剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 お待たせしました、新作投稿です。

 2019年もあと少し。

 プライベートが多忙になりつつありますが、今年中にあと一話は登校したいと思います。

 ええ、石250個ブチ込んで鹿之助も蛇子も来なかった怒りが私に力を与えてくれるでしょう!

 つーか、SR演出で出てきたのがアルカ・スティエルとかすり抜けにもほどがあるわ。


日記36冊目

▼月〇◇日

 

 どうもゾンビ・パラダイスから生還したふうま小太郎です。

 

 いやはや今回の任務は想定外のオンパレードだった。

 

 まずはマダムの依頼で回収しようとしていた特務機関『G』のBC兵器が暴発したのが一つ。

 

 で、その影響で東京キングダムのスラム街の住人が軒並みゾンビに化けたのが一つ。

 

 現地でたまたまブラックのおっさんと遭遇して、協力して事態収拾にあたったのが一つ。

 

 最後にアサギクローン(手足がサイボーグだった)とふうま亜希って遠縁の親戚に会ったのが一つ。

 

 こうまで不測の事態が重なるなんてことはそうそう無い。

 

 普段の任務なら撤退一択だ。

 

 それを踏ん張ったのは、報酬である特務機関『G』と弾正の情報が是非とも欲しかったからである。

 

 反乱時にくたばったのが奴のクローンなのか。

 

 それとも手紙の主がクローンで、奴の裏で糸を引いてる誰かがいるのか。

 

 その辺をハッキリさせておかないと、延々とイタチごっこを繰り返す羽目になる。

 

 ヴラド国に帝の命令、対魔忍間の確執や内調の暗躍と、今は色々ややこしい問題が多い。

 

 せめて身内事くらいは手早く片付けたいのだ。

 

 そんなワケで時におっさんとリベリオン式ガンカタごっこをしたり、放置されていたタンクローリーを使ってヒート・スナイプを再現したりしながらゾンビを蹴散らしていったワケだ。

 

 というか、ブラックのおっさんサブカルに無茶苦茶明るかった。

 

 本人曰く『私は面白い事に目が無くてね、人間の作る映像作品やゲームは常々楽しませてもらっているのだよ』とのこと。

 

 言われて思い出したけど、ノマドはかなりデカいアミューズメント部門持ってたわ。

 

 日本の『バ●ダイ・ナ●コ』を買収するとか一時期ニュースになったし。

 

 あれってCEOの趣味だったのね。

 

 あ、クローンアサギと亜希はシバキ倒して従えました。

 

 この時の俺は、ノマド関連で揉め事にならないようにおっさんの護衛の一人『ダークナイト』を名乗ってからな。

 

 身分を詐称しているとはいえ、どんな立場でも仕事は全力で取り組まねばなるまい 

 

 しかし、なんでこう対魔忍(クローンは違うけど)は頭の固い奴が多いのか?

 

 そりゃあ宿敵のおっさんがいたら襲い掛かりたくなるのは分かるけど、状況判断くらいはしっかりしようよ。

 

 物量比は軽く見積もっても数万対4だぞ?

 

 ここで揉めてタダでさえ少ない人手を減らしてどうすんだ。

 

 まったく、おっさんを利用して生き延びるくらいの柔軟さを見せれんもんかね。

 

 まあ、今回の二人は自分より強い奴には従うって野生動物みたいな習性を持ってたから大事にはならなかったけど、これが井河の石頭だったらと思うとゾッとするわ。

 

 さて、想定外の事態が少しあったもののこっから先の旅行きは順調だった。

 

 というか、おっさんがハッスルしすぎて俺はともかく後ろの二名は自衛以外に出番がなかったし。

 

 とりあえず言いたいのは、重力使いだからって『ディストリオン・ブレイク』なんて普通撃てないだろ。

 

 だいいち重力レンズはいいとしても、元のビームはどうやってんだよ?

 

 体液か?

 

 目から圧縮した体液をぶっ放してんのか!?

