剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 大変お待たせしました、最新話更新です。

 決アナは途中退場の身なので弾正のキャラが掴み辛かった……

 違和感がハンパないかもしれませんが、ご勘弁のほどを。

 正月ピックアップの晴れ着アサギですが、やはり声に違和感が……。

 中瀬様は偉大だと思いました。

 ちなみにSR確定臥者は、水着の仮面マダムが来ました。
 
 さて、正月リリスと一緒に育成地獄だ!!


日記37冊目

▼月☆☆日

 

 突然ですが主流派からクレームが来ました。

 

 内容は弾正がサイボーグ兵士を連れて旧ふうま邸に現れたそうな。

 

 幸いな事に現家主は任務で不在だったので人的被害はなかったが、留守に機嫌を悪くしたアホが暴れた所為で建物に傷がついたらしい。

 

 今回の件を受けて井河の過激派は『ふうまからの宣戦布告』と大騒ぎになっているとか。

 

 『首謀者のおっさんは十年近く前に死んでるやん』とか『門がちょっと壊れたくらいで襲撃とか(笑)』なんて言い返したいところではあるが、生憎とウチの業界では死んだ奴が生きていたなんて話はザラにある。

 

 仕方がないので前回手に入れた弾正にまつわる資料を見せる事で身の潔白としたのだが、はたしてどれだけ効果があることやら。

 

 しかし敵地である五車の里に突っ込んでいくとは、何考えてるんだあのおっさん。

 

 そういえば手紙も旧住所に出していたし、もしかしてウチが独立したのを知らんのではないだろうか?

 

 主流派の弾正の処遇についてだが、あちらさんはウチに任せて静観するつもりのようだ。

 

 まあ、反乱終結時と違って現在はふうまと主流派は勢力が拮抗しているし、アサギが引退するとなればこの件に関わっていられないのも当然か。

 

 こちらとしては下手な横やりを入れられると面倒な事になるので、むこうの決定は諸手を挙げて大歓迎である。

 

 さて、今回の通信会談のもう一つのキモは、むこうに出ていたのが井河サクラだという点だろう。

 

 今更だが俺が他の流派に通信する際は基本頭領同士のトップ会談になる。

 

 なので当人か、もしくは甲河のマダムのような全権委任された人間以外が出るのは失礼にあたるのだ。

 

 その辺の事情を加味すると、サクラがアサギの跡目確定ということなのだろうか?

 

 血統と実力は十分だが、あの軽い性格とカリスマ性をどう補っていくのやら……

 

 まあ、この辺は人の事を全く言えませんけど。

 

 ともかく前任と比べられたり政府との交渉がめっさ大変だったりと前途多難だろうけど、頑張ってほしいと切に思う。

 

 

▼月☆◎日

 

 

 弾正が来日しているのが分かったので、邪眼を持たない下忍に居場所を探してもらった。

 

 その結果、奴は横須賀の米連駐屯地にいる事が判明。

 

 正規に手段で入国できないだろうと踏んでいたが、やはり米連軍に紛れるという裏技を使っていたようだ。

 

 このままカチ込む事も出来なくもないが、米軍に喧嘩を売るには現状だと少々根回しが足りていない。

 

 このまま駐屯地に籠られたり、こっちの目を盗んで暗躍されても面倒なので、ここは敢えて弾正とコンタクトを取る事にした。

 

 ルートはもちろんマイフレンド・アスカこと甲河忍軍が所属するDSOを経由させる。

 

 対立組織とはいえ同じ米連、連絡の一つくらいはできるだろう。

 

 弾正のアホがこっちの所在を掴めていないのなら、この撒き餌に乗ってくる可能性は高い。

 

 もちろん横須賀の駐屯地は監視させておくし、奴がいる以上は邪眼使いには例の秘密兵器の着用を義務付けるつもりだ。

 

 さて、先代様は食いついてくるかな?

 

 

▼月☆△日

 

 

 前述の件だが、弾正のおっさんは割と簡単に釣れました。

 

 考えてみれば今俺達が所属しているのは宮内庁、外国からしたら日本でも一番縁がなく謎の多い部署である。

 

 中世じゃあるまいし、そんなところが隠密抱えてるなんて普通は考えんわな。

 

 しかも構成員はウチを除いたら陰陽寮出身者や華族でガチガチに固めてると来ている。

 

 仮に諜報を掛けようにも外国人がスパイを放り込む隙はどこにも無い。

 

 奴等に現在のふうまの所在が掴めないのも当然なのだ。

 

 んで、仮面のマダム経由で奴に流したメッセージは以下の通り。

 

