剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く 作:アキ山
なんとかバイトもクライマックスへ。
ここからは徐々にでも話を加速させられればいいな、と考えておる次第です。
あとはRPGの一周年イベントが楽しみといったところでしょうか。
三度目の正直なるか?
☆月●☆日
人に名前を付ける事の難しさを痛感しているふうま小太郎です。
過日、残酷極まりない運命からの脱退を宣言した異世界の井河姉妹。
本日、その一歩目となる新たな戸籍の用意が整ったと上原学長から連絡が入った。
『これで忌まわしい未来ともおさらばよ!』と涙を流して喜ぶ若アサギだが、書類に必要事項を記入する際にある問題が浮上することに。
そう、新たな戸籍に刻む名前が決まっていなかったのである。
俺としてはとっくに決まっているものと思っていたのだが、若さくら曰く新しい名前とテンションが上がり過ぎた結果、凝り過ぎて選べずじまいだったらしい。
さて、ポンポン偽名を名乗ったりノリで若アサギに魔鈴と付けている俺が言うのも何だが、人の名前というのはそうそう簡単には決まらないモノである。
日本では意味や漢字の画数等々で運勢が決まるとも言われており、一昔前では専門の
まあ、当人達が揃いも揃ってデンジャーなDQNネームを付けようとしていたのは、それ以前の問題だと思うが。
ラクシュミーとかセフィリアなんて言われた時は、骸佐と出勤していた権左兄ィの三人でクロ●ティ高校ネタ再びになってしまったじゃないか。
本人に任せるとセルフで一生もののトラウマを背負う事になると判断した俺は、ここで一肌脱ぐ事にした。
まずは元の名前が植物由来な事から『
どうも地獄モードな未来のお陰で、くノ一っぽい名前からは離れたいようだ。
アレな名前を付けようとしていたのも、それが起因しているらしい。
こんな話を聞いてもなお『
そういう事情ならばとアサギは今までの偽名である『魔鈴』、そしてさくらには『シャイナ』の名を提案したのだが、『シャイナ』に漢字を当てると珍走族のチーム名のようになった為に却下。
次に骸佐の挙げた『ナミ』と『ロビン』も元ネタが一発でバレるからとNG。
部屋にワン●ースを全巻揃えている骸佐は地味にヘコんでいた。
権左兄ィの出した『クリスティーヌ・剛田』に関しては、『ジャイ子のペンネームじゃねーか!!』とアサギからローキックを食らう始末。
というか、コイツ何気にマンガの知識が深いな。
そこからは皆して頭を悩ませる事になったのだが、『寄らば文殊の知恵』という言葉があるようにアホも5人集まれば妙案は浮かぶものである。
試行錯誤を重ねた結果、日が傾いてきた頃にようやく納得のいく名前が決定。
アサギは『
今まで社会の影に身を置いていた二人が、これからは日の当たる場所で生きていく。
そういった意味を込めて太陽に因んだ名を付けたのだが、改めて考えても悪くは無いと思っている。
なお、二人の苗字は何の変哲もない『佐藤』だったりする。
堅気となる為の最大の障害といえる顔に付いてだが、二人とも整形はせずに他人の空似で通すつもりらしい。
生まれてからずっと付き合ってきた顔だし、紛れも無く美人なので手を入れたくないという気持ちは分かるが、その考えは甘いのではなかろうか。
とはいえ、女性に整形を強制するのはこちらも
不安は拭えないが、こいつ等は静子さんと違って自衛するだけの腕前はあるのだ。
こちらは警告をしたのだし、それでもなお運命に巻き込まれたのならば彼女達の選択の結果ではないだろうか。
こっちの世界には『アサギ・クローン』という厄ネタが存在するのだから、考え直すのは今の内だぞ、夕陽よ。
☆月▽〇日
本日、米連のDSO日本支部並びに甲河から依頼があった。
内容にあってはノマド及びその首領であるエドウィン・ブラック討伐に上原率いる日本退魔師連合、吸血鬼ハンター協会、そしてふうま一党が協力体制をとるというモノだ。
この要請は極秘事項ではあるものの米連外務省からの正式なモノであり、さらには情報漏洩を防ぐ為に外交ルートを通さずに宮内庁、そして学長へ直接送られてきた。
矢崎のスキャンダルから傾いている現政権が信用できないのは分かるが、それにしても相当な強硬策である。
米連政府は現在、魔界勢力の排除派と共存派で真っ二つに割れている。
