剣キチIF 感度3000倍の世界をパンツを脱がない流派で生き抜く   作:アキ山

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 お待たせしました、最新話の更新でございます。

 自宅待機の日々が続いていますが、在宅仕事があるので忙しさはあまり変わらず。

 とはいえ何とかそれにも慣れてきたので、少しは筆が進みそうです。

 皆様も外に出れないなどのストレスがあるでしょうが、お体に気を付けてお互い騒ぎが収束するまで頑張りましょう。

 


日記44冊目

 皆様、お元気ですか?

 

 こちらはヘドをブチ吐きそうなふうま小太郎です。

 

 私、またしても帝に呼ばれて皇居内の『お役目の間』に来ています。

 

 この頃は上原学長の付き添い無しで呼ばれるようになった日本の聖域。

 

 最初にお邪魔した時、ここって気安く入れる場所じゃないって聞いたんだけどなー。

 

「陛下、その辺ってどうなんでしょうか?」

 

「私としてはもっと気軽に来てほしいかな。個人的には時代劇みたいに天井裏に潜んでて、手を打ったら降りてくるみたいなシチュエーション事もやってみたいし」

 

「……私の胃に死ねと申しますか」

 

「うーん、その辺は慣れてほしいんだけどねぇ。君達は少なくとも十年は私直属のお庭番なんだし」

 

 ぐぬぅ、この陛下の手駒というポジは思い出したくなかった。

 

「鋭意善処します」

 

「さて、軽い世間話はこの辺にしよう。小太郎君、先日の朝井暗殺の件はご苦労だった。お蔭で我が国を売国奴にいいようにされずに済んだ」

 

「勿体ないお言葉です」

 

 これについては構わない。

 

 あのおっさんに反国家分裂法なんてカマされたら、えらい事になるのは俺も一緒だし。

 

「反国家分裂法による朝井の独裁は防げた。しかし奴の反乱に乗って行動を起こした者達がいる。───この事は掴んでるね?」 

 

「神田旅団による五車の里占拠の件ですね」

 

「そうだ。対魔忍井河派は君達と同じくこの国の魔に対する剣であり、同時に彼等も私の民でもある。だからこそ、叛徒の手によって失われるワケにはいかない」

 

「我々に主流派の救出を命ずると?」

 

「そうだ。君達と彼等の間に遺恨があるのは承知しているが、今回はそれを脇に置いて動いてもらいたい」

 

 それに付いては否は無い。

 

 主流派が消えたら色々と大損を食らうのはこっちも一緒なのだから。

 

「お任せ下さい。彼等がここで潰えるのは、我々としても本意ではありません」

 

「では、追って勅命を下そう。自衛軍の正規部隊も鎮圧に動いているから、彼等とは現地で調整をしてほしい」

 

「御意」

 

 話は以上だと判断した俺はこの場を去ろうとしたのだが、最後の最後で帝の爆弾発言を聞く事になった。

 

「あ、そうそう。来月くらいに天皇の主権を回復させるからね」

 

「へ?」

 

「だって、与党の幹事長に続いて新任の総理大臣まで、揃いも揃って売国奴だったんだよ。そんな奴等にこの国の政を任せてられないでしょう。だから私がきっちり締めるところは締めようと思ってるんだよ」

 

「きっちりって……そんな簡単に行きますか?」

 

「大丈夫、大丈夫。私の主権を望む人って実は方々にいるんだよ。今は国会も混乱してるし政治家の信用も完全に失墜しているから、そういう連中を焚きつけたら事は上手く運ぶさ。さしあたっては内閣と各省庁の長である大臣の任命は、私の許可がいるって事から始めようかな」

 

 初っ端から大物狙いすぎである。

 

 つーか、この人って朝井とか矢崎の企み、最初から知ってたんじゃねぇか?

