剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く 作:アキ山
休日だからと机に向かってみれば、スイスイと筆が走ってしまいました。
これも弾正パワーの為せる業なのでしょうか?
ぶっちゃけ、これ以上RPGワールドの弾正の情報が出ると、オヤジの話を書けなくなりそうだし。
彼にはあと1話で退場してもらう事にしましょう。
公式が【対魔忍版吉良吉影】こと、斎藤教諭に構っている今がチャンスだ!
「ふふふ……始まってしまったな、貴様の処刑が」
なんて月並みな台詞を吐きながら構える弾正。
さて、ここに彼我の戦力分析を行ってみよう。
相手は特製(笑)の対魔スーツに身を包み、目につく武器は手に持った忍者刀のみ。
対する俺は防弾防刃コートを始めとするお馴染みの黒ずくめ。
いつもと違うのは手にしているのは訓練用の木刀ということか。
断っておくが、これは向こうが付けてきた条件とかではない。
俺が自発的にやっている事だ。
例えサイバネ強化されていようと、弾正程度に本身を使っていては上には行けないからな。
最初は蛍丸君の愛刀『ちゅんちゅん丸』(塩ビ製)を借りようと思っていたのだが、甚内殿から強硬な反対を受けて断念した。
息子の玩具がオッサンの汚い血に塗れるのは、親として看過できなかったのだろう。
こちらの配慮の足りなさを猛省するばかりである。
「行くぞ、まずは小手調べだ!」
こちらが反応を示さない事に焦れたのか、言葉と共にこちらへと駆けだす弾正。
不敵な笑みとは裏腹に、その動きは呆れるほどに遅い。
これならウチの下忍の方がよっぽどマシな動きをするぞ。
「はぁっ!」
気合と共に突き出される忍者刀、その切っ先を紙一重で躱すと同時に俺は右足を跳ね上げる。
「ぶげぇっ!?」
それに次いで汚い悲鳴を上げた弾正がもんどり打って石畳に叩きつけられる。
戴天流剣法が一手、臥龍尾。
コートの
それに今の感触───人の頭蓋にしてはいささか硬すぎる。
「ば……馬鹿なッ!?」
コメカミを押さえながら、信じられないという表情で起き上がる弾正。
「いや、信じられないのはこっちの方だっつーの。ウチの下忍より体術がしょっぱいってどういう事だよ」
溜息と共に言ってやれば、奴の顏がまた赤黒く染まる。
「黙れっ!!」
激昂しながら突っ込んでくる弾正。
懐に飛び込んで繰り出すのは、先ほどと同じく腰だめに構えた忍者刀による刺突。
最小限の動きでそれを躱せば、今度は初手を倍する速度で左の貫手が飛んでくる。
たしかふうま体術『穿の型』だったか。
対魔粒子を収束させて相手を穿つ技だそうだが、金属音を伴って伸びた爪や妙に光沢のある指先を見るに正規のモノとは少しばかり違うようだ。
貫手を回避して後方に跳べば、微かな駆動音と共に急激に速度を上げた弾正が間合いを詰めてくる。
「馬鹿が、さっきのは小手調べと言っただろう!」
得意満面で貫手と忍者刀の波状攻撃を仕掛けてくる弾正。
会場から騒めきが起こるのも無理はない。
奴のスピードは今やヘタな上忍のそれを凌駕しているのだから。
唐竹・袈裟・胴薙ぎ・逆風。
次々と繰り出される剣術における8種の太刀筋と、その合間を埋めるように襲い来る貫手。
足を止めた俺はその悉くを波濤任櫂で捌いていく。
なるほど、奴の攻撃はスピードだけなら一流の剣士にも劣らないだろう。
だが───
「まだ甘い」
十数度目かの顔面狙いの貫手に合わせて木刀を振り上げれば、甲高い擦過音を残して奴の手首が宙を舞う。
そして綺麗に断たれた断面から覗くのは、肉と骨ではなく金属フレームと各種配線だ。
「なにぃッ!?」
「やっぱり
つぶやきと共に足刀を喉に叩き込めば、潰れたカエルのような悲鳴を上げて吹っ飛ぶ弾正。
如何に人の限界を超える速度を手に入れたところで、サイバネパーツの性能は前世に比べれば大幅に劣る。
加えて弾正の体術は並にも届かないお粗末なもの。
見切るのはあくびが出るほど簡単だ。
それを見ていた客席からも動揺は消え失せ、再び歓声とブーイングが木霊する。
「ありえん! 貴様のような目抜けが、俺の能力に付いてくるなど……ッ!?」
喉に装甲か衝撃吸収剤を仕込んでいるのだろう、急所に入ったにも拘わらず弾正はさしたるダメージも無く起き上がる。
サイボーグを相手にした場合、何が最も恐ろしいか?