甲河が属するDSOは言うまでも無く排除派なのだが、同盟国であると同時に仮想敵国でもある日本に対してこういった手を打つのは、かなりのリスクを伴うだろう。
この件を聞いた際の会話だと宮内庁側としては慎重論が有力で、返答をしばらく保留にして彼等の動きと影響を見届る構えのようだ。
その反面、学長的には今すぐにでも手を結んで早期にブラックへ何らかの攻勢を仕掛けたい考えらしい。
会話の最後にブラックに勝てる自信はあるかと聞いてきたところを見るに、学長は俺達がブラド国に行く前にブラックを始末したいのだろう。
影の存在であるふうまを明記しているところを見るに、DSO側がウチの戦力に期待してるのは十分にわかる。
個人的には秘剣に開眼したとはいえ、あの化け物を相手取るのはもう少し時間が欲しいところだが。
ま、雇われの身である俺達には選択の自由なんてあってないようなモノだ。
学長がGOサインを出せば、従わざるを得ない。
ならば、来るべき時に被害を最小限に抑えるよう己を鍛えるしかあるまい。
予定は未定な案件はさて置いて、これとは別にアスカからLineであるお願い事をされた。
それは五車の里にいる沢木浩介君の様子を探ってほしいというものだった。
本人曰く、今まではちょくちょく里に忍び込んで彼の様子を探っていたのだが、最近起こった抜け忍による襲撃が原因で警備が強化された為に、それも
そういうこともあって、甲河よりも井河と繋がりがある俺に様子を探ってほしいと言ってきたワケだ。
アスカよ、現在我々は井河と冷戦っぽい状況なんだが、その辺は分かってますかコノヤロウ。
頼み方の軽さに反してかなりの無茶ぶりだが、唯一の若年頭領仲間の願いを
彼女が浩介君にぞっこんなのは参観イベントの様子を見れば明らかだ。
その辺を
そこで俺は鹿之助君を経由して達郎へ連絡を取る事にした。
奴と浩介君は五車学園で同学年だったはずだ。
現在は産休を取っているとはいえ、何らかの情報を持っている可能性は高い。
数か月ぶりの奴とのコンタクトは、『やあ……』という死の灰を浴びた直後のトキのように弱弱しい挨拶から始まった。
まずはジャブとして奥さん()の様子を尋ねたところ、幸いと言っていいのかは分からないが母子共に順調らしい。
こちらが奥さんと口にした瞬間、携帯越しに化鳥のような奇声が聞こえたような気がしたが、きっと空耳だろう。
その後、『日増しに膨らんでいく姉さんの腹に背徳感を感じる』とか『今の俺のムーヴメントは母乳だ』。
そして『ゆきかぜの事はもう忘れたとさ』なんて、聞いているだけで痛々しい達郎の愚痴に付き合う事しばし。
いい加減殺意が湧き始めたところで、俺は本題に移る事にした。
以前浩介君が『忍術に目覚めていない』と愚痴っていた事からもしやと思っていたが、やはり達郎は彼と交友があった。
達郎曰く、学園や里での浩介君の立場が決していいモノではなかったらしい。
兄の恭介の失態に加えて頭領であるアサギ、その妹であるさくらと家族として生活を送っている事へのやっかみ。
さらには15を迎えてもいっこうに忍術に目覚めない事への蔑視から、友人は似た境遇の達郎くらいしかいなかったそうだ。
本人にとっても現状の境遇がコンプレックスとなっているようで、達郎が休学する少し前に赴任してきた室井という校医によく相談していたらしい。
また忍術に目覚めた当初、達郎は浩介君にも『同じ効果があるかも』とエロシスターの所へ誘った事があった。
しかし、返ってきた答えは『俺の童貞はアサギさんで捨てるんだ!』と全力拒否だったそうな。
それからの会話を適当に合わせて通話を切った後、俺は思わず頭を抱えてしまった。
……最後の情報が地雷過ぎる。
浩介君や。
アサギは数日とはいえ君の兄貴の嫁だった女、即ち義姉なんだぞ。
それを狙ってるとか、お前さんは天国の兄貴に申し訳ないと思わんのか。
まあ、アサギの方は男遊びが激しいなんて噂が聞いたことが無いから、同居人の未成年者とそういう関係になるなんて不祥事は起こしてないと思うが……。
万が一、義理の弟を食っちゃいましたなんて事になったら協力姿勢を解消するぞ、俺は。
というか、これをアスカに報告するのはめっちゃキツいんだけど。
意中の少年が三十路過ぎの同居人、しかも自分の育ての親にぞっこんとか、立ち直れないんじゃなかろうか。
