剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 お待たせしました、28冊目の完成です。

 今回も特に山もタニもない話。

 そろそろ話を動かさねば……。

 


日記28冊目

☆月●■日

 

 今日、銀零から興味深い質問をされた。

 

 作麼生(そもさん)説破(せっぱ)と気合を入れた後に出されたのは『人は何故パンツを穿()くのか?』というもの。

 

 普通ならば常識の一言で流される代物であるが、いざ腰を据えて考えてみると思った以上に奥が深い。

 

 なるほど。

 

 言われてみればパンツを穿くという行為は無駄である。

 

 排泄にせよ生殖にせよ、下半身を使う際にパンツを一々脱がねばならないのだ。

 

 腹を下した時などの一刻を争う緊急事態では、この手間が命取りになって引き起こされる悲劇も往々にしてあるだろう。

 

 そんなリスクと手間を背負ってまでパンツを穿く理由とは何か?

 

 まず考えられるのは、現行法において下半身の露出は禁止されているという点だ。

 

 しかし、これはパンツを穿く必要性を説くには薄い。

 

 まず『生殖と排泄に使用される人体の重要部位がどうして猥褻なのか』が明確ではないし、下半身を出してはならないならズボンやスカートを穿けば済む話である。

 

 次に考えられるのは下半身を保護するというものだ。

 

 だが、考えてほしい。

 

 我々の付けている下着に防御力はあるだろうか?

 

 パンツを構成しているのは綿や絹を使った薄手の生地で、急所を保護する装甲もショックアブソーバーも無い。

 

 これらに防御力が求められていないのは、対魔忍の標準装備である対魔スーツを身に着ける際、下着着用不可とされているのを見れば明白だ。

 

 仮にパンツが下半身の最終防衛ラインの役割を担っているのなら、多少ラインが浮き出たとしても付ける事を推奨されるだろう。

 

 ファッションの為かと思ったが、下着を他人に見せる機会など極めて限定されている。

 

 美的センスに煩い者なら兎も角、普通の人間はそこまで拘るだろうか?

 

 こんな感じで色々と考察を重ねたものの、結局導き出されたのは分からないという敗北宣言だった。

 

 この難題、大本は教育チャンネルの番組にゲストとして招かれた外国人教授らしい。

 

 彼自身ライフワークと自認する哲学なだけあって、番組内で答えを明かされる事は無かったそうだ。

 

 銀零はそれに納得がいかなかった為に、何とか答えを得ようとウチの大人に片っ端から聞いて回っているのだとか。

 

 質問の結果は俺を含めて全員アウト。

 

 ふうま宗家はこの謎を解くことが出来ず、未だ正解は虚空の彼方というワケだ。

 

 答えが得られなかったのは悔しいが、哲学というのはなかなかに面白いものである。

 

 思考するという事は脳に良い刺激を与えると聞くし、他の題材に手を出してみるのも一興か。

 

  

☆月●▽日

 

 

 今日は隼人学園の退魔師の実技授業に参加してみた。

 

 今までは使用される霊力が対魔粒子に悪影響を及ぼす可能性を考慮して、ふうま衆の子息は上原学長から実習参加を免除してもらっていたのだ。

 

 しかし過日のミリアム女史の言葉にムラマサ浄化の件もある。

 

 上手くいったら儲けものとダメ元で飛び込んでみた結果、思っていた以上に手応えを掴むことが出来た。

 

 今日の課題は呪符の作成と結界術についてだった。

 

 こういったオカルト系統は切る専門で、基礎など何も無い俺である。

 

 周りの生徒はあっさりと課題クリアする中、一人苦戦を強いられることとなった。

 

 実習開始の際、教師は霊力を符に込めろと言うのだが、こっちはその霊力の出し方が分からない。

 

 俺の内勁は霊力に類するものと言われたが、似て非なるモノだと思ってたしな。

 

 なので、あーでもないこーでもないと唸っていたところ、担当教諭は呆れた表情でこう言った。

 

『何をしているんだ、霊力は練れているじゃないか。早くそれを符に移しなさい』と

 

 練っているのは霊力ではなく内勁なんだが……と、内心首を傾げながらも刀身に通す要領で流し込んでみると、なんと呪符の作成が成功してしまった。

 

 しかも硬氣功だと防御力を上昇させる金剛符、内養功では治癒符、軽身功ならば迅速符と言った感じに氣の練り方で符の効果も変わるのだ。

 

