剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く 作:アキ山
公式の天音イベントを見て、弾正が決戦アリーナとは完全な別人となってる事に目ん玉飛び出そうなくらいに驚いた筆者です。
つーか、もっと早くあの情報を出してくれてれば、普通に尊敬できる父親的な感じで書けたやん。
どこぞの第六点魔王風(CV小杉十郎太)な容姿もカッコいいのに……
まあ、過ぎた事は仕方がない。
こっちは決アナ風で推し進める事にいたしましょう!
どうも、知らない間に打順とポジションが4番サードになっていたふうま小太郎です。
さて、やって来ました弾正との決戦の日。
色々な意味でふうま衆の今後を決める一戦に、ウチの部下たちも荒ぶっています。
カキーン!
「ナイスバッティングです、骸佐様!」
カキーン!
「そういう権左もなかなかいいスイングじゃねえか」
カキーン!
「これでも槍使いですからな。長柄の扱いでは負けませんよ」
カキーン!
「ガハハハハハハッ! 執事殿は婚礼を控えておりますからな! 許嫁には良いところの一つも見せねばなりますまい!!」
カキーン!
「そうですね。今回は私も天国にいる先代に届くような一打を狙ってますしッ!」
カキーン!
コイツ等、なんで揃いも揃って打撃練習で汗を流してるんでしょうねぇ……
「お前等なぁ、まだ勝ってないんだから少しは緊張しろよ」
「なに言ってんだ。あのおっさんがお前に勝てるわけねーだろ」
「ですな。比丘尼のおばば様など、自分の控室に鮫を持っていってましたよ」
「紫藤の当主など、この日の為に土手にハンマーで何本も杭を打ち込む始末。完全に後のイベントしか頭にありませんでしたぞ」
甚内殿が某フェザー級王者ばりのトレーニングを重ねてる件。
あと、おばば様は一体何をするつもりなんだ……
「俺としても一発くらいはウエディング・アーチを打っとかないと、静子に申し訳が立ちませんし」
「静子さんは堅気だから人間アーチなんて喜ばねーよ!」
違和感が仕事していないスラッガーぶりを発揮する幸せいっぱいな二車家の執事に、思わずツッコミを入れてしまった。
まったく、浮かれおってからにバカちん共め。
ちなみに借り物の会場にも拘わらず、容赦なくバットを振り回していたのは骸佐に権左兄ぃ、さらには尚之助兄貴と弥右衛門である。
二車の当主と幹部が揃いも揃ってもしもを考えていないとは、危機管理がなってませんことよ。
「しかし小さいとはいえ、野球場なんてよく借りられたもんだよなぁ」
「ここは宗家が持つ会社の一つが所有してる物件なんだよ。十年ほど前は自社球団を持ってたらしいんだが、経営が悪化した時期があって手放しちまったんだとさ」
「その結果、処分費用を捻出するのも勿体ないので箱物だけが残ったと。良くある話ですな」
首に掛けたタオルで頬の汗を拭いながら話に参加する権左兄ィ。
俺を除いてここにいる野郎達は全員思い思いの球団ユニフォームを着ていたりする。
今の俺達を見て、誰が忍軍団だと思うだろうか?
