剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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お待たせしました、最新話更新です。

 五車祭り、五車祭り!

 アサギも舞も来やしねぇ!!

 150個石を使って来たのは汚朧(有能)とクラクル、あとはアルカだよ!!(涙)

 ガチャ期間3日とか、短すぎやしませんかねぇ!!

 愚痴はこの辺にして相変わらずの遅筆ですが、何とか執筆スピードを上げていきたいと思ってますので、何卒よろしくお願いします


日記42冊目

◎月△日

 

 近頃の自分を取り巻く環境に『ふざけんな!』と言いたい小太郎です。

 

 今日、政府の広報部から妙な依頼が来ました。

 

 何でも現役アイドルとコラボレーションイベントを行うので協力してほしいとの事。

 

 最初に見た時はギャグじゃないかと疑ったが、残念な事に本当だった。

 

 つーか、政府はこちらの仕事を本当に理解しているのだろうか?

 

 俺等は皇室や政府が表立って動けない事を秘密裏に処理するドブさらいなんですがねぇ……

 

 宮内庁は帝との謁見を契機に学長を飛び越えて依頼をかけて来るようになったが、今回はさすがにやり過ぎだろう。

 

 そんなワケで抗議の声を上げてみると、相手先からこんな返事が返ってきた。

 

『頭領自ら動画サイトに続いて銀幕デビューまで果たしているんだから、この位は大したことないでしょう?』

 

 これを言われるとこちらも弱い。

 

 というか、YOU●UBEはともかく後者についてはアンタ等の依頼が原因じゃねーか。

 

 先制ジャブ的なジョークはさて置き、真面目な理由としてはアサギ引退によって政府内で噴出した対魔忍不要論に対して、イメージアップを図るための一環なんだそうな。

 

 同業他社としてはイマイチ納得のいかない話だが、お偉いさん達にしてみれば対魔忍=アサギというイメージが根強いのだろう。

 

 俺が解決したデカいヤマって、去年のカーラ女王の叔父が起こした寄生虫テロを防いだことくらいだし。

 

 ともかく、こちらはしがない雇われの身。

 

 構成員のお上がやると決めた以上はおいそれ反対などできん。

 

 ここは適当におちゃらけて、アイドル様に裏社会との接点ができないように動くとしよう。

 

 

◎月☆日

 

 

 久々にめでたいニュースである。

 

 今日、権左兄ィと静子さんが晴れて夫婦となった。

 

 もちろん結婚式・披露宴共に参加させてもらったのだが、まさかスピーチを求められるとは思わんかった。

 

 こういうのって年長者がやるもんじゃないの?

 

 ほら二車だったら比丘尼のおばば様とかいるじゃん。

 

 とはいえ名指しで任された以上は断る訳にはいかない。

 

 二人の門出を祝う為とシワの薄い脳みそをフル回転したのだが、果たして上手くいっただろうか。

 

 次に結婚式恒例である花嫁からのブーケトスだが、受け取る側がガチ過ぎて戦場みたいになっていた。

 

 改めて考えたらウチのくノ一衆ってけっこう独身が多いのよ。

 

 ほら桔梗とか左近とか、ウチの姉とかも彼氏ができたとかまったく聞かんし。

 

 そういう事もあって三十路が過ぎたお姉様がたが色々なモノを剥き出しで取り合ったワケですわ。

 

 怒号や罵声が飛び交う中で忍術を使う奴まで現れて、見ていた俺達はドン引きである。

 

 結果を言えば、ボロボロで花が全て落ちてしまったブーケを手に勝ち鬨を挙げたのは優陽だった。

 

 それを見た時、俺は涙を禁じ得なかった。

 

 片やふうま衆でも屈指の優良物件を射止めて幸せそうに微笑む花嫁。

 

 片や『ケケーーーーーッ!!』とアマゾンライダーのような奇声を上げてブーケをむしり取った『彼氏いない歴年齢(本人談)』の喪女。

 

 同じ遺伝子を持つはずなのに、この絶対的な格差はなんなのか。

 

