剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 皆様、たいへんお待たせしました。

 20話の完成です。

 ブレブレだった若様に芯を通そうとしたのだが、これがまた難しい。

 徐々に内部の問題解決して、視点を外にむけていきたいなぁ……。

 原作もふうまについて徐々に設定が広まってきたことだし。


日記20冊目

 □月/日(曇り)

 

 

 今日は少々珍しい相手と顔を合わせる事となった。

 

 それは現在米連に与している甲河宗家の甲河アスカ、そしてその後見人である本物の甲河朧である。

 

 事の起こりは数日前、災禍姉さんと天音姉ちゃんの義肢に不調が見られたのが切っ掛けだった。

 

 弾正が死んで約十年、米連との繋がりが切れてしまった為に姉さんたちの義肢は正規のメンテナンスを受ける事が出来なくなっていた。

 

 肉体との接続部分の方は米田のじっちゃんが面倒を見てくれていたが、義肢本体は東京キングダムのモグリの義肢職人に任せざるを得なかった。

 

 とはいえ、二人の義肢は対魔忍としての戦闘に耐えうる事に加えて、対魔粒子の蓄積・解放の機能も組み込まれている特別製。

 

 上原の技術チームでも仕様書が無ければ白旗を上げるほどの代物である。

 

 非正規の職人に調整を任せていたのでは不具合が出るのは当然だ。

 

 むしろ、よくここまで保ったものである。

 

 通常の代物なら故障したなら外してしまえばおしまいだが、二人の義肢は使用上中枢神経に直結する仕様となっている。

 

 その影響で故障した義肢を付けるのはもちろん、長期間義肢を接続しない事も肉体的不調を招いてしまうのだ。

 

 俺にとって二人はかけがえの無い家族である。

 

 苦しんでいるのを放置するなどもっての外だ。

 

 そういう事から俺は二人を救うべく行動に出た。

 

 二人の義肢の出所には心当たりがあったので、まずは現在の雇い主である上原学長に事情を説明したうえで接触の許可を得た。

 

 その後、以前に交わした連絡先から仮面の対魔忍こと甲河朧に連絡。

 

 電話で弱みを見せないように注意しながらこちらの事情を説明し、なんとかアポイントを取り付けた。

 

 朧は甲河頭領アスカの後見人であると同時に、弾正が生前に渡りを付けていた米連DSO(防衛科学研究室)の現日本支部長を務めている。

 

 相手は甲河が健在だったころはアサギと同等と言われ、里が壊滅した後も異国で単身現在の地位に就いた女傑なのだ。

 

 交渉なんておっかない事など正直お断りしたかったのだが、今回ばかりはそうもいかない。

 

 相手が指定したのは東京キングダムの小さなクラブ。

 

 東京キングダムでも凄腕の情報屋という噂のある店だが、裏に甲河がいるとは思わなかった。

 

 会談はそこのVIPルームで行われたのだが、思い返すと傍から見れば笑える絵ヅラだったのではないだろうか。

 

 先方は目元を隠す仮面を付けた朧に、何故かおたふくの面を装着した頭領のアスカ。

 

 対するこちらは懐かしのシグルド仮面を付けた骸佐に『ノマドのお膝元なので面が割れないように』と若アサギから魔鈴の面を借りた紅姉(くれないねぇ)

 

 そしてノイ婆ちゃん渾身の新作である『ピラミッド・シング』の姿をした俺。

 

 というか俺の方は仮面というよりも(かぶ)り物なんだが、その辺をツッコむのは野暮というものだろう。

 

 ちなみにこの(三角)様装備、婆ちゃんが『静丘』にハマっているようで、覆面やコートだけじゃなくて大鉈に槍までセットになっていた。

 

 しかも原作を意識したのか防弾・防刃・抗呪仕様、硬氣功と併用したらリアル▲様ごっこが可能な逸品である。

 

 少し前に行われた林間学校の肝試しで初のお披露目を行ったのだが、後日蛇子から『ふうまちゃんは絶対にピラミッド・シングをすべきではないわ』と真顔で言われてしまった。

 

 どうも攻撃を回避したり鉈で弾くのが不評だったらしい。

 

 クラスメイトからは『テクニカル▲様』や『▲様A(Arts)仕様』なんて渾名が付けられたし。

 

 閑話休題

 

『……貴方達。これって一応はふうまと甲河の頭領会談なんだけど、その辺は理解してる?』と口元を引きつらせる朧。

 

 確かに不真面目極まりないと思われるだろうが、生憎とこっちにも事情がある。

 