絶対、草野球同好会にしか思われねーよ。
「しかし、弾正はどうやって勝つつもりなのでしょうか?」
「あ奴も謀略だけは一人前の男ですからなぁ。今回の一戦も何らかの手を仕込んでくるのは明白なのだがのぅ」
「考えられるのは傲眼による邪眼持ちの幹部掌握、あとはサイボーグ化くらいかね」
参加してきた尚之助兄貴と弥右衛門に、俺は人差し指を立てながら答えを返す。
「あのおっさんが自分を改造するか?」
「するだろうさ。万が一自分が襲われた際の切り札としては使える手だからな。それに調書では組織に献上した対魔忍の検体は全て奴のクローンだって話だ。だとすりゃ自分のサイバネパーツの適合率なんて調べたい放題だ」
「なるほど、それもそうですな」
「第一こっちに来てるのが本体だっていう保証も無いしな。サイボーグに改造したクローンを送り込んでるってオチも十分にある」
「あの臆病者が考えそうなことだ。けど、それを全部チャラにする手筈も整ってるんだろ?」
「もちろん。でなきゃこんな茶番を仕込むかよ」
こちらの奥の手はしっかりと甚内殿に預けてある。
邪眼使いでない彼なら万が一にも弾正にどうこうされる事もあるまい。
「若様、時間でございます」
打撃練習場の扉が開くと、そこには珍しく対魔スーツに身を包んだ天音姉ちゃんが立っている。
……グリップの部分に血が染みついている釘バットを持っているのは見なかった事にしよう。
「ご苦労さん。むこうは会場入りしてるのか?」
「ええ。例のサイボーグ兵士二人を護衛として」
という事は、劣勢になったら二人が乱入してくる可能性も考慮に入れておかないとな。
「了解だ。天音姉ちゃん、悪いけど会場内を巡回警備できる人員を見繕ってくれるか? ウチのクライアントも何人か見に来てるからな、テロ行為や狙撃によるイカサマは防いでおきたい」
「御意」
さて、真面目な話はこの辺にしようか。
多分、むこうもツッコミ待ちだろうし。
「ところで、なんで紅姉はそんな恰好してるの?」
何とも言えない表情で天音姉ちゃんから視線をずらせば、そこにいるのは涙目になりながら真っ赤な顔で自分の身体を抱きしめるバドガール姿の紅姉。
「ラウンドガールです」
「いや、ラウンドなんてねーから。それとウチのスポンサー、バドワイザーじゃないぞ」
「な……っ!? どういう事ですか、天音さん! 宗家の職員として重要な任務と聞いたから恥を忍んで着たのに……っ!!」
「今回のイベント運営に際して、貴様が出来そうな仕事を割り振っただけではないか。何を怒っている?」
半泣きでクレームを付ける紅姉に平然と返す天音姉ちゃん。
たしかにイベント運営なんて学生の紅姉に出来るのは雑用だけだろうけど、さすがにそれはないんじゃなかろうか。
「ですが、これを外すとこ奴に与えられる仕事はモギリか設営の力仕事しかないのです。宗家に仕える者として、そのような雑用に回すのは……」
「とはいえ、年頃の娘にその格好をさせるのはなぁ……。心願寺の爺様がキレそうだし、普通にして貰っていいか?」
「若がそうおっしゃるならば。では紅、着替えておけ」
「うぅ…私は一体何のために……」
天音姉ちゃんの言葉にガックリと肩を落とす紅姉。
もうドンマイとしか言いようがない。
あと『対魔スーツの方が普通に恥ずかしいのでは』なんて身も蓋もない事を言っていた骸佐君、もう少し空気を読んでね。
「よっしゃ、そんじゃ行くか」
一つ伸びをして椅子から腰を上げると、部屋にいる面々から激励の言葉が飛んでくる。
「セコンドには俺が付く。もしもの時はサイボーグ共を押さえてやるから安心しろ」
「俺は何も心配してませんよ。静子との式もありますし、お家騒動なんてちゃちゃっと終わらせて下さい」
「相手は目的の為なら手段は問わない男、格下とはいえ油断めされぬよう」
「ワシはここでもう少し打撃練習をしておるので、終わったら教えて下され!」
「小太郎! お前が背負った十年間の苦労、あの男に叩きつけてやれ!!」
