剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 必死に貯めた対魔石

 祈りを込めて11連回してみれば

 現れたのは頭小動物(リリム)

 …………紅が欲しかったッ!!!

 屈辱と憎悪に塗れたので続きを書いちゃった。



日記2冊目

 対魔忍育成の為に政府が用意した土地である五車の里。

 

 新古和洋が入り混じる住宅地帯から少し離れた場所に、小ぶりながらしっかりとした造りの日本邸宅があった。

 

 元ふうま八将である二車家邸宅。

 

 檜と井草の香りが漂う書斎では和服に身を包んだ妙齢の美女が、正座で背の低い机に積まれた書類と格闘している。

 

「そう、若様が」

 

「はい。あのお方は下忍が(こな)すような雑務から手練れでも二の足を踏むような危険な任務まで、多くの現場を巡りながら捕らわれた同胞を救い、散った者達の遺品を回収しているそうです。かく言う私も若様に救われた身ですので」

 

 天井からの報告に女性、ふうま八将の一つである二車家の夫人は小さく息を付く。

 

 閉じた(まぶた)の裏に映るのはふうま崩壊の原因となった反乱の少し前、我が家を訪れた小太郎が浮かべていた幼子に似合わない覚悟を纏った表情だ。

 

 あの時、書斎に通された彼は根拠と共に此度の反乱は失敗すると告げ、『残されるふうま忍の為、何より骸佐達の為に生き延びて欲しい』と臣下である夫と自分に対して伏して願いを告げた。

 

 普通であれば幼子の戯言と一笑に付すところであるが、二車夫妻はその言葉を真摯(しんし)に受け止めた。

 

 夫人はその顔に自分に大罪を犯させた男と親友の面影を、夫はふうまと息子の未来を見出(みいだ)して。

 夫であった先代当主は我欲のままに行動する弾正を快く思っていなかった。

 

 前ふうま頭領の弾正は欲深く好色な男であった。

 

 他者を裏切る事も部下を使い捨てる事も当然と考え、気に入った女性がいれば夫や恋人がいても奪い取る。

 

 影に潜み、他国や魔の物から国や民を護るという忍の任に誇りを持っていた夫が、そんな野獣の如き輩に忠義など持てるはずがない。

 

 さらには弾正は男として到底許せぬ仕打ちを夫に強いた。

 

 あの男は知らぬと思っているだろうが、罪悪感に耐えかねた妻の告白によって二車の当主はその事を掴んでいた。

 

 そこまでの仕打ちを受けても彼が弾正に仕えていたのは、ふうま八将である二車の当主の責務ゆえだ。

 

 平成の世を迎えて世間では身分制度が廃れたようになっても、古くからの因習が色濃く残る忍の世界では主従関係は絶対だ。

 

 夫が感情のままに軽挙に出れば、その(とが)は本人だけでなく二車家の一門全てにかかる事になるだろう。

 

 さらにはふうま忍軍最高幹部の一つである八将が謀反を起こせば、その影響は計り知れない。

 

 どちらが勝利することになっても、ふうまは大きく衰退することとなる。

 

 それ故に彼は己の中に渦巻くどす黒い感情を飲み下し続けていたのだ。

 

 すべては祖先から受け継いだ家を護る為、そしてふうま一党の為に。

 

 だからこそ、夫は次期頭首であった小太郎に期待を寄せていた。

 

 弾正の暴走によって大きく正道を逸れてしまったふうまを立て直してくれるだろうと。

 

 出産後に急逝した彼の母が二車の分家の出で夫人の親友という縁もあって、小太郎は乳幼児期の殆どを二車の家で過ごした。

 

 そもそも宗家の跡取りを他の家で育てるなど言語道断なのだが、父親である弾正は子育てになど興味はなく本妻が他界したのをこれ幸いと数ある妾通いに精を出していた。

 

 また宗家直属の配下や侍女も弾正の世話やふうまの運営の補助を優先させられていた為に、赤子の世話をする余裕などなかったのだ。

 

 そういった事情もあり腹違いの姉で執事候補である時子が来るまで、小太郎の面倒は二車夫妻が見ていた。

 