 もし、これで静子さんの出自を優陽が知ったら、クローンに嫉妬するオリジナル(並行世界)という、ややこしい事この上ない人間関係が成立したかもしれない。

 

 真実を知る者だけが感じる悲哀はこの辺にしておこう。

 

 女の闘いから気を取り直すようになだれ込んだ披露宴は大盛り上がりだった。

 

 静子さんのお色直しには歓声が上がり、思い出のアルバムでは新郎の親族が提供してくれた金髪リーゼントに特攻服という武丸みたいな恰好をした学生時代の権左兄ィの姿に一同大爆笑。

 

 他にも弟分として懐いていた銃兵衛が祝いの言葉を言おうとして男泣きしたり、新郎のリクエストで俺・骸佐・心願寺の爺様・当人で『とんぼ』を歌ったりと笑いあり涙ありの楽しい宴だった。

 

 これからも少しづつでいいから、こういう祝い事を増やしていけたらと思う。

 

 何はともあれ、ご両人に幸せあれ。

 

 

◎月□日

 

 今日は毎週恒例のアミダハラチャレンジの日だった。

 

 今回は巨大水槽を舞台にクラーケンと一戦交える事となった。

 

 遠慮なくイカ刺しにしてやったが、さすがの魔女でもコレは食わないらしく、あわれクラーケンは皿に乗る事無く処分されてしまった。

 

 まあ、それについては全然モーマンタイなのだが、それ以外に気になる事がある。

 

 ノイ婆ちゃんが俺にけしかけてくる化け物が五行思想の相生に則っているという事だ。

 

 初回がドライアド、次がイフリート。

 

 三回目に土の精霊とかいうマッチョが来て、さらに金ぴかゴーレムが立ちはだかる。

 

 そして今回のイカを含めると見事に木→火→土→金→水の五行相生の構図が出来上がるワケだ。

 

 どんな意図があって婆ちゃんがこのチョイスをしているのか分からんが、もしかして割とシャレにならない事の片棒を担がされてるのではなかろうか。

 

 とはいえ、この週間トレーニングは女王に対する横紙破りの補填だ。

 

 相応の理由が無ければ断る訳にはいかん。

 

 骸佐の監視もあって現場に出る数も減ってる現状では実践経験を錆び付かせない事にも役立ってるし、こちらとしてはもう少し様子を見ようと思う。

 

 女王とノイ婆ちゃんが絡んでるなら、そこまで悪い事にはならんだろうしな。

 

 それはともかく、アミダハラの帰り道に久々に剣術勝負を仕掛けられた。

 

 相手は村雲源之助という逸刀流の使い手なんだが、そんな事はどうでもいい。

 

 問題は奴が鬼面を付けているという事だ。

 

 今日のお面がプリキ●アな事もあって、俺の道化感がハンパなさすぎるではないか。

 

 つーか、俺以外の仮面の剣士などド許せぬ!

 

 『ムジュラーは俺一人でいい』とヒャッハーした結果、村雲君とやらはあっさりと天に召されてしまった。

 

 彼の剣腕はかなりの物だったし、五連突きや打ち下ろしとか見るべきところはいっぱいあった。

 

 まあ、不利になった途端に傀儡系の忍法に頼ったのはちょっと興ざめだったけど。

 

 つーか、逸刀流・断固相殺剣って何だったんだろうか?

 

 そんな死亡フラグ満載の技を使われたら、こっちも『秘孔・新血愁!!』とかやっちゃうじゃないか。

 

 まあ、実際には貫光迅雷で心臓ブチ抜いたんですけどね。

 

 そんなワケで、ネタ的要素を排すれば今回の立ち合いは楽しめた。

 

 今わの際に秋山凛子の縁者だと言われた時はちょっと焦ったけど。

 

 八津妹の件がまだなのに、学生妊婦なんていうデンジャー生物の尻まで拭けんぞ。

 