 

 その上で議会と政治家の信用と力を削ぐ為にギリギリまで放っておいたんじゃ…… 

 

 いつもの通り、人のいい笑みを浮かべているのに眼だけは全く笑っていない帝の顔に嫌な想像が過る。

 

 ……いやいや、流石にこれは考えすぎだろう。

 

 そう疑念を打ち消した俺は『お役目の間』を後にした。

 

 何にしても、あの腹黒陛下と十年付き合うとか、キッツイわー。

 

 

 

 

 帝との謁見の翌日、俺はふうま衆を率いて五車の里を包囲する自衛軍と合流していた。

 

「始めまして。宮内庁所属諜報部隊ふうま忍軍頭領、ふうま小太郎です」

 

「自衛軍東部方面隊第一師団所属 笹川大佐だ。今日はよろしく頼む」

 

 年の頃は50に差し掛かってるのだろう、白髪交じりの髪に日に焼けた屈強な体の偉丈夫は差し出した俺の手をガッチリと握り返す。

 

 正直、15のガキが率いる忍者集団だ。

 

 正規軍人にしてみればお遊びとしか思えないだろうに、笹川大佐にはこちらを侮るような態度は露ほども見えない。

 

 きっと、これも陛下の勅命の威力なのだろう。

 

「相手は神田旅団。形式上は海上自衛軍に所属しているものの、実態は政府が汚れ仕事の為に飼っていた傭兵だ。軍人の風上にもおけんクズ共だが、その練度は決して低くない」

 

「奴等の実力については存じております。私も一度命を狙われていますので」

 

 そう言うと笹川大佐は感心したように『ふむ……』と呟いた。

 

「そういえばそうだったな。しかし、よく撃退できたものだ」

 

「雷電……でしたっけ。重火器に加えて最新鋭のパワードスーツまで持ち出すものだから、相手にするのは大変でしたよ」

 

「それについては済まなかったと言っておこう。我々も総理の指示で移動させた最新鋭機が奴等の元にあるなど思いもしなかったのだ」

 

 俺の言葉に苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる笹井大佐。

 

 まあ、あの時点で朝井の裏切りを見抜けっていう方が無茶だわな。

 

「五車の里から脱出した人員の話では、今回の制圧に際しても雷電は使用されているようですね」

 

「その報告は私も受けている。あれは現在の防衛省の技術の粋を集めたモノだ、相手にするなら相応の被害を覚悟せねばならん」

 

「重火器や機甲部隊の対処は本職の皆さんにお任せします。その代わり、貴方がたが戦いやすいように捕虜の救出は責任をもって行いますので」

 

 この役割分担は最初から決まっていた事だ。

 

 異能を持つ対魔忍とはいえ、一部の例外を除いて現代火器相手は荷が重い。

 

 ならば餅は餅屋の配置となるのは当然の事だろう。

 

「それで十分だ。あの自衛軍の面汚し共は我々がしっかりと始末してみせるさ」

 

「期待しています」

 

 笹井大佐との顔合わせも終わり、ふうま衆に割り当てられたテントに戻った俺が見たのは、この場にいないはずの一団だった。

 

「囚われた仲間を放っておくわけにはいかん! 我々も救出に参加させてほしいのだ!!」

 

「ムリに決まってんだろうが! さっさと帰れ!!」

 

 留守を任せた骸佐と言い争っているのは、軍服っぽい対魔スーツに鞭を持った女。

 

 あれはたしか五車学園の講師を兼任している対魔忍、蓮魔零子だったか。

 

 奴の後ろには思い思いに武装した井河の面々が苛立ちを隠そうともせずに立っている。

 

 この直談判に参加しているのは、俺が知る限りだと神村舞華と弓走颯。

 

 蓮魔零子のお付きなのは確か黒田巴とかいう剣術使いで、他には篠原まりに鬼崎きらら。

 

 チューハイの缶を持ってる以前に空間斬をパクった酔っ払いに、あとは念動使いの喜瀬蛍と高坂静流か。

 