「若、我々が頭領と認めるのは貴方様だけ。無事のお帰りをお待ちしております」
「おう、次のバトンを奪い取ってくるわ」
打撃練習用スペースを抜けると、見知った顔が俺を待っていた。
カーラ女王とクリシュナ卿、そして上村学長だ。
「ハーイ! 激励に来たわよ、小太郎」
「すみませんね、こんな身内のゴタゴタにご足労をお願いして」
気軽に手を上げる女王に会釈すると、学長は眼鏡のブリッジを持ち上げながら口元に笑みを浮かべる。
「気にする必要はないわ。雇用者として、今回の件はこの目で見とどけないといけないもの」
「ところで自信の程はどうなの? 貴方のお父上なんだから一筋縄じゃいかない相手だと思うけど」
「心配しないでいいわ、カーラ。データではふうま弾正は対邪眼に突出した異能者で、基礎能力は平均以下とあったもの」
上原学長、だいたい合ってる。
誘導されたとはいえ、それでアサギと朧を相手取ろうとしたオッサンは一周回って凄いと思う。
「奴の情報に関しては古巣であるウチが一番知ってますからね。十年も時間があれば隠し玉の一つや二つ仕込んでいるでしょう。油断する気はありませんよ」
「なら安心ね。なんなら開幕直後に首を吹っ飛ばしても構わないわよ」
「私達としても現状でトップがスゲ変わるのは反対よ。米連と深い繋がりがあるあの男なら特に」
「了解。ご期待に添えるよう頑張りますよ」
三人を横切りながらプラプラと手を振る俺。
あと女王には悪いけどそういうワケにはいかないんだな、これが。
オーナーたちの心温まる声援を背に薄暗い廊下を抜けると、球場へ出た俺を出迎えたのは大歓声だった。
「「「「「「わっかさま! わっかさま!!」」」」」」
わ~、ウチの面々ノリよすぎぃ。
つーか、俺の顏が刺繍されたタオルだの団扇だのといった謎のグッズとサイリウムを持ってる女子の一団、あれ絶対『同士の会』だろ。
肖像権って言葉、知ってるかな?
元が野球場だから、応援旗を振ったりブラバンが演奏したりしてても違和感がまったくない
忍の頭領を決める決闘の場としては絶対にそぐわないわけだが……。
さて、今回の舞台はピッチャーマウンド付近に鎮座している石で出来た円形のリングで行うことになる。
これを作ってくれた権左兄ィをはじめとする土遁衆にはマジ感謝である。
「小太郎!」
声がした方へと振り返れば対魔スーツ姿のアスカとマダムの姿。
あと、客席を見れば私服姿の井河姉妹+浩介くんがいる。
さりげなく他の客に紛れようのしているのを見るに、例の三角関係騒ぎでアスカに会わせる顔が無いのだろう。
何故に彼女達がいるかいえば、弾正が関わっている事を考えてウチから招待状を出しておいたからだ。
井河と甲河の現上層部は十年前の反乱の当事者、ウチがケジメを付けるのを見せておいた方が無用な誤解も回避できるだろう。
「奴等とのメッセンジャー役、ありがとうな。手間を取らせて悪かった」
「気にしない気にしない! Gの奴等の吠え面が見られるのなら、あれくらい安いもんよ!!」
「だから、まだこっちが勝つと決まったわけじゃないからな」
「邪眼を除けば弾正は中忍レベルの実力しかないわ。馬超を一瞬で葬った貴方が負ける道理は無いと思うのだけど」
口元に笑みを作りながら、そう口にするマダム。
実際に闘った人の言葉なので重みが違うのだが、そういう油断と慢心は死神の鎌に首を差し出すのと同義アルよ。
「真剣勝負は相手を侮ってはいけません。対魔忍生存マニュアル第一条に書いてあるだろうに」
「なによそれ? 聞いた事ないわよ」
「俺が作った。忍術に頼りすぎない、科学技術を甘く見ない、例え相手がオークでも侮らない、自分の実力を過信しない、基本罠は仕掛けられてるモノだと思え、ヤバいと思ったら無理せず逃げる、事前情報は絶対じゃない、報連相はしっかり行う。だいたいこんな感じの事を書いてあるぞ」
「……後で一冊貰えるかしら? 料金は払うわ」
考える素振りの後でそう切り出すマダムに、俺は思わず首を傾げてしまった。