 現状では符の効能は氣功術の十分の一程度しかないが、腕を磨けばそれも上がっていくと教師からお墨付きも出た。

 

 対魔粒子と氣の関係もあるので対魔忍に効果が表れるかは未知数だが、問題なく使えるようなら間違いなく符術はふうま衆の力となるだろう。

 

 次に行われた結界の講義では他の皆のように多種多様なモノは流石に無理だったが、九字護身法による結界だけは張る事が出来た。

 

 九字護身法は九字(臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前)を唱えながら諸印契(九柱の御仏を表す印)を結印する事で、悪しきモノを阻む結界を張る術である。

 

 俺は早九字と言われる刀印を結んで九字を切る手法を選んだワケだが、氣を込めた指で空を切るという辺りが戴天流と相性が良かったのか、これはあっさりと発動させることができた。

 

 初の結界術となるこの早九字による結界だが、問題が無いワケではない。

 

 他の結界に比べると発動方法は格段にお手軽なのだが、それでも正規の方法だと咄嗟に間に合わせるのは厳しいのだ。

 

 そこで発動までの手順を簡略化するために、呪は頭の中で唱えて連環套路の応用によって高速で九字を刻むという方法を取らせてもらった。

 

 基礎段階で自己流のアレンジを加えるのは良くないのだが、こっちが必要としているのは実戦に即したもの。

 

 この方法でも結界はしっかり発動したのだし、無作法は大目に見てもらいたい。

 

 とはいえ、コイツも現状では軽い呪術で吹っ飛ぶ紙の盾である。

 

 鉄火場で使うには更なる努力が必要となるだろう。

 

 対魔忍の術と違って、こっちは氣や戴天流と相性がいい。

 

 今は焦らずに剣術のサブとして、一歩一歩積み上げていくことにしよう。

 

 

☆月●×日

 

 

 この頃、心願寺の龍ちゃんが家に遊びに来ることが多い。

 

 曰く『頭領の兄ちゃんと稽古したら、アタイはもっと強くなれる気がする!』とのこと。

 

 爺様に聞いたところ、龍ちゃんは女の子ながら剣の道にどっぷりハマっており、将来の夢は某海賊マンガのゾ●のような大剣豪になる事らしい。

 

 銀零と同い年でこんな殺伐とした夢を持つとは、有望ながらも将来が少し心配になってしまう。

 

 道を踏み外さねばいいがと憂うと、居合わせた全員から『おまいう』の嵐が飛んできた。

 

 人が真剣に龍ちゃんの身を案じているというのに、この反応。

 

 若様は大変遺憾である。

 

 さて、前置きはその辺にして本題に移る事にしよう。

 

 今日の昼休み、学校で紅姉から呼び出された。

 

 紅姉に何かした覚えもないので、首を捻りながら指定された場所である屋上に向かったのだが、待っていたのは何ともややこしい事だった。

 

 俺が着くなり、呼び出した当人は『前の話だけど、悪いが断らせてもらう。───やっぱり私みたいな化け物、小太郎に相応しくないからな』と切り出してきたのだ。

 

 何を言ってるんだと呆気に取られたこちらを他所に、ふうまからも出ていくだの、心願寺は龍がいるから大丈夫だのと捲し立てる紅姉。

 

 他にもいろいろと言っていた気がするが、途中から嗚咽と涙声でぐちゃぐちゃで聞き取れんかった。

 

 まあ、大体が自虐の嵐だろうから気にする必要は無いだろう。

 

 さて、こういった場合の紅姉の行動は割と単純だ。

 

 こうしてセルフで自分を追い詰めていき、最後にはどこかに逃げ出すのである。

 

 ふうまの里が健在だった時に、週一レベルで紅姉捜査網を敷いていたのは伊達ではない。

 

 あちらの行動など手に取るようにわかるのだ。

 

 というワケで、途中から目を擦りながら話していた紅姉との間合いをこっそり詰めた俺は、屋上のフェンスを跳び越えようとした瞬間に襟首をつかんで阻止。

 

 そこから下らない事を並べる口への罰として、ほっぺを思う存分引っ張ってやった。

 

 つーか、誰が好き好んで身内の自虐など聞きたいものか。

 

 貴重な昼休みをオジャンにされた恨みも含めて、存分に変顔と柔らかい感触を堪能させてもらった。

 

 さて、紅姉が大人しくなるまでむにむにした後、なんでこうなったのかを聞いてみた。

 

