日本の上層部に食い込んだ魔界の勢力の影響が弱まる事を切に祈る。

 

 上原学長からの情報では、今回の情報をすっぱ抜いた事で主流派は大きく株を上げたらしい。

 

 老人たちが行った俺への虐待疑惑やふうま一党の離反など、不祥事が目立っていた所での大手柄である。

 

 上から何かと突かれていたであろう山本長官やアサギも一息吐けたのではなかろうか。

 

 次に淫魔族の拠点についてだが、様子を見に行ってもらった下忍によると既にノマドとの小競り合いが始まっているらしい。

 

 派遣した者達の安全性を優先したので詳細な情報は入っていないが、今のところ淫魔の王もブラックも戦場に出てくる気配はないそうだ。

 

 この抗争がどちらに軍配が上がるかは分からんが、ともかくブラックの目をこちらから逸らす事が出来た。

 

 後は稼いだ猶予の間に俺がどこまで奴に迫れるかだ。

 

 当面の目標としては今年中に六塵散魂無縫剣を体得しようと思う。

 

 今までは漠然と掲げていたが、ここからは明確なタイムリミットがある。

 

 絶技開眼を成すには限界の一つや二つを超えねばなるまい。

 

 その為には時子姉や八将のみんながどう言おうと、多少の無茶は許容してもらわねばならん。

 

 手っ取り早いのが東京キングダムやヨミハラへの武者修行だが、厄介な事にこの二つはノマドのお膝元だ。

 

 ブラックの目が他に向いているとはいえ以前のような派手な行動は難しいだろう。

 

 個人的にはカオスアリーナにでもカチコミを掛けたいところだが、藪をつついて蛇を出しては元も子もない。

 

 修行に使える魔界都市としてはアミダハラもあるが、ここではっちゃけてはノイ婆ちゃんに迷惑がかかる。

 

 アンネローゼの姉ちゃんとガチに斬りあえば何かの切っ掛けになるとは思うのだが、残念ながらこれも自重せざるを得ない。

 

 仕方がないので、当面はムジュラー以外のマスクで地道に野試合で経験を稼ぐ事にしようと思う。

 

 最後にスカウトに成功した鹿之助君達だが、生活の切り替えや諸手続きから正式にこちらへ移籍するのは3か月ほど先になりそうだ。

 

 むこうにも生活や交友関係があるのだから、そういう方面で時間が掛かるのは仕方がない。

 

 下手に急かして悪印象を持たれてもつまらない。

 

 ここは気長に待たせてもらうとしよう。

 

 

 ◇月□☆日(くもり)

 

 

 今日はなかなかに面白いものが見れた。

 

 早速武者修行として東京キングダムへと赴いたところ、ストロングチューハイの缶を手に赤ら顔で歩く対魔忍の姉ちゃんを見つけた。

 

 職務中なのかオフなのかは定かではないが、酔っ払いの対魔忍というのも珍しい。

 

 ふうまでは見ない顔なので恐らくは主流派の人間、そうでなければ抜け忍の類だろう。

 

 背中に背負った大太刀を見るに、凜子と同じく戦闘スタイルは剣術主体と見て間違いない。

 

 これが任務中であれば気にも留めずに見送っていただろうが、今日の俺は剣の道を追及する無頼漢である。

 

 手ごろな対戦相手を逃す手はない。

 

 そんなワケで善は急げとばかりに用意していた馬の被り物を装着し、その辺の木切れを手に野試合を挑んだわけだ。

 

 普通の街なら暴漢か変態扱いで警察に御用となっているところだが、生憎とここは魔界都市の一つである東京キングダム。

 

 野試合や喧嘩くらいなら野次馬を集めはしても咎められることはない。

 

 あちらもその辺の事は弁えているようで、軽い調子でこちらの挑戦に応じると大太刀を抜き放った。

 

 女が振るう剣は太刀筋からして逸刀流、それもかなりの腕前だ。

 

 さすがにアサギには及ばないが、凜子に並ぶ技量はあるだろう。

 

 この野試合において、俺は自身に一つの制約を課した。

 

 それは極力相手の剣を払う事なく、体捌きだけで征すというものだ。

 

