剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 お待たせしました、29冊目の完成です。

 枯渇が激しいネタを何とか絞り出す日々。

 RPGのシナリオが面白いので、乗っかる形になるのは仕方がないか。

 けど、拙作は時系列的に1年前なんだなぁ……。

 なんとか統合性を図っていきたいところであります。


日記29冊目

☆月●△日

 

 このところ、剣闘士・ダンサー・対魔忍と多忙につきお疲れのふうま小太郎です。

 

 次の一大ハーフタイム演目である『Bad』の練習が始まった。

 

 難易度爆高のPV再現とあってダンスの練度にはじまり、他の面々のアドリブの間や距離の取り方等々、目の前には課題が山積している。 

 

 始めて数日なので当たり前と言えば当たり前なんだが、その穴を埋めていく為の訓練は過酷そのものである。

 

 ナディア講師曰く、今回のレッスンは4つの段階に分かれているそうだ。

 

 まずは全員で合わせるメインのダンスを完熟させる。

 

 次に間奏のバックダンサー各自のソロパート。

 

 それが上手くいけば、プロモーションビデオで確認できなかったところを補完するための振り付けの習得。

 

 最後にアドリブ部分を含めて全員で合わせる。

 

 ぶっちゃけ気が遠くなりそうな行程だが、やると決めた以上は弱音など吐いていられない。

 

 というか、ナディア講師がガチすぎて吐く余裕すらない。

 

 あの人、初日から今まで振り付けを体で覚えるという名目で、なんと魔力でこちらの身体を操って踊らせているのだ。

 

 マダムから講師が魔界の支配階級に位置する存在だと聞いてはいたが、20人以上の人間を操ってあの激しいダンスを踊らせるとは恐れ入った。

 

 悪意を感じなかったし彼女を信用していたので抵抗せずに術にかかってみたのだが、正直言って解除できる気がしない。

 

 相手は踊り子だけあってか、人体の掌握が滅茶苦茶うまいのだ。

 

 指先どころか血管の一本一本まで魔力を通されるので、術にかかってしまえばまともな手を打つ暇を与えてもらえない。

 

 まあ『意』を殺すなんてマネは出来ていないので実戦ではそうそう絡め捕られる事はないだろうが、何にせよ魔界の支配階層の実力の一端を見たような気がする。

 

 訓練を見学していたマダムが拍手を送っていたあたり、講師に合わせて全員が一糸乱れる事無く同じ振り付けをするのは、傍から見れば圧巻なのだろう。

 

 しかし、強制的に踊らされているこちらとしては堪ったモノじゃない。

 

 自分の意思以外で身体を動かすというのは思った以上に負荷が掛かるらしく、参加メンバーは漏れなく全身筋肉痛地獄行きと相成った。

 

 本来ならばこの時点でインターバルを挟まねばならないところなのだが、ここからがナディア講師の恐ろしいところである。

 

 なんとヒーリング効果のある踊りで俺達を回復させ、レッスンを続行するという暴挙に出たのだ。

 

『今回の演目は全員の息が合わないと成功しません。だから、レッスンも三倍厳しくいきますよ』

 

 穏やかな笑みと共に告げられたこの一言に戦慄を憶える俺達。

 

 他のメンバーは剣闘士からダンサーに転向したからいいモノの、兼業の俺は試合があるのだ。

 

 その辺を考慮してほしいと切実に思う。

 

 まあ、これだけのスパルタ指導にみんなが不満を唱えずについて行くのは、今回の事にナディア講師が本気になっているのを理解しているからだろう。

 

 俺も試合の合間に、講師がプロモを見ながらステップの確認をしていたのを見た事がある。

 

 教える側があれだけ努力をしてくれているのだから、それに応えないのでは義に欠ける。

 

 こっちも色々と大変だがベストは尽くそうと思う。

 

 

☆月●□日

 

 

 予想外の事態に巻き込まれた。

 

 なんと、再び若アサギの世界に足を踏み入れてしまったのだ。

 

 事の始まりは上原学長からの依頼だった。

 

 内容はここ最近、東京各所で多発していた行方不明事件の調査。

 

 発生当初は警察の管轄だったのだが、鑑識に同行した退魔師が現場の各所で微量の魔力を発見した。

 