 息子である骸佐と共に兄弟同然に育てていた彼等夫婦にとって、小太郎は主家の跡取りである以上にもう一人の息子という感覚が強かった。

 

 だからこそ夫は弾正に代わって何くれと小太郎を気に掛け、忍術に目覚めない事で『目抜け』の悪名を背負わされても見捨てることはなかったのだ。

 

 忍の悪習から里の者達は小太郎を見下していたが、夫から言わせれば彼は『(とび)が鷹を生む』の典型と言えた。

 

 大人たちの会話からふうまが如何なる存在かを理解し、そして宗家の嫡男という己が立場を弁えて常により良い一手を思考する。

 

 そうして聞きかじったことを然るべき大人に話すことで情報の精査を行い、己が思考をさらに研ぎ澄ましていく。

 

 文字もまともに習っていない時期からこのような事をしていたというのだから、その頭脳は驚嘆に値する。

 

 事実、親交が深かった心願寺の老当主や夫に向けて小太郎が懸案した事柄は、3歳から5歳までの二年間で百近くに登っていた。

 

 幼子の身では埋められない情報ソースの不確かさや知識不足の為に脇が甘い意見も多かったが、中には夫たちすら唸らせるような穿った見解も確かに存在した。

 

 ふうまの会合で小太郎の代弁を果たした彼等からは、次期頭領の素質は十分と太鼓判を押されていたのだ。

 

 そんな経緯があったからこそ、二車は小太郎の言葉に乗った。

 

 当時のふうまとしての最上は決起の前に弾正を除くことであったが、すでに武力衝突が起きて犠牲者も出ていた状況ではそれは不可能だった。

 

 弾正を討つにしても、彼の者が持つ忍術は邪眼使いを意のままに操るふうま殺しと言うべきもの。

 

 それ故に魔眼・邪眼の使い手たる八将をはじめとした上層部では歯が立たず、それを持っていない配下を仕向けても多大な犠牲は免れない。

 

 なにより当時のふうまには対魔忍統合に反対する勢力も多く存在していた為、弾正を殺害しても反乱が止まらない危険性もあった。

 

 そういった内情から彼等が取った策は反乱勢力が出立すると同時に手を引き、余力を残した形でふうまを存続させる事だった。

 

 時間の無さと粛清を避けるための慎重さが仇となって大きな成果は上げられなかったが、二車が力を温存できた事や主流派に寝返った紫藤が権勢を得たのは小太郎の提案あってのものだ。

 

 しかしその代償は決して軽いものではなく、紫藤家は獅子身中の虫として本家に裏切るタイミングを教えた前当主である頼母を、二車も弾正に企みを見抜かれぬために最前線で戦っていた前当主と骸佐より上の子供達を失った。

 

 当然夫人は悲しみに暮れ、知らせを受けてから数週間は何も手に付かない程に落ち込んだ。

 

 しかし、彼女は足を止めようとはしなかった。

 

 泣き濡れる自分を見て『これからの二車は俺が支える』と言ってくれた息子が、葬儀の時に夫や子供たちを本当の家族のように思っていたと死なせた事を詫びて来た幼き主がいた。

 

 なにより、最後の夜に子供達の事を任せると夫と契った誓いがあったからだ。

 

 対魔忍主流派を裏で操る井河・甲河派閥の老人達は未だふうまの事を警戒している。

 

 他家へ奉公に出た有能な者達を下忍の如く扱うように指示を出し率先して危険な任務を振り分けている事、紫藤・二車に小太郎への接触を禁じているのがその証拠だ。

 

 だがしかし、やりようがない訳ではない。

 

 この数年で無能でない事は示したものの、未だ忍術が使えない事でふうま一党からの人望に欠ける小太郎。

 

 そして、孫娘である紅の一件で派閥の殆どを失い隠居同然となった心願寺幻庵。

 

 彼等の境遇を逆手にとれば、老人共の隙を突いてふうま再興の道は十二分に開けるはずだ。

 

「カヲル、骸佐と権左をここに呼びなさい」

 

 夫人は厳かな声で、天井裏に控えている二車家下忍頭である鉄華院カヲルに命を下す。

 

「御意」

 

