剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く 作:アキ山
対魔忍RPGのミッションが緩和されてかなり楽になりました。
うん、メインクエスト全部終わらせてるのに、週15回クリアとか地味にキツかったし。
これで次の五車祭りに向けて石を溜められるというものです。
さて、次に来るのは権左と骸佐かな?
▼月△☆日
ふうま忍軍最大の癌を排除できて一安心の小太郎です。
さて、狂乱のバッティング大会から数日が過ぎた。
時子姉がブチかました軍事衛星ジャックで言及されないかとビクビクしていたのだが、幸いな事にそういった事はなかった。
代わりと言ってはなんだが、何故かノマドのブッさんからお祝いメールが来た。
あのおっさん、ドローン越しに一部始終を見ていたようで『下手なバラエティー番組より面白かった。グッド!』と感想が書いてあった。
あと、何故か例のバーサーカー娘との婚姻届けが同封されていたので、そりゃあもう力一杯引き千切っておきました。
掛け声的に『ふんんっ!!』って感じに。
つーか日本とブラド国にオファーが掛かってるのに、ノマドトップの娘と政略結婚とかどう考えても無いから。
それは兎も角、今日の本題に移る事にしよう。
本日、井河家頭領・井河アサギの引退が正式に通告された。
以前までのように井河さくらを交渉の前面に押すような内々の対応ではなく、頭領認め印が押された書面による正式な通達だ。
これでよほどのことが無い限りアサギが現場に戻ってくる事は無いだろう。
もっとも十年前に引退破棄を行っているので絶対とは言い難いが。
この知らせを受けて公安は上へ下への大騒ぎだそうな。
向こうだって妹のさくらが頭領としての引継ぎを受けて独り立ちするまでは、アサギが面倒を見ると思ってただろうから、そうなるのも無理はないが。
今回の件はふうま陣営では朗報として迎えられた。
まあ、反乱の時からずっとアサギはふうまにとって目の上のタンコブだったしな。
下の者達にしてみれば消えてくれて万々歳なんだろう。
俺としては対魔忍という勢力で見ると大幅な戦力ダウンになるので、この事態を招いた身ながら少々複雑な気分だ。
とはいえ身重の女性に大役を任せるのも気が引けるし、これからの魔界勢力の対応に目を向ければブラック憎しのアサギがいると何かにつけて都合が悪い。
先を見るなら消極的賛成と言ったところだろう。
ウチの内情的にはこんな感じなのだが、今回のアサギの引退に猛然と反対を示す者が一人いた。
それは堅気の道を歩み始めていた若アサギこと優陽である。
奴はこの世界のアサギが第一線から退く事で自分にヤヴァイ因果が降りかかる事を怖れたのだろう。
この話を聞いた瞬間に『ふっざけんなぁぁぁぁぁぁっ!!』と大噴火。
さらに「お前が消えたら私に不幸が飛んでくるじゃねぇかぁっ! 妊娠くらいで引退してんじゃねーよ!! 『ママは対魔忍』しろよぉぉぉぉっ!!!」と人として最低の発言を連発。
横で若さくらこと日向が『お姉ちゃん…おいたわしい……』と涙を流す中、そりゃあもう大暴れをしてくれた。
まあ、話の会場は奴等のマンションで壊れたのもむこうの私物だからいいんだけどさ。
まったく、だから整形しとけって言ったのに……
あまりに哀れだったので、近所の神社から厄除け守りを買ってやった。
アサギの高校卒業を目途にしていたが、奴等の独立を速めた方がいいかもしれん。
独立の為のお金って、どのくらい包めばいいのかなぁ……
▼月△□日
今日はノマドから招待状が届いた。
内容は例のZ級映画の完成試写会だそうな。
つーか、出来るの早過ぎである。
普通映画って1年くらいかかるじゃないの。
大作になったら制作期間10年とかザラだしさ。
いったいどんな魔法を使ったんスか、ブッさん?
どう考えても『アイアンマン』の超絶劣化パクリである『メタルマン』に匹敵するクソ映画になるであろう今作。
この短い制作期間と相まって嫌な予感しかしない。
取り合えず制作に関わった者の一人としては心配なので行っときたいのだが、果たして骸佐達が認めてくれるだろうか?
