剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く 作:アキ山
資格試験の勉強とプライベートの多忙さでなかなか時間が取れなかったのですが、それもようやく落ち着いてまいりました。
外は35度を超える灼熱日ですが、これからペースを上げて執筆していきたいと思います。
余談:『魔』属性のピックアップを引いたら、サイボーグアサギが来た。
対魔忍RPGを始めてもうじき一年、ここまで紅が来ないとは……。
やはり一周年イベントに賭けるしかないか。
☆月●△日
予想外の面倒事に頭を悩ませるふうま小太郎です。
過日に起きた井河・ふうま双方への襲撃事件。
優秀な部下が捕らえた下手人から情報を絞り出した結果、奴等は井河から離脱した俗にいう抜け忍である事が判明した。
因みに捕虜は女だったが、某ノマドのような性的調教なんてやりません。
というか自白剤一発でゲロするのに、どうしてそんなメンドクサイ手を使わねばならんのか?
この業界にゲソを付けて十年以上になるが、奴等のエロ志向は今でも理解できん。
愚にもつかない疑問はさておき、今回の襲撃はクソ親父のやらかしで身内を失った者の報復だという。
女の話だと彼等は反乱鎮圧のあと故人の無念を晴らす為、ふうま衆の残党殲滅を上層部へ訴えていたらしい。
しかし、生き残ったふうま衆を井河の下に取り込む事を目論んでいた井河の老人会が彼等の訴えなど取り上げる訳がない。
結果、主流派に見切りをつけた被害者団体は抜け忍となり、ふうまへの恨みを晴らす為に裏社会に潜伏するようになった。
もっとも国家の諜報を担う組織となった対魔忍が脱走者を放置するワケもなく、彼等の大半は爺共の僕だった暗部を始めとした抜け忍狩りから身を護るのに精一杯。
とても当時の弱体化していたふうまへ牙を剥く余裕は無かったそうだ。
そうこうしている内に時が流れ、俺達が引き起こした老人会壊滅によって抜け忍狩りの追撃が緩んだのを切っ掛けに、奴等は再びふうま殲滅を掲げて力を蓄え始めた。
そして、今回悲願を果たさんと挙兵したという流れだそうな。
まあ、その結果は御覧の通り。
現ふうまの最大手である二車の面々がハッスルしたお陰で、抜け忍達はあっと言う間に殲滅されてしまったワケだ。
『僕は天才だぁ!!』が口癖の黒騎雫や、当代鬼蜘蛛三郎のタマちゃん(襲名前の名前は環という)とそのパートナーである大五郎。
ガキの頃、先代の爺様がこっそり護衛に付けていたのに気が付いて、老人会が送り込んだ刺客を餌に『大五郎ぉぉぉぉぉぉぉっ!』と呼ぶと『ち”ゃ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ん”!!』と返すように芸を仕込んだのは秘密である。
あとはやられ役っぽい見た目とは裏腹に、隠れ身の術『無形秘擬』によって水以外の無機物と一体化する汎用性が売りの矢車弥右衛門のおっさん。
年の功と邪眼が光って、某神話のディープ・ワンを量産しまくった八百比丘尼さん等々。
結婚準備で執事である権左兄が不在にも関わらず、これだけの成果を上げた彼等には惜しみない称賛を与えたい。
雫で思い出したのだが、骸佐からの報告では自信過剰なお子ちゃまであるあの坊やは、今回の襲撃に際して予想通りに暴走の兆候を見せたらしい。
居合わせた同僚の証言では『僕がアサギの首を獲ってくるよ』などと宣っていたとか。
もっとも、これは骸佐が事前に打っていた策によって未然に防がれる事になったのだが。
その策とはこちらの意に従わずに勝手な行動を取った場合、名前が『アミバ』になる呪いを掛けるというモノ。
しかもそれを施した術師はあのノイ婆ちゃん、現世の魔術師ではまず解呪は不可能な代物だ。
しかし改名すれば『黒騎アミバ』か。
骸佐のヤツ、俺の知らぬ間に非情さを身に着けていたらしい。
奴がその身にオーラを纏うのも遠くないのかもしれない。
さて、頼りになる配下の尽力で井河の無実が証明されたのだが、肝心のウチへの疑いは晴れていないのが現状だ。