「今回の借りがあるからタダでいいけど、本当に基本中の基本な事しか書いてないぞ」
「今の若い対魔忍は、その基本が出来ていないじゃない。ウチも再編途中だから今後のマニュアルに組み込んでおきたいのよ」
さすがはマダム、慧眼である。
かく言うウチだって、5年程前までは出来てない奴が多かったからなぁ。
意識を改革するの本当に苦労したわ。
「小太郎、そろそろ行くぞ」
「あいよ。そんじゃ行ってくるわ」
追いついて来た骸佐の言葉に会話を切り上げると───
「ド派手なKOシーン、期待してるわよ!!」
「健闘を祈っているわ。ウチとしても貴方が頭領の方が何かとやりやすいし」
二人の声援を背に俺は武舞台へと上がる。
この時点で会場は大盛り上がり。
ぶっちゃけ『若様コール』で耳が痛いくらいである。
「スッゲーな、これ」
「そんだけ下の奴等はお前を支持してるってことだよ。期待を裏切るんじゃねーぞ」
「当然だろ。向けられた期待に対して倍の結果を出す。それが俺の信頼獲得法だよ、骸佐君」
そんな事を話していると、ほどなくして会場の様子が一変する。
歓声に代わって客席から放たれるのは罵倒とブーイング。
ぶっちゃけ、物が投げられていないのが不思議なくらいだ。
「弾正のお出ましか」
「これだけ雰囲気が変わったら嫌でもわかるな。つーか嫌われすぎだろ、アイツ」
そう言いながら振り返った瞬間、俺と骸佐は言葉にならないほどの衝撃を受けた。
此方に向かって来る弾正は以前に連れていたサイボーグ二人組を護衛としている。
これはいい。
問題はヤロウの服装である。
奴も対魔忍らしくピッチリスーツを着ているのだが、その着こなしが明らかにおかしい。
信楽焼のタヌキのような腹がこれでもかと強調されているのだ。
歩く度にタプタプ揺れてるし……
なんてこった、こんな忍者見た事ねぇ。
「ぶははははははははははははははははははっ!?」
「ばーーはははははははははははははっ!?」
そんな視覚的インパクトを食らった俺と骸佐の腹筋は容易く崩壊し、二人して武舞台の上で転げまわる事になってしまったのだ。
「おま……っ、あれ……! 忍ぶってレベルじゃねーぞ!?」
「バッカ! あの腹はゴムみたいなもんなんだよ! どんな衝撃も……ぶふっ!? 柔らか~く吸収するっていう」
「ハート様かよ!? じゃ…じゃあ……手裏剣も腹に埋め込んで発射するのか?」
「ふはははははっ!? スゲー! 新技術だ!!」
さて、意図せずに酸欠になりそうなくらい笑ったワケだが、奴さんを見てみれば顔を真っ赤にして怒ってやがる。
「貴様等っ! なにがおかしい!?」
お前の腹だよ、バカヤロウ。
「ひーひー……! め……メーやん、アカン。ウチ、なんか肺の吸排気システムに異常出てる……」
「なにやってんだヘスティアぁぁっ!?」
なんかむこうもエライ事になってるし。
たぶん、あの姿を見てからずっと我慢してきたんだろうなぁ。
ここまで耐えたとか、ある意味尊敬するわ。
……おっと、いかん。
数分前に真剣勝負を説いた身としては、これ以上醜態を晒すのは問題だ。
「すまんね。アンタの無様な腹……じゃなかった。恰幅の良さに度肝を抜かれてな」
「目抜けが図に乗りおって……ッ!? その不遜、すぐに後悔させてやるわ!」
鼻息荒く武舞台へよじ昇ってくる弾正。
つーか、忍者なら跳躍一つで上がってこんかい。
「ずいぶんと滾ってるじゃないか。───そろそろ降りろよ、骸佐」
「お……おお。抜かるなよ」
笑いすぎて出た涙を拭いながら震える声で激励を駆けてくる我が兄弟。
つーか、擦りすぎてアレを取るんじゃないぞ。
そうしてセコンドが立ち去ると、それに合わせたように高らかとゴングが鳴り響く。
さすがは時子姉、いい仕事をしている。
盛り上がる観衆に四方八方から飛んでくる期待を込めた視線。
舞台の仕込みも万全で、相手のテンションも悪くない。
そんじゃあ、いっちょ先代超えってヤツに挑戦してみますか。