 それにより本件は超常的存在による『神隠し』の可能性もあるとして、捜査依頼が宮内庁経由で学長に届いたというワケだ。

 

 本来なら八将の面々から『ホイホイ現場に出んな、ボケ!』と釘を刺されている俺が出るのは好ましくない。

 

 しかし上原から降りてくる退魔関係の仕事やヴラド国への移籍準備などもあって、ウチは現在人員フル稼働中。

 

 手隙の者がいないのであれば、頭領だろうと働くのは道理である。

 

 そう決断した俺は書類と格闘していた天音姉ちゃんに一声掛けて、同じく暇をしていた若アサギと共に調査へ乗り出した。

 

 事前に受け取っていた警察の捜査資料を基に現場を回っていたところ、現場の一つで妙な魔力溜まりがあるのが目に入った。

 

 その魔力は普段感じるモノとは異質なうえに空間へと作用しているらしく、発見した時には景色が歪んで見えるほどに影響が出ていた。

 

 これは一度専門家の見解を得るべきかと考えていると、『妙な魔力ね。とっとと片づけてしまいましょう』とアサギが件の魔力だまりに突撃をかけてしまったのだ。

 

 あっと思った時にはもう遅い。

 

 ナニカに吸い込まれるような感覚のあと、目を開ければ周りの景色は一変していた。

 

 首都によくあるビルに挟まれた裏路地から見慣れた五車学園へ。

 

 突然の事に理解が追い付かない俺達だったが、遠方から高速で近づいてくる気配を感じた事で即座に意識を切り替えることになった。

 

 幻術か、それとも空間転移か。

 

 なんにせよ、何者かの術に嵌ったのは間違いないのだ。

 

 こちらに向かってくる輩も味方ではあるまい。

 

 なんて思っていたのだが、この考えはあっさりと覆される事となった。

 

 何故なら『お姉ちゃ~~~ん!!』と声を上げながら駆けてきたのは、井河さくらだったからだ。

 

 もっとも、彼女は俺の知っている人物とは少々趣が違った。

 

 ここまで来ればわかるだろうが、やはり若いのである。

 

 俺の知っているさくらは20台後半だったが、勢いそのままにアサギに飛び付いた彼女は十代半ば。

 

 アサギの胸に顔を埋めながら、『お正月に里帰りしたまま、居なくなったから心配した』と泣き声で訴えるさくら。

 

 それによって自分の世界に帰ってきた事を悟ったアサギは『ギャアアアアアアァァァァァァァッ!!』と絶望の声を上げた。

 

 それからは何と言うか……本当に酷かった。

 

 さくらを振り払うと、嗚咽とショックでまともな言葉が出ないのか、要領の得ない声と共に襟首を掴んで俺をガックンガックンと揺らしてくるアサギ。

 

 そのテンパりっぷりは銀零の見ていたアニメに出て来る水の駄女神を彷彿とさせるものだった。

 

 とはいえ、『目は口程に物を言う』とはよく言ったもの。

 

 輝きを失ったその瞳からは、彼女の意図するところは痛いほどに伝わった。

 

 アサギがこちらに発信していたメッセージは一つ。

 

 『ここに置いていくな、むこうの世界に連れて帰れ』である。

 

 ここが俺達の世界の過去だった場合、アサギには超絶過酷な運命が待っている。

 

 以前語ったように俺の世界で別人として骨を埋めるつもりだった彼女にしてみれば、この偶然は悪夢以外の何物でもないだろう。

 

 結局、『私の初めてを捧げれば、肉体的な繋がりが出来て置いて行かれないかも!?』などとテンパったアサギが服を脱ぎだした所為で、連れ帰ることを確約させられてしまった。

 

 情けないなどと言うことなかれ。

 

 バッサバッサと服を脱ぎ捨てていた奴の目はマジだったのだ。

 

 あのまま拒否っていた場合、間違いなく真昼間の公道で妹の視線などモノともせずに事に及んでいただろう。

 

 俺だってそういった経験はないのだ、初めてでそんなマニアックなプレイなど御免被る。

 

 本当に襲い掛かられた場合はワリと本気で殺す気だったのだが、あのアマは現金な事に約束を取り付けたらあっと言う間に平静を取り戻しやがった。

 

 そんなアサギは自身の妹の方へ向き直ると、ニコリと笑いながらこう言った。

 

『さくら、私と一緒に別の世界に行きましょう』

 