主流派に乗り込んだ自称ふうま忍は返り討ちに遭った際に全滅しており、アサギ達は情報は掴めずじまいだったそうな。
それならばと以前に送った抜け忍リストに該当する死体は無かったかと聞いたところ、口元を引きつらせたアサギからは刺客の死体は損壊が酷くて顔の判別が付かないとの答えが。
忍者の第一義は情報収集で戦闘集団としての顔は二の次だと思っていたのだが、どうやら主流派はそうではないらしい。
そんなワケなので、俺達は疑いを自らの手で晴らねばならなくなってしまった。
上手く情報を引き出したこっちが骨を折る事になるのは理不尽極まりないが、文句を言っていても事態は解決しない。
取り合えず抜け忍の最大手である葉隠辺りから当ってみるとするか。
☆月●□日
今日は紅姉に骸佐を引き連れて街へ繰り出した。
目指すは元八将の葉隠家……ではなく、東京の六本木である。
理由は二人に公的な場で使用する為の正装を買おうと思ったからだ。
中学を卒業すれば、俺はもちろん骸佐も一門の顔として公的な場に出る機会は増えるのは間違いない。
その時に学校の制服では舐められるし、全身タイツモドキな対魔スーツなど以ての外だ。
俺だって余所行き用の背広を持ってるのだから、右腕である兄弟だって必要だろう。
過日の襲撃の被害を最小限に抑えた指揮っぷりの褒美を兼ねて、プレゼントしようと思ったのだ。
紅姉に関しては宗家付きの秘書見習いをやってくれるという事で、その分の先行投資である。
この話を持ってきたのは心願寺の爺様なのだが、『嫁になる身としては、早めに相手先の事情を知っておいた方が良いじゃろう』なんて戯言は兎も角としても、申し出自体は理にかなっている。
ふうまの中枢に携わっていた人材を宙ぶらりんにしておくのは勿体ないし、ヴラド国への移籍が近づくに連れて忙しさが増している災禍姉さんにもフォロー必須となっている。
なにせウチは機密やら何やらの絡みの所為で増員を掛けるのが容易ではない。
なので、この話はまさに渡りに船。
普段は露骨に紅姉と俺をくっ付けようとするウザい爺様も、この時ばかりは思わず拝んでしまったほどだ。
遠慮する二人を半ば強引に店員さんに預けた結果、再び現れた二人の姿はまさに見違えたと言っていいモノだった。
ビジネススーツに身を包んで眼帯を取った骸佐は、いつものワイルドさの代わりに理知的な雰囲気を纏っていた。
まあ、目付きの悪さは相変わらずなので見ようによってはマフィアに見えなくも無いが、普段のヤンキー丸出しに比べれば全然マシである。
一方の紅姉はツインテールを解いて髪を降ろした事もあってか、普段よりも大人びて見えた。
これなら同業者はもちろん、クライアントの前に出ても礼を失することはないだろう。
代金を一括で支払って店を出た後、街を散策していた俺達はそこで思わぬ人物と鉢合わせる事となった。
それは公安第三セクションの責任者にして主流派の元締めである山本長官だった。
ふれあい喫茶で子猫に囲まれて厳つい顔を緩ませている姿を見た時は見間違いかと思ったのだが、残念な事にそんな事は無かった。
当人がお楽しみタイムである事に加え、主流派のケツを持っている公安からしてみれば俺達は完全な裏切り者。
関わってもデメリットしかないのでシカトしようと思ったが、生憎とむこうから大声で呼ばれてしまってはそれも叶わない。
あれよあれよという間に猫喫茶でおっさんとお茶というアレなシチュエーションに巻き込まれてしまったのだが、人の悪い笑みを浮かべた山本がこちらに告げたのは今一番欲しい情報だった。
そう、主流派を襲った自称ふうま衆の正体である。
奴がどうやってそれに辿り着いたかと言えば、タネはアサギが判別不可能と判断した襲撃者の遺体だった。
五車の里襲撃の一報を受けた山本は、下忍達が処理する前に襲撃者達の遺体を回収。
非公式に法医解剖やDNA検査などに掛け、奴等の正体を真実を白日の下へ晒すことに成功したのだ。
この国の医療団体とも手を組み、捜査資料として国民の個人情報を始めとする膨大なデータバンクを持つ警察ならではの一手。
イリーガルな組織である対魔忍では決して真似できない方法だ。