とはいえアスカが浩介君と距離を縮めようとすれば、この事実がいずれ露見するのは自明の理。
ならば、隠蔽するのは友人として不誠実だろう。
────アスカよ、辛い事実だが受け止めてほしい。
機会が許せば、やけ酒くらい付き合ってやるからな。
☆月▽◆日
久々にバイトの話をしよう。
公演日を目前に控え『BAD』の調整が最終段階を迎えた今日、カオスアリーナに想定外の客が現れた。
オーナー室を訪れたのは、ノマド側の朧。
正確に言えば破棄された甲河朧の身体を使用した人工魔族というべきか。
マダムが就任する前までここの支配人だった奴は、現在のエンターテイメントを前面に押し出した経営方針にいちゃもんを付けてきた。
曰く、カオスアリーナはエドウィン・ブラックに逆らう者の処刑場であり、こんな生温い見世物をする場所ではない、だとか。
たしかに間違いでは無いのだが、汚朧(仮面のマダムと区別する渾名。読んで字のごとく汚い朧の意)は一つ致命的な事を忘れている。
ここの所有者であるノマドは営利団体であるという事だ。
エドウィン・ブラックが隠れ蓑兼退屈しのぎで作ったものであろうと、企業である以上は利益を追求するのが基本原則だ。
だとすれば、女性虜囚の辱めのみのマンネリ化で客足を落とした汚朧より、エンターテインメント制の導入で集客率をアップさせたマダム。
発言権がどちらにあるかは明白である。
その事を理解しているマダムは、彼女と汚朧が支配人をしていた際の集客数や利益率の差をデータで提示したうえで、まっこうから汚朧の発言を撥ね退けた。
勿論、こんな事では汚朧は納得などしない。
しかし、実力行使に出ようにもマダムはブラックと五分の関係にある程に高位の魔族。
汚朧程度では勝ち目はない事に加え、護衛として配置された俺が不穏な気を感じた時点で奴の首筋に刃を当てている。
汚朧に出来たのは、捨て台詞を吐きながらオーナー室を後にするだけだった。
普通に仕事を熟したものの、正直言って護衛に抜擢されるとは露ほども思わなかった。
看板を張るようになったとはいえ、俺は所詮パートタイマーな剣闘士。
ノマドから正式にボディガードを派遣されている彼女が、そんな俺を傍に置く理由は無い。
まあ、今回乗り込んできたのがノマドの幹部な事を顧みて、身辺警護の人員が十全に動かない可能性を考慮したと言われれば納得だが。
部屋を離れる際に『これからも対VIP用の護衛、よろしくね』と声を掛けられたあたり、それなりに信用を得られたと考えるのは自惚れじゃないと思いたい。
ただ、彼女の黄金の瞳を見ているとバイトの期限が終わっても縁が切れないと感じるのは気のせいだろうか?
☆月▽◎日
『BAD』の初公演を明日に控える中、カオスアリーナにクレームを付けに来た汚朧が思わぬ反撃の手に打って出た。
なんと淫魔族との抗争に出張中のブラックさんへ、ここの現状をチクリやがったのだ。
興味のない事に関心の薄いあのおっさんなら『些事』の一言で片づけると思っていたのだが、今回に限っては何故か東京キングダムまで引き返して来やがった。
以前言われたとおりに俺も護衛としてオーナールームへ呼び出され、マダムの背後で直立不動の体勢のまま二人の話し合いを聞くハメとなった。
『カオスアリーナの本来の目的は以前に汚朧が口にした通りなので、そちらの方に力を注げ』というブラックに対して、マダムも『契約の時、大規模な損害を出さなければ好きに運営していいと貴方は言った。損どころか利益まで出しているのに文句を言うのはおかしい』と反論。
よもや反論されるとは思ってなかったブラックが目を丸くする中、アリーナの経営方針を巡る論争の幕が切って落とされた。
舌戦については『波に乗ってきた改革を邪魔されてたまるか』と武力衝突も辞さない覚悟のマダムに対して、ブラックの方は何というか……消極的に見えた。
奴の態度を見るに、『個人的にはどうでもいいが、立場上言わざるを得ない』といった感じか。
他にも色々と言い合っていたと思うのだが、如何せんあまり覚えていない。
それもこれもマダムのブラックに対する態度に、憤怒の形相で魔剣の鍔をチンチン鳴らしていたインなんとかさんを警戒していた所為だ。
なんやかんやと数時間に渡って話し合ったものの、予想通りというべきか交渉は決裂。