 先ほどまでの錯乱っぷりからは想像もつかないような穏やかな笑みだったが、いきなりこんな事を言われても若さくらに理解できるワケが無い。

 

 頭上に?マークを5つほど浮かべた妹の姿を見た俺は、仕方がないので補足説明を行った。

 

 結果は当然『信じられん』という答えである。

 

 さくらの反応は当たり前っちゃあ当たり前なんだが、だからと言って人生崖っぷちなアサギが引き下がるワケがない。

 

 彼女が調べた未来の自分の華麗なる経歴を、涙ながらに訴えるアサギ。

 

 ここまで取り乱す姉を見た事が無かったのだろう、徐々に困惑から真剣な表情へと変わっていくさくらへ向けて、俺も再度援護射撃をする事に。

 

 千里眼で俺の携帯越しにあの様子を見ていた時子姉から言われて撮ったアサギの全裸土下座、そしてヨミハラ潜入後にブチかましてくれた全裸土下座三連星。

 

 さらには主流派の下忍が書き込んだネット掲示板で使われていた『井河"アヘ顔"アサギ』の蔑称まで。

 

 映像の力というのは凄いもので、見た瞬間に顔を真っ青にしたさくらは即座にアサギの提案を受け入れた。

 

 説得資料を目の当たりにしたアサギが絹を裂くような悲鳴と共に気を失ったのは、コラテラル・ダメージという事にしておこう。

 

 些細な悲劇から程なくアサギが目を覚ましたのだが、それからの彼女の活躍は本当に凄かった。

 

 奴の描く幸せ計画に於ける最大の問題であった妹の同意を得られた事もあってか、鬼神の如き気迫で俺達の世界へ帰る手がかりを探しまくったのだ。

 

『この世界は本当に危険なの! なんか敵組織にハメられてから、借金のカタに汚いおっさんに処女を奪われた挙げ句性奴隷にされて、さらには調教されながら背中に趣味の悪い彫り物を入れられる予感がするのよ!!』

 

 アサギ曰く気絶している間に見た予知夢なんだそうだが、具体的かつ対魔忍ならあり得る内容過ぎて笑いも出なかった。

 

 そんな感じで若い紫や本物の甲河朧、そして当時の五車学園校長であった山本長官まで。

 

 並み居る障害を蹴散らしながら駆け回ったのが功を奏し、俺達は神隠しの元凶を見つけ出すことが出来た。

 

 それはイカというかタコというか、そんな感じの頭部を持った謎のナマモノなのだが、奴は次元を操る事で異なる世界へと渡る術を持っていた。

 

 本人(?)曰く、人類とは隔絶した技術レベルを誇っている上位種族との事だが、ナチュラルにこちらを見下してくるあたり、礼節に付いてはその限りでは無いのだろう。

 

 当然ながら俺達は元の世界に返すよう要求を突き付けたわけだが、その際にイカ野郎は『何を言ってるのですか? 貴女達の世界はここでしょうに』と豪快にアサギの地雷を踏み抜いてしまった。

 

 全力全開の隼の術で加速し、化鳥のような叫び声をあげながらイカ野郎へと襲い掛かるアサギ。

 

 俺が止めるのが少しでも遅れていれば、被害者はいつもよりキレを増した刀脚によって刺身になっていた事だろう。

 

 その後、般若の如き形相で喉元へ脚を突き付けるアサギの脅迫に負けたイカ野郎は、ブチブチと小声で文句を言いながらも俺達の世界へのゲートを開いた。

 

 さて、ここで俺達の今回の任務を思い出してみよう。

 

 そう、神隠しの解決である。

 

 ならば、元凶たる奴をそのまま逃がす訳にはいかない。

 

 そういう事からゲートが閉じ始めたタイミングを見計らって、レイジングブルで頭と心臓をしっかりとブチ抜かせてもらった。

 

 あのイカ野郎、さらっと拉致した人間を人体実験に使ったとか抜かしてやがったからな。

 

 生かしておく理由など欠片も無いのである。

 

 こちらの世界の土を踏んだ瞬間、アサギは『勝った! 私は運命に勝ったのよッ!!』とゴールを決めた南米のサッカー選手を彷彿とさせるようなガッツポーズを取っていた。

 