 短い了承の返事と共にカヲルの気配が消えると、彼女は深く息を吐いた。

 

 未だ九歳である息子を死地に送り込もうとする自分は母親失格だろう。

 

 しかし、この逆境の中で二車家を背負うのであれば、普通の育て方ではまるで足りない。

 

 元より骸佐は夫に似て誇り高く気性が激しい子である。

 

 乳兄弟同然である小太郎の現状を知れば、大人しくしている訳が無い。

 

 危険から遠ざけてヘタに暴走されるくらいなら、万全のバックアップを整えて送り出す方がはるかにマシだ。

 

 幸い、あの子は邪眼・夜叉髑髏を覚醒させている。

 

 土遁の使い手にして槍の名手である執事、土橋権左のアシストがあれば、高いリスクも無く経験を詰めるだろう。

 

 そう結論付けた彼女は、処理し終わった書類を片付けて少し冷めたお茶を淹れ直す事にした。

 

 

 

 

 

 ▽月×■日(晴天)

 

 

 今日は近畿地方にある人工島都市アミダハラに行ってきた。

 

 あそこは元は舞洲と呼ばれる場所で国際的テーマ―パークやスポーツ施設があったのだが、運の悪い事に数年前の半島紛争の折に流れ弾となったミサイルが直撃し壊滅的なダメージを受けてしまった。

 

 当時の政府は目と鼻の先で紛争の対処に精いっぱいであり、日本第二の都市である大阪自体への被害が少なかったこともあって早々に島の復興を断念。

 

 その後、地下にあった魔界の門を通じて魔族が流入するに従って無法者たちの巣窟となり、今では立派なスラム兼犯罪都市となってしまっている。

 

 とはいえ、ほかの魔界都市である東京キングダムやヨミハラと違ってアミダハラはノマドの手が入っていない為に比較的に平穏だ。

 

 それもこの街を管理している『魔術師組合』の手腕によるものだろう。

 

 それで何故俺がそんな場所に行ったのかと言うと、それは魔術というモノを体験する為だ。

 

 とは言っても魔術師になろうというワケではない。

 

 知りたかったのは魔術に対する対処法である。

 

 重火器にサイボーグ、忍者は居なかったが暗殺者の手管や多少の超能力などは、前世に於いて体験している。

 

 しかし前世の科学万能の世界ではオカルト100%の魔術にはお目に掛かれなかった。

 

 この世界には魔界と魔族、そして魔術が確と存在している以上、鉄火場で生きる事を決めている者としてそれに対する知識が無いのは致命的だ。

 

 戦闘において最も恐ろしい事は知らない技を掛けられることなのだから。

 

 ならば、それを防ぐ為に見識を広げる努力は必須と言えるだろう。

 

 そんなワケで現地入りした俺は、アミダハラで最高の魔術師と言われるノイ・イーズレーンという婆様に魔術を見せてもらう事となった。

 

 で、魔術を見た感想だが、シャレにならんの一言だった。

 

 発動のプロセスや『意』の推移は忍術とよく似ているが、威力や規模は向こうの方が上だ。

 

 つーか、米粒大の火の玉がロケットランチャー並みの威力になるとかあり得ないだろう。

 

 いやはや、これは敵対する前に見れて大正解である。

 

 時子姉に土下座してまで金を降ろしてもらって、氣功術が見たいという理由でアンネローゼとかいう姉ちゃんと斬り合いをさせられた甲斐があったというものだ。

 

 四大元素を基とした魔術の後は呪詛や召喚といった特殊なカテゴリーに属する物まで見せてくれた。

 

 サービスが良いなと言葉を漏らしたところ、ノイ婆ちゃんは『氣功術などという珍しい物を見せてくれた礼じゃ』と笑っていた。

 

 やはりこっちの世界では氣功術は珍しいようだ。

 

 兎も角、今回の体験から次なる修業の方向性を固めることが出来た。

 

 現状物理止まりになっている因果の断裂、これを魔術をはじめとしたエネルギーや呪いなどの概念へ届くようにすることだ。

 

 俺の振るう剣は極めれば世の理に届くかもしれないと、アミダハラ最高の魔女のお墨付きを貰ったからには張り切らない訳にはいかない。

 