 如何に淫魔族という餌を釣っているとはいえ、ここはエドウィン・ブラックのお膝元の一つなのである。

 

 三人纏めて面が割れているウチとしては素顔で歩くワケにはいかん。

 

 俺は強い奴と戦うのは好きだが、勝算も無いのに特攻するほど馬鹿ではない。 

 

 この珍妙な格好も身バレを防ぐ手の一環なのだ。

 

 相手もこちらの事情を察しているのだろう、説明すると『顔が出せない事に関してはお互い様だものね』と苦笑いで言葉の矛を収めてくれた。

 

 さて、怪しいコスプレ大会のような雰囲気の中で始まった今回の会談、その内容は至って真面目なものだ。

 

 こちらの要件は前述したとおり、災禍姉さん達の義肢に関する詳細な仕様書と出来れば予備パーツの譲渡。

 

 ああ、姉さん達のケアや義肢のメンテに関してはこちらで受け持つつもりだ。

 

 交渉を持ちかけといてなんだが、俺は姉さんたちの身柄を任せるほど米連を信頼しているわけじゃないからな。

 

 対してむこうが要求してきたのは、前回のヨミハラ侵入の際に得たエドウィン・ブラックとの交戦記録。

 

 上原学長を始めとしたヴァンパイア・ハンターの言葉が事実なら、吹っ掛けられたのはむしろ俺達という形になるのだろう。

 

 人間界にあって、エドウィン・ブラックと交戦して生き残ったのは俺とアサギのみ───

 

 いや、目の前にもう二人いたか。

 

 噂ではアスカや朧もまたブラックとの交戦経験があるそうだしな。

 

 もっとも受けた被害は俺達よりも重く、アスカは四肢に致命的なダメージを受けて現在は両手足共に義肢となっている。

 

 一方の朧は彼女の忍法で精神を別の身体に移したものの、元の肉体は度重なる調教と改造で魔族へと堕ちた。

 

 その際にどこまで奴に迫ったかは知らないが、更なる情報を集めているところを見るにリベンジを諦めてはいないようだ。

 

 とはいえ、こちらも事情が事情である。

 

 多少吹っ掛けられているとはいえ、首を横に振る余裕はない。

 

 念のために上原学長に提出したものと同じレポートデータが入ったUSBメモリーを持って来ていたのだが、話をすり合わせた結果渡すのは次の機会となった。

 

 端的に言えば、双方共に先にブツを渡して相手に掌を返される事を警戒したのだ。

 

 そんなワケで、まずはこちらが姉さん達の義肢の写真と分かる限りの型番を朧へ送り、むこうはそれを頼りに仕様書と予備パーツを本国から取り寄せる。

 

 そして、もう一度会った際に物々交換を行うという形に落ち着いた。

 

 主目的である取引も丸く収まったところで待っていたのは、アスカのトークタイムだった。

 

 前に会った時もそうだったのだが、彼女は俺に対してワリとフレンドリーに接してくる。

 

 本人曰く『十代で一流派の頭領張ってるなんて、同じ境遇の奴はアンタ以外に見つかりそうにないもん』だそうな。

 

 こんなアホみたいな境遇の奴、ゴロゴロいたら逆に怖ぇーよ。

 

 そんなこんなでアスカの頭領生活の愚痴を聞いたり、朧に妹が(リー)美鳳(メイフォン)の偽名でアミダハラで魔女兼暗殺者している事をリークしたり、アスカが主流派に沢木浩介って奴がいなかったか食い気味で(たず)ねてきたりと、話の話題には事欠かなかったりする。

 

 因みに沢木浩介という男、10年ほど前に亡くなったアサギの婚約者、沢木恭介の弟だそうだ。

 

 兄の死後、天涯孤独となった浩介はアサギに引き取られ、後程甲河壊滅によって引き取られていたアスカとは姉弟のような関係を築いていたそうな。

 

 そこから成長した浩介にアスカが惚れたり、アサギはそいつに兄の恭介を重ねたり、当の浩介は浩介でアサギに熱い視線を送ったりと割とドロドロの関係へと繋がったっぽいのだが、その辺はガンスルーしたので覚えていない。

 

 というか、今の俺に色恋沙汰の話はするな、不愉快だ。

 

 あと、いい機会だったので銀零が持っている銀アリのドローンについても聞いてみた。

 

 朧が言うには、個人でカスタム化しているならともかく、米連が生産している中にはあんな外見のドローンは存在していないそうだ。

 

 またドローンは基本的に使い捨ての量産型なので、自己修復なんて高度な機能は備えていないらしい。

 

