剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く 作:アキ山
筆が乗ったとはいえ、こんなに早く書けるとは……。
これも悩み事が解消された成果なのだろうか。
なんにせよ、指が軽快に動くのはいい事だと思います。
さて、HR確定チケットで紅を狙うとするか
☆月▽日
剣闘士生活がかなり充実している小太郎です。
少し前まで干されるかもと危機感を抱いていましたが、色々と頭を捻ったお陰で何とか盛り返すことが出来た。
瞬殺劇がダメなら、ひたすら躱せばいいじゃない。
というワケで相手の攻撃を回避しながら、時折蹴りや峰打ちを叩き込むという舐めプモードを搭載いたしました。
これの利点はギャラリーの大半であるトーシロー連中からすると、俺がピンチに陥っているように見えるという事だ。
防戦一方の劣勢から、乾坤一擲の一撃によるカウンター勝利。
なかなかアツい展開だと思うのだが、どうか?
あと、前の試合では軽身功を利用して、リアル『残像だ』にも成功。
試合後にマダムから聞いた話だと、観客からかなりの高評価を得たらしい。
うむ、まったくもって飛影様々である。
あれがウケるのなら、これからはマンガの技を再現していくのもアリかもしれない。
ぱっと思いつくのは『牙突』とか『アバンストラッシュ』ぐらいなんだが、マンガ的なエフェクトが無いと地味になってしまうかも。
とりあえず家で練習して、イケそうだったら採用する事にしよう。
これは割とどうでもいい事なんだが、剣闘士興業で生き残った者は重傷でもない限り女を抱きに行くことが多い。
死に直面した際、子孫を残そうとするのは生物の本能。
そう考えると剣闘士の同僚連中が発情するのは、生物として自然な事なのだろう。
こういう場合、普通なら給料を崩して娼館に駆け込むのだが、カオスアリーナは少し違う。
なんと福利厚生の一環で女奴隷を無料で抱けるようになっているのである。
ぶっちゃけると、エロイベント用の竿役なんですけどね。
マダム曰く、そっち方面のプロは人間・オークに限らず意外と値が張るらしい。
なので、試合の度に用意していてはあっという間に赤字になってしまうんだとか。
なんともセコい話だが、これも一種の経費削減なんだろう。
悪の闘技場だろうと、何かを経営するという事は大変なのだ。
言うまでも無いが、俺はこの手のイベントには一回も参加していない。
普通の感性してたら満杯のギャラリーが見てる中でエロい事なんてできる訳がない。
あのマダム、それとなく『あの娘って、性病検査してんの?』って聞いたら目を逸らしやがったし。
いや、性病ってホントに危ないんだから、最低限の安全対策くらいしろよ。
あいつらって魔界生物とかで調教してんだろ?
絶対にヤバい病気掛かってるって。
なにより、あの乱痴気騒ぎが動画で撮られてるという事を、あいつら知ってるのだろうか?
そして、それがアングラのAVで流れてるって事も。
実名バレてるうえに無修正AVに顔出し出演とか、社会的に抹殺されたも同然だと思うんだが。
つーか、対魔忍の頭領がAVに出たなんてことになったら末代までの恥だろ。
……ん?