 過日のブラック戦において、俺は相手の意を察知していたにも拘わらず重力結界を防ぐことが出来なかった。

 

 奴の能力が初見だったというのも原因の一つだが、それと同じくらいに迎撃で放った刀の内勁が足りなかった事が大きい。

 

 内勁が不足した理由は練氣の未熟さは勿論だが、他に奴の重力波攻撃を防ぎ過ぎたというのもある。

 

 我が流派の剣は刀刃に氣を込める事を基本としているが、異能や概念を切り払えば力は減衰する。

 

 内勁は内家拳の基本にして深奥、万物に刃を通す因果の破断を成す根幹だ。

 

 それが尽きてしまってはブラックの攻撃を防ぐことなど出来やしない。

 

 そんな苦い経験から、今回は反応速度と体捌きの強化に重点を置いたワケだ。

 

 最強と謳われたアサギを始め、若手で頭角を現している秋山姉弟も修めている事から分かるように、逸刀流は対魔忍の中でも最もメジャーな流派である。

 

 禄を食んではいないが、送られてくる刺客の大半が使い手だった事もあって、俺としてもなかなかに馴染みが深い。

 

 そういう事もあって、酔っ払い剣士は勘と体捌きを鍛えるのには打ってつけの相手だった。

 

 とはいえ、勝負を挑んでおきながら相手と打ち合おうともせず、回避に専念するというのは流石に問題がある。

 

 酔っ払いが上げた『あんたさぁ、やる気あんの? そっちから喧嘩吹っ掛けてきといて逃げるだけって興ざめなんだけど』という抗議の声はもっともだ。

 

 だからと言って、相手の心情を優先する理由もないが。

 

 怒りの声を受けても変わらずに回避を続けていると、酔っ払いの目が酒精とは違う理由で据わったのが見て取れた。

 

 どうやら堪忍袋の緒が切れたらしく、『ふざけやがって』と小さく悪態を付いた奴は一足で間合いを取った。

 

 そうして酔っ払いが下がった先、そこにあったのは道端の看板の上に避難させていた飲みかけのストロング缶。

 

 奴はそれを一気に呷ると、酒の匂いが増した息を吐き出してこちらに襲い掛かってきたのだ。

 

 彼女が持っていたストロングは、チューハイでありながら相当なアルコール量を誇る。

 

 聞いた話では500mlで、テキーラのショット3・5杯分に匹敵するとか。

 

 飲みかけとはいえ、そんなものを一気に腹へ収めては酒精の廻りは相当な物となるだろう。

 

 千鳥足とまでは行かないだろうが、足元が覚束なくなってもおかしくはない。

 

 しかし、あの酔っ払いは動きを鈍らせるどころか技のキレやスピードのギアを一段階上げて来た。

 

 さらには直感の方も鋭さが増したらしく、こちらが躱せると踏んだ攻撃の三割近くを事前に察知し、それをフェイントに使う戦法まで取り出したのだ。

 

『そっちから喧嘩を吹っ掛けといてフラフラ逃げ回りやがってッ! こうなったら『酒遁の術・ストロングスタイル』で刺身にしてやるよ、馬野郎!!』

 

 ネーミングセンスのアレさはともかくとして、こうなってはさすがに回避だけでは対処しきれない。

 

 怒涛の斬撃を波濤任櫂で捌きつつ、俺は頭の中で奴が口にしていた忍術を反芻した。

 

 何時だったかは定かじゃないが、権左兄ィから聞いたことがある。

 

 対魔忍の術の中には酔拳よろしく、酔えば酔うほど強くなるという代物があるという事を。

 

 その名は酒遁の術。

 

 俺が喧嘩を吹っ掛けた女はその使い手だったのだ。

 

 こちらに剣を使わせた事で少しは留飲が下がったものの、まだまだ怒りが収まらない酔っ払い改め酒遁使い。

 

 奴は後ろに飛んで間合いを離すと蜻蛉の型を取った。

 

 この構えは示現流に伝わる一撃必殺の型で、攻撃方法は相手の間合いに踏み込んでの大上段からの唐竹のみ。

 