それは機械ならではの特殊能力でも内蔵された武器でもなく、人外の身体能力で達人級の武術を振るう点だと俺は考える。
考えてみてほしい。
戦車砲並みの破壊力を持った打撃を自在に放つ八極拳士や、容易く音速の壁を破って持ち主の意のままに相手を斬り刻む硬鞭を操る器械武術家を。
その脅威は並の魔族など比較にならないだろう。
そして俺の剣は今までそういった輩を山と葬ってきたのだ。
黎明期の未熟なサイバネパーツを手に入れた三流など怖れる理由は無い。
「使えるモノは出し惜しみせずに使っとけよ、手の内を隠して負けるのは格好悪いぞ。───たとえば肩と膝に隠してる仕込み銃とかな」
そう言うと弾正の顔色は面白いように変わった。
これでも三ケタ以上のサイボーグを相手にしてきた身である。
衣服で隠していようがボディの形状を見れば、どこに何が仕込んであるかなんて察しが付く。
虎の子の隠し武器も看破され、苦虫を噛み潰した顏で後ずさる弾正。
だが、奴は俺の背後に目をやるといやらしく歪めた顔でこう言った。
「二車骸佐よ! この目抜けを殺せッ!!」
言霊と共に真紅の光を発する奴の右目。
邪眼『
視線が合っただけで邪眼所有者を一方的に操ることが出来る、あの男がふうまの頭領の座に君臨し続ける要因となった異能。
だがしかし───
「なに言ってんだ、オッサン。脳みそ腐れたか?」
当然ながらウチの右腕にはそんな物は効かない。
今回のイベントに際して、ウチの邪眼持ちは米田のじっちゃんの魔界医療と俺の退魔術で作成した対邪眼コンタクトを付けてるからな。
「なんだとっ!?」
「アホか。ウチにはお前の情報なんて腐るほどあるんだ、対策を立てて無いワケねーだろ」
「おのれぇ……ならばっ!」
そう呻くと今度は奴の額に次々と切れ目が走り、肉が瞼のように開けば中から目玉が現れる。
『傲眼』第二の能力、知ってはいたがナマで見ると気持ち悪い事この上ない。
「行け! この会場にいる邪眼持ちを探し出せ!!」
タイマンそっちのけで叫ぶ弾正。
この時点で反則負けだと思うんだが、使えるモノは全て使えと煽ったのはこっちだ。
卑怯などと野暮な事は言うまい。
───もっとも好きにさせてやるつもりもないがな。
「天を我が父と
俺が呪と共に刀印で九字を切ると武舞台の四方から緑・赤・白・黒の氣が立ち昇り、弾正の額から放たれた傲眼が掻き消えるように消え失せた。
「俺の傲眼が……! なんだ!? なにをやった、目抜けぇ!!」
「
奴の傲眼封じの一環として、事前に隼人学園の先生達に木・火・金・水の属性の氣を込めてもらった血玉を武舞台の東西南北に仕込んでおいたのだ。
身固式の咒は四神の力を使って強力な破邪結界を形成する術。
それぞれの属性を込めた血玉を起点とすれば、邪眼を封じてあまりある強力なモノが張れるという寸法だ。
「退魔術だと!? おのれ、どのような絡繰りで……ッ!?」
「さてな。こっちが場所を指定した時点で、何か仕込んでると思わない方がマヌケなんだよ。───さて、そろそろ終わらせるか」
「うぬぬ……ヘスティア、メイジャー! 何をしている、奴を殺せ!!」
予想通りに護衛のサイボーグをけしかけようとする弾正。
しかし、奴の背後にはすでに二人の姿は無かった。
「な……」
「気づいてなかったのか? あの二人はとっくに帰ってるぞ。ヘスティア大尉の体調がどうのって言って」
原因は奴自身にあるのだが、その辺は言わぬが華だろう。
「う…うぅ……頼む! 命だけは……命だけは助けてくれ!!」
先ほどまでの傲慢な相はどこへやら、其の場で土下座で命乞いをする弾正。
その姿に会場から嘲笑の声が上がるが、コイツはハッタリだ。
なんたって、態度に反してその目からは明確な殺『意』が漏れ出しているのだから。
「心配すんな。アンタには重要な役目がある、命までは取りはしないさ」
そう言って少しづつ近づけば、奴はあっさりと化けの皮を脱ぎ去った。
「そうか! なら……死ねぇ!」