『ふうま頭領について話し合いたい。ついては〇月×日18時に東京赤坂にある料亭「明星」にて待つ』

 

 人数や武装云々といった細かいところは明記していない。

 

 こういった書状で条件を指定するのは相手に信用がある場合だ。

 

 ウチの評価ではあのおっさんにそんな物は存在しません。

 

 当然ウチも仕込めるモノはバッチリ仕込んでいる。

 

 後はよーいドンを待つばかりだ。

 

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 

 遺伝子提供者殿と初対面と行こうじゃないか。

 

 

 

 

 眠らない街・東京がその装いを夕暮れから宵闇へと変え、周辺を夜の帳が隠し始める。

 

 そんな中、俺は似つかわしくない和の粋を極めたような部屋の中で座椅子に腰を下ろしていた。

 

 老舗料亭『明星』

 

 大物政治家はもちろん皇族からも御用達になっている超高級料理店である。

 

 ぶっちゃけ宮内庁が金を出してくれなかったら、俺のようなガキには縁のない場所だ。

 

 つーか、椀物一つで諭吉が2人飛ぶとかありえねーだろ。

 

 最初お品書き見た時、シャブでも入ってんかと思ったわ。

 

 ……貧乏人のヒガミはこの辺にして、現状を説明しよう。

 

 現在此処にいるのは、俺と秘書役であるくノ一衆の桔梗のみ。

 

 本来なら骸佐か天音姉ちゃんと一緒にいるべきところだが、今回の相手は邪眼持ちの天敵である弾正だ。

 

 今後の事もあるので辞退してもらった。

 

「若様、物見から報告が入りました。標的は間もなくこちらに到着するとの事です」

 

「駐屯地の方に動きはどうだ?」

 

「時子様からは現在のところ無いとのことです」

 

「周辺に関しては?」

 

「万事滞りなく」

 

 桔梗と最後のツメを確認し終えると、眼前のふすまを軽く叩く音がした。

 

「どうぞ」

 

 音もなくスライドする高級和紙製の扉の先には、店の仲居さんが綺麗な正座で控えている。

 

「失礼します。お連れ様が到着いたしました」

 

「分かりました、中に通してください」

 

「はい。どうぞ───」

 

 仲居さんの合図もまどろっこしいとばかりに、ドカドカと押し入って来る中年太りの悪人面。

 

 資料が確かならこの男がふうま弾正で間違いないはずだ。

 

「久しぶりだな、目抜け」

 

 開口一番にこれである。

 

 さすがは一族を見捨てて国外脱出した男、礼儀のれの字も知らんようだ。

 

 おっさんのたわ言はどうでもいいとして、後ろでガチの殺気を放っている桔梗をなんとかせねば。

 

「控えろ、桔梗。こんなのでも今回の客だ」

 

「は、失礼しました」

 

「ふん、主に対する態度がなっていないな。下忍の一匹も躾けられんのか、無能が」

 

「はいはい。どうでもいいから席に付けよ、こっちも暇じゃないんだ」

 

 相手の嫌味を歯牙にもかけないこっちの態度におっさんの顏が不快げに歪むが、奴が口を開く前にむこうの連れが入ってくる。

 

「なんや、オッサン。またいきなり喧嘩売ってるんかいな」

 

「オレが言うのもなんだけどよぉ、一回『礼儀』って単語を辞書で調べた方がいいんじゃねぇか?」

 

 軽口を叩くのは全身真紅の外骨格に覆われたロボット然とした女と、両腕をサイバネ義肢に挿げ替えた白い軍服姿の女だ。

 

「コイツ等は俺の護衛だ。あの書状には私兵を連れ立つ事は禁止していなかった、問題はあるまい?」

 

「別に構わんよ。そちらのお二人もそれぞれ席に付いてください」

 

「え!? ウチらの分もあんの!」

 

「そいつはありがてぇ。本場のワショクって奴を一度食ってみたかったんだ」

 

 顔を引きつらせる弾正を他所に、俺の指定した席にそそくさと着く護衛二名。

 

 特務機関『G』の主戦力は軍事ドローンとサイボーグ兵士だ。

 

 傲眼しか能のない弾正がそいつ等を護衛に選ぶのは想定済みだ。

 

 というか、護衛の人数分まで席が用意されている事を不思議と思わんのか、コイツ等は。

 

「ふん、酒はないのか。気が効かん奴め」

 

 ドカリと座るなり、イチャモンを付けてくる弾正。

 

「ここに来た目的分かってんのか? 話し合いが済むまでアルコールなんて出せるワケないだろう」

 

「そらそうや。このおっさん、飲み始めたら止まらんし」

 

「ぐぬぬ……ならさっさとしろ!」

 