 なんか『人の道を外れてまで強さを求めながら、貴様に挑む事無く果てる俺を笑うがいい……』とか言っていたが、凛子の奴は人倫という意味で豪快に道を逸れて行ったから笑う事は無いと思う。

 

 東京に帰った後で念のために達郎に確認を取ったのだが、こんな感じだった。

 

「───というワケなんだが、憶えは無いか聞いてくれ」

 

「分かった…………『誰だそれは? 私の男は達郎だけだ!』だってさ」

 

「あー……ならいいや」

 

「いや、アンタの質問の所為で『私の想いを証明するため』とか言って六連チャンする事になったんだけど……」

 

「……妊娠中にいいのか、それ?」

 

「安定期に入ったから、ある程度なら医者がOKが出してる。でもさ……姉ちゃん今まで出来なくて飢えてるから、ある程度じゃすまないんだよっ!?」

 

「うむ、死ぬがよい」

 

「待って! お願いだから助け……アッーーーーーー!」

 

 久々に連絡を取ったが、秋山姉弟が幸せそうで何よりである。

 

 そう言えば、村雲君が死んだ後に襲って来た女は何者だったんだろうか?

 

 ほぼ条件反射でぶった斬ってしまったんだが……。

 

 まあ、殺ってしまったんだから考えたところでどうにもならん。

 

 忘れよう、忘れよう。  

 

 

 

◎月×日

 

 

 今日は久々に鹿之助の話をしよう。

 

 実は彼、俺達若手世代では銃兵衛に続いて評価が高い。

 

 電遁を使った電気錠の解錠に加えて、電磁ソナーによる索敵。

 

 さらにこの頃は隼人学園で帝釈天真言を憶えて、その梵字を刻んだ手裏剣に術による雷撃を落とせるようになっていた。

 

 とはいえ対魔粒子との相性からか、威力の方は強化したスタンガン程度。

 

 しかし手裏剣を通して体内にまで退魔術の電気が浸透するので、魔族や対魔忍相手でも麻痺や気絶を誘発させることができるそうだ。

 

 電子系統のセキュリティに対して多大なアドバンテージが取れるうえに、自衛の手段も揃ってきている。

 

 そんなワケで潜入系の任務では、鹿之助はかなり引っ張りだこになっているのだ。

 

 これからも場数を踏んで度胸を付けて行けば、将来的には幹部に近い地位へ就く事も可能かもしれない。

 

 そんな鹿之助君だが、今日学校で彼からこんな質問があった。

 

 曰く『リア充とは何ぞや?』

 

 なるほど、深いテーマである。

 

 俺、骸佐、そして鹿之助君というメンツの中で、唯一の非童貞が口にするのだから、その重みは推して知るべしと言えよう。

 

 鹿之助君の言葉を要約すると、この頃従姉である上原燐とは合えば合体ばかりで許嫁らしい事を何もしていないらしい。

 

 俺と骸佐は合体の時点で十分に『許嫁らしいじゃないか』と返したのだが、どうも彼は年相応の恋愛というモノをしたいそうな。

 

 ぶっちゃけ、彼等の関係ではそんなモノ因果地平の彼方へ消え去ってると思うのだが……

 

「オレだって……オレだってぇっ! 姉ちゃんが帰ってきたら押し倒されて喰われるより、デートとかで普通にイチャイチャしてみたいんだよぉぉぉぉっ!?」

 

 そう言うと机に突っ伏して泣きを入れる鹿之助君。

 

 というか、聞く相手を間違っている。

 

 重ねて言うが俺も骸佐も彼女いない歴=年齢である。

 

 同情をするフリをして内心で中指を立てたのは言うまでもない。

 

 

◎月▼日

 

 

 かねてから頭を悩ませていた八津妹事件だが、明日さくらが謝罪に来るそうだ。

 

 今回の件に関しては、八将と宗家の面々は把握している。

 

 全員が井河からの宣戦布告と受け取っており、開戦の狼煙として俺達の手で八津妹の首を取るべしという意見が噴出した。

 

 だがしかし現状ではそれは悪手でしかない。

 

 俺達も主流派も国家に属している。

 