弾正の声に合わせてスーツを破って肩口に現れたのは、なんとレーザー発振装置。
サイバネパーツに内蔵できるくらいに小型化できたのかと感心する俺の額を、放たれた青い光が容赦なく撃ち抜く。
「馬鹿めぇッ! 最後の最後に油断するとは、だから貴様は目抜けなのだぁ!!」
立ち上がっていいようにこちらを嘲笑する弾正。
「───は?」
しかし次の瞬間に蜃気楼のように掻き消えた俺の姿に、奴は見事なマヌケ面を浮かべた。
そう、今の不意打ちが捉えたのは残像。
本物は軽身功による身のこなしで奴の背後に移動済みだ。
さて、ここからがこの茶番の見せ場である。
ただ勝つだけなら初手で首を吹っ飛ばせばいい。
奴が攻めている最中だって、討てる隙は腐るほどあった。
けれど、この戦いはただ勝てばいいというモノじゃない。
ふうま衆はもちろん、ゲストである他の勢力に文句なしの代替わりを示す為、弾正の手の内を全て封じたうえで圧勝する必要があったのだ。
その為に色々と面倒な手順も踏んだが、そいつも終わりだ。
ここまで追い詰めたなら連中も納得してくれるだろう。
最後の〆へと気を引き締め、俺は最近さらに良くなった内勁の周天を加速させる。
今出せる限界に到達した軽身功は身のこなしを音速へと引き上げ、弾正の四方に3体の残像を生み出す。
「こ…これは……っ! ぎゃあああああああああっ!?」
そして本体を含めた四人の俺が交差すると、付け根から四肢を斬り落とされた弾正が悲鳴を上げながら石畳に叩きつけられた。
見たのが十年近く前だからアラも多々あるだろうが、わりかし上手く再現できたんじゃなかろうか。
「忍法『殺陣華』ってな」
◇
現頭領たるふうま小太郎の勝利に会場が湧きたつ中、一際大きな笑い声をあげる者がいた。
心願寺幻庵。
三家に数を減らしたふうま八将が一つ、心願寺家の老当主である。
「いやはや若様も肝が太い。よもやこういう形でアピールするとはのぉ」
「どういう事ですか、お爺様?」
隣で観戦していた紅に、幻庵は喉仏まで伸びた髭をしごきながら答える。
「若様が最後に放ったのはな、井河アサギの忍法である『殺陣華』の模倣じゃ。どういう絡繰りで隼の術による加速を埋めたのかは分からんが、動きといい太刀筋といい、よくできておった」
「はぁ……」
「なんじゃ、察しが悪いのぉ。龍よ、対魔忍にとって忍術とは何か分かるか?」
「おう! 必殺技だぞ!!」
「そうじゃ。対魔忍にとって忍術とは身に宿した異能の集大成にして切り札。だからこそ対魔忍を相手取った時は、忍術を看破する事こそが勝利の道と言われておる」
「じゃあ、小太郎がアサギの忍法を真似たってことは───」
「彼奴の忍法を見切ったという事。転じて最強の対魔忍を超えたという証明になるじゃろうなぁ」
「小太郎……」
愉快愉快と笑う祖父を他所に、弾正を引きずって骸佐の元へと戻る自身の主に紅は愁いを帯びた表情で視線を向けた。
一方、この結果に深いため息を付いたのは甲河朧である。
「まさかこんな形で世代交代を示すなんて……。これで対魔忍の勢力も変わっていくでしょうね」
故あって素顔を晒せない彼女は仮面の奥で目を細める。
外敵の影響により対魔忍同志で争う事が出来ない現状では、この一戦は多大な影響を持つことになる。
もちろん、これで小太郎がアサギより強いと決めつけては異論や反論が多々出るだろう。
しかしそれは現在での話だ。
小太郎はいまだ15にもならない少年、30を過ぎて心身共に下り坂を迎えるアサギとは伸びしろのケタが違う。
これを見た者達は10年、早ければ5年以内に最強の対魔忍の座は入れ替わると確信したはずだ。
そしてそうなった時、対魔忍は新たな世代を迎える事になるだろう。
「嬉しそうね、アスカ」
朧は隣で身体を掻き抱いている自身の主に目を向ける。
たしかに自身の両手の中にある身体はブルブルと震えている。
だが、これは決して怖れからのモノでは無い。