「そんじゃま、開催前に自己紹介をば。お初にお目にかかる、俺はふうま小太郎。ふうま忍軍当代に就かせてもらっている」

 

「今回、若様の秘書を務めさせていただきます。ふうま忍軍くノ一が一人、桔梗と申します」

 

 座ったままでは少々失礼かと思ったが、座礼を行うと対面のサイボーグ二人は唖然とした顔になった。

 

「ご丁寧にどうも。特務機関『G』所属のヘスティア特務大尉です」

 

「あ~……メイジャー特務中尉だ、所属は左に同じ。つーか、一つ聞いてもいいか?」

 

「なにか?」

 

「オレ等はともかく、なんでオッサンにまで初対面の挨拶を?」

 

 なるほど、妙な顔をしていたのはそれが理由か。

 

「実際初対面ですし」

 

「いやいや……自分、このおっさんの息子ちゃうん?」

 

「だから生まれてこの方会った事が無かったんですよ。俺が生まれた時も、お袋が出産の負担で亡くなってから後も、そのおっさん一切顔を出しませんでしたから」

 

 此方の証言に唖然となるサイボーグソルジャーたち。

 

 つーか、ヘスティア大尉面白いな。

 

 顔面前部が装甲で覆われてるけど、リアクションで心情が丸分かりなんだが。

 

 これも関西弁使いの為せる業なのだろうか?

 

「マジかいや……おいオッサン! 全然話がちゃうやんけ!!」

 

「そうだぜ。こっちに来る前に『息子は俺の事を慕っているから絶対服従』とか言ってなかったか、テメェ」

 

「黙れ! 目抜け、貴様ぁ……」

 

 二人の追及に何故かこちらへ恨みがましい視線を向けてくる弾正。

 

 いやいや、バッチリ自業自得だからな。

 

「俺の話は置いておくとして、本題に入ろうか。お互い世間話をする間柄でも無いだろ」

 

「さっさとしろっ!」

 

「そっちの言い分としては『先代であるふうま弾正が存命である以上、代替わりは認められない。故に頭領を詐称するふうま小太郎は速やかにその座を弾正へと返上すべし』だったな」

 

「そうだ。俺が生きている以上はふうまは俺の物だ。目抜けの貴様が好きにしていい筈がなかろう」

 

 相変わらずツッコミどころ満載な言い分だが、粗を指摘したところでこのおっさんには蚊ほども効かんだろう。

 

 ここは粛々と進めるべきだ。

 

「自論を振り回すのは結構だが、そっちの都合に合わせる訳にはいかんな」

 

 俺が視線で合図すると、桔梗はバッグから書類の束を取り出した。

 

「なんだこれは?」

 

「現八将である二車・心願寺・紫藤からの署名だよ。各当代および所属する幹部全員は『現体制の維持を要求し、ふうま弾正への頭領委任に断固反対する』だとさ」    

 

「笑わせるな。井河にしてやられた負け犬共の意見に価値などあるものか」

 

「そうかい。じゃあ次だ」 

 

 予想通り歯牙にもかけない弾正に、桔梗は次なる書類を取り出す。

 

「今度は何だ?」

 

「上忍から下忍に非戦闘員まで、ふうま忍軍構成員全員の署名だ。要求内容は八将と同じ。同封されたコメントには『どのツラ下げて帰ってきてんだ、無能』『頭領に返り咲きたきゃあ、若様みたいに体張って下忍助けて見ろ!』『若様みたいなカッコかわいい男の子ならともかく、加齢臭のするおっさんを頭領にするとかムリ』なんて書かれているぞ」

 

 意見の中に一部変なのが混じっていたけど、気にする必要はないだろう。

 

 つーか桔梗さんや、なんで最後の意見にメッチャ頷いてるんですかねぇ?

 

「黙れ! 忍とは頭領の命令に絶対なのだ!! 道具にすぎん奴等がどうほざこうが知った事ではないわ!!」

 

 顔を真っ赤にしながら卓を蹴って立ち上がる弾正。

 

 この言葉が本当なら経営者としては無能の極みだな、このおっさん。

 

 反乱で負けるまで、いったいどうやって会社を回してたんだ?