ちょっと待て。
アサギって、過去に2回捕まってるよな。
あとさくらと紫も。
…………………時子姉に探り入れてもらって、販売サイトとかあったら潰してもらうか。
☆月◆日
先の任務で負傷した尚之助兄ぃが意識を取り戻した。
あの戦いで受けたのは、両腕が半ば圧し潰された上に胸骨全損という重傷である。
一時は障害が残るかもと言われていたので、快復の兆しが見えたのは本当にめでたい。
本格復帰にはまだ時間が掛かるそうだが、その辺は焦らずにしっかりと治療に専念してほしい。
さて、改めて前回の任務について訊ねる事になったのだが『切っ先が二股に分かれた大剣を振るう吸血鬼の騎士に負けた』という証言は、タマちゃん(当代三郎の事、彼女の本名は
追加情報としては、その騎士がイノヴェルチによって作り出されたクローンである事。
あとは『夜魔の森の女王』の異名を持つロードヴァンパイアの関係者だという事くらいだった。
この辺の事を報告書に纏めて上原学長に続報として送ったら、その日の内に呼び出しを食らうハメに。
そこで学長から明かされたのは、件の騎士が『紅の騎士ギーラッハ』の可能性があるという事実だった。
このギーラッハなる人物、吸血鬼界隈では名の知れた強者らしい。
600年以上に渡って世界に三人しかいないとされる『神祖』の吸血鬼の一角、夜魔の森の女王リァノーンの護衛を務めたという。
ヴァチカン十三課や英国騎士団など、世界に名立たる対吸血鬼組織を単独で相手に主を護り続けた事から、その実力はイングリッド以上と言われていた。
十数年前に死亡が確認されたそうなのだが、闇の世界では彼を魔界騎士の鑑とする者はかなりいるらしい。
なので今回確認されたのが本当に彼だった場合、その影響力はかなりのモノになるそうだ。
確かにそんな伝説級の人物なら、クローン再生に成功したという事実は脅威である。
万が一戦力として量産された場合、こちらが受ける被害はシャレにならない。
そういう背景もあって、ふうま一党にはイノヴェルチに関する調査に一層力を入れるよう指示された。
現在関わってる面々には、情報収集の強化と共に有事の際には無理しない事を再度徹底させようと思う。
吸血鬼が関わっているのだ、用心はし過ぎるくらいがちょうどいいだろう。
あと、この件に関してはカーラ女王からも注文があった。
彼女からの依頼は、尚之助兄ィを倒したクローンの行方を探ってほしいというモノだ。
件の個体だが、報告書を見るに何の情報もインプットされていないクローンとは考えにくいそうだ。
たしかに如何に伝説の人物を複製しようと、オリジナルが持っていた知識や経験がなければその価値は半減するだろう。
そして、そんな半端者に後れを取るほど尚之助兄ィは甘くはない。
となれば、考えられるのはイノヴェルチがオリジナルの思考ルーチンを抽出したデータを持っているというモノだが、女王はそこにもう一つの可能性を示唆した。
それは複製された肉体にギーラッハ当人の魂が降りたというものだ。
人間ではあり得ない事象だが、相手は神祖の継嗣である。
そういう奇跡が起こる可能性は十分にあるとの事。
この予測が当たっていた場合、真の意味で『紅の騎士ギーラッハ』が復活したことになる。
女王としては無視できるものではないだろう。
戦力として引き込むつもりかと思っていたのだが、女王の態度を見るにそういう意図ではなさそうだ。
この件についてはまだ隠された情報があるようだが、諜報に関わる者にとって『Need To Knowの原則』(「情報は知る必要のある人のみに伝え、知る必要のない人には伝えない」という原則)は基本である。
互いの信頼関係が健在なうちは、語ってくれる時を待とうではないか。
☆月●日
今日は紅姉と改めて話をした。
少し前に爺様が落とした爆弾に関して、しっかり確認しておかないとおちおち寝てもいられないからだ。
気付いたときには外堀どころか披露宴までセッティングされてました、なんて事は流石に勘弁である。
コタロウ知ッテルヨ、コウイウノ放ッテオクト致命傷ニナルッテ。
そんな理由から紅姉を呼び出したのだが、当の本人は初っ端から挙動不審にも程があった。
会った早々から『こっこっここっこ……こ、こた…こここ』と、喉に何かが詰まった鶏みたいな声を出す始末。
一瞬、妙な呪詛でも掛けられているのかと焦ったではないか。
喫茶店で飲み物飲ませたら何とか落ち着いたので、こちらも一安心である。
それで本題なんだが、紅姉自身も嫁入り云々については耳に入っていなかったらしい。
龍ちゃんを次期当主する件だって、あの日の朝に聞いたそうだし。
爺様よ、もうちょっと根回ししとけや。
身内だからって雑に扱ってるとしっぺ返しを食らう事になるぞ。
老人の手際は置いとくとして、ここで一番の問題になるのは当事者である紅姉の気持ちである。
結婚は女性にとって一大イベント。
それを意にそぐわない相手に嫁がされるなど、あんまりではないか。
ん、俺?