 それが挑発文一つ送られただけで、実害が出たわけでもないのに武力行使に出てしまってはスポンサーの評価はダダ下がりだ。

 

 そもノマド・米連・中華・淫魔族・さらには内調までが蠢いている状態で、政府内の組織間抗争などやってられん。

 

 とはいえ、お咎め無しというのも舐められるだけだ。

 

 なので、さくらがどんなケジメを付けるかによって指針を決める事にした。

 

 しっかり八津妹の首を持ってくるのであれば、交渉のテーブルに付こう。

 

 小細工に頼ったり助命嘆願を行った場合は、周りの事は関係なく然るべき処置を取る。

 

 もちろん謝罪のみなんてのは論外だ。

 

 今回の一件はさくらの当主としての資質に対する試金石となるだろう。

 

 今後の付き合いの兼ね合いある、しっかりと見定めさせてもらおうじゃないか。

 

 

 

 

 ◎月◆日 正午。

 

 俺は宮内庁から借り受けた一室で井河さくらを待っていた。

 

 同席しているのは執事である天音姉ちゃんと骸佐。

 

 俺の右腕と左腕だ。

 

 もちろん護衛もこの部屋周辺に配置されている。

 

 個人的には要らんと思うのだが、これでも一応は頭領だ。

 

 断ると部下から突き上げを受けてしまう。

 

「若、井河さくらが参りました」

 

 周辺を警戒させている桔梗から報告が入る。

 

「通せ」

 

 俺の言葉を受けて入り口の扉がゆっくりと開く。

 

 そうして現れたのは井河さくらただ一人。

 

 正直、オブサーバーでアサギが同行していると思ったのだが、これは意外だった。

 

 普通に考えれば護衛もつけずに単身飛び込んでくるなど、言えた義理ではないが頭領としては間違いなく失格だろう。

 

 それにあのツラ、いつもの能天気さなど微塵も感じさせない覚悟を決めた顔だ。

 

 これは少しだが査定を上向きにする必要があるな。

 

「ようこそ、井河殿」

 

「ふうま殿。今回は配下の者が失礼を働いた事、改めて深くお詫び申し上げます」

 

 謝罪と共に頭を下げようとするさくらに骸佐が待ったをかける。

 

「頭を下げる前に付けるべきケジメがあるだろ。ソイツを出さないなら今回はテーブルにも付けねぇぞ」

 

 骸佐の言葉を受けてさくらは俺達の前に置かれたテーブルへ大事そうに抱えていた荷物を下ろす。

 

 包みを紐解けば、現れたのは薄紫色の髪と蝋のように白くなった顏。

 

 そう、八津紫の首だった。

 

「今回無礼を働いた八津紫の首です。どうかお納めください」

 

 天音姉ちゃんが視線で回収するか問うてきたが、俺は小さく首を横に振る。

 

「検分させていただきましょう。そちらに桐生左馬斗がいる以上、これが本物である確証になりませんので」

 

 俺の言葉に人形の様だったさくらの表情が微かに動く。

 

 もし桐生の手によるフェイクを出しているのなら、謝罪の色なしとして対処させてもらう。

 

 俺は右の手に内勁を集中させると、小さく中指の第二関節を噛み切った。

 

 流れ出た血は孕んだ多量の氣によってすぐさま紅玉となり、俺はすぐさまそれを八津の首へと放つ。

 

「骸に宿りし想念よ。我が命に従いて、その思いを語れ。急々如律令」

 

 俺が呪を唱えると、額に血玉を張り付けた首は閉じた双眸をカッと開いた。

 

 そして死臭と共にこちらへの呪詛を紡ぎ始める。

 

「ふうま小太郎めぇ! 忍術一つ使えない無能がアサギ様を超えたなど、たわ言もいい加減にしろ! 奴さえ…奴さえいなければアサギ様が現役を退く事などなかったのだ! それに沢木の小僧もだ! 兄弟そろってアサギ様の足を引っ張る事しかできないくせに、よりにもよってアサギ様を孕ませるなどと……ッ! あんなクズの子がアサギ様に相応しいワケがない! こんな事になるなら中絶手術をした時に始末すればよかった!」