むこうも撮影の時みたいに宮内庁に手を回してる可能性も高いだろうから、まあなるようになるか。
出来の次第とスタッフロールによっては、ブッさんと戦ってでも上映阻止を視野に入れねばならんが……
▼月☆△日
映画の件はさて置き、今日は心願寺一門と話をしてきた。
内容は爺様と紅姉にブラック討伐の猶予を貰う事。
何故こんな話をしたかというと、ノイ婆ちゃんやリリス嬢というノマドを挟まない筋から例のゾンビ騒ぎの時に聞いた話の裏が取れたからだ。
婆ちゃん達の証言だと、地上進出の可能性がある魔界の列強はブッさんが言っていた淫魔王・オークキング・レイスの他にも複数存在するらしい。
まずは溶岩が流れる魔界の灼熱地帯の支配者にして炎獄の女王の異名を持つアスタロト。
ブリュンヒルデにロスヴァイセと、何故か北欧神話の戦乙女の名を名乗っている上級鬼神族。
血液を自在に操る能力を持つ魔族屈指の支配階級である血の君主、メイア・ブラッドロード。
アラクネ族の姫で、髪を操り相手の生気を吸う能力を持つ蜘蛛姫アネモネなどなど。
男女比が0:10なのが少々引っ掛かったが、その辺は口にしても詮無き事だ。
上記の中でもメイア・ブラッドロードに関してはナディア講師の知り合いらしいので、彼女に仲介を頼めば話し合いに持ち込むことも不可能ではない。
しかし、それ以外に関しては基本弱肉強食のヒャッハー共なのでOUTだそうな。
こうして改めて確認すると向こう側の群雄割拠ぶりに頭が痛くなる。
そして現状でブラックを排除するのは、奴等の勢力争いの舞台を人間界に移すのを意味する。
そうなれば地上が創作物に出てくる世紀末並みに荒廃するのは火を見るより明らか。
そこでノマドの勢力拡大を防ぎつつ、さりとて影響を削り過ぎない調律された紛争が必要になるワケだ。
期間は人類が魔界勢力に対抗できる力を手に入れるまで、ときた。
こんな離れ業、ふうま一党だけでやれるワケがない。
日本政府と他の勢力に関しては追々説明の場を設けようと思っているけど、それも自分の足場を固めないと儘ならない。
そこで事前にブラックと因縁が深い心願寺に話を通そうと思ったのだ。
本来なら頭領の権限を振りかざせば済む話なのだが、それは悪手でしかないし俺自身もしたくない。
心願寺の爺様が娘奪還にどれだけ執念を燃やしてきたかも、ガキの頃からの付き合いなので十二分に知っている。
20年という猶予の期間は、事実上爺様に諦めろと言っているのと変わらないだろう。
それでも俺は言わねばならなかった。
爺様の心情を取ればノマドとの全面戦争に加えて、勝ったとしても魔界からの新興勢力と刃を交える事になる。
そうなればふうま衆を始めとして、この国にどれだけの被害が及ぶか分かったものでは無い。
だからこそ俺は非公式の訪問と形を整え、こちらの考えを全て説明したうえで土下座で爺様に謝った。
実際、爺様に対してできる詫びはこれしか思いつかなかったからだ。
正直離反や斬りかかられる事も覚悟していたのだが、ありがたい事に爺様は納得してくれた。
その代わり、紅姉を心願寺楓に会わせてやってほしいとだけ頼まれた。
ブラックの打倒ではなく娘と孫の再会を望んでいるあたり、爺様がどれだけ二人を案じているのかがよくわかる。
二車の小父さんに続いて破る事の出来ない約束事が増えてしまったが、先に勝手を言ったのはこっちだ。
そこはしっかりと果たすとしよう。
▼月☆●日
えー、本日は例のク●映画の試写会に行ってまいりました。
昨日と今日で話題の温度差が酷いが、日記とはこういうモノと割り切ろう。
まず最初に言いたいのは、なんで主演が俳優じゃなくて俺とブッさんになってるんですかねぇ……
つーか、実際にスタントした時以外の二人の場面が全て最新鋭の投射式立体ホログラムなんて、技術の無駄使いにも程があるだろう。
しかも音声に関してはゾンビ事件の時に実際に言ってた事を録音&抽出して当ててるとか。