 万物全てを断つ一刀、剣士が目指すモノとしては十分である。

 

 取りあえずは、婆ちゃんが掛けた『声がエドウィン・ブラックになる』呪いを解く事を目標にしよう。 

 

 

 ▽月×●日(土砂降り)

 

  

 ここ数日の生活態度があまりにも酷過ぎる! と時子姉に怒られた。

 

 思い返してみれば、アミダハラから帰って来てからの俺のスケジュールは確かに褒められたものではない。

 

 朝起きたら剣を振って、飯喰ったら剣を振って、昼からも剣を振って、任務では鉄火場で剣を振って、帰って来てもやっぱり剣を振って、あとはぶっ倒れるまで剣を振る。

 

 うん、これは酷い。

 

 前世の末期、完全剣キチモードと同じ生活リズムである。

 

 とはいえ、こっちも戴天流を新しい位に持ち上げようと必死なのだ。

 

 概念に刃が通る様になれば、魔術だろうが忍術だろうが全て戴天流で対処が可能になる。

 

 魔族の侵攻が加速している以上、この技術は早急に確立させなければならない。

 

 身体を壊すという時子姉の言い分も分かるが、自分を極限まで追い詰めないと至らない境地というのも確かにある。

 

 そして今回の俺が目指す場所は、そういった類に違いないのだ。

 

 両者譲らずに喧々囂々と言い合うも落としどころが見つからず、結局はたまたま来ていた心願寺の爺様を仲介に立たせてしまった。

 

 冷静になって考えれば、なんとも格好の悪い話である。

 

 あの時は我を張ってしまったが、この身はまだ九歳だ。

 

 あんな生活をしていては、時子姉の言う通り早々にぶっ壊れてしまうだろう。

 

 明日もう一度話し合う事になってるし、ここは修業時間を半分にするという譲歩案を出してみるか。

 

 精神年齢は俺の方が上なんだし、時子姉を泣かせてまで我を通しても格好悪いからな。

 

 

 〇月×◇日(猛暑)

 

 いい知らせと悪い知らせというのは、セットで訪れるものらしい。

 

 今日、災禍姉さんがこっちで働く為に来てくれた。

 

 姉さんはふうまが健在だった頃、クソ親父の秘書をしていた才媛だ。

 

 俺も何度か顔を合わせており、鍛錬に熱中しすぎて時子姉から飯抜きの刑を受けた時なんかは、内緒でお菓子をくれたりしていた。

 

 味の嗜好が子供になっていたのを差し引いても、あの時のホットケーキは美味かったです。

 

 そんな災禍姉さんだが、ウチに来るまで井河・甲河の老人達付きの秘書をしていたそうだ。

 

 反乱の少し前から姿が見えなかったのは、親父のやり方について行けなくなって袂を分かったのが理由らしい。

 

 本人はその辺の事を語る際に申し訳なさそうにしていたが、俺は全然気にしていない。

 

 むしろ『アホが迷惑を掛けてすみません』と頭を下げておいた。

 

 さて姉さんが派遣された本当の理由だが、曰く「秘書として働きながら俺の事を探れ」と老人会から命令されてきたそうな。

 

 どうも老人共は忍術の使えない俺が下忍用は兎も角、高難易度の任務を成功させている事が不思議で仕方がないらしい。

 

 達成できない事が前提の任務を振るとか、俺を殺す気満々じゃないですかヤダー。

 

 この話を聞いた瞬間、あの老害共に対する48の殺害方法が頭に浮かんだが何とか思い留まった。

 

 俺だけならヒャッハー!!とプレデターばりの狩猟タイムとしゃれこむところだが、時子姉達がいる以上はそうもいかない。

 

 クソ親父のやらかしから二年ほどしか経っていないのだ、ふうまの皆に迷惑が掛かる行為は慎むべきだろう。

 

 あと、時子姉と災禍姉さん。

 

 二人して『若、立派になって』とかハンカチで目元を押さえないでくれませんかねぇ。

 

 それだと今までの俺が事あるごとに段平を手に突っ込んでいく蛮族みたいじゃないか。

 