こっちについては問題ない。
立場上、恋愛結婚とか不可能だって覚悟を決めてるし。
ぶっちゃけ、銀零にゴーサインが出たって時点で大概の事は諦めた。
オークとかゾンビじゃなかったら、魔族だってOKだ。
けど一夫多妻制や妾とかは勘弁な。
俺の甲斐性だと嫁さん一人でも養っていけるかどうかも分らんし。
さて、肝心の紅姉だが、意外な事に嫌悪感は無いようだった。
正直、『私は魔族から世界を護る為、そしてお母様を救う為に、少しでも早く一人前の対魔忍にならなければならないんだ! お家騒動などに関わっているヒマは無い!!』くらいは言うと思っていたのに。
まあ、その代わりに出たのは、毎度お馴染みの出生故のネガティブさだったけど。
『私みたいな奴が宗家に入るなんてダメだろう。この穢れた血がどんな悪影響を及ぼすか、分かったものじゃないからな』
「先代のクズや俺を見ましょう。宗家なんてこんなウ●コ人間が生まれるドブ川です。吸血鬼の血くらい入ったところでは何の問題にもなりません」
『ウン●って……。けどッ、私は吸血鬼のハーフだ! 人間でも魔族でもない半端者なんだ……。そんな奴を娶るなんて、小太郎も嫌だろ?』
「血の繋がった8歳の妹と結婚しろと言われるより万倍マシ。つーか、最近の研究だと対魔忍って魔族と人間の混血児の末裔だっていうし、その辺はもう今更です。あと個人的な意見を言わせてもらうと、色事を考えるような感性が育つ生き方してないから、恋愛なんてサッパリ分からん。なので、初見の人間連れてこられて一から人間関係構築するとかマジ勘弁。それなら気心の知れた幼馴染の方がいい」
こんな感じの問答をした結果、紅姉は『嫁入りについては前向きに検討する!』とニコニコ顔で帰っていった。
改めて今日の発言を日記に纏めてわかったんだが、これって紅姉のコンプレックスなんて気にしないから嫁に来いって言ってる風に取れるのか?
つーか、『前向きに検討する』って、紅姉の奴は本気でウチに来るつもりなのか?
もしかしたら、色んな意味でやってもーたかもしれん。
あ~、けどそんなに深刻に考える必要もないか。
色恋分からんって断ってあるし、ぶっちゃけ紅姉だったら家族になっても違和感ないもんな。
それ以前に俺はまだ年齢的に結婚できんし。
ま、少なくとも数年の猶予があるんだ。
今はああでも、紅姉の気が変わるってこともある。
状況はどう転ぶか分からないんだ、のんびり考えていこうじゃないか。
もちろん、紅姉を泣かさないように気を付けてな。
:追記
後日、俺の携帯に『謎の紳士B』という人物から怪文章が届いた。
内容は『姉がオッケーなら、妹の爆弾処…………嫁にどうかね?』というもの。
謎の紳士B────何者なのだ?
☆月▽日
カオスアリーナの副業だが、ちょいと困った事になっている。
色々と殺陣のパターンを増やしてはいるのだが、客が飽きるのが早いのだ。
客から寄せられたコメントを解析してみると、どうも俺がダメージを食らわないのが気にくわないらしい。
まあ、ゴア表現を目的にアリーナに足を運んでいる連中である。
そういう要望もあるだろうさ。
しかし、こっちだって副業で怪我をするわけにはいかん。
万が一にも負傷からこの事がバレたら、マジで任務参加禁止とかを食らいかねん。
俺から剣と鉄火場を取ったら、骨と皮しか残らんぞ!
こんな否定的な意見があるものの、現在の剣闘士部門では俺がトップファイターである事に変わりはない。
マダムとしても俺が負傷休場するのは本意ではない様で、スタッフも巻き込んで頭を捻る事に。
三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったもので、この問題に対してある解決策が提示された。
それはインターバルのショーに俺が出るというモノだ。
なに、意味が分からないよ?