 全身全霊を一太刀に込める為に攻撃の後の隙は大きく、『二の太刀要らず』という言葉は一撃で仕留めるという他に、二刀目を放つことが出来ない事も意味しているという。

 

 それ故にこの型を実戦で使用するためには、躱せない・防げない・一撃で仕留めるという条件をクリアする必要があるのだ。

 

 勝負を掛ける相手の気迫に応えて俺も雲霞秒々の構えを取ると、それを合図とするかのように酒遁使いはアスファルトを蹴った。

 

 数メートルはある間合いを一足で詰め、予想通りに大太刀を振り上げる女。

 

 降りかかる刃金を逸らすために木切れを振るおうとした俺は、奴の刀身を覆う異様な力を感じて咄嗟に身体を大きく横へ開いた。

 

『逸刀流奥義! 斬空斬魔の太刀!!』

 

 裂帛の気合と共に酒遁使いの放った一撃は合わせた木の棒と被り物の頂点を掠めると、一瞬前まで俺の身体があった場所を通り過ぎて地面へと食い込んだ。

 

 次の行動へと移る為に揺れ動く視界の中、被り物の鬣であろう宙を舞う栗毛の鬣の向こうに先端から五分の一ほどを切断された木の棒が見えた。

 

 木の棒とはいえ内勁を込めた器物は、サイボーグが振るう特殊合金製の武器を受け止める事が出来る。

 

 それがこうも綺麗に断たれた事には思わず呆気に取られてしまった。

 

 とはいえ、こちとら腐っても剣術家。

 

 相手が見せた隙を放置する程に耄碌(もうろく)した憶えはない。

 

 渾身の一撃を躱されて酒遁使いの身体が大きく前に泳ぐと、その胴へ俺の身体は条件反射の如く少しリーチが減った木刀を叩き込んだ。

 

 それほど威力が乗っていない乾いた打撃音が辺りに響き、うめき声と共に片膝を付く酒遁使い。

 

 俺は胴薙ぎから返す刀で振るった棒を、奴の首元スレスレで止めて見せた。

 

 酒遁使いが放った先の一刀、その刃に宿った力に俺は覚えがあった。

 

 あれは秋山姉弟が空遁の術を使う際に生じる空間干渉力と言うべきモノに酷似していたのだ。

 

 酔遁の術を使ってはいるものの、奴が持つ異能は『空遁』もしくはそれに類するモノなのだろう。

 

 あの酒遁使いは刀身に空間干渉力を纏わせ、斬るという形で空間へアプローチすることで威力を爆発的に高めていると思われる。

 

 その一撃は(まさ)しく空間斬というべき魔剣。

 

 酒遁使いの顎のすぐ下に覗く棒の怖気が走るほどに滑らかな断面が、その威力を雄弁に語っている。

 

 自身の置かれた状況で敗北を悟ったのだろう、酒遁使いはその場で胡坐を掻くと先ほどまでの怒りを捨てて大笑。

 

 そして、笑いが収まるとこちらに名前を問うてきた。

 

 当然本名を明かせるわけがないので『私、呂布奉先と申します。ヒヒンッ!!』と返して、呆気に取られた女を残してその場を後にした。

 

 別に呂布奉先が好きという訳ではない。

 

 あの馬面を付けていると言わねばならない気がしたのだ。

 

 

 ◇月□☆日(くもり)

 

 

 今日は未来の雇い主から無茶ぶりが飛んできた。

 

 カーラ女王が俺と模擬戦がしたいと言ってきたのだ。

 

 曰く『ブラックと互角に闘えた剣士の力を肌で感じたい』とのことだが、こちらとしては心底お断りしたかった。

 

 なにせ相手の身分を考えれば訓練だろうと傷つけるわけにはいかない。

 

 どう考えたって接待試合になることは間違いないのだ。

 

 話を聞いた骸佐を始めとする八将の面々からも『絶対にはっちゃけるな!』というありがたいお言葉を頂く事になったし。

 

 こと剣術に関してはまったく信用が無いという事が、本当によくわかる対応である。

 

 とはいえ、しがない弱小ニンジャサークルの我々にはパトロンに逆らうという選択肢はない。

 