 曰く、ミリアム女史の言葉が心に引っかかっている中、俺が退魔師の実習に参加するのを見て『やはり自分は光の側を歩く小太郎の傍にいてはいけない』と思ったからだとさ。

 

 うん、勘違いも甚だしい。

 

 退魔師の技は自分の引き出しを増やす為に学んだだけで、そっちに転向する気は微塵もござんせん。

 

 どうも紅姉にとっては、俺が対魔粒子を排したという事実は相当にショックだったようだ。

 

 まあ、彼女の出生を思えばコンプレックスと感じるのは無理ない事かも事だろうともさ。

 

 しかし、だからといって妙なフィルターを掛けられるのは勘弁だ。 

 

 自分にどんな追い込みを掛けたのか、凹み過ぎて何を言っても効果が薄い紅姉。

 

 どうあっても自虐しか返ってこないメンドクサイ幼馴染にイラっとした俺は、前世の記憶がある事や上海でのやらかし等を一切合切暴露してやった。

 

 勿論、この事は小太郎君28の秘密の一端なので、周りに気配がない事を確認したうえでだ。

 

 口寄せの術は勿論、盗聴盗撮防止の為に電磁発勁の一手である轟雷功まで使ったあたり、俺の本気度が理解できるだろう。

 

 前世は上海の底辺を這いまわり、幇の命令が下れば同僚だろうと兄貴分だろうと問答無用で手に掛けてきた。

 

 やらかした違法行為や犯罪は100から先は憶えていない。

 

 剣に溺れてからは、任務以外にも荒くれ者や軍人崩れなどを相手に、血で血を洗う日々を繰り返していたのだ。

 

 数ある対魔忍の中でも、俺ほど魔族やロクデナシに思考が近い奴はいないと思う。

 

 ブラックと妙にウマが合うのも、その辺が原因だろうしな。

 

 ホラ話と思われないように威圧感マシマシで話した後、俺は紅姉にこう言葉を掛けた。

 

『こんな俺がふうまの頭領なんてやってられるのは、紅姉達がいてくれるからなんだぞ。もし紅姉がどっかに行くのなら、俺もノマドに鞍替えしちまおうかなぁ。そうなったらフェリシアを嫁に貰って、ブラックの跡取りになっちまうかもなぁ』

 

 実際はそんな気など一ミリもないのだが、このセリフは紅姉には効果覿面(てきめん)だった。

 

 先ほどまでの悲壮感などどこへやら。

 

 こっちにしがみ付いて『小太郎がこっち側に来るなんて絶対にダメだ! それにふうまを裏切ったらお爺様や骸佐達が悲しむじゃないかッ!!』と大慌てである。

 

 ここまで効果があると、紅姉の将来がちと不安なんだが。

 

 ともかく、ダメだダメだと繰り返す紅姉に『だったら、どっか行くとか言うなよ。紅姉が何者だろうと、帰ってくる場所はここなんだからさ』と声を掛けると大号泣されました。

 

 制服が涙とよだれと鼻水でぐちゃぐちゃになったり、五時間目の授業をサボることになったが、この辺は思いつめた姉貴分を説得する為の必要経費と割り切ろう。

 

 最後に前世云々の話に関しては他言無用とするように言い含めておいた。

    

 もし話したらと言ってきたから耳元で『お嫁に行けないようにしてやる』と脅してやると、紅姉は涙目であうあうと言葉を紡げていなかった。

 

 あの様子ならゲロする事は無いだろうが、女の子相手には少々冗談が過ぎたかもしれん。

 

 今度会ったら謝っておこう。

 

 

☆月●×日

 

 

 魔鈴こと若アサギから、自分は何時になったら帰れるのかと疑問が出た。

 

 こちらに来て一年近くが経っているが、この件に関しては彼女がこの世界に来た経緯が経緯なので、未だに色よい返答を示す事が出来ないでいる。

 

 例のブタ……瑞獣である清麻呂が再び現れれば話は別だが、生憎とあの世界の五車の里で行われていたような奇祭はこちらでは確認できていない。

 

 とはいえ、アサギ自身も積極的に元の世界に帰りたいわけではないようで、どちらかと言えば残してきたさくらが気にかかるようである。

 

 井河の頭領としての重責や対魔忍になれと(うるさ)い輩もいない事から、本人的にはさくらが来たらこっちで永住したいと思っているようだ。

 