 個人で銀アリのようなカスタム機を組んだ場合はどのくらいの額が掛かるのかを聞いたところ、返ってきたのは自己修復機能を付けるのなら現状では不可能という答え。

 

 外見のみをカスタマイズしたとしても、数千万単位の額が飛んでいくらしい。

 

 そもそも軍用ドローンは米連の機密に当たるので民間への払い下げは為されていない。

 

 その為、軍の管理から離れているのは撃破した個体をレストアしたものか、鹵獲された代物と考えられる。

 

 ならば、魔界勢力の物かと言えば、その可能性も低いらしい。

 

 基本、魔界の住人はその身体能力の高さや持ち得た異能から武器に拘る事はあっても、使用者の能力に関係なく一定の成果を上げる兵器に手を付ける必要性を感じていないらしい。

 

 だからこそ、魔界由来の技術は医療や肉体改造、それに伴う強化生物がメインとなっている。

 

 魔界医療を例にしてみれば分かるが、むこうの技術は人間界のそれを大きく凌駕している。

 

 仮に魔界で機械工学が発達していたならば、米連はここまで対抗できなかっただろうというのが朧の見解である。

 

 なるほど、銀アリに米連が絡んでいないことは理解できた。

 

 ならば、銀零に(まと)わりつくあの虫はいったいなんなのか?

 

 とてつもなく嫌な予感がする。

 

 これは早急に奴の出所を突き止めねばなるまい。

 

 思わぬ情報を手にした俺達は、未だ言い足りないといった表情のアスカを残して店を後にした。

 

 朧の方からは『共に似たような境遇だしエドウィン・ブラックという共通の敵がいるのだから、これからは友好な関係を築きましょう』なんて言っていたが話半分に聞いておこうと思う。

 

 その程度で懐を広げるほど、あの女傑が甘いワケがないのだから。

 

 

 □月▲日(晴れ)

 

 

 今日は何も無い平和な一日だったので、昨日書き切れなかったことを記そうと思う。

 

 甲河との会談が終わった帰路で、成り行きから俺達は誘拐事件解決を手助けする事となった。

 

 切っ掛けは大通りを歩いている時に、10歳ほどの女の子を袋に詰めようとするオーク達を見つけたこと。

 

 日が沈み切らない内から天下の往来で誘拐沙汰とは流石は東京キングダム。

 

 魔界都市の面目躍如といったところだろう。

 

 こちらの立場を思えば目立つのは拙いのだが、流石にこれを見過すのは人としてアウトだ。

 

 骸佐に紅姉も同様の気持ちだったらしく、特製の▲様印の鉈が唸ったことで無事にブツ切り肉と化すオーク達。

 

 袋から助けた娘の首から上がカラスだったり、件の少女が俺の姿にビビッて泣きながら嘴アタックを仕掛けてきたりと些細なトラブルはあったが、事件は誘拐を未然に防いだ事でめでたしめでたしとなるのだった。

 

 しかし、こちらに駆けつけてきた彼女の姉と名乗る少女とヘタレ騎士リーナが、何故か俺を誘拐犯と誤認。

 

 予期せぬ誤解からもう一悶着に巻き込まれる結果になってしまったのだ。

 

 罪のない▲様を疑うなんて、きっと奴等の心は濁っているに違いない。

 

 俺の声をリーナが憶えている可能性がある為に喋る事すらできなくなったわけだが、そこは渾身の▲様ロールプレイによって乗り切った。

 

 その際にリーナのサクラなんたらという剣が折れてしまったのだが、それも必要な犠牲と諦めてほしい。

 

 ガチ泣きしていた彼女には▲様印の大鉈を譲っておいたし、今頃はきっと立ち直っている事だろう。

 

 刀身にこびり付いた血錆と刃こぼれがいい味を出しているし、ノイ婆ちゃんが手掛けた魔法剣だからそんじょそこらの業物には引けを取らない。

 

 是非ともあの鉈と共に華々しいカムバックを遂げてほしいと思う。

 

 

 □月●日(くもり)

 

 

 上原に移籍してからというもの、日に数回任務で出撃するというブラック環境から解放された俺達。

 

 だからと言って、まったく忍者的活動をしていないわけではない。

 

 主流派の頃はノマドや米連が相手だったが、上原学長にもしっかりと敵対勢力は存在するのだ。

 

 その中の一つが吸血鬼信奉者(しんぽうしゃ)によるカルト組織『イノヴェルチ』である。

 

 奴等は吸血鬼の持つ強大な能力や永遠の命に憧れた変人の集まりで、人の世に隠れ住むカーラ女王が言うところのはぐれ吸血鬼を支援する事を主な活動としている。

 