 

 こうなったら俺もバージルよろしく次元斬を極める必要があるかもしれん。

 

 そんなこんなでゾンビ映画さながらの光景を潜り抜ける事しばし。

 

 俺達は漸く『G』のラボに辿り着いた。

 

 こうも簡単に忍び込めたのはノマドが奴等の動向を逐一監視していたからなんだけどね。

 

 『仮にも君たちは諜報のプロだろう。ならば日々の些細な情報もおろそかにしてはいかんな』というおっさんの言葉のイタイことイタイこと。

 

 忍者組織の頭領としてぐうの音も出ませんでした、はい。

 

 アサギとアスカにも聞かせてやりたい金言を背に受けて中へ入ってみると、ラボには複数のでっぷり肥えたアメリカナイズな科学者達が職員を指揮していた。

 

 どうやら奴等はゾンビガスを意図的に散布して実践データを取っていたようだ。

 

 奴等も俺達はともかくブラックのおっさんが来るとは向こうも思っていなかったらしい。

 

 おっさんの姿を見た時は泡を喰っていたようだが、素早く感情を切り替えるあたり伊達に特務機関に勤めてはいないようだ。

 

 そうして奴が俺達にけしかけてきたのは何時ぞやの失敗兵器『馬超』であった。

 

『醜いな……なんだあれは?』

 

『アンタとアサギの子供だよ』

 

『そういうスキャンダラスなセリフはやめてくれないかね。楓が帰って来なくなったら、おじさん死んでしまう』

 

 量産していたようで馬超は三匹いたが所詮は再生怪人。

 

 こんな軽口を言い合いながら、あっという間に片づけてしまった。

 

 ちなみにオタクの嫁さんはウチに来てないので探しに来ないでね。

 

 その後は護衛を失ったスタッフや科学者たちが各自拳銃を向けてきたのだが、そんな素人に後れを取るほど俺は甘くない。

 

 情報を得るための必要最低限以外はヘッドショットで撃ち落し、施設の責任者らしき男が出した虎の子の人工魔族も、俺とおっさんが『Jackpоt』の掛け声で同時に弾丸を打ち込んで始末完了。

 

 こっちは内勁、むこうは重力波を込めた代物だったので食らった魔族はカケラも残りませんでした。

 

 その後は東京キングダムでおいたを働いた責任者はおっさんが引き取り、現物は確保できなかったものの俺は今回のゾンビガスのデータを回収した訳だ。

 

 あとは仮面のマダムとおっさんから来る特務機関『G』と弾正の情報を精査するだけだ。

 

 さて、鬼が出るか蛇が出るか……

 

▼月〇◎日

 

 

 ……疲れた。

 

 八将と天音姉ちゃん達に昨日のゾンビパラダイスの件を報告したんだが、危うく甲河へのクレームに発展しそうになった。

 

 たしかに俺とブラックのおっさんがサシで会ったのは拙いと思うけど、あれは偶然でマダム側に非は無いから。

 

 ホントはややこしくなるからおっさんと協力した事は隠そうと思ってたんだよ。

 

 でもさ、弾正の情報がノマドからも来るだろ。

 

 そうなったら何でってツッコまれるにきまってるからさ。

 

 そこで言い訳に苦心するくらいなら最初から言っとこうと思ったんだ。

 

 そしたらこの有様だよ!

 

 思ったんだが、俺と周りの認識って大分ズレてるんじゃないだろうか?

 

 俺個人の感想としてはブラックは魔族で吸血鬼だけどワリと話の分かる男だと思う。

 

 機転が利いてユーモアもあって、先を見越せば損を呑み込む度量もある。

 

 ぶっちゃけ、対魔忍に生まれてなかったら本気で仕えてたかもしれんわ。

 

 労働の対価も地位とか口先使って踏み倒したりしないしなっ!!

 

 まあ、こんな事は心願寺一家やアスカの前では絶対に言えんけどさ。

 

 甚内殿や周りの反応を見るに、噂や戦闘力からのイメージが先行しすぎてエドウィン・ブラック個人まで意識が行っていないって感じだ。

 

 敵の人となりなど知る必要はないってよく言われるが、そいつが通用するのは現場責任者までなんだよ。

 

 集団を纏める立場になったなら敵対勢力を率いているのはどういう人物かは、むしろ積極的に知らねばならん。

 

 でないと交渉一つ、まともにできなくなるし。

 

 これが頭領になって若様が学んだ一番の事でございます。

 

 と言っても現場でヒャッハーするのは止める気ないけどね。

 

 

▼月〇☆日

 

 今日はノイ婆ちゃんの鍛錬の日だったのでアミダハラに行ってきた。

 

 なんか途中でアミダハラ監獄に贈られる虜囚が野盗に襲われてたので助けたんだが、その中に明らかに犯罪者らしくない女性がいた。

 

 彼女の名はナドラ。

 