 

 そこから先は俺と浩介君への罵詈雑言の嵐だった。

 

 もっとも大体予想通りの事しか言ってないので気にもならなかったが。 

 

 さくらの方はショックを受けていたようだが、アサギシンパの急先鋒である奴が浩介君にいい感情を持っているはずがない。

 

 もし奴がアサギに部下以上の感情を抱いていたのなら尚更だろう。

 

 とはいえ、本物と分かった以上はこれ以上聞く必要もない。

 

 俺が軽く柏手を打つと、八津の首は憎悪の相を張り付けたままその口を閉ざした。

 

「ふ……ふうま殿、今のは?」

 

「陰陽術の一つで、死者の想念を聞くモノです。人間は生きていれば様々な感情を抱くでしょう。それが長年蓄積して行けば『念』としてその身に宿るのですよ」

 

 あれが人工的に作られたモノなら、想念など存在しない為に俺の術で語り出したりはしない。

 

 さっきの本音大暴露は、目の前に置かれているのが八津紫の身体から千切ったモノだという証拠というワケだ。

 

 俺が視線を送ると天音姉ちゃんは八津の首を風呂敷に包み直して回収した。

 

「井河のケジメ、しかと受け取りました。では賠償について話しましょうか」

 

 

 

 

 さくらとの交渉はそれほど多くの事を決める事はなかった。

 

 まずは井河の頭領として今回の件で公安と宮内庁に経緯の説明と謝罪を行う事。

 

 そして今回の件を一党に周知させ、二度と同じ事が起こらないように代替わりで緩んだ組織内の風紀を締め直す事。

 

 今回の件で賠償金を取らないかわりに、3度こちらの要請に無条件で協力する事。

 

 最後に緊急事態を除いてふうまの許可無しにエドウィン・ブラックとの交戦は避ける事。

 

 最後の条項については魔界の勢力図を踏まえてしっかりと説明した。

 

 事前に政府には帝を通してエドウィン・ブラックへの対処に関しては報告を挙げているので、この件で主流派が『ふうまはノマドと裏で通じている』なんて揚げ足を取っても問題はない。

 

「では、これで失礼します」  

 

 ポーカーフェイスがもたなくなっているのだろう、明らかに疲労を滲ませた顔でさくらは席を立つ。

 

「ああそうだ。井河殿」

 

「はい?」

 

「ジェーン・ドウに『これに懲りたら二度と馬鹿なマネはするな』と伝えておいてください」

 

「……ッ!? わかりました」

 

 俺の言葉に一瞬だけ驚愕の表情を張りつかせたさくらだったが、すぐにそれを抑え込むと足早に部屋を出て行った。

 

「奴等が選んだのは第三の選択でしたね」

 

 さくらの足跡が消えると天音姉ちゃんがポツリと呟く。

 

「俺は泣きを入れてくると思ってたんだがな。少しあの女を少し侮っていたか」

 

「頭領としては赤点ギリギリで合格ってところだな」

 

 バリバリと後頭部を掻く骸佐に俺は小さく肩をすくめて見せた。

 

 ネタ晴らしをすると八津妹は生きている。

 

 では俺達に持ってきた首は偽物かと言えば、答えはNO

 

 あれも本物なのだ。

 

 この絡繰りを解くカギが八津紫の忍法『不死覚醒』にある。

 

 あの忍法は脳と心臓を同時に破壊しない限り死なないという驚異的な不死性を使用者に与える。

 

 つまりこの首はちゃんと八津妹から千切ったものであり、当人も今頃は五車の里で再生を終えているというワケだ。

 

 とはいえ、八津紫が再び表に出る事は無い。

 

 井河の頭領が公的に死んだとして、こちらに詫びを入れたのだ。

 

 後から『実は生きてましたぁ!』なんて横紙破りをしようものなら、ウチとの戦争待ったなしである。

 