 そんな寸劇は置いといて、時子姉がお茶を淹れ直したところで災禍姉さんの話は続いた。

 

 立場的にはスパイとして送り込まれているのだが、姉さん的には向こうに付くつもりはないそうだ。

 

 現体制に付いたのはあくまで親父の悪辣さが原因で、ふうま自体を裏切るつもりは毛頭無いとのこと。

 

 あと、奴が姉さんにまで手を出そうとしていたなんて話は幻聴だと思いたい。

 

 重ね重ね、屑がすみません。

 

 こんなん言われたら信用云々なんて話は口が裂けてもできんわ。

 

 というワケで災禍姉さんの加入は問題なく認められたわけだが、話はもう一つ残っている。

 

 そう、悪い知らせである。

 

 その内容なのだが、要するに俺達に腹違いの妹がいるとの事でした。

 

 まあ、クソ親父には二桁を超える妾やら現地妻やらがいたのだから、こういう話が出ても不思議ではない。

 

 俺達としても元々低い親父の評価が、地球のコアにメリ込むレベルで下落する程度である。

 

 問題は件の銀零ちゃん4歳が米連に売り払われている事だ。

 

 サイバネパーツとなった災禍姉さんの足を見れば分かるのだが、オヤジは米連とも太いパイプを持っていた。

 

 最新技術で魔界に対抗しようとしている米連だが、同時に対魔忍の忍術や力の秘密も欲していた。

 

 奴等は当時対魔忍の最大派閥ながらもアウトロー同然であった親父に目をつけ、米連とのパイプや最新技術を欲していた奴もそれに応えた。

 

 とはいえ、いくら親父でも『モルモットにするから人員を出せ』なんて命令を発したら、臣下から総スカンにされるのは目に見えている。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、俺と同じく出産で母親を亡くした銀零ちゃんだったというワケだ。

 

 とはいえ、災禍姉さん的にはそんな鬼畜な真似は見過ごせる訳がなく、『赤子のままだと検査に耐えられない』だの『サンプルなら忍術に目覚めた後のほうがいい』だのと理由を付けては米連行きを引き延ばしていたらしい。

 

 しかし業を煮やした馬鹿親父は、災禍姉さんが仕事で離れている内に銀零ちゃんを米連に引き渡してしまった。

 

 この一件がトドメとなって災禍姉さんは親父を見限る事となり、その後主流派の老人達に使われながらも銀零ちゃんの行方を捜していたらしい。

 

 そして数日前に姉さんの必死の捜索が実を結び、銀零ちゃんの居場所を突き止めることが出来た。

 

 それは東京キングダムにほど近い米連の研究施設。

 

 しかしその施設は件の魔界都市の近辺に建てられていることもあって警備は厳重で、とても災禍姉さん一人では銀零ちゃんを救出できそうにない。

 

 そこで老人たちの思惑に乗る形で、俺に救出を頼みに来たというワケだ。

 

 話を聞いた時子姉は困惑の表情を浮かべていたが、俺は受けると決めていた。

 

 降って湧いたような話だが、顔も知らんとはいえ腹違いの妹だ。

 

 モルモットにされていると聞いては助けないワケにはいかないだろう。

 

 そんなワケで明日にはヴァーサスUSAである。

 

 え、日米問題?

 

 なにそれ、美味しいの?

  

 

 〇月×▲日(冷夏)

 

 

 一つ斬っては銀零ちゃんの為。

 

 二つ斬っては時子姉の為。

 

 三つ斬ってはふうまの為。

 

 そんな感じで今日も今日とて鉄火場を行くふうまの小太郎です。

 

 先日話に上がっていた銀零ちゃん救出だが、なんとか成し遂げることが出来た。

 

 今回の任務に於ける最大の難所は、意外だと思うが研究施設に潜入する事だったりする。

 

 俺の潜入に使う境圏だが、これは機械相手には効果が無かったりする。

 

 そもそも、これは天地万物と合一する事で生物の視界に映っても認識させないという術だ。

 

 生き物相手なら対魔忍だろうと魔界の生物だろうと問答無用で騙せるのだが、本当に透明になっているわけではないので監視カメラ等の防犯システムには通用しない。

 