 

 とはいえ、ここで言い合いをしても一文の得にもならん。

 

 粛々と進めよう、粛々と。

 

「ならもう一つだ」

 

 先ほどと同じようにカバンから書類を取り出す桔梗。

 

 最初は鼻で笑っていた弾正だったが、卓の上に置かれた物に飛び出んばかりに目を見開いた。

 

「えーと、何やのんコレ。書簡みたいやけど」

 

「このエムブレム、どっかで見たことあるな……菊か?」

 

 サイボーグ兵士二人が覗き込む中、俺は書簡の口を開いて中にある書類を取り出した。

 

「これは日本国天皇からの認定書さ。『現天皇の名の元にふうま小太郎をふうま忍軍責任者と認める。彼の者は同組織を率いて日本国の守護と発展の為に尽力せよ』だってよ」

 

 さすがに帝の名が出てくるとは予想していなかったようで、これには弾正をはじめとするGの面々も返す言葉が見つからない様だ。

 

 ちなみにこの書簡は正当性云々とイチャモンを付けられた時の対策として取っていたものだが、上原学長を通して依頼したら次の日には現物が届いた。

 

 こういうのって普通は週か月単位で時間が掛かるもんだと思うんだが、相変わらずあの帝はフットワークが軽すぎる。

 

 まあ、日頃から無茶を突き付けれられているんだ。

 

 この位の返しはしてもらわないと採算が取れん。

 

「以上の理由から頭領交代には応じられない。分かったらとっととアメリカに帰ってくれ」

 

 そもそも、このおっさんは何でふうまを狙ってるんだ?

 

 活動の拠点がアメリカだったら、ウチを手に入れても意味無いだろうに。

 

「ふッ……ふざけるなぁ!!」

 

 目が点状態から最も早く復活したのは弾正だった。

 

「なにが天皇だ! たかだか対魔忍ごときの事でそんな物は出てくるわけがあるか!! 書類の偽造などと下らん小細工をしおって!!」

 

「ふざけてんのはアンタだよ。ウチはこれでも日本政府のお抱え組織だぞ。菊の御紋を騙るなんざできるワケねーだろ。つーか、帝の認印はこの国の技術の粋を駆使して捏造防止措置が取られてんだ、ねつ造なんてできるか」

 

「仮にそれが本物だとして、だからどうだと言うのだ!? 飾り物がどうほざこうが、ふうま忍軍は俺の物だという事実は覆らん!!」

 

 不敬罪待ったなしの弾正の発言に口を開いたのは、背後に控えていた桔梗だった。

 

「では何故この十年間、一度もこちらに連絡をよこさなかったのです? あの敗北で我々が苦境に立たされるのは容易に想像がついた筈。本当にふうまを必要だと思うのなら、何かしら手を施すモノでしょう」

 

「馬鹿め! 井河の下にいた貴様等など援助したところで俺の意のままにならんだろうが! 他人の手に握られた駒に価値など無いわ!!」

 

 怒りを抑えた桔梗の問いかけに、さも当然のように吐き捨てる弾正。

 

 なるほどな。ウチが独立したという情報を掴んだから今更コンタクトを取ってきたというワケか。

 

 情報がいささか以上に遅いが、コイツにそれをリークしたのは何者なんだろうか?

 

 ウチの独立を掴んでる割に新しい赴任先を知らないあたり、情報収集能力に難があるようだが…… 

     

「オッサン、オッサン。本人らの前でそれ言うたらアカンやろ」

 

「前からゲスいゲスいと思ってたけど、マジで下衆だなコイツ。こんなんが上司とか、マジで異動願い出そうかな……」

 

 護衛二人からも非難の声を上げられ、頭に昇った血で顔をどす黒く染める弾正。

 

 弾正と言う男は利己的で自己中であるが、その性格ゆえに謀略に長けた一面を持っている

 

 しかし常に他人を見下している為、反撃はもちろん他者から否定されるだけで頭に血が昇りやすい。

 

 その結果、冷静な判断が出来なくなって失敗する悪癖を持つ、か。

 

 今のおっさんは、まさに甚内殿や心願寺の爺様の情報通りだな。

 

 ならば、ここらが『仕掛け頃』という奴だだろう。

 

「とはいえだ。こんな書類だけで納得して帰る程、アンタは聞き分けのいい男じゃねぇだろう。だからチャンスをやるよ」

 

「……なんだと?」

 

 こう言うとやはり弾正は食いついて来た。

 

「一対一の勝負で俺に勝てたら頭領の座を譲ってやる」

  

 俺の申し出を弾正は鼻で笑ってみせた。

 

「馬鹿らしい。そんな事をしなくても───」

 

「どんな手があるよ? 正規の手続きを踏んで裁判でも起こすか? 日本じゃアンタは9年前から死人だから人権は全く無いぞ。仮に生きていたことを証明しても失踪して7年以上音沙汰がなかった時点で法律上では死亡した物と見なされる。だからこそ正式な手続きを踏んで家督相続した俺を否定する事は出来ん。裏の組織を頼ろうにも帝の認定がある時点で、まず協力は取り付けられんだろうしな。頼りの米連はこの問題に関して口を挟む権利すらないぞ」