 奴等が手練れと学生の混成なのは、現在手が離せないメンツ以外の外部任務従事者を呼び戻した結果だろう。

 

 戦力的には悪くはないが、それも現状だと意味は無い。

 

「井河殿、これはいったいどういう事でしょうか?」

 

 そう水を向けると、里の情報提供者としてウチの陣にいたさくらは申し訳なさそうな顔になる。

 

「申し訳ありません。彼女達が任務で外部に出ていた為に難を逃れた者達なのですが、この事態にジッとしてはいられないと」

 

 それは部下の制御もままなりませんと言っているようなモノなんだが……

 

 まあ代替わりして間もないし、今回は事情が事情だ。

 

 俺がさくらの立場でもコレに関しては難しいと言わざるを得ないだろう。

 

「貴方はふうま小太郎殿だな。私達の話を聞いてもらえないだろうか」

 

「そちらの言い分は先ほど聞いた。だが、それを認める事は出来ん」

 

 俺の姿を見た逢魔がこちらに声を掛けてくるが、俺はそれをバッサリと切って捨てた。

 

「何故だ!?」

 

「この任務は防衛省と宮内庁の共同作戦だ。なので参加人員は事前に司令部へ報告している。我々だけで動く案件なら多少の都合は付けられるが、今回に関してはこちらにそんな権限は無い」

 

 なんか驚いてるけど、これって組織運営なら常識アルよ?

 

 井河の連中は勘違いしてるみたいだが、これから行われるのは自衛軍によるテロリストに落ちた神田旅団の殲滅。

 

 つまり主役は自衛軍の面々であり、俺達は単なる脇役なのだ。

 

 そもそもウチのような弱小ニンジャサークルが権限うんぬんで正規軍に及ぶワケねーだろ。

 

 さっき挨拶してきた現場責任者の笹川大佐だって、社会的には俺やアサギはおろか山本よりも全然偉い人なんだからな。

 

「それが無くても人質救出は縁者は任務から外れるのが基本だ。現場で私情に走られでもしたら始末に負えんからな」

 

「私達がそんな無様を侵すと言いたいのですか!?」

 

「止せ、黒田! 相手は一門を担う頭領だ、お前が口の利ける相手ではない!!」

 

「くっ……!?」

 

 さすがは経験豊富な先任対魔忍、その辺の機微は心得ているらしい。

 

 まあ、逆に言えばそんな相手に伺いを立てられないあたり、さくらがまだ部下の掌握ができていない証明になってるんだが。

 

 逢魔の一喝を聞いた他のメンツも見るからに不満そうにしているが、だからと言って決定は覆らない。

 

「囚われている人員の無事は確約できん。しかし救出には全力を尽くそう。今回の談判に付いては無かったことにするので早急に立ち去るがいい」

 

 こちらの宣告に歯を食いしばって俯く井河衆。

 

 その顔には俺達など信用できんという感情がありありと見えるが、流石にそれを口には出す事はしないようだ。

 

 もしこの場でそんな事を抜かせば、学生だろうと宣戦布告と同義だからな。

 

 多分、言葉を言い切る前に逢魔によって粛清されるだろうさ。

 

 文句が出ない事を確認して俺は彼女達に背を向ける。

 

 作戦開始まで時間が無いのだ、余計な事で時間を食ってはいられない。

 

「若様、作戦開始5分前です」

 

「了解だ。あと井河の各員は普段着に戻るように。武装したままだと自衛軍にあらぬ疑いを掛けられるぞ」 

 

「…………忠告、感謝する」

 

 俺の言葉を受けて、苦虫を噛み潰したような顔でテントを出る井河衆。

 

 彼女達の姿は消えたのを確認し、俺は小さく息を付いた。

 

「助かったぜ、小太郎。あのオバハン、何言っても諦めなくてよ」

 

「身内が危険にさらされてるんだ、仕方ないさ。それよりも弥右衛門たちの準備は済んでいるのか?」

 