 魔界の貴族令嬢だったのだが、力の流れに干渉する魔眼の所為で一族を追われる事になったそうな。

 

 そこで命からがら逃げてきたところを難癖をつけられて拘束、アミダハラにある虜囚監獄へと送られる事になったと。

 

 もっともコイツはフェイクであり、野盗の生き残りから聞いた話では彼女を捕まえた官吏は野盗とグルで、今回の襲撃でナドラの身柄を回収するつもりだったらしい。

 

 そこまで手の込んだ事をした理由は魔眼持ちのダークエルフは希少種であり、人身売買市場では一生暮らせるだけの金額がついているんだとか。

 

 となれば争奪戦も必然的に熾烈なものとなる為、奴等はそれを回避すべくアミダハラ監獄の職員と結託して虜囚としてここまで輸送させたそうだ。

 

 なんとも狡すっからい手だが、これも小悪党は無駄に頭が回るという証明だろう。

 

 とりあえず助けてしまったわけだが、この場での生き残りは彼女のみ。

 

 野盗も虜囚も監獄の職員までもが全滅である。

 

 さすがに置いていくわけにもいかず、仕方がないのでノイ婆ちゃんのところへ連れていく事に。

 

 貴族令嬢な上に今まで様々な人間に狙われまくった為に警戒心バリバリだった事もあり、道中の扱いには本当に苦心した。

 

 災禍姉さんに貴人向けの礼節を教わっといて本当に良かった。

 

 ナドラの事情を知った婆ちゃんは彼女に魔眼殺しのメガネを与えた上に、自分の店の従業員として雇ってくれると言ってくれた。

 

 これも世間知らずながらも基本善性にあふれた彼女の人柄の為せる業だろう。

 

 この後はいつもの通り地下闘技場で鍛錬を積んだわけだが、今回の相手は筋肉ムキムキなおっさんの格好をした火の高位精霊。

 

 いい機会だったので、対おっさん用の奥義開発の練習台にさせてもらいました。

 

 大周天と小周天を両立させる事で全身に内勁を満たし、軽身功の極限を以て音を置き去りに。

 

 そして抜き放つ刃は『因果の破断』に至りて空間・次元すらも断つ。

 

 こんな感じでやってみた『次元斬・絶』のコピーだが、豪軍の分身殺法からアル中対魔忍の次元斬をブッパするという捻りの無い物になってしまった。

 

 個人的には目視できないスピードで駆け抜けながら、そこら中で次元斬がヒャンヒャン乱舞するのを想像していたのだが……

 

 やはり武の道は容易にならずという事だろう。

 

 これからもめげる事無く精進あるのみ。

 

 火の高位精霊? 出した炎もろともスライスになりましたが何か?

 

 

▼月☆△日

 

 依頼していた弾正の情報がようやく来た。

 

 ノマド・DSO双方同時だったのは色々とありがたい。

 

 確認したところ、現在アメリカにいる弾正はオリジナルであることが判明した。

 

 奴は反乱の二か月前に渡米したっきり日本に帰ってきていなかったのである。

 

 つーか、CIAにガチガチにマークされてんじゃねーか、あのおっさん。

 

 渡航した際の予防接種で皮膚内にマイクロサイズの発信機を埋め込まれてるのに気づかんとか、忍者失格にも程があるだろう。

 

 話を戻そう。

 

 当時から魔界技術の軍事転用を目論んでいた特務機関『G』は、対魔忍のサンプル提供を条件に弾正と結託。

 

 奴は魔界医療の応用で飛躍的に精度が上昇したクローン技術を用いて、自身の影武者や実験用モルモットを複数制作したそうだ。

 

 その後、井河の長老衆が起こした対魔忍統合計画を知った奴は武装蜂起を決意する。

 

 万が一の場合を考えて、現地には自分の影武者を配置するという保険を添えて。

 

 つまるところ、あの時に亡くなった頼母さんや二車の小父さんを始めとするふうま衆は、ただ偽物に踊らされただけって事だ。

 

 さすがにこれは見過ごす訳にはいかない。

 

 奴がやった事はふうま全体への重大な裏切りだ、是が非でもケジメをつかさせねばならん。

 

 たとえ特務機関『G』を壊滅させる事になろうとも。

 

 差し当たっては弾正の邪眼対策として、幹部を始めとする邪眼使いに例の物の配備を急がせる事としよう

 