 そして米連の施設は魔術や妙ちくりんな罠はない代わりに、そういった最新鋭の技術がてんこ盛りなのである。

 

 ではどうやって侵入したかなのだが、今回は禁じ手を使わせてもらった。

 

 そう、電磁発勁のお時間です。

 

 電磁発勁とは戴天流裏氣功術奥義にして、最強最悪のサイバー殺しの絶技である。

 

 この技は特殊な練氣によって電磁パルス(EMP)を丹田に発生させ、それを発氣と共に打ち込む事で電子機器に致命的なダメージを及ぼす事を目的としている。

 

 稲妻などの高エネルギー現象で発生する電磁パルスは、あらゆる電子デバイスの導体に電磁誘導を引き起こし、刹那のうちにこれを破壊する。

 

 これを浸透勁に組み込んで放つ事で、室内に埋め込まれた電子機器や生体に組み込まれるサイバーウェアのEMP対策をも擦り抜け、徒手空拳でサイボーグを屠る殺戮の絶技アーツ・オブ・ウォーに昇華せしめる。

 

 これこそが前世において、電磁発勁が生身の人間でもサイボーグに対抗しうる唯一の武術、対サイバー氣功術と呼ばれた所以である。

 

 上記のように電磁発勁とは何とも素晴らしい技なのだが、反面重いデメリットも存在する。

 

 体内で落雷並のEMPを発生させるこの技は肉体に強大な負担が掛かる。

 

 主にダメージが大きいのが肺を始めとした各種臓器。

 

 前世では健康を害することなく使用できるのは、一日2回が限度とされていた。

 

 これを超えて使い続けると、待っているのは内臓の崩壊からの多臓器不全による死だ。

 

 因みに前世の直接的死因はコレである。

 

 そういった事情もあって出来れば使いたくなかったのだが、妹の身柄が掛かっているとなれば話は別だ。

 

 その存在を知らなかったとはいえ、銀零ちゃんには二年以上もモルモット生活を強いてしまったのだ。

 

 ならば、兄貴と名乗るにはこの位は身体を張るのが筋だろう。

 

 というワケで災禍姉さんが事前に入手していた図面から警備システムの中枢を割り出した俺は、境圏で警備員をやり過ごすと警備室の中にある対象に向けて電磁発勁を打ち込んだ。

 

 使用したのは掌から直接放つ『紫電掌』ではなく、呼気から室内全体に拡散する『轟雷功』

 

 これで監視カメラのハードディスクも逝っただろうから、映っていたとしてもチャラである。

 

 ガキの体が受ける反動は思った以上にキツく内傷は死ぬほど痛いし、喉から鉄錆臭い液体がせり上がってきているが何とか我慢した。

 

 ここで吐血などしようものなら、災禍姉さんが撤退するのは目に見えていたからだ。

 

 いくら銀零ちゃんの事を憂いていると言っても、災禍姉さんはふうまの対魔忍を自認している。

 

 現頭首である俺の身を引き換えにするとは思えないからだ。

 

 それを思えば今回の件ほど仮面を付けていて良かったと思ったことはない。

 

 使ってから内養功で痛みを散らすまでの数分間、脂汗が止まらなかったからなぁ。

 

 さて俺が放った電磁発勁の一撃だが、その効果はセキュリティ中枢だけでなく防災設備や一部のインフラにも及んだ。

 

 防災システムの中枢が死んだ事で館内には非常放送が鳴り響き、停止信号やダンパーへの通電が途切れた防火扉やシャッター・隔壁などが各所で誤作動をはじめた。

 

 職員はたちまちパニックに陥り、警備員をはじめとした軍関係者と研究員が雑多に入り乱れ始める。

 

 その混乱に乗じて建物を進んだ俺達は、数人の研究員から情報を引き出す事で漸くターゲットの居場所に辿り着くことが出来た。

 

 発見した銀零ちゃんは入院患者が着る様なスモックを纏ってベッドに横たわっていた。

 

 栗色の髪をした可愛らしい女の子で、魔眼に目覚めていない所為か俺と同じく右目が閉じたままだった。

 