「ああ。突入要員は全て準備完了している」

 

「よし。なら打ち合わせ通り、弥右衛門が先行して人質の捕らわれた場所を特定する。それが見つかったら『無形秘擬』で人質救出を行うからな。奴等には何台か新型パワードスーツが配備されてるらしいから、各員は無理な戦闘は避けるように」

 

「ああ、そのパワードスーツの件だけどな。鹿之助の奴が対処法を見つけたらしいぞ」

 

「なんだと?」

 

 骸佐からの思わぬ言葉に俺は思わず眉を跳ね上げた。

 

「ついさっき、本人から聞いたんだけどな───」

 

「ストップ。骸佐、ソイツを話すのは少し待ってくれ」

 

 説明しようとしていた兄弟を留めると俺はそのままテントの外に足を運ぶ。

 

「アスカ、出てこい。そこにいるんだろ」

 

「あはは、バレてた?」

 

 人目の付かないテントの裏側まで移動してからこう言うと、明るい声と共に景色が人型に歪む。

 

 そうして次の瞬間に現れたのは、桃色を基調にした対魔スーツを身にまとった甲河アスカだった。

 

「よく分かったわね。これって米連で開発された最新鋭の光学迷彩なんだけど」

 

「気配の消し方が甘い。もうちょっと隠形の修行をしないと人間はともかく、感覚が鋭敏な魔族には通用しないぞ」 

 

 俺の言葉に小さく舌を出すアスカ。

 

「井河との話を聞いてたろうから同じ説明はしない。お前さんもこの件には組み込めんから大人しく帰れ」

 

「私は小太郎達の作戦に参加する気は無いわよ。勝手に潜入して浩介達を助けるだけだし」

 

「光学迷彩を使ってか? 流れ弾で死ななきゃいいな。あと万が一にもそれが剥がれた場合、不審者として俺達がお前を捕縛なり始末なりしなきゃならんのだが?」

 

「えーと……」

 

 自分が排除される可能性にまで気が回っていなかったのだろう。

 

 しどろもどろになるアスカに俺は深々と息をついた。

 

「身内が心配なのは分かるけど今回は自重してくれ。米連に籍を置いてるお前がしゃしゃり出たら確実に場は混乱する。そうなったら助けられるモノも助からなくなるぞ」 

 

「ゴメン。浩介が巻き込まれてるってわかったら居ても立っても居られなくなっちゃって」

 

 大失恋した割にまだ浩介君に拘ってるんだな、コイツ。

 

 まあ、あれからそんなに時間も経ってないし、心の切り替えなんて簡単にはいかんか。 

 

「ともかく、ここは俺等に任せてくれ。確約は出来んがベストは尽くす」 

 

「わかった。みんなの事、よろしくね」

 

 そう言い残して風遁の術で宙を舞うアスカ。

 

 お前、それ自衛軍のレーダーに捕捉されんだろうな。

 

 まったく、俺も含めて対魔忍はフリーダムな奴ばっかりだ。

 

 もし参加を許可して死なれでもしたら、組織間の遺恨になるんだぞ。

 

 そんな爆弾を身の内に仕込んで、救出任務なんぞやってられるか。

 

 ……ともかく時間が無い。

 

 突入メンバーを待たせない為にもサッサと準備しないとな。

 

 

 

 

 そんなワケでやって来ました五車の里。

 

 今回の件は厄ネタ丸出しなので、個人的にソロプレイを推奨したい。

 

 しかし自衛軍との共同作業である手前『救出人員はボクだけです』なんて寝ぼけたセリフは吐けん。

 

 なのでこちらも精鋭を厳選しました。

 

 人質救出班にエントリーしたのは俺、骸佐、弥右衛門、鹿之助君という対魔忍には珍しい黒一色のメンツとなっている。

 

 ふうま衆は他と違って男性も優秀なので、実力の程は全く問題ありませぬ。

 