 なので八津紫はこれから『ジェーン・ドウ』すなわち『名無しの権兵衛』として生きねばならんのだ。

 

 井河NO2から見習い以下の死人への降格、罰としては十分だろうさ。

 

「今回の件はさくらにとっていい薬になっただろう。頭領として一番キツい仕事を初っ端でやる事になったんだから」

 

「ずいぶんと上から目線じゃねーか」

 

「年齢は向こうが上でも、頭領経験じゃあこっちが数段先輩だからな」

 

 骸佐のチャチャに返しを入れながら、俺はソファから腰を上げた。

 

「若、この首はいかがいたしましょう。生ごみにでも出しますか?」

 

「殺人事件だと思われるからやめてね。米田のじっちゃんに『不死覚醒』の研究素材として要るか、確認してみるから適当な場所に冷凍保存しておいてくれ」

 

 何はともあれ、無事に終わった。

 

 今日は帰ってゆっくり眠ろう。

 

 

オマケ

 

◎執事君とブラックさん

 

ブッさん「小太郎。一つ訊ねたい事がある」

 

執事「なんですか、旦那様。人の部屋に勝手に入ってきて藪から棒に」

 

ブッさん「カッコいい登場の仕方というのは何がある?」

 

執事「は? どういうことですか?」

 

ブッさん「私もこういう仕事を続けていれば、いずれ現場で紅に会う事もあるだろう。その時に『お父様、カッコいい!』と言われるような登場をしたいのだ」

 

執事「(また面倒な話を持ってきたなぁ……。そんなんありえないし、考えるのもメンドイ。適当にサブカルから)ん?」

 

ブッさん「どうした、小太郎」

 

執事「旦那様、こんなのはどうですか?」

 

ブッさん「悪くないな、早速試してみよう。今日は襲撃予定の場所は無いのか?」

 

執事「東京キングダムにある淫魔族残党のアジトへ出向く予定ですが……」

 

ブッさん「では私も同行しよう」

 

執事「えぇーーー」

 

ブッさん「イングリッドなら連れて行かんぞ」

 

執事「ならオッケーっす」

 

 

その夜

 

 

淫魔族A「の……ノマドの襲撃だぁぁぁぁぁっ!?」

 

淫魔族B「あの鬼執事が出てきてるぞぉぉっ!!」

 

淫魔族C「王の敵だ、迎え撃てぇ!!」

 

執事「いやいや、君達は運がいい。じつはもう一人来てるんだよ」

 

淫魔族A「なにぃ!? ……はっ!」

 

淫魔族B「なんだ、このデタラメな魔力は!?」

 

ブッさん「ノマド、闇の支配者。我こそ最強、見事超えてみせよ!!」

 

淫魔族A「ハウッ!?」

 

淫魔族B「ウッ!?」

 

淫魔族C「ぬふぅっ!」

 

執事「OKです、旦那様。練習通りでしたよ」

 

ブッさん「うむ、私も上手くいったと思っている。………小太郎よ」

 

執事「どうしました?」

 

ブッさん「どういう事だ? 奴等、死んでおるではないか」

 

執事「本当ですね。……全員心臓を押さえている。これはまさか───」

 

ブッさん「知っているのか、小太郎?」

 

執事「これは世に聞く『キュン死』というものではないでしょうか」

 

ブッさん「キュン死とな?」

 

執事「生物は尊いと感じるほど物事に感動すると、自身の心臓を止める事があるといいます。その死にざまをキュン死と呼ぶそうです」

 

ブッさん「つまり私にキュン! と来たわけだな」

 

執事「恐らくは」

 

ブッさん「ではこの登場方法は使えんな。紅がキュン死しては意味がない」

 

執事「そうですね」

 

ブッさん「今日はそれが知れただけでも収穫があった。帰るぞ、小太郎」

 

執事「承知しました」

 

―――――――

 

執事「という事があったのですよ」

 

お嬢様「………………ッ!?(お父様でキュン死とか! ダメ……オモシロ過ぎて笑い死ぬ)」

     


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