とはいえ、ブラックさんもマダムとガチンコで闘り合うのは嫌だったのだろう。
『改革を進めたいと言うのであれば、君の言うエンターテイメントの力を見せてもらおう』と切り出した。
ブラックの提示した条件は一つ。
次の出し物で自分を納得させてみろというものだった。
納得の基準については明言を避けているので想像の域を出ないが、恐らくは会場を沸かせる事とブラック自身を感動させる事。
どちらか一方ならまだ楽だが、この辺は楽観視しない方が利口だろう。
ブラック達が帰った後、マダムはダンサー達とナディア講師をトレーニングルームに招集し、演目の最終調整を行うよう檄を飛ばした。
思わぬ形で決戦の場となってしまったが、今までの苦労を最後で不意にしてしまっては格好が付かない。
ここで踊るのもこれがラストなのだ、バッチリ決めてブラックを泣かせてやろうじゃないか。
◇
夜の帳が東京キングダムに降り、色取り取りのスポットライトがカオスアリーナを闇に浮かび上がらせる。
本日も客席は満員御礼、客層は4:6で女性客が多いらしい。
係の人曰く、男女比で女性が勝るのはアリーナ創設以来初だそうな。
さて、そんな中控室にはマダムとナディア講師、そして俺はじめとする剣闘士ダンサー20名が集まっていた。
「本番10分前です!!」
スタッフの声が掛かると、各々寛いでいたダンサー達が一斉に立ち上がる。
「皆さん。貴方達は辛い練習を乗り切り、この短期間で考え得る限りまでダンスの完成度を高めました。ここまで来れば私に言う事はありません。この大舞台を楽しんできてください!!」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
ナディア講師の激励に、空気が震える程の音量で返事を返す俺達。
講師が一歩下がると、今度はマダムが俺達の前に出る。
「みんな、ここまでご苦労様。リハを見せてもらったけど、あれほど難しい演目をマスターしたのには本当に驚いたわ」
最初にねぎらいの言葉を掛けた後、一端言葉を切ったマダムはその視線を鋭いモノへと変える。
それはカオスアリーナの支配人ではなく、ナーガ族の戦士としての顔だろう。
「これから踊ってもらう曲、その表題となっている『BAD』という言葉はいい意味で使われているの。『悪』や『悪い』ではなく、『ヤバい』『イケてる』『カッコいい』といったところね。そして繰り返し見てもらったあのプロモーションビデオ、あれにもちゃんとストーリーがあるわ」
マダムの言葉に、ダンサーの何人かが意外そうに声を上げる。
まあ、俺等が見てた時はダンサーの動きを憶えるのに必死で、他の事にまで気を回す余裕は無かったもんな。
「貧民街出身ながら有名高校で特待生になり、正しい手段で故郷を変えようとしているマイケル・ジャクソンが扮する青年ダリル。帰郷した際、彼は3人の友人がホームレスの老人に狩りと称して暴力を振るおうとしているのを止める」
皆が口を噤む中、マダムは滑らかにプロモーションビデオで描かれた物語を紡いでいく。
「お楽しみを奪われた彼等はダリルに向けてこう詰め寄るの、『
彼女が語るストーリーに既視感を憶えたのは、きっと俺達だけじゃないはずだ。
故郷がカオスアリーナ、弱者を虐げる友人が今までここで行っていた凌辱劇、そしてダリルが俺達。
「これって、今の私達に似ていると思わない?」
なるほど、彼女がこの演目を選んだ理由がようやく理解できた。
「私達はこれまで必死になってこの場所を変えてきたわ。陰惨な女性への凌辱・拷問や殺戮劇から、誰しもが楽しめるエンターテイメントに」
血生臭い殺し合いに関しては未だ脱却しきれてないが、マダムはプログラムにダンスを差し込む事で徐々にだが剣闘や女性捕虜の見せしめを減らしていっている。
未だ道半ばでも、この台詞を吐く資格は十分にあるだろう。
「今日はそれを分かっていない輩が、大物気取りで高みの見物をしているはずよ。やる気のないオーナーとその腰巾着、そして頭の古い前支配人。彼等に見せつけてやりましょう、私達の思いを!」
「皆さん、時間です!」
オーナーの檄が終わるのを見計らったかのように、スタッフから開演の声が掛かる。
鬨の声を上げながら出口へ向かう俺達に、マダムは最後にこう言葉を投げかけた。
「
どう返すべきかは俺たち全員が分かっている。
答えはもちろん────
「「「「「「