 

「ならば───」

 

「傲眼を使うか? それも無駄だ。俺の邪眼はもう潰れているからな」 

 

 俺の告白に目を見開く弾正。

 

 だが、次の瞬間にはその顔に浮かんだのは己の優位を確信する歪んだ笑みだ。

 

「ふっ……フハハハハハハハ! 目抜けが本当に目を失うとはな!!」

 

 部屋中に響き渡るような声を響かせた弾正は、ひとしきり笑うとこちらを見下して指を突きつけてくる。

 

「いいだろう! 貴様の申し出を受けてやる!! 忍術を使う事が出来なくなった無能など頭領の座にふさわしくないという事を、骨の髄まで叩き込んでやるわッッ!!」 

 

「なら、この書類にサインして血判を押せ。俺が決闘に敗北した際、ふうま忍軍の全権を譲渡する旨を書いた書類だ。これがあれば頭領を交代しようと帝も文句は言えん」

 

「明記されている内容に問題はないようだな……ふん、いいだろう」

 

 差し出した誓約書の内容を確認した後、言われた通り署名と血判を行う弾正。

 

 俺は努めて平静を装いながら誓約書をしまい込んだ。

 

「契約書に明記してある通り決闘は二日後だ。場所はこちらが用意する」 

 

「ふっ、精々自分の死に場所でも選んでおくんだな。────帰るぞ」

 

「ちょっ!? 待てよオッサン! こっちはまだ食ってんだろうが!!」

 

「卑しいマネをするな、馬鹿め。料理に毒が仕込まれている可能性も考えんのか、貴様は」

 

 弾正の言葉にギョッと眼前の料理を見やるメイジャー。

 

「ここを何処だと思ってんだ。毒なんて仕込ませてくれるかよ」

 

「ふん、どうだかな」

 

 今の事で食欲が失せたのか、うんざりした顔で立ち上がるメイジャー。

 

 それに続いて口元から伸びたストローのような機関でお茶を啜っていたヘスティアも続く。

 

「ああ、そうだ。帰るときに店の周りにばら撒いたゴミを片付けて行けよ」

 

「……何のことだ?」

 

「とぼけんな、敷地内に配置してあった攻性ドローンの事だよ。ウチの部下が全部ぶっ壊したから回収しとけ」

 

 そう言うと弾正はこちらに聞こえるように舌打ちを残して部屋を出て行った。

 

「上手くいきましたね、若様」

 

「ああ、後はあのおっさんをぶっ飛ばすだけだ」

 

 桔梗の言葉に返しながら、俺は誓約書の表面を軽く撫で上げる。

 

 すると文字が印字された純白のコピー用紙が見る見るうちに、赤いインクで奇怪な文字が記された羊皮紙へと変わっていく。

 

 コイツは週一のアミダハラ鍛錬の際、ノイ婆ちゃんに用意してもらったマジックアイテムだ。

 

 わざわざあのおっさんと話し合いの場を設けたのも、コイツに署名させるのが目的だった。

 

 基本的に対魔忍や米連兵士は魔術については無知と言っていいい。

 

 特務機関『G』は米連本国でノマドと共に魔界の扉を開くのが目的と聞いていたので、万が一の事態も危惧していたのだが杞憂に終わって何よりだ。

 

「若様! 弾正の退出を確認しましたぞ!!」

 

 豪快な声と共ににゅるりと日本庭園の土から生えてきたのは、料亭敷地内の警護に配置した部隊の長を任せた矢車弥右衛門だった。

 

 普段は上半身に何もつけずに筋骨隆々の肉体を見せつけている彼だが、今回ばかりはドレスコードを意識したのか黒装束を纏っている。       

 

「ご苦労だったな、弥右衛門。あと、よく我慢してくれた」

 

「なんの。若様が耐えていらっしゃるのに儂が暴発したのでは、部下として立つ瀬がありますまい!!」

 

 俺のねぎらいの言葉を呵々と笑い飛ばす弥右衛門。

 

 彼とて二車の小父さんを捨て駒にされた事で、弾正に対してははらわたが煮えくり返っているだろうに。

 

「二日後を楽しみにしててくれ。あのおっさんが無様に這いつくばる姿を見せてやるからよ」

 

「その後はふうま衆全員で、祝勝会を兼ねたティー・バッティング大会ですな!!」

 

 『その為に丸太から専用のバットを削り出しましたぞ!』などと意気込んでいる弥右衛門だが、ひとこと言わせてほしい。

 

 ボールは他の連中も使うんだから普通のバットにしなさい。  

             


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