 あとはこの報告書の内容を幹部へ通達する事も忘れずにだ。

 

▼月☆□日

 

 

 今月3回……いや4回目の幹部会だが荒れに荒れる事となった。

 

 理由は先だって送られてきた弾正報告書。

 

 当時から務めている幹部連たちも奴がクローンだとは夢にも思わなかったらしい。

 

 当然全員ブチキレて、骸佐や甚内殿にいたってはアメリカに殴り込もうと言い出す始末。

 

 さすがに国の許可なくそれはヤバいと止めたが、彼等の気持ちは痛いほどわかる。

 

 俺だって二車の小父さんが無駄死にだったなんて思いたくない。

 

 だからこそ例の手紙通りにノコノコこっちにやって来た時に、ちょっかいを掛けてきた事を口実にするのだ。

 

 あのおっさんの事だから、今回帰国してくる奴もクローンの可能性が高い。

 

 なので、やるなら後ろ盾にケツを持たせたうえで徹底的に殲滅するのだ。

 

 そんなワケで幹部会は早々に宴会へ移行。

 

 ヤケ酒の嵐で皆さんあっさりと潰れる事となりました。

 

 仕向けた俺が言うのもなんだが、みんなはもう若くないんだから無茶な飲み方はイカンよ、心願寺の爺様はとくに。

 

 それと時子姉が構成員各位へ送ったアンケートの返答が来たと言うので確認してみた。

 

 結果はなんと離脱者ゼロ、頭領不信任という意見もありませんでした。

 

 ありがたや、ありがたや……

 

 つーか、こんな小僧を数百人の人間が支持してくれてるなんて尋常じゃありません事よ?

 

 ホント修行の励みになるわぁ。

 

 これからはウチを取り巻く環境だってもっと変化していくだろうし、俺も更なる強さを身に着けてふうま衆の生活を守らねばなるまい!!

 

 というワケなので東京キングダムで武者修行してきます!

 

 ……え、ダメ? 

 

 

▼月☆◎日

 

 

 宮内庁のお偉いさんから東京キングダムに行くように指示が出ました。

 

 理由はなんと映画撮影の補助。

 

 スポンサーはノマド、映画の題名は『スタイリッシュ・オブ・ザ・デッド』

 

 副題は『最終決戦! ニンジャ・ヴァンパイア最強コンビVSナチスゾンビ!!』

 

 なんでや! ナチス関係なかったやんけ!!

 

 隠しきれないクソ映画臭とドイツへの風評被害に膝から崩れ落ちていると、スネークなマダムが出迎えてくれました。

 

 この映画、スポンサーがノマドというだけあって、エキストラでカオスアリーナのスタッフも出るらしい。

 

 というか、マダムもダークナイト=ふうま小太郎だって事に気付いてました。

 

 でもって今回の俺の任務はスタントマン。

 

 人間では到底無理なアクションを取る際に俳優の代役を務めるという事だそうな。

 

 あとはマダムからの提案で話の随所にミュージカル的な歌とダンスが入る事になっている。

 

 当然の如くそこのダンスも俺が務める事になっていた。

 

 こちらとしては任務の内容は『宮内庁の広報活動』としか聞いていなかったので唖然茫然である。

 

 しかしマジモードに入ってしまったマダムとナディア講師を前にして、『聞いてないよぉぉ!?』なんて言い訳が通用するわけがない。

 

 使われる曲はカオスアリーナの演目で使用したモノばかりなので、振り付けについては微調整でなんとかなるのが救いか。

 

 そんなワケで始まった映画撮影。

 

 仮面付けてるからバレねーやと悪ノリでアクションをやったのだが、幸いにもゾンビのエキストラは剣闘士ダンサーのみんなだったので上手く付いてきてくれた。

 

 ダンスはゾンビを引き連れてのスリラーに、ラボへの潜入時に警備兵と踊る『Beat It』などなど。

 

 これも剣闘士ダンサーと何回もやった演目なので一発OKをもぎ取る事に成功。

 

 スケジュール的に今日しかなかったので、必要なスタントとダンスシーンを一日で撮って俺の出番は終了。

 

 帰る際に監督からものすごく熱烈な握手をされてしまった。

 

 マダムが言うには、彼は動画サイトにアップされた本物のグールを引き連れたスリラーによって俺のファンになったんだとか。

 

 今回の映画でダンスシーンを差し込むのにOKが出たのも、マダムが出した『ダンサーとして俺を起用する』という条件に監督が飛びついたからだってさ。

 