 『30過ぎても結婚できないうえに、上と下の意見で板挟みになって苦労を連発! さらには中学生相手に全裸土下座する未来なんて、私は絶対に嫌よ!!』

 

 悲しみに満ち満ちた若アサギの咆哮に、俺はそっと涙をぬぐうしかなかった。

 

 アサギよ。

 

 二回も敵組織に捕まって感度3000倍を始めとする頭の悪い肉体改造を受けるのと、カオスアリーナの衆人環視で嬲り者にされるという未来を忘れているぞ。

 

 ……うん、なんか彼女じゃ戸籍を捏造して別の人生を歩む方が幸せになれるような気がしてきた。

 

 俺達がヴラド国に発つ時になったら、上原学長に推薦してあげようかな……。

 

 

☆月●△日

 

 

 今日はバイトの話をしよう。

 

 例のスリラーが成功した影響からか、マダムはエログロからエンターテイメントへの移行を画策しているようだ。

 

 マダムは魔界の中でも有数の力を持ち、地上では蛇神と崇められる事もあるナーガ族の有力者である。

 

 マダムの話では、ナーガ族は闘争の他にも音楽や踊りを大変好む種族らしい。

 

 インドをはじめとして、世界各国の蛇神信仰などで音楽と踊りを捧げられるのが見られるが、それもナーガ族の持つ個性に因るモノだそうな。

 

 で、マダムも地上の多様な音楽シーンに触れた事で魔界から出てきたクチだという。

 

 彼女の心を奪ったのは、言うまでも無く某キング・オブ・ポップである。

 

 そうして地上に足を踏み入れたマダムは、昔の伝手を頼りにエドウィン・ブラックと接触。

 

 ノマドに身を置く代わりに、朧から引き継ぐ形でカオスアリーナを経営する事となった。

 

 これだけ大規模な施設を任された事もあり、マダムは音楽やダンスの大規模興行を夢見ていたワケだが、現実はそう甘くはなかった。

 

 彼女が就任した当初のカオスアリーナは対魔忍や米連の兵士など、ノマドに敵対する女工作員を凌辱する為の処刑場だったからだ。

 

 当然マダムは抗議の声を上げたのだが、ノマドの構成員は血(なまぐさ)い事とエロが大好きな魔族が(ほとん)どである。

 

 彼女の声が聞き入れられる事も無く、カオスアリーナは旧態依然とした経営が続けられる事となった。

 

 しかし、マダムは自分の夢を諦めていたワケではなかった。

 

 それはエロ主体とはいえ以前は無かったハーフタイムショーを取り入れた事や、ブラックやイングリッドと仲が悪いナディア講師を自分の権限で呼び寄せた事からも分かる。

 

 そして以前に行ったスリラーを切っ掛けにして、アリーナの風向きも変わった。

 

 公演プログラムが、試合数が少し減った代わりにダンスやら歌やらといった万人向けの娯楽が増えつつあるのだ。

 

 ここに招待される観客は政財界の大物や成金が多い。

 

 そういった物には興味を示さないのではと思っていたのだが、こちらの予想に反して反響は大きくなっている。

 

 客のコメントを確認しているスタッフが言うには、彼等はいいトコの坊ちゃん嬢ちゃんか、もしくは底辺からのし上がった成り上がり者が多く、その間である中流家庭の人間はほとんどいないらしい。

 

 なので底辺の人間はライブなんて行ったことは無いし、上の輩が呼び出されるのは品のいいオーケストラやオペラばかり。

 

 ポップやロックなどはテレビやステレオで耳にする事はあっても、所謂ライブで体験するという機会は無かったらしい。

 

 まあ、ああいう風に周りの観客と同調して騒ぐってのは楽しいからな。

 

 歳が中年や初老だろうと、ハマるのはおかしい事じゃない。

 

 我が雇い主殿はこの流れに乗る事で、カオスアリーナに一大改革を巻き起こすつもりらしい。

 

 エロやゴアのコンテンツを完全排除するわけではないが、その比重をエンターテイメントに大きく傾ける事を狙っているのだ。

 

 剣闘士の試合に過去の戦役などを模したストーリー性を組み込む事や、要所要所に音楽や歌を流して演出を盛り上げているのも、その為の手段なのだろう。

 

 数日前のハーフタイムショーでは、彼女自らがノリノリでブルゾンちえみのネタをブチかます辺り、その本気度が垣間見えるというものだ。

 

 というか、あれって芸人だからギャグになるんであって、マダムのような美女がやったら全く別物になっていた。

 