心配はいらない、俺も最初はそうだった。
カオスアリーナは闘技場と銘打っているが、開店から閉店まで絶えず誰かが戦っている訳じゃない。
選手やスタッフにもインターバルは必要だし、客も試合ばかり続けば疲れてしまう。
そこで3試合おきにアメフトのハーフタイムショーのような、イベントが組まれているのだ。
要は其のイベントに俺が出ろと言っているのである。
この案を挙げたイベント担当の意見はこうだ。
『ダークナイトさんにこういう意見がでるのは、試合に出てるだけだからと思うんですよ。貴方は剣闘部門の顏なんですから、多角的にキャラを売り出せば否定的な意見も消えるのではないでしょうか』
ショービジネスには明るくないのでイマイチ分からんが、そういうものなのだろうか?
この意見はマダムの鶴の声で即決採用。
後で聞いた話によると、このハーフタイムショー。
今まではメス奴隷にエロダンスを踊らせていたのだが、これが女性客には受けがすこぶる悪かったらしい。
それでアンケートでも改善や廃止の声がかなり溜まっており、マダムも対応に頭を悩ませていたそうな。
そんなワケでショーマンとしての業務が追加された俺は、マダムが呼んだ魔界の踊り子というナディア女史の指導の下で試合の合間でダンスの稽古に励む事となった。
武道は舞踏に通ずるというが、それは本当だったようでダンスについては割と簡単になじんだ。
意外だったのはナディア女史のレッスンである。
あの優し気な風貌とは打って変わって指導はかなりスパルタだった。
ステップから身体の動きや腕の振りなど、随所に渡って容赦ない指摘が入ってリテイクを連発。
こっちはグレートのマスクに髑髏の兜を二重に付けてるもんだから、呼吸がし辛いことも相まってマジでキツかった。
結果として肺を始めとした呼吸器の鍛錬とスタミナ向上に繋がった事を思えば、悪い事ばかりではないけどさ。
そんな辛い訓練を得て本日ハーフタイムショーデビューを果たしたワケだが、まさかガチのグールと一緒に『スリラー』を踊る事になるとは思わんかった。
と言うか、マダム。
不朽の名曲なのは認めるけど、曲のチョイスが古いよ!!
まあ、カオスアリーナの客層って多国籍な上に年配者も多いから、流行りのJポップなんて流しても受けなかっただろうけどさ。
しかも最後の最後で制御の魔術を解いた所為で、曲が終わったと同時にグール共が襲ってきたし。
百体近いグールを始末したらそのまま試合に移行とか、スケジュールがタイトすぎやしませんかねぇ!?
正味、手加減する余裕がなかったから、開始コンマ一秒で五体バラバラにしてしまったじゃないか。
はっきり言って、特別手当で百万貰ってなかったらキレているところである。
雇われの身だし、これもハンデの一環と言われれば声高に文句は言えんが、こっちの方もブラックになってきたなぁ。
一日でも早く綺麗な体になるために、今は堪え難きを耐えて頑張ろう。
☆月〇△日
今日は嫌な予感がするので、外出する前に日記に心情を記しておこうと思う。
ついに来てしまった。
今日は五車学園特別講習の参観日である。
ぶちゃけ厄ネタの匂いしかしないから、超行きたくない。
だが、バックレたら余計面倒な事態になるのは目に見えている。
アスカはともかく、あの仮面のマダムが何の考えも無しにこのイベントに参加を決める訳がない。
万が一、井河と甲河による日本と米連の代理戦争なんて事態に発展したら目も当てられん。
今回は親善を前面に出してる関係上、連れの数も限られてる。
対外的な対応と有事の際を考えれば、天音姉ちゃんと災禍姉さんが適任か。
俺的にはこんなゴタゴタ前提のところにはあまり連れて行きたくないんだが、それは二人の矜持を傷つける事になる。
この辺はちゃんと弁えなければいけない。
さて、一応はふうまの頭領として出向くのだ。
侮られないよう、身嗜みはキチンとしなければ。
背広に合う仮面……この前買ったガーゴイルとかいうのでいいか。
ミステリアスで支配者っぽいし、これならば舐められないはずだ。
名残惜しいが出発の時間が近づいている。
帰ってきた後でつける日記が明るいものでありますように……。