わざわざ俳優雇った意味ゼロじゃん、これ。
映画の内容に関しては良くも悪くもB級アクションでした。
まあ、随所に入ってるダンスなんかはゾンビ物としては斬新と言えば斬新だけど。
そういった演出で話のテンポが悪くなったりくどく感じさせない辺り、マダムが監修を担当しただけの事はあると思う。
個人的感想を言えばゴールデンラズベリー賞は回避できるものの、名作というにはまだまだだと思う。
まあ、本上映の際には『壮絶実話!』とか付加価値付けて売り出すそうなのである程度の興行成績は出すかもしれんが。
あと試写会が済んだ後にブッさんから聞いた話では、俳優交代の真相はマダムにあったらしい。
なんでも俺のスタントの後に撮影に入った俳優たちが伝説の映画『実写版デビルマン』の主演を凌ぐほどの大根っぷりだったそうだ。
そのあまりの演技にマダムがガチギレしてしまい、思わず噴射したスネークポイズンによって主演二人はリタイヤ。
代わりの俳優を呼ぼうとしたものの先に撮った俺のスタント姿に合致する者は見つからず、こうなったらとカオスアリーナに最近取り入れた最新機器のホログラムで代用らしい。
これを見たブッさんも『だったら私のパートもホログラムにしよう』と言い始め、こっちもそれで代用となったそうな。
なるほど、そういう事情なら仕方がない。
俺の役で『あー、オレ、ニンジャになっちゃったよー』とか棒読みされたら、全身全霊で映画の公開を止めただろうし。
ただね、一応俺も諜報機関の一員なんスよ。
スタッフロールに実名出すのはやめてほしかったなぁ……
▼月☆◇日
最強の対魔忍アサギの引退はここまでの影響を及ぼすモノか、と戦慄している小太郎です。
本日、宮内庁に謎の怪文章が届きました。
内容にあっては『ふうま小太郎。貴様のような忍術も使えん男がアサギ様を超えたなど私は認めん! よって、〇月×日に私と立ち合え! 八津紫』だったそうな。
学長からこの話を聞いた時はギャグで言ってるのかと思ったわ。
けど、改めて考えると十分予測できた話なんだよなぁ、コレ。
井河忍軍の中だと八津妹はアサギの右腕にしてぶっちぎりのアサギシンパなのだ。
引退の理由としてアサギかさくらが俺の事をダシに使ったとしたら、暴走した奴がこういう行動に出てもおかしくない。
さて、これまた難題が降ってきたモノだ。
ぶっちゃけ、ふうま的に見れば八津妹を殺さない理由がない。
こんな果たし状なんて取り合う必要は無いし、下にこの件が知れれば奴の首を取りたいという立候補者は山と出てくるだろう。
だがしかし、それをやってしまうと井河がエライ事になってしまう
アサギが退く以上、井河でエースとなるのはさくらと八津妹だ。
さくらが頭領の座を継ぐ事を思えば、現場に出るのはもう一方の役目になるだろう。
その八津妹がここでスポーンと抜けてみろ。
戦力的にも立場的にも井河の弱体化は待ったなしである。
ふうま単体なら『ざまぁwww』で済む話だが、日本の対魔戦力全体ではそうはいかない。
アサギの力は無くても井河は対魔忍の主流なのだ、それが機能不全になれば国防の大きな穴になる。
それに加えて井河で最も有能と言われる八津九郎の恨みを買うのも面倒くさい。
とりあえず、井河に連絡を取ってみよう。
ぶっちゃけ、むこうで八津妹を処分してくれたら一番楽だし。
◇
『『本当に申し訳ありません』』
井河に通話を開いた途端、眼の前に飛び込んできたのは、当代と次期頭領による姉妹揃っての土下座でした。
つーか、君達は土下座しすぎじゃないかね?
いくら『敗北のベストオブベスト』でも、乱発したらありがたみが無いんだが……
あと、全裸じゃなかった事は評価しておこう。
「とりあえず、そちらも状況を把握しているという事でいいんですね?」
『はい。今朝がた山本長官経由で聞きました』
蒼白になった顔を上げるアサギに思わず眉根がよってしまう。
妊婦ってストレスが大敵じゃなかったっけか?