 さらには父親の形見という忍者刀へ『お父様、私は幸せになる為に井河も対魔忍も捨てます。これも感度3000倍や母乳体質、さらには全裸土下座なんて未来を防ぐため。ここからの不幸はこの世界のアサギがデコイとなって引き受けてくれるでしょうから、どうか安心してください……』と涙ながらに語り掛ける始末。

 

 さらりと未来の自分を生贄に捧げているあたり、奴の業の深さが伺えるというモノだ。

 

 また『お姉ちゃん、おいたわしい……』と涙を拭っていたさくらの姿が哀愁を誘う。

 

 ま、あれだ。

 

 井河アサギという女は、本人はおろかクローンにまでアレな不幸が付きまとっていた。

 

 ならば、一人ぐらいは清い身体で嫁に行っても罰は当たらんのではないだろうか。

 

 とりあえず、さくらの生活費はお前さん持ちだからな。

 

 

☆月●☆日

 

 

 今日は災禍姉さんにアシストを頼んで、色々と関係書類を片付けた。

 

 移籍するという事で過去から現在にかけてのふうま衆の名簿を確認してみたのだが、弾正の敗北から独立までの間に結構な人数が『抜け』てしまっている。

 

 本来なら機密保持などの観点から追っ手を差し向けるのだが、当時のふうまにそんな余力などあるワケが無い。

 

 結果として、ふうま由来の抜け忍達は主流派・米連・東京キングダムなどの裏社会等、人間社会の暗部へと消えていく事となった。

 

 現在行方が確認できている中で、最も大きな勢力は八将の一つである葉隠を中心とした一団だろう。

 

 先代が弾正と共に討ち死にした後、当主となった娘さんはアサギとは和睦。

 

 その後は五車に属さず、小さな町の裏社会を支配し独立しているそうだが、こちらとしてはそれを責める権利はない。

 

 時流を読むこともできず、己が権利を護る為に彼等を死地に送り込んだのはクソ親父を始めとする宗家なのだ。

 

 そんな俺達が、どうして新たな道を見出した彼らを糾弾できるだろうか。

 

 独立勢力となった彼等がどう動こうと、こっちに文句を言う権利はない。

 

 しかし、元ふうま衆である以上は、その行動が面倒ごとの火種になる可能性は十分にある。

 

 とりあえず、アサギと学長には現状の抜け忍リストを送っておく事にしよう。

 

 いやはや、今回の仕事のサポートを災禍姉さんにして本当に正解だった。

 

 これが天音姉ちゃんだったら、リストをコピッて秘密裏に抜け忍達を抹殺して回ってもおかしくないもんな。

 

 

☆月●△日

 

 

 またしても身の廻りがキナ臭くなってきた。

 

 今日は上原学長の護衛として宮内庁へと登庁してきたのだが、そこである人物と出会うことになった。

 

 その人物の名は峰船子。

 

 内閣情報調査局の人間で相当なやり手だという。

 

 見た目三十代の妖艶な女性だが、一説によれば30年前に起きた台湾危機の際に、陸軍士官として司令部にいたとも言われる怪人物だ。

 

 彼女が振ってきたのは庁舎で銀零が暴れた事件についてだった。

 

 表向きは所属不明のパワードスーツによるテロ未遂となっているとはいえ、笑顔を浮かべながら堂々と白を切っていた学長も相当に面の皮が厚い。

 

 どうも峰という女は白金についての情報を欲していたようで、撃墜された際の残骸の行方についても探りを入れて来ていた。

 

 例のブツに関しては上原の研究チームの調査によって人間の霊魂、もしくはそれに類する精神体を憑依させる事が可能な事が判明している。

 

 瑞麗との関係性をボカした俺の証言も相まって、宮内庁霊安課認定の一級呪具として隼人学園の地下倉庫に封印処理されているのだ。

 

 噂では米連の後を追いかける形で、日本の自衛軍でもパワードスーツやサイボーグについての研究が始まっているらしい。

 

 例の事件で発生しかけたマイクロブラックホールの影響を奴等も把握していないはずがない。

 

 ならば原因と思われる白金は、パワードスーツ開発を行っている軍部からしてみれば喉から手が出るほどのお宝だろう。

 

 事が今後の国防を大きく左右すると考えれば、所在を探るために内調が動いても不思議ではない。

 