 乗り込んできたこちらに対しても反応が鈍い彼女の様子を素早く確認したが、見た目的には健康上の害は見当たらなかった。

 

 しかし首筋や手そして太ももなどには、採血や薬物を投入されたと思われる注射痕がはっきりと残っていた。

 

 『誰……?』とぼんやりとした声で問うてくる彼女に自分が兄貴である事と迎えに来た旨を伝えると、俺達は彼女に関するカルテを奪い、本人を連れて脱出を始めた。

 

 俺が先行し銀零ちゃんを抱いた災禍姉さんが続くという布陣。

 

 境圏で他者に認識させない俺はともかく、銀零ちゃんを抱いている災禍姉さんにはカモフラージュとして看護師に扮してもらった。

 

 被験者である彼女を避難させるように見せかけたのは功を奏し、忙しなく通路を通る職員たちから声を掛けられることはなかった。

 

 そうして閉じた隔壁をぶった切りながら出口へと向った俺達だったが、その前に立ちはだかる物がいた。

 

 ガトリング砲を構えた重装甲の強化外骨格『XPS-11A ボーン』である。

 

 この混乱の中で襲撃を察知した兵士もいたらしく、挑発的な言葉と共にガトリング砲をこちらに向けるパイロット。

 

 もっとも、結果だけ言えば大した事も出来ずに奴は退場することになったワケだが。

 

 この『XPS-11A ボーン』だが、実はそれほど脅威ではなかったりする。

 

 特殊鋼材による重装甲に人工筋肉を使った優れたパワー、さらにはガトリング砲の高火力と兵器としてイイ感じなのだが、如何せんスピードが無さすぎるのだ。

 

 戦争における対兵士戦に投入すればよい戦果をあげられると思うが、魔界の奴等や対魔忍相手では少々荷が重い。

 

 今回の彼も軽身功を用いた踏み込みに付いてこれず、貫光迅雷によって腹部を刀で貫かれて弾を一発も撃つことなく天に召された。

 

 万が一仕損じた場合は紫電掌を打つ覚悟をしていたので、そうならなかった事は何よりである。

 

 二発目の電磁発勁を撃ったら、最悪こっちまで動けなくなる可能性もあったしな。

 

 こうして無事に銀零ちゃんの救出に成功したわけだが、一緒に住むのは少し先になりそうだ。

 

 米連の施設で行われていた事や投与された薬物などを考えて、彼女をふうま宗家お抱えの医者に預けたからだ。

 

 あの先生は弾正の伝手で魔界医療や米連の技術にも精通しているから、こちらが持ち出した銀零ちゃんに関する資料があれば何とかしてくれるだろう。

 

 あと、お近づきの印として帰り道の露店でアクセサリーを買ったけど、気に入ってくれたかどうか。

 

 鈴が付いた銀細工の腕輪なんだが、手にもってリンリンと鳴らしていたものの、無表情な為にイマイチ感情が読み取れんかった。

 

 ともかく片方とはいえ血の繋がった兄妹だ。

 

 どうせなら仲良くしたいものである。

 

 

 〇月◇日(晴)

 

 

 今日は伊賀と甲賀の老人会に呼ばれた。

 

 ジジイども曰く「この頃派手に動いているが、何を企んでいる?」との事。

 

 『企むも何も、お前らの下が仕事振り倒してきてるだけやんけ』というツッコミは脳内だけにしておいた。

 

 ここで反論しても、余計目を付けられるだけ損である。

 

 隠居して暇を持て余してる老人が構ってほしいだけなんだから、ハイハイと話を聞いていれば問題はない。

 

 しかし、いい年こいた爺さんが寄ってたかって小学生を全裸に向いたうえに吊るし上げるというのはどうなのか。

 

 コレが上層部だってんだから、対魔忍も大概終わっている。

 

 公安で頑張ってる山本さんには悪いが、ぶっちゃけ見切り付けたほうがいいと思うんだ。 

 

 三時間突っ立ったままで聞かされた話を要約すると『あんま図に乗るなよ、負け犬』という事になる。

 

 素晴らしいまでの時間の無駄使いに当方涙が止まりません。

 

 そんなこんなで老人介護ボランティアも終わって帰路に付いていると、珍しい人物に出会う事となった。

 