 重ねて言うが、今回の作戦は朝井とその口車に乗った神田旅団にメンツを丸潰れにされた自衛軍が主役だ。

 

 俺達がやるのはあくまで人質救出のみ。

 

 行き掛けの駄賃で神田大佐の首を取るなんてマネも厳禁なのだ。

 

 さすがに国家権力に喧嘩を売る気は無いので今回ばかりは自重するよ、俺もさ。

 

 さて現状の里に関する情報は複数のルートから手に入れている。

 

 その伝手とはさくらと、あの場にはいなかった秋山姉弟だ。

 

 達郎から聞いた話によれば、凛子を気遣って家にいたところ、奴は遠巻きに神田旅団が擁する『雷電』を発見したらしい。

 

 そして身重の姉を連れては勝ち目が無いと判断した達郎は、早々に避雷神の術で予め用意していた東京のセーフハウスに逃亡したそうだ。

 

 仲間を見捨てて自分達の保身に走った云々と批判はあるかもしれないが、身内が妊娠中ならばある程度は情状酌量の余地はあると思う。

 

 俺としてはそれ以上に、人としてアカン方向に堕ちていた達郎が着々と忍として成長している事に驚いた。

 

 一瞬でそれだけの判断が下せるなら、中二病やメンタルの弱さを克服すればマジで一流の対魔忍になるんじゃなかろうか。

 

 一方のさくらは、最後まで指揮を取ろうとしたところを『名無しの権兵衛』に説得され、奴が殿を務める間に重要機密と共に影遁の術で脱出したそうだ。

 

「小太郎、大丈夫か?」 

 

「───ああ。ちょっと予想の斜め上の事態に面食らっただけだ」

 

 いかんいかん、しっかりしろ俺。

 

 ここは敵地なんだから、現実逃避なんてもっての外だぞ。

 

「まさか、井河アサギの若いツバメが女になってるとは思いませんでしたな」

 

「本当にな。こんなん陰陽師達でも予測できんぞ」

 

 そう、俺達が助け出すまで神田旅団の兵士に凌辱されていたのは、なんと女性に改造された浩介君だったのだ。

 

 助け出した際、俺を見るなり『ふうまさん、オレ汚れちゃいました。アサギさんにどんな顔で会えば……』とか泣かれたんだが、いったいどんなリアクションが正解だったのだろうか?

 

 今日のお面が『ひょっとこ』なのも相まって、悲劇のハズが傍から見たら完全にギャグである。

 

「つーか、コイツは何回変身したら気が済むんだ? 実はあと二回残してるとか言わねーだろうな」

 

「そんな、フ●ーザ様じゃないんだから」

 

 骸佐よ、お前は浩介を何だと思っているんだ。

 

 肉玉や女体化でも十分Bボタン案件なんだぞ、これ以上なにがあるというのか。

 

 そうそう、現在俺達がいるのは五車学園の地下に備え付けられた牢獄だ。

 

 普段は里への侵入者を捕えておくこの場所も、今は神田旅団の女性に対する凌辱の場へと姿を変えている。

 

 里への潜入を開始した俺達は、地中に潜った弥右衛門の偵察によって人質の多くが体育館に囚われている事を掴んだ。

 

 もちろん奪還防止の為に相当数の人員が配備されていたが、いかに手練れとはいえ奴等は兵士。

 

 専門職じゃない奴等に気取られるほど俺達は甘くない。

 

 全滅するまで『無形秘擬』による土くれのダミーで仲間が殺られた事を隠し、俺達は一切の抵抗を許さずに見張りを排除してみせた。

 

 その後は問題なく人質を解放したのだが、ここでも自分達も戦うと言い出す奴がいて本当に参った。

 

 これに関しては一緒に囚われていた稲毛屋の婆ちゃんが皆を諫めてくれたから助かったけど。

 

 あとは骸佐がゆきかぜに絡まれるハプニングがあったが、その辺は奴が上手くビリビリ娘を掌で転がす事で事なきを得た。

 

『俺もお前を連れて行きたいが、そうしたらお互いの立場が悪くなる』とか、心にもない事を言い聞かせるあたり兄弟もなかなかの策士である。

 

 で、解放した人質からこの牢獄が使用されている旨の情報を仕入れた俺達は、残りの人質の回収の為に潜入したワケだ。

 

 え、解放した奴等の護衛はいいのかって?