何故なら甲河アスカの顏には爛々と輝く瞳と、獣を思わせる獰猛な笑みが浮かんでいるのだから。
「そりゃあそうでしょう。ようやく私達にバトンが渡ったんだもの、これで血が滾らなきゃウソよ」
甲河アスカの井河アサギに対する想いは複雑だ。
恩人であり育ての親という面では尊敬しているが、同時に沢木浩介に関しては恨んですらいる。
しかし甲河を率いる頭領、そして一介の対魔忍としては目の上のたん瘤だった。
年としては一回り上の隔絶した力を持つ彼女が対魔忍の頂点に居続けるのを見ていると、自分達の世代に出番が来ないのではという危機感があったのだ。
立場や状況から直接戦う事が難しくなった以上、彼女を引きずり下ろすには井河アサギを超えたという明確な証拠を残さないといけない。
その難題を眼下の少年は見事に成し遂げた。
ようやく自分達の為の舞台が幕を開けようとしているのだ、喜ばない方がウソだろう。
抑えた激情が風となって亜麻色の髪を噴き上げる中、友人兼弟分であった少年に鋭い視線を向けた甲河頭領はこう宣言した。
「テッペンで待ってなさい、小太郎。私が作り出す人機一体の新生甲河忍軍を見せてあげるから」
「やってくれちゃったわね、あの悪戯坊主」
世界に数えるほどしかいない吸血鬼の始祖、ヴラド国女王カーラ・クロムウェルは額に手を当てて天を仰いだ。
彼女にとっては小太郎がアサギを超えうる人間である事は先刻承知だ。
だが、それを示すには時期が悪い。
ただでさえ氣功術でこの国のトップから目を付けられているのに、さらに最強の対魔忍などという称号を得てしまっては、引き抜きがなおさら困難になってしまう。
「あれは多分、彼なりの井河アサギへの引導なんでしょう」
「どういう事、マリカ?」
「聞けば井河アサギは近く引退するといいます。私も武門の端くれなので分かるのですが、退くと決めた人間が最強の座に居座り続けるのは都合が悪いのですよ。周囲にも、そして当人にも」
「引退だと聞けば衰えたと捉える者も多いわ。となれば、功名心や復讐心で彼女を狙う者も出てくるでしょうね」
「だから功名心目当ての相手だけでも自分に引き付ける、か。そういう理由じゃあ仕方ないわね」
北江の言葉を受けて、カーラは大きく肩をすくめてみせる。
「あら、今日は物分かりがいいのね」
「私も女ですもの、身重の女性の事を思ったのなら怒れないわよ。それにちゃんと成果も見れたしね」
「成果?」
「こっちの事よ、気にしないで」
そう言うと、女王は意味深な笑みを浮かべるのだった。
「やられたわね……」
井河アサギは小さく呟くと自嘲を浮かべた。
アサギが小太郎に『殺陣華』を見せたのはただ一度。
反乱鎮圧直後に行われた、あの悪趣味な見世物の中だけだ。
十年前に見せた未熟で、しかも手加減をした奥義。
それだけでああも見事に自分の奥義を再現されてしまったのだ。
当人からすれば、怒りを通り越して笑うしかない。
同時に敢えてこの場であの技を出した小太郎の思いも、アサギは理解することが出来た。
「さくら、帰ったら幹部を集めてちょうだい。みんなに私が引退する事を伝えるわ」
事前に彼女の意思を聞いていた沢木浩介とさくらは驚きはしなかった。
ただ寂しそうな顔をするだけだ。
「お姉ちゃん……」
「なんて顏してるの、さくら。気を引き締めなさい、あの子も含めて貴方の一つ下の世代は曲者揃いよ」
『なにせ上の世代からバトンを奪い取るなんて、私達だってしようとも思わなかったもの』と晴れ晴れとした表情でほほ笑むアサギが、何故だか二人には小さく見えた。
ところ変わって、こちらは地下打撃練習場に集まったふうま衆の面々。
彼等はガッチリと肩を組んで部屋いっぱいになるほどの大きな円陣を組んでいた。
「ふうま衆……ファイッ!」
「おおっ!」
「ファイッ!!」
「おおっ!!」
「ファイッ!!!」
「おおおおおおおおおおっ!!」
ふうま天音の号令のもと気合を入れ直した彼等は、各々バットを手にグラウンドへと歩き出す。
さあ、祭りの時間だ!!