 その目的は支援した吸血鬼から『血の接吻』を受ける事で自身も吸血鬼の仲間入りをする事にあるそうな。

 

 当然、吸血鬼ハンター達にとっては不倶戴天の敵であり、以前に語った吸血殲鬼の事件も含めて裏の世界で火花を散らしているのだ。

 

 で、俺達の現雇い主である上原学長は神村教諭を始めとする吸血鬼ハンターの強力なバックアッパーを勤めている。

 

 下部組織であるふうまにも『イノヴェルチ』に関する情報収集の依頼が降りてくるのは当然の流れと言えた。

 

 そんなワケで、今回も東京キングダム郊外に居を構える燦月製薬の研究施設への潜入が言い渡されたワケだ。

 

 モーラ先生によると燦月製薬は日本におけるイノヴェルチの隠れ蓑で、以前は人間界最強のロード・ヴァンパイア『夜魔の森の女王』を捕らえて、彼女を基にVチューンドと呼ばれる動物の因子を持つキメラ吸血鬼を製造していたらしい。

 

 そんな奴等も十数年前に吸血殲鬼の活躍によって『夜魔の森の女王』を失った事で、Vチューンドの製造は不可能になった。

 

 まあ、だからと言って監視の目を緩める理由にはならないのだが。

 

 そんな中、吸血鬼ハンターの仲間から『イノヴェルチ』が魔界技術を利用して新たな研究を始めているとタレコミがあった事で、事態を重く見た上原学長が腰を上げるに至ったのだ。

 

 このところ何だかんだと頭領の自覚を促される事が多かったので、今回は流石に現場に出るのは自重した。

 

 代わりに白羽の矢を立てたのは、鬼蜘蛛三郎ちゃんと(がく)尚之助(しょうのすけ)の兄貴の二人。

 

 三郎ちゃんは少し前に鬼蜘蛛家の18代当主となり、『三郎』の名を継いだ俺と同い年の女の子だ。

 

 当主となって日は浅いが巨大な鬼蜘蛛を操る獣遁の術は、先代だった爺さんに引けを取らない。

 

 一方の尚之助の兄貴は優れた剣術の使い手で、アサギと同じ隼の術で加速した両の手から繰り出す抜刀術は、俺の最大剣速に迫る鋭さを持っている。

 

 共に二車家の幹部であり俺も親交はある二人。

 

 その実力は折り紙付きで推薦した骸佐も太鼓判を押していた。

 

 しかし、彼等は任務を失敗し傷を負って逃げ帰る結果となってしまった。

 

 三郎ちゃんは軽傷で済んだが、その代わりに操っていた蜘蛛が足を三本斬り飛ばされた上に腹にも刀傷を刻まれて重傷。

 

 尚之助の兄貴も自慢の両手を籠手ごと折られ、胸に一文字の深手を負っていた。

 

 不幸中の幸いで誰一人命を落とす事は無かったが、傷の具合から復帰には時間が掛かるという。

 

 三郎ちゃんの話では、切っ先が二股に分かれた大剣を振るう吸血鬼の騎士にやられたそうだ。

 

 一人と一匹の身体に残された傷の切り口といい、鬼蜘蛛を封じられた三郎ちゃんを『牙を揃えて出直すがいい』と見逃した事といい、下手人は相当の手練れなのだろう。

 

 なんにせよ、ウチの仲間が世話になったからには頭領として放っておくわけにはいかん。

 

 この借りは倍にして返させねばなるまい。

 

 

 

 

 甲河との会合から数日、イノヴェルチ潜入任務失敗の後始末等に忙殺されていたが、ようやく銀零と話す時間が取れた。

 

 広くない書斎の中、俺と向かい合う形で座っている銀零はどこか居心地が悪そうにしきりに体をゆすっている。

 

 前回は兄として接していたが、今の俺はふうまの頭領としてここにいる。

 

 それがあの子から落ち着きを奪っているのだろう。

 

「銀零、これからする質問に嘘偽りなく答えなさい。───いいね?」

 

「ん……」

 

 俺の言葉に小さく頷く銀零。

 

 泣かれては会話にならないので詰問口調を使う訳にはいかないが、むこうには否と言えない雰囲気は作っている。

 

「お前が連れているアリの形をした銀のドローン、あれはどうやって手に入れた?」

 

「……おねえちゃんにもらった」

 

 こちらの問いに銀零が返したのは以前と同じ答え。

 

 だが────

 

「それはどのお姉ちゃんだ? 時子姉達に確認したが、誰もお前にあんな物をあげてはいないと言っていたぞ」

 

 そう追及すると俯いて口を閉ざす銀零。

 