そうした調査の結果、DNA情報の一致によって襲撃者はリストに載っていたふうまの抜け忍である事が判明した。
何故ふうま衆が御上にDNA情報なんて掴まれているかというと、原因は弾正にある。
以前にも書いたが、奴の代のふうまは世紀末モヒカン一歩手前の無法集団だった。
米連や中華連合とパイプを持ち、自分の利になると踏めば何者の依頼だろうと請け負う人外の力を持った諜報組織。
そんな輩が公安からマークされないワケがない。
結果、ふうま一門の情報は合法非合法問わずあらゆる手を尽くして取られており、今回照合に使われたDNA情報もそうやって集められた一部だそうな。
因みに情報を握られているのは今のふうま衆も例外ではなく、俺達の世代に関しては産婦人科や小児科に圧力を掛けて集めたのだと言う。
それを聞いた時は三人揃ってドン引きしたのだが、山本は意に介すること無く膝の上にいる子猫の頭を撫でながら『これが国家というものだ』と言い切りやがった。
さすがは程度の差はあれ、ならず者集団だった対魔忍を統合しようなんて考える男。
その清濁併せ飲む懐の深さは、俺でも叶わないかもしれん。
この情報は俺達と出会う30分前にアサギへと伝えられているそうなので、井河から向けられた疑いも晴れていることだろう。
なお、照合が完了した遺体の身元が記された書類を見せてもらったのだが、そこに記載されていたのは弾正の反乱の生き残りやその遺族だった。
あの事件から約十年。
こうして互いに遺恨が残っている事実を見せつけられると、俺が考えている主流派との協力体制がいかに難しいかが分かってしまう。
最後に山本は今回の件に内調が噛んでいる可能性を示唆していた。
正式な国家の諜報機関である内調にとって、現政権のコントロール下に無い諜報組織である対魔忍はやはり目障りな存在であるらしい。
結成当初から内ゲバやら何やらと騒動に事欠かない上に、今年に入っては矢崎宗一のスキャンダルのすっぱ抜きや白金事件と、現政権に強い影響を及ぼす事件が立て続けに起きている。
政界の裏に潜む妖怪たちも流石に看過できなくなったのだろう。
今回の襲撃に関しては警告であるというのは山本と俺の共通見解だ。
本気で主流派とふうまの抗争を引き起こしたいなら、どちらかを先に襲撃し変装した抜け忍達を被害者側に紛れさせてアジテーターとした方が効率がいい。
遺恨が残る相手なのだ、内側からチョイと炙れば襲撃という種火は抗争という劫火へと変わる。
そうして一門の構成員がをそれを望むようになれば、俺やアサギとて止めるのは容易ではなくなる。
そのまま見過ごして戦争の引き金を引くか、力づくで止める代わりにトップとしての求心力を犠牲とするか。
どちらにしても俺達が多大な被害を被るのは想像に難くない。
今回そうしなかったのは、奴等も俺達の存在が諸外国や魔族への抑止に繋がってると認めているからだろう。
俺が出会った峰船子については山本もアサギと共に面通しをしていたらしく、山本の奴にして『大妖怪』と言わしめる曲者らしい。
あの女、やはりお近づきになるべきではないな。
こうして必要な情報を得た俺達は、新たな猫を抱いて至福の表情を浮かべている山本と別れた。
家に帰ってアサギに連絡を取ったところ、井河を始めとする主流派各員には今回の襲撃がふうまを騙る敵対勢力によるものと通達が済んでいるとの事。
これで今回の件は一応の終わりを見た事になるだろうが、残されている課題も少なくない。
一番の問題はやはり主流派との遺恨だろう。
こうも簡単に外部勢力に利用されるほどに不仲では、今後も多くの場面において双方の足を引っ張ることになるのは明白だ。
経緯が経緯なので如何ともし難いが、何とか解決策を見つけねばならない。
もしくは骸佐から提案があったように、主流派との関係は諦めてヴラド国に行ってからの日本への繋ぎを上原学長に変更するか、だ。
カーラ女王と学長が親友である事も踏まえると、こちらの方がメリットが大きいように思うが……。
それでも宮内庁や退魔師では介入できない案件も多々あるというネックを思えば、容易く決める事も戸惑われる。