 とはいえ、国内の霊的事件を担当する宮内庁からしてみれば、霊魂が憑依可能な代物など軍へ渡せるわけがない。

 

 オカルトの素人である彼等が弄繰り回した結果、重力を操るリビングアーマーなどが生まれては目も当てられないからだ。

 

 結局、学長が口を割る事は無いままに話は終わり、峰はため息を残しながら宮内庁を後にした。

 

 ちなみに峰は俺が白金を撃破した事を掴んでいたようで、こちらも何度か水を向けられた。

 

 しかし、今日の俺はただの護衛A。

 

 オーナーの許可なく発言などできるはずもなく、全て沈黙で通しておいた。

 

 ここまでは不穏な空気ながら何事も無く進んでいたのだが、問題は帰路に起きた。

 

 なんと武装した兵隊に襲われたのだ。

 

 こちらを襲撃した一団は二十人程度と数は少なかったものの、その練度はかなりの物。

 

 とはいえ、奴等は対魔忍のような超人やサイボーグではない。

 

 『意』を察知した事で学長と運転手を連れて車内から脱出した俺は、防衛を学長の張った対物結界に任せて早急に襲撃者の無力化を行った。

 

 襲撃者は一人を除いて全員死亡。

 

 あえて生き残らせた隊員から情報を搾り取ったところ、奴等は海兵自衛軍の神田大佐率いる『神田旅団』であることが判明した。

 

 『神田旅団』の悪名は裏社会にいれば、誰しも一度は聞く代物だ。

 

 日本の領土内にある島が外国勢力に占拠された際、その島を奪還するために創設された海兵自衛軍の中でも異質の部隊。

 

 同時に時の首相が直接指揮をする独立部隊であり、傭兵集団としての顔も持つ。

 

 戦時中は主に非合法活動に従事し、情報工作や要人暗殺などの後方攪乱で暗躍。

  

 奴等はその無法者っぷりから他の自衛軍からも恐れられており、非戦闘員の虐殺から略奪、婦女暴行などの数々の戦争犯罪の疑惑が掛けられている。

 

 もっとも、それも奴らの優秀さと使い勝手の良さから、時の権力者たちが揉み消していたようだが。

 

 現在では事実上の幽閉といった形で北方の孤島に配置されていると聞いていたが、今回の件を見るに政府の老人共が私欲を満たすためのコマとして使っているようだ。

 

 上原学長は退魔の名家であり、霊的国防の要の一つとして宮内庁でも高い地位を持つ。

 

 そんな彼女を襲撃するなら、切り捨てが可能なこいつ等のような愚連隊紛いが適役だったのだろう。

 

 とはいえ、いかに素行不良のならず者部隊であろうと、奴等が自衛軍に籍を置いている事は変わりない。

 

 この捕虜を宮内庁が押さえれば、政府の阿呆共の動きをけん制することもできる筈だ。

 

 カオスアリーナのバイトもあるのに、こういったトラブルは勘弁してほしいのだが……。

 

 いや、本業はこっちなんだから文句は言うまい。

 

 

 

 

☆月●●日

 

 

 昨夜、俺達が神田旅団に襲われているのと同時刻に、ふうまの官舎も井河派を名乗る対魔忍に襲撃されていた。

 

 幸い、骸佐を始めとする八将や主要な幹部がいたお蔭でふうま衆・宮内庁職員共に人的被害を出さずに済み、襲撃者も一名だが生かして捕らえることが出来た。

 

 人命を失わずに済んだのは不幸中の幸いだが、当然このままで済ますワケにはいかない。

 

 そう思って井河に連絡を取ったところ、なんとアサギが怒り心頭でこちらを責めてくるではないか。

 

 事情を聞いてみれば、五車の里もふうま衆を名乗る対魔忍に襲撃されたとの苦情が。

 

 さすがに同時期に襲撃を受けるのはおかしいと感じた俺達は、双方独自に調査を行う事で同意。

 

 責任云々については真実が明らかになってからという事で、一端話を切り上げた。

 

 この件が昨夜の神田旅団による襲撃と無関係とは考えにくい。

 

 国内にある二つの対魔忍勢力の不和を煽って得をする存在が現政府内にいると考えるべきだろう。

 

 目的は俺達の殲滅か、もしくは白金の残骸か。

 

 なんにしても早急に突き止めねばなるまい。

 

  


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