 井河の現頭領にして、最強の対魔忍と名高い井河アサギである。

 

 俺が呼ばれた事情を察したのか、こちらを見て痛ましい表情を浮かべた。

 

 隣にいた八津紫は俺の事を聞いた途端に顔を顰めたが、その程度の反応は慣れたものだ。

 

 俺と井河アサギとの縁はふうま敗北まで遡る。

 

 当時から敗残のふうま衆は井河・甲河の管理下にあったのだが、老人共はふうまの権勢へのトドメとしてあるイベントを催した。

 

 それが井河とふうまの頭首対決である。

 

 あの時、時子姉が俺を宗家頭首にする事でふうまは健在であるとアピールしたのだが、老人共はそれを逆手に取ったのだ。

 

 とはいえ、当時のアサギは引退を表明して現場から2年ほど遠ざかっているし、ふうま側の俺は5歳のガキである。

 

 はっきり言って茶番以外の何物でもない。

 

 知らせを聞いた時子姉と心願寺の爺様は顔面蒼白になっていたが、俺としては井河・甲河にそこまでさせる親父の所業が気になっていた。

 

 今になって思えば、あれは親父のやらかした事だけではなく、当時最大派閥であったふうまを完膚なきまでに叩き潰す意図があったのだろう。

 

 恐らくだがアサギと山本捜査官が対魔忍を国家直属機関にする事を容認したのも、この為の布石だったのだ。

 

 今まで好き勝手してきた弾正がお行儀良く国の下に付くはずがないうえに、それが井河一党主導となれば反乱を起こすのは必至。

 

 国家という後ろ盾を得た奴等からしてみれば最大派閥であるふうまとはいえ恐るるに足りないし、むしろ目の上のたん瘤であったふうまを討つ大義名分ができて一石二鳥だったのではなかろうか。

 

 俺の予測が当たっていれば、老人たちのダメ押しであるこのイベント。

 

 アサギは当然のごとく拒否をした。

 

 公衆の面前で五歳の子供を叩きのめして晒し者にするなんて、正義感の強い彼女にはとても容認できないことだったらしい。

 

 断固として拒否の姿勢をむけるアサギだったが、老人たちは一枚上手だった。

 

 奴等は当時アサギと交際していた沢木恭介という人物との結婚の許可を餌にぶら下げたのだ。

 

 老人たちの言で青褪めながら歯を食いしばるアサギへ、俺は引き受けるように促した。

 

 別に彼女に同情したわけじゃない。

 

 どうせアサギが降りたところでこの趣味の悪い催しが中止になる訳じゃない。

 

 老人たちの権勢を示すことが出来るほかの人材が選ばれるだけである。

 

 だったら、この機会を有効活用してもらったほうがいい。

 

 5歳のガキを2・3発小突いただけで爺たちから譲歩をもらえるのなら破格という物だろう。

 

 俺個人としても最強の対魔忍の力に興味があったし。

 

 そういう事情で茶番が実施されたわけだが、結果は俺の敗北に終わった。

 

 さすがに5歳の身では最強と言われていた彼女に届くことはできなかったが、実力の方は推し量ることはできたので良しとすべきだろう。

 

 アサギ自慢の隼の術も、速いには速いが『意』を消しているわけじゃないので対処は可能だったしな。

 

 当時は直撃を避けるのが精いっぱいだったが、ある程度体ができてきた今なら殺陣華とかいう忍法にも対処ができる自信もある。

 

 ともあれ、そういう縁からかあれから数年経った今でも俺とアサギの関係は微妙な物だったりする。

 

 こっちは何とも思っていないのだが、むこうは負い目に感じているようで微妙に避けられている感じだ。

 

 茶番の商品に出されていた沢木さんとやらも、結婚する前に任務に巻き込まれて死んだそうだしな。

 

 そういう事情から、俺はアサギとは言葉を交わすことなくその場を後にしたわけだ。

 

 八津の奴が無礼だの何だのと言っていたが、知ったことではない。

 

 むしろ伊賀忍者宗家である井河の頭首を名乗っているのなら、自分のところの老人介護くらいはやってほしいところである。

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