難しい判断を迫られる案件だが、日本を出国するまでには決めねばなるまい。
☆月●◎日
勝手に期待して勝手に失望するなんてマネは好きではないのだが、今回ばかりは大目に見てほしい。
今日、甲河のマダムから協力依頼があったヤマを終えて帰ってきた。
依頼内容は中華連邦の隠れ蓑である犯罪組織『龍門』が作り出した生体兵器『馬超』の破壊。
この馬超とやら、マダムが依頼してくるだけあって前評判はなかなかの曲者であった。
なんとアサギのクローンにブラックの細胞を移植する事で戦闘力を飛躍的に高め、重力制御や再生能力まで付与しようという意欲作なのだ。
そんな『アサギとブラックが交じり合って最強に見える』みたいな珍生物がいると聞いては、俺としても黙って居る訳にはいかない。
主流派よりもよほど良い関係を構築できている甲河の主要メンバーにもしもの事があっては一大事。
マダム直々のご指名な上に本件にはアスカも参加するとあっては、俺も重い腰を上げざるを得ないだろう。
間違っても溜まってるストレス発散の為にヒャッハーしようとか、馬超を仮想アサギやブラックに見立てて鍛錬に利用しようなんて思っていないとも。
普段なら俺が現場に出る事に難色を示す八将も、井河との関係が拗れている現在、甲河との関係をより良いモノにするという題目があるので渋々ながら出撃を認めてくれた。
そんなワケで久々に現場へ出る事となったのだが、骸佐の奴もただでは転ばない。
なんと俺の助手として忠誠度マイナスな槇島あやめを起用したのだ。
これには俺も思わず舌打ちを漏らしてしまった。
他のメンツなら多少はっちゃけたところで『若様のお願い』で隠蔽する事が可能だが、口惜しい事にあの女にはそれが通じない。
むしろ、俺がやらかそうものなら嬉々として紅姉や他の八将にチクるだろう。
そうなれば、二車親子による説教からの缶詰コースは免れない。
バイト先のダンスも最終調整に入っているのだから、それだけは何としても避けねばならん。
因みに槇島は骸佐からの『もしもの時は命に代えても頭領を護れ』という命令に、死ぬほどイヤそうな顔をしていた。
相変わらず俺に対して塩対応な奴である。
さて、用意もそこそこに官舎を発った俺達はマダム達DSOの面々と合流して、仕事場である小さな島へと向かった。
むこうの掴んだ情報だとノマドの執拗な攻撃で壊滅寸前となった龍門は、枯渇しかかった活動資金を稼ぐ為に闇オークションで馬超を売りに出そうとしているらしい。
生体兵器を競売に出すとは、龍門の連中はアホなのだろうか?
奴等の侘しい懐事情など知った事ではないので本題に戻る。
任務の段取りとしては第一段階として槇島がホステスを装いオークション会場へ潜入。
島に張り巡らされているであろう警備機器を無力化し、それが終わるのを見計らって本隊である俺・マダム・アスカの三名が上陸する。
後はオークション会場地下に安置されているであろう馬超を倒し、島を脱出すればミッションコンプリートというワケだ。
出発前に紅姉から『くれぐれもあやめを頼む』と言われている手前、槇島を単独潜入させる事は心配だったが、幸いな事にさしたる問題も無く任務を達成。
お陰で俺達は悠々とオークション会場へ潜入する事が出来た。
しかし、順調な道行きはここまでだった。
俺達が馬超が安置されている地下施設に足を踏み入れたのは、薬漬けで眠らされていた奴さんが目を覚まして片っ端から警備兵を血祭りにあげている最中だったのだ。
当然馬超は俺達にも襲い掛かってきたのだが、ぶっちゃけ期待外れもいいとこだった。
俺が求めていたのはブラックの耐久性と重力制御を持ち、アサギの隼の術を使いこなす戦士だ。
断じて本能のままに暴れまわる野獣ではない。
強固な外骨格に意のままに動く触手、さらには重力波攻撃と見るべきところが無いワケでは無かったのだが、それも本物に比べれば格段に見劣りしてしまう。
というか、あれだけ『意』を剥き出しにして暴れられてはどんな攻撃だろうが怖くもなんともない。
今回の依頼を受ける際に結んだ契約からサシで闘う機会を得たのだが、ぶっちゃけ五分ほどで飽きてしまった。