 何とか穏便に済ませようと頭を捻り、スポーツチャンバラで使うソフトスポンジ製の刀を使うと提案したのだが、『馬鹿にしているのか!?』という女王の怒りの声によってボツ。

 

 (いきどお)る気持ちは分からないでもないが、こちらが置かれている立場も考えていただきたい。

 

 今回の試合でやらかして万が一にもヴラド国との契約を切られたら、ふうま一門は路頭に迷う事間違いないのだ。

 

 主流派にあれだけ啖呵を切ったのに、また営業から始めるとかマジ勘弁である。

 

 そんなワケで『実戦形式なんだから、遠慮せずに本身を使え』という女王の戯言をガンスルーし、丸めた新聞紙、子どものおもちゃによくある塩ビ製の刀、刀型のぬいぐるみと様々なアイデアを出す俺達。

 

 しかし現実は非情な物で、その(ことごと)くに容赦のないNonの声が飛んで来る。

 

 互いに譲らず話し合いは2時間近くに及び、なんとか竹刀を使う事で双方合意を得ることとなった。

 

 武器選びでこの様とかギャグのような話だが当事者は全員マジである。

 

 こうして紆余曲折はあったものの、ふうまと女王の素性を知る者達が見守る中、クリシュナ卿を審判として試合の火蓋は切って落とされた。

 

 始まる前のゴタゴタは心の棚に上げてくれたのか、こちらと相対する女王には不機嫌さはなかった。

 

 まあ、同じくらいに容赦も存在しなかったわけだが。

 

 カーラ女王の戦い方は影から使い魔を召喚し続ける物量戦。

 

 俺のような広域殲滅能力を持たない者には、いささか相性が悪い相手と言える。

 

 これが実戦なら圏境で姿を消して、後ろから暗殺なんて手で堕とすのだが今回はご機嫌取りの接待試合。

 

 勝ち負けに拘る必要はないと思った俺は襲い来る使い魔達を回避訓練と割り切って躱しまくっていた。

 

 開始当初は軽身功でコウモリの使い魔を足場にしたり、外骨格を纏った狼を竹刀で両断する俺の動きに感嘆の声を上げていた女王も、時間が経つにつれ機嫌が降下し始めた。

 

 何か不満があるのかと思っていたら、俺が攻めてこないのが面白くないらしい。

 

 『何故に俺が勝負勘を養っていたら、対戦相手は邪魔をするのか』と世の無常を嘆いてみたが、宮仕えの身としては雇用主の我儘に応えねばならぬ。

 

 不平不満を小さく息を付くことで押し流しながら、迫りくる使い魔の群れを歩法や体捌きを駆使して掻い潜る事じつに数分。

 

 牛歩のようにジリジリと進んだ俺は、漸く女王を刃圏に捉えるまであと一歩の距離に来た。

 

 本来ならここで適当に剣を振るってやられれば任務完了なのだが、ここで俺の心に魔が差してしまった。

 

 このまま女王を斬りつけるのも芸がない、と。

 

 その時に頭を過ったのは酒遁使いが放った空間斬。

 

 目にしたのは一度だけだが、その時に太刀筋や空間干渉力の影響から技の理は把握している。

 

 あれは空遁の空間干渉力を刀身に込め、斬撃という形で空間に作用する事で引き起こしている現象だ。

 

 攻撃対象ではなくそれが存在する空間自体を切り裂くため、相手の防御力に関係なく両断する事が可能という強力な技である。

 

 当然ながらこの技を使用するには空遁の術を得ている事が前提条件となるが、俺の手にはそれに代わる方法がある。

 

 そう、因果の破断を用いた概念斬りである。

 

 幸いな事に秋山姉弟のお陰で空間干渉力が如何なるモノかは掴んでいるし、空間という認識し難い概念に刃を通すのもブラックの用いた重力操作で体験済みだ。

 

 命さえ拾えば敗北をバネに更なる高みを目指す、それが小太郎クオリティである。

 

 そんなワケで女王が自らの盾として呼び出した重装甲の使い魔を目標として空間斬を放ってみた。

 

 何気にぶっつけ本番だったのだが手応えは十分。

 

 竹刀を振った直後から粘土に刃を入れるような感覚があったのだが、きっとあれが空間という概念なのだろう。

 