 

 アイツ等だって対魔忍だぞ。

 

 タマゴや引退者だけならともかく一応は現役もいるのだから、自分でケツくらい自分で拭けるだろ。

 

 邪魔な見張りも排除したし、俺等の潜入に使った安全なルートも教えた。

 

 さらには鹿之助君が無線の電波妨害までしてるんだ、これで脱出できなかったら後は知らん。

 

「というか、なんでオレなんだよ!? どうせだったらコイツみたいな見た目が完全に女な奴の方がいいだろ!!」

 

「うるせぇ、バカ野郎! 忍法・超電磁スパーク!!」 

 

「あばばばばばばっ!?」

 

 ショックで口が滑ったのか、鹿之助君の地雷を踏んで電流を流される浩介君。

 

 その所為で全身に付いた汁が焦げて臭いんだけど……地下でスメル事案は勘弁してほしいなぁ。

 

「浩介君。キミの心中は察するに余りあるが、今は我慢してほしい。それよりも、ここにどれだけの人間が運び込まれたか分かるか?」

 

「えっと……俺が知る限りだとだいたい五人くらい。全員五車学園の教師だったと思います」

 

「そうか」   

 

 恐らくだが、制圧から救出作戦開始までの3日間で奴等が生徒に手を出さなかったのは、政府との交渉の為だろう。

 

 最初の予定では神田旅団による五車の里侵攻は、朝井の出す反国家分裂法によってその正当性を追認させる予定だった。

 

 しかし肝心の朝井が死んだことによって、奴等は国軍から一転してテロリストへとその立ち位置を堕とされた。

 

 奴等からしてみれば、屋根に上ったところではしごを外されたに等しい。

 

 これが海外の紛争地などであれば、里の人間を始末して即時撤退すればよかったのだろう。

 

 しかし、この日本は奴等にとってホームグラウンド。

 

 ここを敵に回した以上は補給や後方支援はいっさい期待できない。

 

 さらには自衛軍には奴等の手の内は完全に知られているのだ。

 

 それを強行突破して国外に脱出するには、さすがに奴等の戦力でも心許ない。

 

 だからこそ、五車の里の人間を人質にして政府に自分達の国外脱出を飲ませようとした。

 

 その為に自分達の脅威となるだろう手練れの対魔忍な教師連中を篭絡させて、自身の戦力増強を図ったのではないか?

 

 朝井の裏にいるGと国務省が淫魔族と繋がっている事を思えば、その手の道具は用意していてもおかしくはないしな。

 

「けどよ、それならどうしてコイツまでここに引っ張られたんだ?」

 

「先生が連れて行かれそうになった時、思わず『やめろ!!』って声を出しちゃったんです。それで撃たれそうになったところで桐生先生に薬で女にされて、今まで……」  

 

 ここから先は言いたくないのか、うつむいて黙り込む浩介君。

 

 つーか、それってどう考えても桐生に命を助けられてるじゃねーか。

 

「ところで浩介君、そこで声を上げたって事は忍術を使えるようになったのか?」

 

「いいえ、まだ……」

 

 何という事だ、まるで成長していない。

 

「こういう事は言うべきじゃないと思うが、キミはもう少し身の程を知った方がいいと思うぞ」

 

 肉玉にされた経験が全く役に立ってないじゃないか。

 

 君が簡単に敵の手に堕ちたら、自動的にアサギもアウトになるんだぞ。

 

 近いうちに一児の父になるんだから、もうちょっとしっかりしてくれよ。

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