そんなワケで、攻撃が当たらない事に業を煮やした奴が重力波を撃とうとした隙に首を刎ねて討伐完了。
肩透かし間が半端ないが、得るモノがあったとしたらブラック譲りの再生能力の因果を断つ練習が出来たことくらいか。
その後、アスカが超対魔粒子砲なるビームで死体を焼き払った事で後処理も抜かりなく済み、俺達は混乱する会場を後にした。
本件は甲河とのパイプを強固に出来たのは有意義といえば有意義だが、個人的には不完全燃焼な感じが否めない。
やっぱ、魚も強敵も養殖よりも天然物の方が価値があるんだなぁ。
◇
東京キングダム郊外に存在する米連の軍需産業『オレンジインダストリー』の東京支社。
その地下深くに米連・国防総省傘下の研究機関DSO(防衛科学研究室)の日本支部が存在する。
魔界の技術も組み込んだ最新鋭の機材に囲まれた室内で、日本支部長を務める仮面の対魔忍はアスカと共にある画像を検証していた。
それは先の任務に於いて生物兵器『馬超』をふうま小太郎が屠った瞬間だった。
「無念無想の一刀で切っ先の速度が音速を超える、か。……まったく、とんでもないわね」
アスカのサイボーグアームに取り付けられた記録装置によって保存された動画は、各種高感度センサーと連動している事から様々なデータが付与されている。
それらが示しているのは、小太郎の剣が音を置き去りにして相手の首を食いちぎったという事実だ。
「ふーん。あの時はコマ送りみたいに気が付いたら馬超の首と手が落ちてたんだけど、画像だとちゃんと剣を振ってるんだ」
「アスカ。それがどれだけ恐ろしい事か、ちゃんと理解しているのかしら?」
「わかってるわよ。小太郎がその気だったら、私が気付く事無く首を刎ねられるってことでしょ」
内容とは裏腹に、何処か他人事のように言葉を漏らすアスカ。
その反応に仮面の対魔忍は小さく息を付く。
マダムが考える小太郎の恐ろしさは、その隠密性だ。
熟練対魔忍をも超える気配遮断を身に着け、振るう刃は全てが殺気を感じさせない。
ふうまが井河の配下であった頃、彼は受け持った暗殺任務を100%成功させている。
その時のターゲットの中には、ノマドの幹部である有力魔族や大使館を訪れていた中華連邦の重鎮までいた。
十歳に満たない間ですらこれなのだから、今の小太郎がどれほどの腕になっているかは推して知るべしだ。
それに───
「彼、馬超を倒した時にたまたま再生能力が働かなかったって言ってたけど、本当だと思う?」
「まさか」
そう言って肩をすくめた後、アスカのいつもの陽気さは鳴りを潜め、その代わりに若き甲河忍軍の頭領としての顔が現れる。
「あの時、小太郎は首と一緒に発射寸前の重力波も斬ってた。本人からブラックに負けた事があるって言っていたし、あいつはそれからずっとリベンジの為の対策を練ってたのよ」
「再生能力と重力制御、エドウィン・ブラックが持つ最大の武器を断った剣こそがそれと言う訳ね」
「馬超の情報を聞いた時に一対一で戦わせろと条件を付けたのも、その試運転であると考えれば納得が行くわ」
「なら、例の件は決まりかしら」
「ええ。ブラック打倒の為、我々はふうまと協調体制を取る。朧さん、交渉関係はそっちに任せるからね」
「了解よ。まずは本国のお偉方から許可を取るとしましょうか」
あっさりと面倒事を丸投げするアスカに手をヒラヒラと振って答えながら、仮面の対魔忍はブリーフィングルームを後にする。
先ほどのアスカの決定は彼女にとってうれしい誤算であった。
小太郎とは意図的に親交を深めさせていたが、やはり最後はアサギや沢木浩介への情を優先して井河に肩入れすると思っていたのだ。
しかしこちらの予想とは裏腹に、アスカはそういうモノも含めて割り切る判断が出来るようになっていたらしい。
情の厚さは人としては美徳だが、組織の長は時にそれを切り捨てる事も必要になる。
こういったモノは口で言ってどうにかなるものではなく、積み重ねた経験から悟るしかないのだ。
己が主にして妹分の確かな成長を感じ、仮面の対魔忍は口元に笑みを浮かべた。