 多少の抵抗感を物ともせずに得物を一閃すれば、黒光りする分厚い甲羅を纏った爬虫類型の使い魔はあっさりと真っ二つとなった。

 

 ここまでなら絶技開眼と格好が付くのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 見事成功したかと思われた空間斬だが、その余波は使い魔だけでは留まらず、女王の衣服まで届いてしまったのだ。

 

 最後の護りを切り捨てられた事に焦った女王が手を挙げようとした瞬間、彼女が着ていた衣服は胸元から股間までぱっくりと斬れて音もなく床へと落ちた。

 

 災禍姉さんに聞いた話だが、薄手のドレスを着る際にラインが浮かびあがる事を防ぐために下着を付けない女性がいるそうだ。

 

 不運な事にカーラ女王もそうだったらしく、身に纏うものを失った彼女はギャラリーに生まれたままの姿を晒すハメになってしまった。

 

 言うまでもないが会場は大混乱である。

 

 顔を真っ赤にして涙目でしゃがみ込む女王、その姿を見た事で怒りのチェーンソーマンとなって俺へ襲い掛かるクリシュナ卿。

 

 事態を収拾しようと指示を出す学長に、カメラ撮影を試みる不届き者に鉄拳制裁を叩き込む神村教諭。

 

 そしてお通夜状態となったふうまの面々。

 

 女王に謝罪する暇もなく対化け物用チェーンソーを振り回すバーサーカーから逃げ帰ってみれば、待っていたのは学長と八将からの大目玉だった。

 

 今回ばかりは100%俺が悪いので、素直にごめんなさいしておきました。

 

 経緯はどうあれ、公衆の面前で女王に恥をかかせた事から雇用契約の破棄は覚悟していたのだが、幸いな事にそうはならなかった。

 

 女王曰く『模擬戦はこちらが言い出したことだもの。命に係わる怪我でも負わない限り、自分で責任を負うのが当然よ』だそうな。

 

 ぶっちゃけ腹の一つも切る覚悟だったのだが、そうならなかった事を喜ぶべきなのだろう。

 

 ともあれ、初の王族対応も何とか乗り切ることが出来た。

 

 空間斬も体得した事だし、これから西洋風の仮面を被る時は『ペシュリアン』と名乗ってみるか。

 

 

 ◇月□/日(雨)

 

 

 突然だが衝撃の事実が判明した。

 

 骸佐と俺は異母兄弟でした。

 

 うん、ふざけんな。

 

 今日の昼、死にそうな顔をした骸佐が家に来たので何事かと思っていたら前置き無しにカミングアウトされた。

 

 詳細は省くが二車の小母さんが小父さんを裏切ったなんて事は断じてない。

 

 原因は100%クソ弾正にある。

 

 というか諫言に意趣返しなんてしようとする事自体恥ずかしいのに、欠点を指摘してくれた腹心の奥さんを『夫に反逆者のレッテルを被せる』なんて脅しで手を出すとか何考えてんだ。

 

 しかし、参った。

 

 この事実は銀零とのあの会話なんて比較にならないくらいにキツい。

 

 二車の小父さんと小母さんは俺にとって事実上の親と言っていい。

 

 そんな二人に遺伝子提供者くらいの繋がりしかないとはいえ、親父がここまでの事をやらかしているとは……。

 

 ツラを合わせてしまった骸佐は仕方がないとしても、小母さんとはこれからどんな顔して会えばいいか分からん。

 

 しかもこの話、小母さんだけじゃなくて小父さんも知ってたらしい。

 

 それを聞いたときはマジで変な声が出たわ。

 

 こんな真似されたらさ、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってなるのが普通だろ。

 

 間違っても犯人の息子を育てようなんて思わねーぞ。

 

 いやまあ、骸佐の話だと小父さんは弾正の事を快く思ってなかったみたいだし、それもあってクソに私物化されたふうまを正常に戻すって目標を掲げてたらしい。

 

 それを踏まえれば、正妻の息子で次期頭領だった俺や宗家の息子である骸佐を育てるのも分からんでもない。

 