「しかし、何故公安は手紙を宮内庁に? 双方共に書面のやり取りなんてやってないでしょう。我々絡みだったら尚更」
『それはむっちゃ……八津紫が書状を託したのは公安の平職員だったらしく、彼女から「対魔忍同士の重要書類だ!」と言われたのと勢いに押されて持っていったと……』
話の流れからすると、奴の事だから自慢の馬鹿力を駆使した脅しも行われていたのだろう。
その職員はご愁傷様である。
「それで、今回の一件をそちらはどう処理するつもりですか?」
そう問いかけると途端に言いよどむアサギとさくら。
今回の件は忍の常識に照らせば下手人の首を手土産に詫びを入れて、初めて賠償等々に関する交渉の場に立てるくらいの案件だ。
相手が苛烈なら八津家一族郎党全員の首を要求されてもおかしくない。
俺的には千切った首を並べられても嬉しくとも何ともないので、そんな事を要求する気は無いが。
それでも今回に関しては、俺から八津妹を許すなんて事は絶対に言えない。
こっちも弾正を処理して頭領の地位を固めたばかりなのだ、他の組織に嘗められるような真似をしては一党内の信用に拘わる。
「井河殿の下忍が跳ね返ったんです、ウチに被害が出る前にそちらで八津の首を上げるのが筋ってものでしょう」
『それはそうですが……八津紫は我々の中核を占める戦力でして』
「その幹部が私に果たし状を送ってきたという事は、この喧嘩は井河の総意と捉えてよろしいので?」
『そんな事はありません! ノマドを始めとする魔界勢力がはびこる中、対魔忍同士で争うなど愚の骨頂です!!』
だろうね。
そんな馬鹿やらかしたら、間違いなく井河は公安から切られるだろうし。
ウチに関しては俺の氣功術がある限り見放される事は無いだろうが。
つーか、さっきからアサギばっかり対応してるんだけど、さくらもなんかしゃべれよ。
「では、書状通りに私が八津と一戦交えればよいのですか? その場合は井河による頭領襲撃という事になるので、どのみち戦端が開かれると思いますが」
『それは……』
返す言葉が無いのかアサギが黙り込むと今度はさくらが口を開いた。
『紫は……きっとふうま殿に勝てば姉が引退を取り消すと思っているんです』
「それはどうして?」
『姉が引退の理由を問われた時に、「ふうま殿の力が自分を超えたからだ」と答えてしまったんです。でも、紫はそれが不満だったようで……』
「なるほど。『忍術もロクに使えない目抜けのガキがアサギ様を上回るワケがない。奴を倒せばアサギ様も目を覚ます』とでも考えたワケですか。───けどそれは八津の勝手な思い込みですし、第一ウチには何の関係もないですよね」
『はい、その通りです』
「なら、八津の首を持ってきてください。慰謝料に関してはその際にお話しする事にしましょう」
俺はそう言って通信を切った。
さて、これで井河はどう出るか?
八津妹が死ぬことを前提に話をしたが、一応抜け道は用意してやった。
さすがにこちらから説明はできないが、果たしてアサギとさくらがそれに気づくかどうか。
それも八津妹がこちらを襲ったらオジャンになる代物だ。
もしウチの人間に被害が出たら俺も容赦なく奴を殺すつもりだしな。
今回の件はある意味さくらに対する試金石になるだろう。
なんとか間に合わせてほしいモノである。
◇
おまけ
ある日のブラック家
ブッさん「いやはや、なかなかに見ごたえのあるショーだった。まさか、井河アサギの奥義を真似てみせるとはな」
ふぇり「パパ」
ブッさん「なにかね、フェリシア?」
ふぇり「ふぇり、おかしくなっちゃった」
ブッさん「なんだと!? 風邪か、それとも悪いモノを食べたか? ───ともかくフュルストに診てもらわねば」
ふぇり「ちがうの」
ブッさん「む、何が違うのだ?」
ふぇり「さっきの男の子を見てるとむねがドキドキするの。こんなの、パパにしかなったことがないのに……」
ブッさん「……フェリシア、よくお聞き」
ふぇり「なに?」
ブッさん「それは恋だ。お前はふうま小太郎に心を奪われてしまったんだよ」
ふぇり「よくわからない……」
ブッさん「では問おう。今も小太郎君の事を考えると胸が高鳴る……ドキドキしないかね?」
ふぇり「…………する」
ブッさん「そうすると小太郎君が欲しくなるだろう?」
ふぇり「なる。これが『こい』なの?」
ブッさん「ああ、異性を好きになるとはそういう事だ。私はお前の恋を全力で応援させてもらうよ」
ふぇり「じゃあ、こたろうと会わせてくれる?」
ブッさん「もちろんだとも」
ふぇり「ありがとう、ぱぱ。ふぇり、トイレに行ってくるね」
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ブッさん「ッシャア!!!」
エドウィン・ブラック、地雷原脱出。