 ネタを文字通り一つの芸能に引き上げたマダムと振り付けのナディア講師には脱帽である。

 

 さて、そんな追い風に乗る中で本日マダムが新たな演目を提示した。

 

 それはマイケル・ジャクソンの名曲『Bad』、しかもプロモ完全再現と来た。

 

 マイコー好きっすね、マダム。

 

 ショービジネスの成功によって剣闘士の中から20名ほどがダンサーとして引き抜かれているのだが、プロモーションビデオを見た者全員が表情を引きつらせる事になった。

 

 何故なら、以前のスリラーより難易度が格段に上なのだ。

 

 マイケルの動きもそうだが、周りにいるバックダンサー達がヤバい。

 

 動きも振り付けかアドリブなのか分からない動きが多く、結構な人数がソロでスポットが当たる場面がある。

 

 引き抜かれた剣闘士達はバックダンサーを務めるのが殆どなので、これには掛かる重圧も一入だ。

 

 カオスアリーナの大観衆を前に踊るのに慣れ始めた面々も怖気づいて閉口する中、一人だけ目を輝かせている人がいた。

 

 我らが師であるナディア講師である。

 

『さすがはマダム、いい演目ですね! これをみんなで綺麗に踊り切れたら、きっとすごく気持ちがいいですよ!!』

 

 そう言っていつもと同じように穏やかな笑みを浮かべるナディア講師。

 

 しかし、俺達は見てしまった。

 

 その青い瞳の奥に燃え盛る『やる気』という名の炎を。

 

 どうやら、今回もナディア講師と地獄に付き合う必要があるようだ。

 

 まあ、借金も残る残高は200万少々。

 

 完済まであと一歩なのだから、有終の美を飾るという意味でもバッチリ決めようじゃないか。

 

 

☆月●◎日

 

 

 権左兄ィと静子さんの結婚が決まった。

 

 骸佐の補佐として何だかんだと飛び回っていた兄ィと、看護師として米田のじっちゃんの診療所で働いていた静子さんである。

 

 互いの忙しさから一時期は破局説まで流れたカップルだが、この度正式にゴールインすると聞いて本当にホッとした。

 

 二車の家でも執事が結婚するという事で、祝いの宴はかなりのお祭り騒ぎだった。

 

 俺の幼馴染の一人である金崎銃兵衛は、色々と権左兄ィに可愛がってもらっている絡みもあってか、祝いの席で男泣きをして本人を困らせていた。

 

 ジョジョの第五部に感化されてギャングスタ―を自称するなどアレな部分もあるが、基本的に情に厚い愛すべき馬鹿である。

 

 主流派から独立してもそれなりに厄介事続きだった中での朗報に、これ幸いとザルのように飲みまくる大人連中。

 

 特に甚内殿は少し前の凛花のやらかしもあってか、他の八将の面々に愚痴を吐きまくっていた。

 

 あの状況ではあれ以上の落としどころは無いと思うのだが、それでも針の筵に娘を置く事になれば親として忸怩たる思いなのだろう。

 

 愚痴の百や二百、笑って流してやろうじゃないか。

 

 さて、俺はというと骸佐に権左兄ィの今後の勤務形態についての相談を受けていた。

 

 結婚となればプライベートが多忙になるのは、対魔忍と言えど変わりはない。

 

 式や披露宴の準備に新婚旅行に新居の手配など、嫁さんも大変だろうが旦那側だって大わらわとなる事は目に見えている。

 

 個人的には新婚旅行も含めて4か月くらいは休ませてやってもいいと思うのだが、流石にこれは常識的ではない。

 

 何だかんだと議論した結果、式の一月前までは勤務してもらって、そこからは特休にするという形に落ち着いた。

 

 勤務に出ている間も兄ィの都合に合わせるように心掛けるらしいし、余程の事がない限り式への影響は出ないだろう。

 

 宴の最後にご両人は俺に深々と頭を下げてきた。

 

 自分達がこうして結ばれたのは、俺のお陰だとのこと。

 

 愛のキューピッド役をした覚えは無いが、そう思ってもらえるのは光栄な事である。

 

 なので、二人が幸せな家庭を築く事が最大の恩返しになると言葉を返しておいた。

 

 さて、前途ある二人の為にも式までに清い身体になる必要がある。

 

 まずは『Bad』を極める事から頑張ってみようか。

 

 ほら、披露宴での一発芸にもなるし。

 

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