 最後に俺は気になっていた事をマダムに問いかけた。

 

『マダム、この映画を撮るためにブラックのおっさんは映画製作会社を買ったって言ってたよな。どこの会社だったの?』

 

『アルバトロスよ』

 

 メッチャ納得した。

 

 

 

 

「フッ…………」

 

 ふうま小太郎がスタントを演じる様子を見ながら、エドウィン・ブラックはスポンサー席で口角を吊り上げる。

 

「機嫌良さそうね、エド」

 

「どんな事だろうと新しい事にチャレンジするというのは楽しいモノだ」

 

「私達のような長命種にとって退屈は最大の毒だものね。でも、そう感じるならもっと早く芸能関係に手を出せばよかったのではなくて?」

 

「我々の悪癖だな。退屈で死にそうなどと言っておきながら、他の種族が生み出すモノを全て下賤と見下す。まったく我ながら愚かな事だ。砂漠をさ迷い渇きに狂う者が目の前の水をえり好みなど出来るはずもあるまいに」

 

 長年の友人であるカーリヤの言葉に、ブラックは笑みを己を嘲笑うモノに切り替える。

 

「それで、今の貴方のお気に入りは彼と言う訳かしら?」

 

「そうだな、彼は従来の対魔忍共とは一線を画すモノが多い。今回の件に巻き込まれた折も彼は私にある事を問いかけて来たよ」

 

「何をかしら?」

 

「仮に私が失脚した場合、誰が人界に手を伸ばすのか」

 

 ブラックの返答にカーリヤは感嘆の声を上げる。

 

 対魔忍は国家から見れば末端の戦闘集団だ。

 

 その一門の長とはいえ所詮は現場責任者。

 

 井河アサギの様に命じられた相手を討つ以上の事は考えないと思っていたのだ。

 

「あの子はそこまで先を見ているのね」

 

「淫魔王を筆頭にレイスロード、あとはオーク共の王の名を挙げれば、アンタが一番マシかと言われたよ」 

 

「貴方はまだ穏健派なほうだもの。女や土地を狙って、人間へ全面戦争を仕掛ける阿呆共よりはよっぽど」

 

 腕を組んだまま小さく肩をすくめる友人に、浮かべた笑みを一層深くするブラック。

 

 井河アサギ、甲河アスカ、あとはふうまに預けている不肖の娘は自分を討てば魔族に関しては万事解決すると思っているようだが、世の中はそこまで甘くはない。

 

 エドウィン・ブラックという重しを失えば、裏社会の勢力図は確実に一変する。

 

 人間界を狙って魔界から新たな実力者が台頭するだろうし、自ら率いるノマドという超巨大組織も確実に割れる。

 

 エドウィン・ブラックの後継者を狙う者、忠義に徹し仇を討とうとする者、欲に目が走り独立を試みる者。

 

 そうなればこの日本を中心にして裏社会は群雄割拠の戦国時代となる事間違いなしだ。

 

 ふうま小太郎は確実にその事に気が付いている。

 

 そして今の人類にその戦乱を治める力がない事にも。

 

「少なくとも10年、いや20年はあの少年は私を討つ気は無いだろうな。彼が動くとすれば人類全体が魔界勢力に対抗しうる力を手に入れた時だ」

 

「20年か。私達にとっては瞬きする程度の時間だけれど、彼にとっては相当なウェイトを占めるのではなくて?」

 

「それについては問題あるまい。ヴラド国のお嬢さんが面白い事をしているのでな」

 

「面白い事?」

 

「この国の王に自分の計画に横やりを入れられた事がよほど腹に据えかねたと見える。大魔術師ノイ・イーズレーンを巻き込んで少年を奪い取る為に一計を練っているようだ」

 

「そう言えば、彼に例の仮面を渡したのはあのお婆さんだったわね」

 

「なんにせよ、私にとっては手間が省けて好都合だ。どういう関係であれ、友人とは永く付き合いたいものだからな」

 

 そう言葉を紡ぐ不死の王の顏には、少年が浮かべるかのような実に楽し気な笑みが浮かんでいた。       




どうでもいい解説

アルバトロス・フィルム

世にB級映画を多く提供し続けるクソ映画ハンター御用達の制作会社。

代表作は『アメリ』『キラーコンドーム』『えびボクサー』『メガ・シャーク』シリーズなど

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