 言いたくないのか、それとも言えない理由があるのか。

 

 両肩に乗った妙な疲労感に、俺は息を吐きながらも気を入れなおす。

 

 幼い妹を問い詰めるのは辛いが、今回ばかりはなあなあで済ますわけにはいかない。

 

 前の会話を自分なりに分析して分かったことだが、俺は家族に嫌われたくないらしい。

 

 前世では望むことすらできなかった家族というコミュニティ、少々歪な形とはいえ今生で手に入ったそれに思った以上に執着していたようだ。

 

 二世に渡る筋金入りの剣術狂いである俺が、頭領の責務に忙殺されても出奔しないでいるのは、それを失いたくない故なのだ。

 

 前世の経験から人の縁が儚いモノであることを俺は知っている。

 

 死別、裏切り、すれ違いからの断交。

 

 些細な言葉の掛け違いでも、人が人を不要と思う理由には成り得るのだ。

 

 だからこそ、俺はあの時銀零を強く拒絶できなかった。

 

 あの子の言葉を否定して、あの子を失う事を怖れたからだ。

 

 しかし過日の骸佐から小父さん達の過去を聞いて、俺の立っている位置はそんな軟弱な感傷が許されるモノではない事を思い知った。

 

 二車の小父さんは男としてあれだけの屈辱を受けてもなお、ふうまの未来を思って俺を育ててくれた。

 

 もちろん、彼なりの思惑や狙いはあったのだろう。

 

 仮にそうだとしても、受けた恩に報いなくていい理由にはなり得ない。

 

 だからこそ、俺は今まで持っていた甘えを捨てた。

 

 『宗家に生まれた者の責務』ではなく、俺自身の意思でふうまを盛り立てる事に決めたのだ。

  

 故に妹可愛さで明確な不穏分子を見逃すわけにはいかん。

 

 たとえ、それで銀零に憎まれたとしてもだ。

 

「銀零、答えたくないのならそれでも構わん。だが、あのドローンはウチには置いておけない。ここで破壊させてもらう」

 

 俺の宣言に銀零は顔を上げて息を呑んだ。

 

 妹の持ち物を手に掛けるのは気が引けるし、銀アリの対処についても手遅れ感は多分にあるが、それはそれ。

 

 ここから先の情報漏洩を防ぐという意味でも排除は必要不可欠なのだ。

 

「ダメ! しろがねをこわしちゃダメ!!」

 

 立ち上がって珍しく声を荒げる銀零だが俺はそれを黙殺し、手元にあった短刀を天井へ向けて放った。

 

 空を裂いて飛翔する鈍色の刃が天井の暗がりに消えると、金を断つ甲高い音に次いで影が落ちてくる。

 

 ガシャリという音と共に畳張りの床を揺らしたのは、例の銀アリのドローンだ。

 

 どうせ俺を監視しているだろうと思っていたが、銀零の感情の揺らぎに反応して駆動音を立てた事が仇となったな。

 

 金属が擦れ合う音を立てながら仰向けの体勢でもがいていたドローンだったが、身体の半分を占める腹の反動を利用して裏返ると銀零の傍らに移動する。

 

 俺が放った短刀は頭のすぐ下、有翅体節と呼ばれる部分に見られた。

 

 仰向けに落ちたのが悪かったのだろう、その刃は束の根元まで潜り込んでいる。

 

「どきなさい、銀零。それを見逃すわけにはいかない」

 

 鞘に収まった刀を手に立ち上がるも、銀零は俺を見据えながら両手を広げて立ち塞がる。

 

「ダメ。しろがねをこわしたら、兄さまと一つになれなくなっちゃう」

 

「一つに? どういう意味だ、それは」

 

 妙なことを口走る銀零に眉根が寄るのを自覚しながら一歩踏み出すと、追いつめられたと思ったあの子は悲痛さが滲む声でこう言った。

 

「しろがねはたましいのうつわ。こんぱくてんしゃで中に入ったら、ぎんれいと兄さまはずっといっしょにいられるの!」

 

 瞬間、罪悪感やら何やらが一切合切冷却された。

 

 こいつは今、魂魄転写と言ったか。

 

 この時点で手にした刀を抜き放って、目の前の娘に付きつけなかった自分の親心を褒めてやりたい。

 

「銀零。何故、お前が魂魄転写の事を知っている? その知識を何処で手に入れた?」   

 

 喉を突いて出たのは、到底身内に向けたものとは思えない声音だ。

 

 それを耳にした銀零は、感情の読み取れない琥珀と蒼の瞳をこちらに向けるだけだった。

 

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