 早期に弾正を除いて、年端のいかない俺を傀儡としてふうまの実権を握るもよし。

 

 代替わりした後の為に小父さんの理想とやらを植え付けるもよし。

 

 骸佐は俺に何かあった時のスペアになるし、利用方法なんて腐るほどある。

 

 けど、俺が憶えている限り、小父さん達からそんな教育は受けた憶えはない。

 

 二車の家にいた時分も宗家に戻ってからも、小父さん達は普通に接してくれていたのだ。

 

 もしかしたら、前世の記憶が戻らない内にその手の考えを刷り込んでいたのかもしれないが、そうだとしても恩人である事に変わりはない。

 

 ネグレクトされたままだったら、前世と同じく剣術狂いのイカレたガキに育ってたのは間違い無いだろうし。

 

 しかし、あれだ。

 

 こんなの聞かされたら銀零の事があろうと逃げる訳にはいかんわ。

 

 ここまでしてもらっといてテメエの都合でバックレたら、弾正と同レベルのクズになってしまう。 

 

 ふうまを潰さない事が二車の小父さんへの恩返しになるのなら、やらんワケにはいかんでしょう。

 

 それに散々右腕だの何だのと言ってきた以上、俺よりヘコんでいる兄弟を見捨てるワケにもいかんしな。

 

 骸佐の奴は小父さんの子供である事を誇りに思っていたからな、それを崩されたのは相当なショックだろうし。

 

 そんな感じで肚を決めた俺は慣れないながらも骸佐のケアに当たる事にした。

 

 普段の奴なら絶対に吐かないであろう愚痴や弱音を聞き続ける事数時間、漸く落ち着きを取り戻した時には日は傾いていた。

 

 さて、修羅場も終わって落ち着きを取り戻してみると、胸の内で頭を(もた)げる物がある。

 

 そう、元凶への怒りである。

 

 しかし悲しいかな、弾正のう●こ野郎は10年も前にこの世から去ってしまっている。

 

 如何様にしても手は届かないのだ。

 

 ならば五車の里に忍び込み、行き場のない怒りから弾正の墓をスレッジハンマーで跡形もなく粉砕した俺達を誰が責められようか。

 

 というか、ちゃんとふうま宗家の墓があるのに自分個人のモノを作るってのはどうなんだ?

 

 先祖の墓の隣に倍くらいのデカさ、しかも自分の銅像付きで。

 

 この稼業、何時死んでもおかしくないので生前に墓を作るという考えは分からんでもないが、いくら何でもやり過ぎである。

 

 まあ、銅像が有ったおかげでハンマーを振るう手にも一層力が入ったんだが。

 

 しかし、この手の騒ぎに巻き込まれる度に思うのだが、どうして弾正の野郎は死んでしまったのだろうか。

 

 反乱の際に米連辺りに落ち延びていたら、この行き場のない思いを存分に発散させることもできるだろうに。

 

 ふうまの没落から銀零の事や今回の件も含めて、俺が背負っている苦労の9割9分は奴が原因と言っていい。

 

 だから、あの野郎を金属バットで殴り殺せば、俺の中にあるストレスというストレスは浄化を通り越して昇華するような気がするんだ、うん。

 

 そう言えば、ノマドは魔界医師を何人か抱えていたな。

 

 ブラックに頼んで弾正のクローンでも作ってもらおうか。

 

 ────ストレス解消のサンドバックとして。

 

 

≪Information≫

 

 

 条件クリアにより、『おっさんと行くぶらり魔界行』ルートが閉鎖されました。

 

 二車骸佐ルート『【風魔】忍軍退魔録』が解放されました。

 

 ふうま銀零の二車骸佐へのヘイト値が増加しました。




 書いていた際の作者の妄想

 剣キチをふうまに留めたのが紅でも銀零でもなく骸佐になってしまった。

 これは一体……

 ふむ、考えてみれば拙作の骸佐はかなりいいポジである。

 乳兄弟(幼馴染)

 剣キチの右腕認定

 公私ともに相談役

 剣キチにもしもの事があった際の後釜
 
 これで女だったら正ヒロインじゃね?

 【追加項目】異母兄弟

 ……………さっきの考えは気のせいだな

 
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